ナタリー PowerPush - ザ・スターリン
吐き気がするほどロマンチックなパンクレジェンド30年史
「ハウスの要素を入れたら?」って言われてから、その人と口きかなくなった
──ザ・スターリンがメジャーデビューして、思ったより制約はないなっていう気はしたんですよね。その後のパンクバンドって、メジャーデビューしたとき音楽的に変わっちゃうことも多かったじゃないですか。
ああ。音楽的な制約はなんにもなかったですよ。ただ、「STOP JAP」の前に「trash」を出したじゃないですか。あれ26曲とか入ってて、持ってる曲ほとんど入れたんですよ。それで「STOP JAP」を作るとき、ネタなくなっちゃってどうしようっていうんで、慌てて作った曲とか、それまで入れてなかった曲とかを寄せ集めたから、どっちかっていったら「STOP JAP」って結構寄せ集め的なアルバムなんですよ。「trash」のほうが王道っていうか、自分らのやってた曲をそのままバーッと出してて。それで結構同じ曲をタイトル変えて収録したりとか。
──「主義者」が「ロマンチスト」になったり。
そうそう。で、「虫」は完全に最初からコンセプトとしてハードコアなアルバム作ろうってことだったんですけど。「STOP JAP」は歌詞も直させられたりとか、結構「STOP JAP」に対するストレスが残ってたんですよね、出したあとで。
──できればオリジナルの歌詞のまま出し直したいっていう。
うん。だから、ちょっとあれでスッキリしましたね。でも意外とザ・スターリンファンに聴かせると、最初に出したほうは「~NAKED」と比べると音がチャチいけど、あっちのほうが好きだって人も多いんですよね。
──愛着でしょうね、聴き慣れてるから。
結構、あの当時はあの当時で、それなりにギター何本も重ねたりとかしてやってたんですよ。「ピストルズは20回ぐらい重ねてるらしいぜ」とか言いながら。
──そこもピストルズが(笑)。
結構ありましたよね。「ピストルズの『NEVER MIND THE BOLLOCKS』のあの音はどうやったら出せるんだろう」「本人たち弾いてないらしいぜ」とかね。その当時、音楽的な制約ってあったんですか?
──それこそ、LAUGHIN' NOSEだとか、あの世代はかなり変えられてますよ。
そうなんですか!
──本人たちが意識的にメジャーを目指したのもありますけど、スタジオミュージシャンが演奏した話とかいっぱい聞きますよね。あの時代、徳間が異常だった気がします(笑)。
ザ・スターリンはプロダクションが噛んでないんですよ。レコード会社と直でやってたから。音楽性を「変えたほうがいいんじゃないの?」とかって、最後のスターリンの3枚目ぐらいで初めて言われましたね。
──ザがつかない復活後に。
「殺菌バリケード」のときに初めて「音楽性変えたほうがいいんじゃない?」って。売れなかったからですよ、その前の「STALIN」っていうアルバムが。僕らとしては最高のアルバムを作ったつもりが全然売れなくて。ハウスとかが流行りだした頃だったから、「『殺菌バリケード』で、そういう要素を入れたらいいんじゃない?」って。
──ハウスの要素を!
それで、その人と口きかなくなった。それ以降、最後の「奇跡の人」を出すまで口きかなかったです。
──っていうか、ミチロウさんの闘い方はそういう感じなんですね。
喧嘩しちゃって、「もういいよ」みたいになって。でもあのときは契約の関係で間にキョードープロモーションが入ってたから、そっちだけに話してもらって、制作は勝手にやったんですけど。これが一番音楽的に迷いましたね。
──その時代はみんな迷ってましたからね。パンクバンドの方々がみんな迷った感じのソロを出したりとかしたりで。
ラフィンもハウスやったとかなんか言ってた時期ですよね。
──そうです。LAUGHIN' NOSEはチャーミーさんもポンさんもそっちにかぶれて、ヒカゲ(THE STAR CLUB)さんもソロでなぜかスクラッチ音を導入とか、みんな手探りになってた時期ですよ。
ボブ・ディランだってやったんですからね、ラップに挑戦とか(笑)。
グランジがやりたくて解散した
そのあとには、僕の中ではBAUHAUSとかの流れで、グランジって言葉が出てくる前に、DINOSAUR JR.とか無茶苦茶好きになってたんですよ。
──そうだったんですか!
