SWALLOW|“本当の自分たち”が鳴らす音

狂ったような感性が素敵

──1月23日に配信リリースされた楽曲「ULTRA MARINE」も、かなり明確なイメージを持って形にしているような感じがしました。歌詞、メロディ、歌声、サウンドすべてで1つの神秘的な世界感を作り上げている印象があって。まるで絵を描くように曲を書いているような……。

工藤帆乃佳(G, Vo)

工藤 うんうん。なんとなく抽象画を描くように作っている感じはあります。「SWALLOW」からサウンドプロデューサーとしてSEED SEEKERSさんに入ってもらって、私たちの技術が足りなくてどうしても表現できないところはうまく組み立ててもらいました。SEED SEEKERSさんは私たちが表現したいことがちゃんと伝わるようにサウンドやミックスを追求してくださって。新たな理解者を得たのは、我々にとって大きかったです。

──「ULTRA MARINE」は帆乃佳さん作詞作曲ということで。すでにLINE LIVEでも定番の楽曲になっていますが、けっこう前に作っていた曲なんでしょうか?

工藤 受験期に作ったデモが元になっています。当時そのデモをインスタで公開していたので、もしかしたらそのときから知ってる人もいるかもしれません。歌詞も当時からまったく変わっていないです。

──メロディと歌詞は同時並行で作っていたんですか?

工藤 そうですね。「ULTRA MARINE」というタイトルを先に決めて、1行目から歌詞を書いていって、そこにメロを乗せながら同時に作っていきました。この曲はフェルメールの話をモチーフにして作った曲なんです。ウルトラマリンというのはラピスラズリという宝石からなる青色の顔料で、当時すごく高価だったんです。でもフェルメールはウルトラマリン特有の青色を求めて、何度も買い求めた。それで破産したとか、パトロンがいたから破産せずにぜいたくにウルトラマリンを使うことができたとか、いろんな説があるんです。

──なるほど。

工藤 フェルメールといえば代表作に「真珠の耳飾りの少女」という絵がありますが、あの絵の少女もフェルメール自身とどういう関係性だったのか、妻、娘、姪っ子といろんな説があって。はっきりとはわからないんですけど、「ULTRA MARINE」の歌詞はそういうウルトラマリンの逸話と、「真珠の耳飾りの少女」の絵から着想して書きました。遥音とポチ(種市)にもフェルメールの話を紙に書いて渡して。少女の美しさに惹かれるあまり、ちょっと壊れそうな危険な香りをはらんだ曲にしたいということを伝えました。

──フェルメールのこの物語を曲にしようと思ったからには、きっと帆乃佳さんの中でこの物語のどこかに心が惹かれるところがあったんですよね。

工藤 そうですね。「破産しようがなんだっていいわ。ウルトラマリン買います」みたいな、フェルメールのちょっと狂ったような感性が、当時の芸術家っぽくて素敵だなって(笑)。やっぱり今の時代って、「何を犠牲にしても……」みたいな人は少ないと思うんです。

──理性が働きますよね。

工藤 フェルメールの物語からは、その時代に生きた画家の芸術に対する熱意や、すべてを捧げて自分の信念を貫くような姿勢を感じたんです。本来の芸術の形を体現しているような気がして。だからフェルメールって、私の中ですごく尊敬に値する人なんですよね。

迷いのなさが歌にも表れている

──皆さんの地元の青森・三沢市には海のイメージがあるので、「ULTRA MARINE」の青はそういう海の記憶にも基づいているワードなのかなとも思っていたんですが、そこはあんまり意識せず?

工藤 特に意識してなかったですが、海は私たちにとってすごく身近なものなので、潜在意識の中にそういうモチーフはあったかもしれません。そもそもウルトラマリンは、“高価な絵の具が海を越えてやってくる”というのが語源になっているんです。ラピスラズリが採れる地域が限定されていて、輸入でのみ手に入る顔料だったから。ポチにピアノを付けてもらうときも、広い海に大きい波が連なっていくようなイメージでお願いしたいと言いました。

種市悠人(Key)

種市 帆乃佳が作った曲の中でも、けっこうやりたいことが伝わってくる曲だなと思いました。わりとピアノのフレーズは付けやすかった印象があります。前作の「SWALLOW」もなんですが、今回僕はレコーディングで弾いていなくて、MIDIで打ち込んだんです。

工藤 「ULTRA MARINE」のシーンとした感じというか、神秘的で透き通っているような音色は、実際に弾くと人間の手癖や熱が入ってしまうことをSEED SEEKERSさんに教えてもらって。今までは全部生音で録るのが正義だと思っていたんですが、MIDIのほうがいい場合もあるということを知りました。今はそれぞれプラグインやDTMを勉強しています。

──そうだったんですね。配信ライブでは弾いていましたよね?

