sumika|結束力増した4人が鳴らすチャイム

スタートを示す「10時の方角」

──では、新曲を中心にアルバムの楽曲について聞かせてください。まずは1曲目の「10時の方角」。「いざ進めよ 心向く方角に」という歌詞もそうですが、まさに“これから進んでいく”という意志を示した楽曲だなと。

片岡 この曲はかなり前からあったんですけど、なかなか収録するタイミングがなかったんですよね。「はじまり はじまり」という歌詞が何度も出てくるんですが、もともと「アルバムの1曲目」というイメージがあったんですよ。例えば4曲入りくらいのシングルに入れたりすると、「豪華なオープニングだったけど、すぐ終わっちゃった」ってなる気がして、フルアルバムのタイミングまで待っていたんです。

黒田 これを1曲目にするのは、満場一致でした。

──2曲目の「ファンファーレ」、3曲目の「フィクション」と続き、4曲目は心地いいグルーヴが印象的な「Monday」。作曲は小川さんですね。

小川 「気楽に聴いてほしい」という思いで作った曲ですね。力を抜いて楽しんでもらえたらいいなと思っていたし、とにかく軽快な感じにしたくて。仮タイトルも「Monday」だったんですよ。「月曜日の朝も軽快にいける」というイメージだったんですが、片岡さんに渡したら、また違った解釈の「Monday」になって。

片岡 このお題を渡されたとき、月曜日の朝よりも、日曜日の夕方の憂鬱をイメージしたんですよね。2番のAメロでサウンドのアプローチがガラッと変わるんですが、そのアンニュイな感じも“日曜の夜から地続きの月曜”という感じがあったので。

“冬感”と熱さを入れた「ホワイトマーチ」

──そして「ホワイトマーチ」は、「JR SKISKI 2018-19キャンペーン」のキャンペーンソングです。

黒田 「JR SKISKI」のCMはずっと見てきたし、担当させてもらえるのは光栄ですね。

片岡 素直にうれしいです。

黒田隼之介(G, Cho)

黒田 この曲の最初のデモは僕が作らせてもらったんですが、“冬感”が上手に出せなかったんですよ。メンバーもスタッフも曲は気に入ってくれたんですが、どうやって冬らしさを出そうかと考えていたら、おがりん(小川)が「預からせてもらっていいですか?」と言ってくれて。2人でやりとりしながら作った曲です。

小川 冬感を出すこともそうなんですが、熱さを消したくないなと思って。アウトロはバンドでドカン!といくアレンジにしたんですが、「バンドでいたい」という確固たる意志みたいなものもありました。

荒井 「JR SKISKI」の曲を担当させてもらうことになったときは「大変な話だな」と思ったんですが、いい曲になってよかったです(笑)。島田昌典さんにアレンジャーとして入ってもらって、それもうまくハマって。島田さんは「メンバーの顔が見える曲にしたい」とおっしゃってくださいました。

片岡 歌詞は、事前にCMの映像資料を見せてもらってから書きました。CMのキャッチコピー(「この雪には熱がある。」)もありましけど、それをsumikaとして表現するために、自分の中でしっかり咀嚼しないとダメだなと思って。今回のCMの映像を作った監督さん(横堀光範)が、以前ほかのタイアップでご一緒したことがある方だったんです。そのときのことは鮮明に覚えていたし、「また一緒に仕事したいですね」という話をしていて。監督さんが考えていることもわかったし、その分、歌詞も自然に書けたというか。

小川 レコーディングのときも、映像を観てからブースに入ったんですよ。

片岡 熱いバトンを受け取りながら制作できましたね。

メンバーのアイデンティティは楽器ではなくて人間性

──続く「Strawberry Fields」は、ジャズのテイストが感じられるナンバーです。メンバーそれぞれのソロパートを含めて、ライブ感のある楽曲だなと。

片岡 これは一発録りなんですよ。まさにライブ感を生かしながら制作した曲ですね。ソロ回しも、順番と流れだけで決めて、あとはその場の感じで演奏して。最近はゲストのベーシストを含めて5人編成でライブをやることが多いんですが、この曲も同じ編成だし、そのままライブでやれるアレンジになってます。歌も一緒に録ればよかったかなと、後になって思いましたけどね(笑)。

小川 僕のパートはもともとキーボードでやろうと思ってたんですが、レコーディングの前日に「ピアノでやろう」ということになって。それくらい、いい意味でラフな状態で作っていましたね。フレーズに関しても、その場で出てきたものを生かして。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井 ドラムに関しては、もっとラフなアプローチでもよかったかも(笑)。でも、いい形で着地できたと思います。

──劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」劇中歌「秘密」、主題歌「春夏秋冬」のあとは、インスト曲「Hummingbird's Port」が入ります。ここで場面が変わる印象もあって。

片岡 フルアルバムを全部聴いてもらうのはけっこう大変だし、集中力にも限界があると思うんですよ。前作の「Familia」にもインスト曲を入れたんですが、今回も同じように「ここで1回、耳をフラットにしてほしいな」と。

──そのあとには「Flower」「ペルソナ・プロムナード」とアッパーな曲が続きます。このあたりはライブを意識した楽曲ですか?

片岡 「Flower」は会場で歌っているところをイメージしてました。アレンジを含めて、ライブで楽しく演奏できたらいいなと。すべてライブを意識しているわけではなくて、13曲目の「ゴーストライター」みたいなバラードに関しては、なるべく広い世界を考えず、深い海の中で1対1で向き合っている感覚なんです。そのほうが聴いてくれる人に響く曲になるかなと。アレンジもデモの段階ではバンドサウンドだったんだけど、どんどん引き算して、最終的にはピアノ、チェロ、ボーカルの編成になって。

──そういう自由度の高さもsumikaの特徴ですよね。

片岡健太(Vo, G)

片岡 そうかもしれないですね。去年のツアーでもピアノと歌だけで演奏した曲もあったのですが、「これもsumikaです」と言える手応えがあって。メンバーのアイデンティティは担当している楽器ではなくて、人間性だと思ってるんですよ。「それぞれが担当する楽器を鳴らすことでバンド感が生まれる」という考え方もあるし、それも素敵だけど、sumikaはもともと4人だけでライブをやることは少なくて、常にゲストミュージシャンに参加してもらってるので。メンバーの人間性が集まってsumikaになると思ってるからこそ、「ゴーストライター」のようなアレンジも躊躇なくやれるんでしょうね。