sumika|オープニングテーマに見える、バンドの“美学”

sumikaが両A面シングル「Shake & Shake / ナイトウォーカー」を6月2日にリリースした。

表題曲の1つ「Shake & Shake」は西尾維新原作、シャフトがアニメーション制作を手がけるテレビアニメ「美少年探偵団」のオープニングテーマ。sumikaは音数の多いにぎやかな音楽で、個性豊かな美少年たちの物語を彩っている。一方、もう1つの表題曲「ナイトウォーカー」は、アダルトな雰囲気が漂うメロウなナンバー。これまでさまざまなジャンルの音楽にアプローチしてきた彼らの世界をさらに広げるような2曲がそろっている。

音楽ナタリーでは、3月に3rdフルアルバム「AMUSIC」をリリースしたばかりにも関わらず、あふれる創作意欲のままに走り続ける4人をキャッチ。新曲の制作経緯について語ってもらった。

文・取材 / 宮本英夫 撮影 / 後藤壮太郎
スタイリング / 加藤将(IN THE FLIGHT inc.) ヘアメイク / URI

一片の悔いなし

──「Shake & Shake」はテレビアニメ「美少年探偵団」のオープニングテーマですね。

片岡健太(Vo, G) お話をいただいて、原作の小説を読んで、そしてコミックスを読んでから書き下ろしました。西尾維新さんの作品は、もともと隼ちゃん(黒田)に教えてもらったんですよ。6、7年前ぐらいに隼ちゃんに西尾維新さんの本を貸してもらって。それから時を経てお話をいただいたのは、けっこうドラマチックなことだなと思っています。

黒田隼之介(G, Cho) 「化物語」シリーズのアニメ、めちゃくちゃ観てたんです。しかも「美少年探偵団」の制作も「化物語」シリーズと同じくシャフトで、シャフトと西尾維新さんというと、好きな人の中では「おおー!」と高まるところがあって。すごいお役目をいただいたなという感じです。Twitterで僕らのツイートに「西尾維新アニメプロジェクトさんがリツイートしました」と表示されてるの、スクショ撮りました(笑)。昔の自分が見たら、倒れちゃうんじゃないかと思います。

sumika

片岡 夢がありますよね。僕もアニメのオープニング映像を観たときは「おおー!」と感動しました。オンエアのタイミングで初めて観たんですけど、作画がすごすぎて、しばらく動けなくなっちゃいました。

──サウンド的には、sumikaのハッピーでにぎやかな一面が思い切り打ち出されています。

片岡 音を積んで積んで、めちゃくちゃ積みました(笑)。展開ごとにいろんな音を入れていて、制作が楽しかったです。編曲は宮田“レフティ”リョウくんが一緒にやってくれて。「AMUSIC」(2021年3月発売の3rdフルアルバム)で2曲(「祝祭」「惰星のマーチ」)を一緒に作ったのがきっかけですけど、もともと10年来の音楽仲間なんです。だからひさしぶりに会った軽音部の友達と音楽を作ってるような空気感がありつつ、その音楽をsumikaのみんなが咀嚼して、ちゃんと新しいものになっていく感覚がありました。「やっぱりsumikaはこれだろう」というものと新しいものを、いいバランスで取り入れられたんじゃないかなと。sumika×宮田くん、sumika×「美少年探偵団」という掛け算があったうえで、できあがった曲だなと思います。

──この曲はリズム隊が楽しそうですね。

荒井智之(Dr, Cho) 楽しかったですよ。展開がめまぐるしくて、頭から最後までエンジン全開で走り切る、みたいな。レコーディング当日は体がよく動く感覚があって、変な言い方かもしれないけど、「やりすぎちゃってもいいや」と。かっちり、しっかりやろうというよりは、多少はタガが外れてもそのままいけちゃうグルーヴ感がある曲なので、やりやすかったですね。

──鍵盤も大活躍しています。

小川貴之(Key, Cho) 一片の悔いなし、最高のピアノ。レコーディングが終わってすぐに「この曲が出るのが楽しみです」と片岡さんに言ったぐらい、自分のピアノが好きになった曲ですね。

黒田 間違いない。

──小川さんがそこまで言うのは珍しいですね。

片岡 いやあ、うれしかったですね。

小川 「もっとこうすればよかった」というものがまったくなく、みんなで楽しみながらやれたのが、曲の仕上がりにもつながっていて。ピアノだけじゃなく、みんなの空気感が一点に集中していて、とてもよかったんじゃないかなと。アルバムの地続きでレコーディングしたということもあって、いい意味で勢いがあったと思います。

──ギタリスト的には、この曲はいかがでしたか?

