高橋洋子|世界に向けてエクストリームなエヴァを

高橋洋子が新作ミニアルバム「EVANGELION EXTREME」を5月22日にリリースした。

「EVANGELION EXTREME」は、「エヴァンゲリオン」シリーズの遊技機に使用された楽曲「暫し空に祈りて」「慟哭へのモノローグ」や、高橋の代表曲でもある「残酷な天使のテーゼ」の“2009VERSION”など、「エヴァ」の関連楽曲で構成されたミニアルバム。また今作のために制作された新曲「赤き月」では、高橋自身が作詞を手がけている。今回のインタビューでは「平成アニソン大賞ベスト楽曲」を受賞したことで再度注目を浴びた「残酷な天使のテーゼ」への思いや、日本国内のみならず世界に向けて「エヴァ」関連楽曲を届けようとしている彼女の展望について話を聞いた。

取材・文 / 流星さとる 撮影 / 清水純一

「完璧!」と思ったことは一度もない

──新作の話に入る前に、まず高橋さんの代表曲「残酷な天使のテーゼ」について触れさせてください。この曲は「平成アニソン大賞」で最高評価の「平成アニソン大賞ベスト楽曲」を受賞、「JOYSOUND 平成カラオケ総合ランキング」で1位を獲得し、まさに平成という時代を象徴する楽曲になりました。そういう楽曲の歌い手になったことに対して、高橋さんご自身はどのようなお気持ちですか?

正直、私自身にはそういう実感はありませんが、皆さんがそのように評価してくださることで「そうなんだなあ」と思いました(笑)。きっと新しい元号になってから改めて思うこともあるでしょうけど(取材は4月に実施)、今はまだあまり実感が沸かないですね。

──楽曲が独り歩きしているような感覚があるのでしょうか。

それはありますね。例えばカラオケのランキングということであれば、そこに私の歌声は入っていませんから。そういう意味では楽曲自体の力というものを感じますし、皆さんが曲のことをどんどん愛してくださることで、たくさんの方が自分の好きな曲として歌うところまできたんだと思います。

──高橋さんは1995年放送のテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマとして「残酷な天使のテーゼ」を発表して以来、これまで何度となくこの曲を歌ってきましたが、今でも刺激をもらえる部分はありますか?

そうですね。それこそ何百回ではきかないほど、ずっと歌い続けていますけど、そもそも楽曲自体が難しいので、何回歌っても上手に歌えないんですよ。いまだに「完璧!」と思ったことは一度もないですから。そのぐらい難しい曲なんです。

もうエクストリームにするしかない!

──「残酷な天使のテーゼ」に関しては、多くの人がカバーしているのはもちろん、高橋さん自身も、これまでさまざまなバージョンを発表してきました。時代に応じてアレンジを変えることで常にアップデートされてきた印象がありますが、ご自身としてはどういう気持ちで取り組んで来られましたか?

高橋洋子

まずこの曲は、最初にキングレコードからリリースされたわけなので、原盤はキングレコードが所有しているんです。なので私がキング以外のレーベルから「残酷な天使のテーゼ」を発表する場合、原曲と同じものは収録できないので、アレンジを変えて再レコーディングする必要があるんです。ほかの方がこの曲をカバーするときと条件的には同じなんですね。そこで毎回アレンジを変えるのですが、「じゃあどんなアレンジにしようか?」となったときに、基本的にはそのときに組んだアレンジャーさんの個性が反映されることになるんです。

──なるほど。高橋さんがキティレコードからリリースしたアルバム「Li-La」(1997年)には、テクノ~アンビエント色の強い「残酷な天使のテーゼ(HARMONIA Version)」が収められていましたが、あちらは編曲を担当された福岡ユタカさんの個性が出たものだったんですね。

はい。今回の新作「EVANGELION EXTREME」に収録されている「残酷な天使のテーゼ 2009VERSION」までは、私からアレンジに関する細かい注文や意見は出していなかったと思います。例えば、一昨年にリリースした私のベスト盤「YOKO SINGS FOREVER」(2017年3月発売)に収録しているバージョン「残酷な天使のテーゼ 2017 VERSION」は、まらしぃくんと武部(聡志)さんに参加してもらえることになったので、ほぼ一発録りのライブ録音をお願いしました。

──では、原曲と同じ大森俊之さんが編曲された今作の収録曲「残酷な天使のテーゼ 2009VERSION」は、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?

このバージョンに関して言えば、この曲を皆さんに聴いていただける機会がどんどん広がっていく中で、例えば街中など大きな音が鳴っている場所でもしっかりと聴いていただける曲にするためには、「もうエクストリームにするしかない!」ということになりまして(笑)。それで警告音のようなサイレンの音を入れたり、ある種の危険性をはらむ斬新なアレンジにしたんです。

──そのときの状況や求められるものに応じて、高橋さんが表現したいものを作られていると。

やはり新録するのであれば、「今の私が歌うならどんなものがいいのか?」ということを考えますから。ただ「残酷な天使のテーゼ」は、世の中的には1995年にリリースされたバージョンのイメージが定着しているので、「エヴァ」のアニメを好きな方々は、アレンジを加えたものはあまり好まない傾向にあるんです。私自身も他の方の曲をカバーする場合は「原曲を超える」と思いながら作ることはないので、元のものがあるからこそ、どんな変化球を投げられるかを考えながら制作していますね。

──個人的には、高橋さんが2015年に発表されたカバーアルバム「20th century Boys & Girls II」に収録されている「残酷な天使のテーゼ」が、スパニッシュ風のアコギをメインにしたシンプルなアレンジがゆえに楽曲や歌のよさが際立っていて大好きです。

あら、うれしい! すでにいろんなアレンジをやってるので、だんだん「今度は何をすればいいんだろう?」というふうになるんですよ(笑)。なので、あのバージョンは音を足すのではなくて、引く方向を考えたんです。私は大森さん、鷺巣詩郎さんを筆頭に、サトジュン(佐藤準)さん、島健さんと、本当にトップ中のトップのアレンジャーの方々とご縁があるのですが、その中でもあのアルバムのアレンジをお願いした笹路(正徳)さんは職人という印象がありまして。

──どういうことでしょうか?

私はヘッドフォンを着けて録音するとき、音が大きいと歌いづらいので、普通の人よりも音を小さめにしているんです。エンジニアの方は普通、多くの方の平均に合わせて音量を調整される傾向にあるんですけど、大抵の場合それは私にとって大きい音なの。でも笹路さんは、私のクセを覚えてくださっていて、私がレコーディングスタジオに入った時点で、ヘッドフォンバランスからマイクの位置までのすべてをパーフェクトに整えてくださってるんですよ。あのアルバムでもアレンジに関して細かくお話をさせていただいて、「ここまできたらシンプルに行こう」ということで、笹路さんご本人にギターを弾いていただいて録ったものなんです。個人的にも思い入れの強いアレンジなので、お褒めいただいてうれしいですね。

高橋洋子「EVANGELION EXTREME」
2019年5月22日発売 / KING RECORDS
高橋洋子「EVANGELION EXTREME」

[CD] 2160円
KICA-2561

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収録曲
  1. 赤き月
  2. 暫し空に祈りて
  3. 慟哭へのモノローグ
  4. 残酷な天使のテーゼ 2009VERSION
  5. 赤き月 off vocal ver.
高橋洋子(タカハシヨウコ)
高橋洋子
8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後は松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2017年3月には8作品目のベストアルバム「YOKO SINGS FOREVER」をリリース。2019年5月には「エヴァンゲリオン」シリーズの関連楽曲を集めた新作ミニアルバム「EVANGELION EXTREME」を発表した。