“盛り上げない”曲
──そして両A面シングルとしてもう1曲、「ナイトウォーカー」が収録されています。こちらはノンタイアップですか。
片岡 そうです。誰が決めたわけでもないんですけど、シングルを出すときには、1曲できたらそこに違う雰囲気の曲をぶつけるということを、ずっとやっているんですよね。例えば西尾維新さんが好きで「美少年探偵団」を観て、「sumikaのCDを聴いてみよう」と思ってくれた人が、「Shake & Shake」のあとに「ナイトウォーカー」を聴いて、「これもsumikaなんだ」と感じられるような。1曲目とは違う面を見せて「sumikaはこういうバンドですよ」ということを伝えきったほうがいいだろうなと。なので「Shake & Shake」に対抗するものとして、曲調とテーマを決めて、それに向けて作曲に取りかかったという流れです。
──そして、小川さんの楽曲が採用されたと。
小川 はい。これは狙い撃ちで作ったというか。初めから「こういうテンポでこういうグルーヴ感で」というものを決めて、作曲していきましたね。僕が作曲した段階では、“夜のドライブから恋が始まる”みたいなテーマがいいなと思っていました。「Shake & Shake」が盛り上がる曲なので、こっちは逆に楽器数も打ち込みも極力少なく、“盛り上げない”ことをテーマにして作っていきました。
──サウンド的には、シティポップ感があってアーバンソウル風味で、アダルトな雰囲気ですね。
小川 初めて生のローズ(エレクトリックピアノ)を弾かせてもらいました。みんなと一緒にそれぞれのグルーヴ感と音作りに集中してレコーディングをやったので、めちゃくちゃ楽しかったです。
──生のローズ、いい音ですよね。
小川 昔、戦地の兵士を癒していたと言われる楽器ですからね。癒されるところもありますし、今風ではない、いなたい部分もありますし、こういった曲に合っているなと思いました。
──さらにサックスも入っています。
小川 去年、木下大サーカスの会場で配信ライブ「Little Crown 2020」をやったときに(参照:sumika、“焼け野原のサーカス会場”から希望届けた初のオンラインライブ)、「Summer Vacation」という曲で、後関好宏さんにアルトサックスを吹いていただいたんです。その経験が僕の中で、曲が「化けた」瞬間として記憶に残っていて、今回、新しい曲でもサックスを入れてみたいと思い、今回も後関さんに吹いていただきました。
──ドラムは非常に繊細でストイック、かつどっしりとした存在感がありますね。
荒井 最初に聴いたときから、楽曲の持つ世界観、雰囲気が素晴らしいなと思って、その世界観に寄り添う方向性で叩いてみました。シンバルを全部チップ(スティックの先端)で叩いて、バシャン!という大きい音を出さないように。1つの点からじんわりと広がっていくような音をメインにしていて、そこが楽曲の雰囲気とマッチするかなと。今までそういったアプローチで叩いたことはなかったんですけど、今回はそれができたらきっとハマるだろうと思って、狙った通りにできたかなと思っています。
──荒井さんの新たな得意技になるのでは?
荒井 好きですけど、まだ、あんまり得意とは言えないかもしれない(笑)。でもオガリン(小川)のこういう方向性の楽曲って、個人的には相性がいい気がしていて、「こうやったらいいんじゃないかな」というものがイメージしやすいというか。自分で思っているだけですけど。
小川 完璧にハマっていると思います。
荒井 すごく面白いし、やりがいがありますね。楽しかったです。
──ギターはどのようなアプローチをしていったんですか?
黒田 ワウペダルを使っています。曲の雰囲気がすごく大人で、それこそ、シンバルをバシャン!といかない美学があるので、ギターもジャーン!とはいかないように、曲の邪魔をしないように。最後のサビも「もう1本ギターを足す?」という提案を一応したんですけど、オガリンが「この曲は盛り上げないでいきたいんです」ということで、「確かに、そのほうがいい」と。「Shake & Shake」が足して作っていくものだとすれば、「ナイトウォーカー」は引いて作っていくもの、というふうに考えて、ギターを弾きました。ワウペダルも得意というわけではないんですけど、いっぱい練習しました。キツかった(笑)。でも、ライブでやるのが楽しみです。
片岡 そうだね。
「早く終電来てくれ!」みたいな(笑)
──リリックはタイトル通りに、夜の街を歩いてゆく風景描写がいろんなイメージをかき立ててくれます。
片岡 歌詞を書くにあたって、オガリンから「ドライブしながら曲を作った」という話を聞いていたので、僕も同じ体験をしようと思って、ドライブしながら街を走ったんですよ。そのときにちょうど歩いていたカップルがいて、そこから着想を得て歌詞を書きました。毎回そういうことをやるわけじゃないんですけど、「本音」(2021年1月発表のシングル曲)を作ったあたりから、ずーっと歌詞を書き続けていたので……いわゆる「作者、取材により休載」みたいなことをしてみたかった(笑)。ひと晩使って、街を見たうえで書いた歌詞ですね。
──取材の成果は出ました?
