音楽ナタリー PowerPush - 高橋洋子

名曲、レア曲、セルフカバー、自身とデュエット 盛りだくさんのカバー盤を全曲解説

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愛のバラード / 金子由香利(1976年)
映画「犬神家の一族」テーマソング

実は私、歌入りのバージョンがあることを知らなかったんですよ。この曲の金子由香利さんのボーカル、すごくないですか?

──歌詞には映画のヒロインの珠世さんの気持ちが描かれているんだと思いますが、金子さんが歌うと、佐清の母親の松子の心情を歌っているように聞こえるんですよね。息子に対する妄執が歌声ににじみ出ていると思います。

ええ、ええ(笑)。深いですよね。だから私は「わからない」というスタンス。どちらの気持ちに寄り添うのでもなく、あくまで音楽的なものとして捉えて歌わせていただきました。ただ、笹路さんもどうアレンジするか困ったと思いますよ。原曲のアレンジが本当に素晴らしいですから。それでも笹路さんがすごいのが、原曲をリスペクトした上で笹路さんならではのアレンジを加えるところなんですよね。今回も一番いい着地点を見つけてくれたと思っています。

──この曲は大野雄二さんの曲ですが、前作にも「人間の証明のテーマ」「炎のたからもの」と2曲、大野さんの曲が収録されていました。また、「幻魔大戦」のテーマ「光の天使 CHILDREN OF THE LIGHT」という「犬神家の一族」と同じ角川映画の主題歌も収録されていましたね。

いろんなメディアにおいて角川春樹さんの姿が見え隠れしていた時代。どの曲もそういう時代を象徴する曲だと思います。そういう曲を歌うというのもこのアルバムのコンセプトの1つなんです。すごく流行ったし、すごく聴き覚えがあるのに、皆さんの手元に音源がないような曲を残していくことに意味があると思っています。なおかつ、カバーアルバムですから、原曲とは違うアプローチで今の時代に聴きやすい曲にしていきたい。懐かしさと新しさを同時に感じることができるアルバムを作りたいんですよね。

09

夜明けのマイウェイ / PAL(1979年)
テレビドラマ「ちょっとマイウェイ」主題歌

──「ちょっとマイウェイ」も今となってはなかなか覚えている人が少ないドラマだと思いますが……。

私はDVDボックスを持ってます! 桃井かおりさん主演で、当時はものすごく流行っていたドラマなんですよ。すごくいいドラマだし、主題歌もすごくいい曲なのに、確かに皆さん意外と知らないんですよね。

──原曲はとてもさわやかなシティポップスですが、今回はAOR風の大人っぽいアレンジになっています。

ラテン風味も少しありますね。「あ、こういうアレンジなんだ」という新鮮な驚きがありました。この曲は、笹路さんのアレンジの時点で、原曲と譜割りが違ったんですよ。どちらかというとアレンジの世界に近づけて歌っています。原曲のパルは男女2人ボーカルのグループで、とても歌がうまい方たちなんです。今後彼らがもっともっと評価されていったらいいですね。

──パルの男性ボーカルは「機動戦士ガンダムZZ」の主題歌などを歌っていた新井正人さんなんですよね。高橋さんはお会いになられたことは?

ないんじゃないかなあ。ぜひお会いしたいです。

10

魂のルフラン / 高橋洋子(1997年)
映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版DEATH & REBIRTHシト新生」主題歌

──最後は「一生歌い続ける」と先ほどおっしゃった「魂のルフラン」です。“夜”をイメージさせるアダルトなダンスナンバーになりました。

これは笹路さんのアレンジを聴いて驚きましたね。ここまでずっとアコースティックな感じで続いてきたのに、こんなふうにアルバムを締め括るんだ、って。次がまた聴きたくなるような、続編につなげるような仕上がりになったと思ってます。