その路線でソロを出したかったのが、「奇跡の人」ですよ。でもその当時のメンバーはグランジに対する理解が誰もなくて。しょうがないんで、だったらプロデューサーをつけて作っちゃえっていうんで、岡野ハジメさんをプロデューサーにして。プロデューサーの言うことならみんな聞くじゃないですか、俺が言っても聞かないけど。
──なんで聞いてくれないんですか(笑)。
僕自身がほら、楽器弾けないから。楽器にああだこうだって言っても、なんかみんな説得できない。でも、岡野さんが「こうしよう」って言ってくれれば、みんな聞くから。それで「奇跡の人」を作ったわけです。
──ミチロウさんなりのグランジへの返答。
あのとき、THE SMASHING PUMPKINSの初来日の前座やってますからね、CLUB CITTA'で。メンバーはなんでやるのかわかってなかったですけど。あのとき、呼び屋さんがSMASHで、SMASH知ってたんで、「前座やらせてくれ!」って頼んで、やらせてもらったの。
──そんなにそっち方面がツボだったとは!
そうなんですよ。で、グランジバンドをやりたくて解散したんです、最後のスターリンは。
──そうだったんですか! これからはグランジだ、と。
うん、そう。でもなかなかメンバー見つからなくて、地味にアコースティック始めたら、こっちのほうが面白い。ひとりのほうが楽だなっていう。バンドって形態自体にもううんざりしてたんですね。
──大変ですよね、メンバー集めるのも。
面倒くせえなっていう。それで「天国の扉」はスターリンが最後の頃にできて、あれからですよね、1人で歌おうかなと思い始めたのは。あの曲ができてなかったらそうならなかったです。
DISC 1(第一部)収録曲
- 虫
- 廃魚
- M-16(マイナー・シックスティーン)
- T-Legs
- アクマデ憐レム歌
- 溺愛
- おまえの犬になる
- バイ・バイ・ニーチェ
DISC 2(第ニ部)収録曲
- オープニング・アナウンス
- 猟奇ハンター
- 渚の天婦羅ロック
- バキューム
- ハロー・アイ・ラブ・ユーに捧ぐ
- ワイルドで行こう(Born To Be Wild)
- 天プラ
- 電動コケシ
- アザラシ
- NO FUN
- アーチスト / マリアンヌ
- お母さんいい加減-先天性労働者
- ロマンチスト
- 下水道のペテン師
- STOP GIRL
- 爆裂(バースト)ヘッド
- 豚に真珠
- GASS
- 仰げば尊し
- 解剖室
- ワルシャワの幻想
- Fish Inn
DISC 1「MINUS ONE」収録曲
- LOVE TERRORIST
- 24時間愛のファシズム
- KOREA
- -1(マイナス・ワン)
- Relo Relo
- New York PARANOIA
- ウルトラ・SEX・MAN
- Sha.La.La.
- 羊飼いのうた(LIVE)
- タイフーン・レディ・フラッシュ(LIVE)
- キリの中(LIVE)
- ウルトラ・SEX・MAN
- 24時間愛のファシズム
DISC 2「DEBUT!」収録曲
- 愛してやるさ!
- 猟奇ハンター(LIVE)
- 冷蔵庫(LIVE)
- 天上ペニス(LIVE)
- STOP GIRL(LIVE)
- 爆裂(バースト)ヘッド(LIVE)
- 先天性労働者(LIVE)
- メシ喰わせろ!(LIVE)
- 渚の天婦羅ロック(LIVE)
- バキューム(LIVE)
- 解剖室(LIVE)
- 仰げば尊し(LIVE)
- 20st Century Boy(LIVE)
- 虫(LIVE)
- バイ・バイ“ニーチェ”(LIVE)
- GASS(ORIGINAL VERSION)
遠藤ミチロウ(えんどうみちろう)
日本のロックシーンに衝撃を与えた伝説のパンクバンド、ザ・スターリンの中心人物として1982年にアルバム「STOP JAP」でメジャーデビュー。その強烈な存在感とカリスマ性で圧倒的な支持を集め、一世を風靡する。1985年にバンドを解散してからは、ソロアーティストとしてのキャリアをスタート。また、パラノイア・スター、ビデオ・スターリン、スターリン、COMMENT ALLEZ-VOUS?など、さまざまなバンドでも活躍する。ソロ名義では年間100本以上におよぶライブを開催するなど、その活動スタイルはアグレッシブ。また、若手アーティストとの交流も多く、グループ魂、大槻ケンヂらとも共演している。近年はソロのほか、石塚俊明(頭脳警察)と坂本弘道とのNOTALIN'S、中村達也(LOSALIOS)とのTOUCH-ME、クハラカズユキ(The Birthday)&山本久土とのM.J.Qなど、ライブを中心に積極的な活動を続けている。