高木正勝、足本憲治、加藤久貴、緑川徹|4人の制作陣が語る“主役がいない”サントラ「おかえりモネ」第2集

10月29日の放送で、ついに最終回を迎えた「おかえりモネ」。このドラマを彩ったサウンドトラックの第2集がリリースされた。第1集と合わせるとCDでは6枚、100曲を超える異例のボリュームのサントラだが、それは作曲家、編曲家、演奏家たちの見事なチームワークの結晶だった。そこで今回、音楽ナタリーでは作曲を手がけた高木正勝をはじめ、編曲担当の足本憲治と加藤久貴、プロデューサーの緑川徹の4人にインタビュー。“主役がいない”サントラがどのようにして生まれたのか振り返る座談会の模様を、高木の自宅付近で撮り下ろされた家族の風景とともに紹介する。

取材・文 / 村尾泰郎

高木さんの音楽は創作料理

──まず、皆さんの役割をお伺いしたいと思います。プロデューサーの緑川さんはどんなふうにサントラに関わったのでしょうか。通常のプロデューサーの仕事との違いはありますか?

緑川徹

緑川徹 曲の内容に関してはNHKの皆さんが高木さんと話をされるんです。僕はそこはお任せする感じで、レコーディングを取り仕切る現場監督みたいなことをやりました。

高木正勝 映画のサントラなら音楽プロデューサーがいて、曲の内容についてもレコーディング現場の仕切りも両方されるのですが、今回はNHKの音響デザインから「こんな曲が欲しい」という依頼がまずあって、それを作曲編曲チームで作り、そこから先の仕事を緑川さんのチームにやってもらったんです。

緑川 録音するのが決定した曲をどんな演奏家にお願いするのか。その人選から始まって、作曲編曲チームで作った曲を形にしていく過程を仕切っていくんです。

──演奏家を手配するということは、高木さんの曲の特徴を生かせる演奏家を探さなければいけないわけですね。

緑川 そうです。高木さんの音楽はテンポが一定ではないので、そういう録音に慣れた人じゃないとうまくいかないんです。

高木 普通はテンポをしっかり設定して演奏しやすいように曲を書くんです。でも、僕はテンポが上がったり下がったり、自由に演奏した曲をそのままポイと投げて、それに合わせて演奏してくださいと、そういう無茶振りが多くて。現場で演奏者を困らせてしまうんです(笑)。今回参加してくれた皆さんは、そういうところを理解してくれていたので安心して作曲できました。

──そのよき理解者の筆頭が足本さんですが、もう10年来のお付き合いだとか。

足本憲治

足本憲治 べったり一緒にやってきたわけではないんですけど、最初にご一緒したのは「おおかみこどもの雨と雪」でした。監督(細田守)の希望で高木さんがサントラを手がけることになったんですけど、そこでオーケストラをパリッと書ける人が必要ということになりまして。東宝の音楽プロデューサーの方に私が呼ばれて、高木さんとお見合いしたんです(笑)。

──高木さんと一緒に仕事をしてみていかがでした?

足本 高木さんの音楽は、1つひとつ手で作られたような音楽なんです。作家性が強いというか。料理に例えると、「カツ丼を作ってください」と言われたら、こっちはノウハウがわかっているので、どんなふうに仕上げたらいいかわかるんです。玉ねぎとか卵の分量を考えたりして。でも高木さんの場合、創作料理なんですよ。こっちはどう手を加えたらいいのかわからない。変に手を加えると高木さんの作家性を殺してしまいますからね。

──わかります。

足本 「このままでいいじゃないですか? 僕は何をしたらいいんでしょうか」って、音楽プロデューサーと何度も相談したんです。そこで「メジャー感が欲しいんだ」と言われて。東宝の夏休み映画で手料理を出すわけにはいかないじゃないですか?(笑)

高木 ははは。

──それもわかります(笑)。

足本 メジャー感か……って。そこからずっと悩みっぱなしです。

高木 足本さんは普段、久石譲さんのアシスタントをされたり、大学の先生をされたりしているんですけど、実は電子音楽をやられていたマニアックな方なんです。お付き合いしているうちに「この人は実は変な人だぞ」というのがだんだんわかってきて(笑)。

──メジャーな人ではなかった(笑)。

高木 「きときと」という曲があるんですけど(「おおかみこどもの雨と雪」のサウンドトラックに収録)、あの曲を足本さんと作っているときに、僕はピアノで弾いたものだけ渡してオーケストラにしてもらおうと思ったんです。でも足本さんから「どうしたらいいのかわからない」と連絡があって。それで出だしだけ、いろんな音を加えて「こんな感じです」って戻して、曲が仕上がったんです。映画で流れたときは想像した通りの曲になったと思って喜んでいたんですけど、後日、足本さんに渡したデモを聴いたら全然違ってた(笑)。ひどいものを渡していたんだなと思いました。

──足本さんの想像力と技術で、高木さんが望んでいた形に仕上げたわけですね。

足本 高木さんからその話を聞いたときはうれしかったですね。アレンジャー冥利に尽きるというか。まるで作曲家本人が書いたようなアレンジをしたいと常々思っているので。

高木 あの曲を仕上げられるのは、ちょっと変わった人じゃないと難しいと思います(笑)。

海は、空の広さがうらやましい。いつか海の近くにも住んでみたいです。(高木正勝)

──変わり者同士、息が合った(笑)。加藤さんは今回初めて高木さんと仕事をされたそうですね。いかがでしたか?

