音楽ナタリー PowerPush - サニーデイ・サービス
再結成後に3人が気付いたこと
「サニーデイ最高!」って思えるようになった
──こうして話していると、3人がサニーデイで活動を続けていることの意義を改めて感じますね。
曽我部 晴茂くんのドラムでまた歌える喜び、田中のベースで歌える喜びっていうのはあるよね。かけがえのなさ。だって田中が死んだら田中のベースでは歌えないわけだから。
田中 うん(笑)。
曽我部 当たり前のことだけど、それだけなんだよ。ある人の何かと自分の何かが合わさって、そこにしかないものができる。で、俺と田中と晴茂くんっていうのはすごく唯一の、もう誰にも真似できないことをやってると思う。サニーデイに限らず、ほかのバンドの人たちもみんなそうなんだけど。そのことに、やっと気付けたんだよね。
──じゃあメンバーに対して「もっとこういうプレイをしてほしい」みたいな思いは特にないですか?
曽我部 昔はあったよ。そういうことがわかってなくて、合えばいいと思ってたから。もっとタイトにドラムとベースがきっちり合うような音楽がいいって、教科書通りに思ってたからさ。
丸山 今この3人でやると「こうなるだろうな」って思ってたことが本当にそうなるんですよね。もう音を出した瞬間にわかる。それがはっきりわかったのは再結成してからですね。昔は一生懸命だったけど、自己中心的だったし、今みたいには楽しめてなかった。で、楽しくやるといい演奏ができるっていうことに、再結成してから気付いたんですよね。
曽我部 俺はね、サニーデイでライブやってて感じるのは、「田中も晴茂くんもサニーデイのことがすごい好きなんだな」っていうことなんだよね。お金のためでも名誉のためでもなく、俺の書く曲が好きでサニーデイが好きだからやってる。そこに疑う余地はないよね。
──曽我部さん自身はどうですか?
曽我部 俺はサニーデイに対して、なんていうのかな、うらはらな気持ちで接してきたところはやっぱりあるんだよ。サニーデイより自分1人のほうがいろんな表現ができるんじゃないか、とか。それで解散したようなもんなんだけど。
──でも今は違う?
曽我部 うん、「サニーデイ最高!」って俺もやっと思えるようになった。「本当に田中と晴茂くんは素晴らしい2人だな」「こんなにサニーデイ好きな人といられて俺は幸せだな」みたいな。
──こう言われてますがお2人はどうですか?
田中 ふふふ(笑)。まあそりゃ好きですけど。
丸山 気持ち悪いですね(笑)。
曽我部 でも本物だからね、このつながりは。やっとわかった。20年を経てやっと「ああ、そういうことか!」みたいな。
できなかった曲が今ならできる
──90年代当時とのサニーデイと今のサニーデイは、やっぱり気持ち的にはずいぶん違いがあるようですね。
曽我部 うん、でも当時のサニーデイが持ってた焦燥感っていうか、ヒリヒリした感じっていうのは別に取り戻そうとも思わないんだよね。今聴くと「ヒリヒリしてていいな」って思うけど、そこはもう永遠に欠落したままでいい。
──昔の曲を今ライブでやるときはどんな感覚なんですか?
曽我部 やっぱりその頃の気持ちがよみがえる部分はあるよね。あと、当時すごく難しかった曲が20年経ってできたりする。
──それは演奏技術が上がったということ?
曽我部 いや、そういうことじゃなくて。ずっと「できないね」「難しいね」って言ってた曲の肝っていうか核の部分がやっとわかって「あ、そこだけやればいいんだ」みたいな。
──レコードを再現するのではなく?
曽我部 だってレコードではストリングスも入ってるような曲を、こんな演奏うまくもない3人がスカスカの音で再現しようとするわけだから。もう本当にその曲のど真ん中のとこにアクセスしなきゃならない。形だけをなぞるんだったら、まあサポートメンバーとか入れて人数揃えればなんとかなるんだけど、そうじゃないとこでやろうとしてるから。
──昔は難しかったけど今ならできるっていうのは例えばどの曲ですか?
田中 俺は「24時のブルース」とか。
曽我部 ああ。
田中 長い曲なんで最近あんまりやってないけど、でも当時はさんざん練習して「やっぱダメだ!」みたいになってたから。
曽我部 自分たちでコピーしてた感じだった。
田中 もうまともにできたことなくて、当時ライブで気持よくなれたこともなかった。でも今だと3人で自然にスッと入ってすごい高いところまでもっていける感じ。
曽我部 あと「スロウライダー」もそうだよね。グルーヴ感が出ないって言って、当時はパーカッションとかもいろいろ入れてやってたんだけど。
田中 そうだったね(笑)。
曽我部 でも今3人でたどたどしくやったら「あ、これ『スロウライダー』じゃん」みたいな。
──なるほど。
曽我部 だから大事なのは、その曲が、例えば「恋におちたら」だったら「あ、これ『恋におちたら』だね」って思えるかどうかなんだよね。その形がうまくできましたじゃなくて。「スロウライダー」とかも昔はあんなに16ビートとかファンクとか追求して試行錯誤してやってたのに、今の3人でちょろっとやったらできちゃうっていう。だからグルーヴ感っていうのはうまいヘタじゃなく3人の歩調が揃うってことなんだよ。たどたどしくても。
──面白いですね。
曽我部 不思議だよね。だから解散したまま途中でやめてたら、そういうことはわかんないままだった。まあお客さんはライブ観て「すっげえヘタだな」って思うだけかもしれないけどさ(笑)。でも演奏してると「あ、俺ら今、すごいサニーデイかも」って思う瞬間があるんだよね。
田中 わかる(笑)。
曽我部 だから(古今亭)志ん生だよね、落語でいうと。志ん生のすごさっていうのはうまいとかヘタとかじゃないわけでしょ。ジョアン・ジルベルトとかもそう。もうただやってるだけなんだけど、でもすごい芸なんだよ。
田中 やっぱり人のすごさだね。
曽我部 だからその人の、80歳だったら80歳を丸出しでぶつけられるかどうかってことで。生きてきたその人の重みが全部ドシンって来るわけ。そこにいくにはもうやり続けるしかない。信頼と愛をもってやっていくしかない。
──じゃあサニーデイもそういうものに。
曽我部 うん、なりたいですね。そこに3人がいれば3人の音楽にしかなんないから、それでいいんじゃないかって思うし。何が起こるかはわかんないけど、でも何が起きてもいいっていう強い意志があればいいんだと思ってます。
収録曲
- おせんべい
- 星のレストラン
- 愛し合い 感じ合い 眠り合う
- アビーロードごっこ
- 少年の日の夏
- エアバルーン
- One Day
- 夏は行ってしまった
- 夏のような人
- 晴れた日のメロディ
- きみが呼んだから
ライブ情報
- サニーデイ・サービス「渋谷公会堂コンサート 2015」
- 2015年3月27日(金)東京都 渋谷公会堂
OPEN 17:45 / START 18:30
前売 4500円(全席指定)
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムと14枚のシングルを世に送り出すが、2000年12月に解散。2008年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO」で再結成を果たして以降はスローペースで活動を重ね、2014年10月に9枚目のオリジナルアルバム「Sunny」をリリースした。