片岡 車を運転しながら、信号待ちのときに隣の車を見て、カップルを探してみても、意外といないんですよね。最近の若い人はあんまりマイカーを持たない傾向があるからだと思うんですけど、ドライブデートをしているカップルが全然いない。そのぶん街を歩いているカップルはたくさんいたので、オガリンに「“夜のドライブ”じゃなくて“夜を歩く”という方向にシフトしていい?」と相談して、こうなりました。書き上げるまではけっこう大変でしたね。アレンジがすごく洗練されていて音数が少ないぶん、言葉の1文字、1音がめちゃくちゃ大事な曲なので。プレッシャーを感じながら、試行錯誤して書いた歌詞です。
──今までと比べると、英語のフレーズを多用していたり、新しいアプローチも感じられます。
片岡 言葉遊びのような感じですね。この曲はフィーリングで音を感じてもらったほうがいいのかなと。歌詞が曲の説明文みたいになっちゃうともったいないと思ったので、一聴しただけでは意味を直訳できないぐらいのバランスで歌が聴こえてくれるように英詞も入れてみました。
──「Plastic in the summer night」ってなんだろう?と思いますけど。
片岡 なんなんでしょうね(笑)。ナイショです。想像力を働かせていただければと思います。
──途中で「23時2分」という時刻が出てきて、それから「終電逆算し」になり、さらに「君の手を引き 終電の先」になる。ドキドキしますね(笑)。
片岡 「手持ちの花火」を持って散歩しているところから物語が始まって、だんだん進んでいって、「ここらで締め花火」したら、もう終わっちゃうじゃないですか。でもまだ23時2分からさほど経っていないから、「早く終電来てくれ!」みたいな(笑)。早く0時になったらいいのに、あと1時間もあるのかみたいな、絶妙な時間ですね。
小川 で、結局帰られちゃう(笑)。
季節の移り変わりを、みんなと一緒に
──sumikaは5月から全国ツアー「sumika Live Tour 2021『花鳥風月』」を行っています。これはどのようなコンセプトのツアーですか?
片岡 2020年はいろいろな季節の移り変わりをみんなと一緒に見届けられなくて悔しい思いをしたので、今年は時間をかけて全国を回って、季節の変わり目をみんなで見て、この国の四季を楽しんでいきたいということですね。今の状況から元に戻っていくさまは、各国それぞれだと思うんです。例えばイギリスは状況がよくなってきているけど、日本はまだまだとか、そういう状況はこの先も続いていくと思います。そのスピードは早いかもしれないし、遅いかもしれない。でも、春に桜が咲いて、夏に暑い日差しを感じられて、秋に紅葉が見られて、冬に雪が降るという、この国にしかないよさがちゃんとあるんじゃないかなと思うので、それをみんなと一緒に見届けられたらいいなと思います。僕は日本という国はそんなに悪い場所だとは思わないんです。少なくとも自分たちは、好きな人たちと一緒に音楽をやっているし、目の前にいる人たちのことを抱きしめたいと思うし、手をつなぎたいと思うから、メディアを見ると嫌気がさすこともあるだろうけど、目の前の景色を見て、みんなでもう一回0から1を作っていきたいなという気持ちで、ツアーを回れたらと思います。
──スケジュールは、これから順次追加されていくんですよね。
片岡 そうです。自分たちがチケットを取る側だとしても、今から冬のことを決めるのも難しいと思うので。“次の季節のご相談”というか、春に夏の相談をして、夏に秋の相談をする、それぐらいのテンポ感がいいのかなと思います。今は、いろんなアーティストがいろんな考え方で動いていて、どれも正解だと思うんですけど、sumikaはそういう考え方で動いていこうと思っています。