言いしれぬカバーへの思いを歌声に込めて

──高橋さんはオリジナルアルバムにもミニー・リパートンの「Lovin' You」であったり、来生たかおさんの「浅い夢」であったりと、カバー曲を収録しています。カバー曲をとても大切にしているように感じます。

「いい曲って実は原曲を歌った方1人のものでは終わらないものなんじゃないか」という思いと、単純に自分で歌いたいという思い、それから原曲を歌っていた方に敬意を示したいという思いもありますし、原曲に近づきたいという思いもあります。とはいえ、原曲には敵わないという前提で歌わせてもらっていますし……。カバーに対する思いをひと言で表すのは難しいですね(笑)。

──シンガーとしての欲もあれば、好きな曲を後世に伝えていきたいという思いもある。いろいろな気持ちがある、と。

あと今回レコーディングしていて特に思ったのは、そのときどきに聴いてきた歌が私の生き方を形作ってくれたということと、これまでの私の生き方が今の私の歌声を形作っているということなんですね。音楽を聴いて励まされたり、懐かしい曲を聴いて「あのときはこうだったな」と思い出すことがあったり、という経験は皆さんにあると思うんです。私自身、変化を求められる時期、「これからどうやって歌っていこう」と考えさせられる時期があったんですけど、そういうときにもいろんな歌に勇気付けられてきたんですよね。今回この10曲をカバーしてみて、そのことに改めて気付きました。

──高橋さんが自身の原点を形作った曲、好きな曲から栄養を受け取りつつ、その栄養を歌声を通じてリスナーの皆さんに還元している感じ?

はい、それができたら一番いいですね。

カバーアルバム「20th century Boys & Girls II」2015年4月22日発売 / 3240円 / スターチャイルド / KICM-3187 / Amazon.co.jp
「20th century Boys & Girls II」
収録曲
  1. 残酷な天使のテーゼ
    [作詞:及川眠子 / 作曲:佐藤英俊]
    オリジナル歌唱:高橋洋子(1995年)
    テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」オープニングテーマ
  2. カリキュラマシーンのテーマ
    [作詞・作曲:宮川泰]
    オリジナル歌唱:西六郷少年少女合唱(1974年)
    教育番組「カリキュラマシーン」主題歌
  3. ひこうき雲
    [作詞・作曲:荒井由実]
    オリジナル歌唱:荒井由実(1973年)
    映画「風立ちぬ」主題歌
  4. 真赤なスカーフ
    [作詞:阿久悠 / 作曲:宮川泰]
    オリジナル歌唱:ささきいさお(1977年)
    テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」エンディングテーマ
  5. あなた
    [作詞・作曲:小坂明子]
    オリジナル歌唱:小坂明子(1973年)
  6. ははうえさま
    [作詞:山元護久 / 作・編曲:宇野誠一郎]
    オリジナル歌唱:藤田淑子(1975年)
    テレビアニメ「一休さん」エンディングテーマ
  7. ふしぎなメルモ
    [作詞:岩谷時子 / 作曲:宇野誠一郎]
    オリジナル歌唱:出原千花子、ヤングフレッシュ(1971年)
    テレビアニメ「ふしぎなメルモ」オープニングテーマ
  8. 愛のバラード
    [作詞:山口洋子 / 作曲:大野雄二]
    オリジナル歌唱:金子由香利(1976年)
    映画「犬神家の一族」オープニングテーマ
  9. 夜明けのマイウェイ
    [作詞・作曲:荒木一郎]
    オリジナル歌唱:PAL(1979年)
    テレビドラマ「ちょっとマイウェイ」主題歌
  10. 魂のルフラン
    [作詞:及川眠子 / 作曲:大森俊之]
    オリジナル歌唱:高橋洋子(1997年)
    映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air / まごころを、君に」主題歌
高橋洋子(タカハシヨウコ)

高橋洋子8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2015年1月にはシングル「真実の黙示録」をリリース。4月にはカバーアルバム「20th century Boys & Girls II」を発表した。