黒田隼之介(G, Cho)

黒田 「Shake & Shake」は、音作りにけっこう苦労しました。たくさん音が入っていて主役の取り合いみたいな曲の中で、ピアノが元気に飛び回っていて、そこにストリングスの響きが合わさって。その2つが主役というイメージがあって、そういう曲ではギターを弾かないときもあったりするんですけど、今回は「弾きたい!」と思ったので、一緒に混ざらせてもらいました。

──なるほど。

黒田 最初はシロタマ(全音符)のアプローチをメインに作っていたんですけど、やってみたらエンジニアさんから「全然ダメだね」と言われてしまい、「ですよね」って(笑)。

片岡 (笑)。

黒田 でもそれはおっしゃる通りで、僕の思っていた形ともちょっと違ったので。少し時間をもらって、ああでもないこうでもないと考えて、結果的に「ギターが入ってよかったね」とエンジニアさんに言ってもらえたので、すごくうれしかったです。

──主役じゃなくても、いなきゃ困るギターといいますか。

黒田 それを狙って、そういうふうになれるように、今後もがんばりたいなと思う所存です(笑)。

──今黒田さんがおっしゃった「主役の取り合い」という表現は、言い得て妙だなと。まさに、そういうアレンジになっています。

片岡 歌詞にも書いたんですけど、「さあさあ 皆これ一堂に」って舞台に人を招いているような感じの曲なので。主役が真ん中にいつつも、それに負けない役者がたくさん出てくるというイメージですね。いつもはあまり交わらない楽器たちが混ざって、そこに歌もコーラスも入って、「みんなを見てくださいよ」「なかなかこういう舞台はないですよ」というものになっていると思います。

──それは「美少年探偵団」の、全員が主役級にキャラが濃いというところにもつながっている。

片岡 そうですね。登場人物のそれぞれに推しポイントがある。そこからインスパイアされた部分はあると思います。

みんなバラバラでいいんじゃないかな

──歌詞に関しては、思い切り言葉で遊んでいる印象があります。意味があるようで、ないようで……でもやっぱり意味があるのかなと思わせるような。

片岡 これぐらい“抜け感”があったほうが、聴きやすいなと思ったので。口当たりがいいものを選んで、何も考えずにゴロゴロ転がしていって、たどり着いた先がゴールだった、みたいな肩ひじを張らない感じ。最近、緊張感のある音楽はちょっと聴きづらい気がするんですよ。2020年から2021年になって、世の中がちょっと落ち着くんじゃないかと期待していた部分が自分にもあったんですけど、状況は何も変わっていない。そうなったときに、もう1回がっかりさせられるのも、もう1回勇気付けられるのも、どっちも疲れるなと。

──はい。ニュアンスはよくわかります。

片岡 いちリスナーになってみたときに、これぐらいの抜け感があって、どこかに連れて行ってくれる感じがあるようなものを自分自身も欲しているのかなと思って。サビの一番大事なところで「シャケシャケ」言ってますからね(笑)。一番言いたいことが「シャケ」だったという。

──(笑)。それは、ミュージックビデオを観るとわかるネタです。

片岡 あれだけ手の込んだ作り方をして、サビになるとシャケが出てくる(笑)。でも、これくらいいっちゃったほうがいいだろうという気がしてます、今は。

──2番の「マッチして ローンチして ガッポしてどうすんの?」とか、字面だけ見ると何がなんだかわからないですけど。

片岡 そのへんは、楽しさだけでやってます。でも本当は、意味があるんですけどね。

──おお。

片岡 誰もがつらい状況の裏側で、儲けている人もいるんじゃないか?と。今の時代背景を見たうえで、そういうものに利用されたくはないなという気持ちもあるんですよね。みんなつらくて苦しんでいるのに、それで得をしている人たちがいる。そんなものに負けたくはないなと。まあ、優しくキレてます(笑)。

片岡健太(Vo, G)

──確かにこの曲は、言葉遊びの裏側に大事なものが隠されているような気配が濃厚にあります。さらに「美学」という言葉も入っていて、「美少年探偵団」の世界観とのつながりを感じますね。

片岡 「美学」は「美少年探偵団」の中で大事にされている言葉ですからね。つまり、これがsumikaの美学なんだろうなと思うんです。笑いながら、皆さんをどこかへと連れていくようなイメージ。背中をバン!と押すとか、強い力で手を引っ張るとか、そういうやり方ではなくて、「こっちに来ると楽しいかもよ」って。そこに自分の歩くペースで付いて来てくれればいいよという、強制感のない感じ。改めて、それが僕たちの美学ですね。

──そう思って深読みすると、「さあさあ 皆これ一堂に」と言いつつも、「四方八方飛んで行ってさ」「三々五々の光だったって」「反抗的デスパレート」「ディスコードしたって笑っている」とか。それぞれが個であることを意識するワードが多く使われているなと思います。

片岡 「Dress farm 2020」(昨年5月にsumikaが設立した医療従事者とエンタテインメント業界の活動支援のための基金)も「誰とも比べず、あなたの価値で」というキャッチフレーズでやっていたので。誰とも比べずに、自分は自分であり、ディスコード(不協和音)であったとしても、それでも笑って過ごしていくことが素晴らしいと思うし、みんなバラバラでいいんじゃないかなと思うんですよね。そこを認め合って、ニコニコしながらやっていきたいなという気持ちがあります。

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“盛り上げない”曲