種市 はい。

工藤 弾けないようなフレーズをMIDIで作るから、ライブでやるときに大変みたいです(笑)。

──ギターもすぐにイメージは沸きましたか?

安部 うーん。僕はそんなにすぐはできなくて、いつもけっこう考えます。歌詞のニュアンスを帆乃佳に聞きながら作っていました。

──安部さんのギターがこの曲の物語を展開させていますよね。ブリッジミュートでふつふつと曲が始まっていって、ディレイがかかった奥行きのある間奏を経て、エモーショナルなフレーズでDメロを盛り上げていく。どういうイメージで弾いていきましたか?

安部 Dメロはメロとユニゾンになるようなフレーズを入れてみました。あと、ブリッジミュートも前半とアウトロで弾き方を変えてみたんです。同じようなフレーズでも弾き方を変えるだけで表現の幅が広がることを今回は特に学びました。

──使っているのはテレキャスとレスポールですか?

安部遥音(G)

安部 はい。レコーディングではバッキングをレスポールで弾いて、間奏のディレイがかかっているフレーズとかはテレキャスで弾いています。

──最近ご自身のレスポールも買われたんですよね? ブログで拝見しました。

安部 そうなんですよ。今まではエフェクターで補える部分があるんじゃないかと思って、テレキャスしか持っていなかったんです。でもレコーディングでレスポールを借りて弾かせてもらったりして、そのギターにしか出せない太さや、サステインの伸び方があるなと思って。大学生になったし、自分でがんばって貯めたお金で買うことにしました。新しいギターを手に入れたので、今後の楽曲制作に生かしていきたいです。ギター以外にプラグインとかもいろいろあるので、デモの段階から自分でもっと考えて、音色を考えていきたいなと思っています。

初めてのアルバムに向けて

──SWALLOWに改名してから、帆乃佳さんの歌がものすごく迷いのない感じになっている印象があります。自分で最近の歌に関してどう思っていますか?

工藤 すごく自然に歌っていると思います。前は何を表現したいのかわからない状態だったので、人から「これがいいんじゃない?」って言われたものを「そっか、これがいいんだな。なるほど。やります」みたいな感じだった。でも、今は迷いがなくなったのが歌にも表れていると思います。

──「ULTRA MARINE」はレコーディングでどういうふうに歌っていきましたか?

工藤 何もない海原を越えていくような感じでしたね。後半のちょっと危うい雰囲気のところは、お腹から声を出す感じで、熱を持って歌いました。

SWALLOW「ULTRA MARINE」ジャケット

──アートワークも「SWALLOW」に引き続き、帆乃佳さんが手がけています。この色が「ULTRA MARINE」のイメージということですよね?

工藤 そうですね。ウルトラマリンと言っても、絵具のメーカーによって色の違いは若干あるんですけど、粉末の元に近い色を選んでいます。青1色だとちょっと物足りないなと思って、「真珠の耳飾りの少女」のイメージから絵の具のディティールのテクスチャーを取り入れました。

──ジャケットを自分で作れるのはやっぱり強みですよね。アートワークも含めて楽曲の世界観を自分で表現できると思うので。

工藤 費用がかからないという(笑)。まあ、イメージを自分で形にできるのはいいことですよね。音楽と並行して絵の勉強もがんばります。

──安部さんのTwitterやブログに「2021年の目標は初のアルバム制作」と書いてあったんですが、それはSWALLOWとして3人の目標ですか?

工藤 はい! 受験期に作ったデモだけでも、アルバム1枚できるぐらいの曲数があるので。それを年内にきちんと作品に仕上げることができれば、目標を達成できるんじゃないかな。今はとにかくその編曲作業をしています。

種市 アルバムに向けてバンバン曲を完成させていきたいです。

安部 アルバム制作はもちろん、今年はLINE LIVEとかライブでの新しい見せ方も突き詰めていきたいですね。「SWALLOW」をやるにしても、アコースティックでアレンジしてみたり。

──早くライブができるようになるといいですよね。受験前は「ARABAKI ROCK FEST.」のようなフェスにも出演されていたと思うので。

安部 いつもTwitterやインスタで気にかけてくださるリスナーの方もたくさんいるので、応援してくれる方の前でちゃんと演奏できるようになったらいいなと思います。