加藤久貴

加藤久貴 足本先生が……あの、足本さんは僕の大学の先生だったので、今もそう呼ばせていただいているんですけど、足本先生と高木さんの関係性が素晴らしくて。そこに僕が呼ばれた意味みたいなことを考えて最初は悩みました。お二人のタッグとは違うことをやらないと僕が入る意味がないんじゃないかと思って。

──プレッシャーを感じていたわけですね。

加藤 高木さんの音楽はメロディがあふれていて、足本先生がそれをさらに美しいものにしている。じゃあ、僕はできるだけ音をそぎ落としてシンプルにしようと思ったんです。それを高木さんに気に入っていただけてホッとしました。

──今回、加藤さんを高木さんに推薦されたのは緑川さんだとか。どういう経緯で推薦されたのでしょうか。

緑川 今回は曲がとにかく多かったので、足本さんだけだと難しいと思ったんです。それで加藤くんがやっているサントラを高木さんに聴いてもらったうえで新しい風を入れようってことになって。でも、足本さんとの関係は全然知りませんでした。

──アレンジを誰に頼むのかは、高木さんの判断で?

高木 そうです。スケール感のある曲、王道感のある曲は足本さんにお願いしました。そういう曲は足本さんとのコンビで一緒に育ててきたものなので。あと、普通のサントラならテーマは1つだけなんですけど、今回は曲が多いのでテーマがいくつかあって、そのうちの「海」をテーマにした曲はすべて加藤さんにお願いしました。

──確かに「おかえりモネ」のサントラは曲数が多いですね。第1集と第2集を合わせて6枚組ですから、これだけの曲を作り上げるのは大変だったのでは?

高木 量よりも尺の方が大変だったかも。サントラって、ドラマで使われるのは1曲につき1分くらいなんですよ。そんなに長く使われない。だからそれくらいのサイズで曲を作っていたら、音響デザインから「曲が気に入ったので3分くらいにしてください」って言われることが多くて。曲を延ばすために展開を考えるのが大変でした。

加藤 曲が依頼される段階で、通常のサントラよりも尺が長いことが多かったですよね。そのうち一部を使うのかな、と思って放送を観ていたら、がっつり使われていて。

高木 そうそう。

加藤 15分ずっと音楽が流れているような回もあったし。だから1曲1曲気が抜けなかったですね。機械的な繰り返しにならないよう、少しずつ変化しながら進む印象になるよう心がけました。

山の我が家では絶対に見れない夕陽。(高木正勝)

「東京編」は地獄の日々

──皆さんが作られた音楽に、ドラマ側のスタッフが刺激を受けていたんでしょうね。リリースされたばかりの「第2集」は、ドラマだとどのあたりから使われているのでしょうか。

高木 「東京編」からですね。第1集のときは足本さんや加藤さんと一緒に走っているような安心感があって、精神的に健全な状態で仕事ができたんです。その第1集でかなりいろんなタイプの曲を作ったので、ドラマの最後まで使えるだけの曲はできたと思っていました。でも、「東京編」の脚本が届いて読んだら想像しなかった展開で、第1集で作った曲が全然使えないやん!って。しかも第1集でサントラの予算をほとんど使ってしまっていたので、これまでのように気軽に足本さんや加藤さんに頼めなくなってしまったんです。

──物語も制作環境も大きく変わってしまった?

高木 そうなんです。予算を抑えるために、なるべく僕1人でやらなきゃいけなくなった。だから「東京編」はしんどかったですね。お金がかかる生演奏はあまり使えないから、シンセを引っ張り出してきて生演奏に負けないような音を工夫したりして。

──東京に行った主人公の百音も大変だったけど、高木さんも大変だったんですね。

高木 地獄の日々でした(笑)。音響スタッフも「東京編」が始まったばかりのときは正解がわからないから、「こんな感じじゃないですか?」って、いろんな音楽を参考に送ってくれたんですけど、大企業で働く人や、何かと戦っている男性的な曲が多くて、百音ちゃんが会社で働いているイメージとは違う。百音に合う、オフィスで自然を相手に挑み続ける音楽を作るのに苦労しました。

足本 でも高木さんのデモを聴いて、「この泉は枯れないのか?」って思いましたよ。第1集であれだけいろんな曲を書いたのに、どんどん違ったタイプの曲が出てきましたからね。自分がやるアレンジに関しては、第1集よりも小編成にしなければいけなかったんですけど、個人的には大編成より小編成の方が好きなので楽しくやれましたね。