ナタリー PowerPush - ザ・スターリン
吐き気がするほどロマンチックなパンクレジェンド30年史
ストレートな歌詞を書くのは苦手なんですよ
──ザ・スターリンを聴いてるせいで怒られた、みたいな話は当時よく聞きましたね。僕の中学時代の先輩も「サル」を聴いてたら、お母さんが部屋に飛び込んできて「あんた、なんて曲聴いてんの!」って怒られたり。
ああ、結構それは「GO GOザ・スターリン」で聞きましたよ。「パパ、ママ、共産党!」とか言ってるじゃないですか。そしたら家の人もビックリして。「共産党!」って響きは、なんかあるんじゃないですか、一般世間的には。あれ、晋太郎の歌だったんですけど。
──僕もあれ「パパ、ママ、公明党!」に変えて歌ってましたよ(笑)。
ホントですか(笑)。
──でもホント、歌詞が古びないのがすごいですよね。
ああ。去年、震災のあとで、逆にリアルに感じる歌がいっぱいあって。それは自分でもビックリしましたね。
──「STOP JAP」でレコ倫と揉めたせいで、「虫」の頃から歌詞が抽象的になっていくわけですけど、それ以前からもフレーズは刺激的でもなんの歌だか特定されないようなものしか作ってないじゃないですか。普通、もっとストレートな歌詞になっていくと思うんですよ、パンクって。そこがまた決定的に違いますよね。
それはもう、ザ・スターリンって名前からストレートじゃないし、いきなり皮肉っていうか屈折じゃないですか。バンドの名前が既にブラックユーモアになってるんで、歌も全部そうですよ。基本的にはザ・スターリンっていう名前と同じで、ストレートじゃないほうが広がったり深みが出るっていうのはどっかであるんでしょうね。いまだにストレートな歌詞って苦手なんですよ。憧れるんですけどね。
──ダハハハハ! たまには真っ直ぐにメッセージを歌ってみたい、みたいな(笑)。
そうそうそう。たまにはストレートに歌ってみたいなと思って(笑)。
──ザ・スターリンは文化を啓蒙していく存在でもあったと思うんですよ。僕らの世代はジャックスをミチロウさんに教わりましたからね。
でしょうね。あの頃、まさか早川(義夫)さんが復活すると思ってなかったですからね。
僕が女を何人も犯しまくってる自販機本が勝手に発売された
──いろんな文化をミチロウさんの影響で学ばせていただきました。ジャケを平口広美さんとか宮西計三さんとか丸尾末広さんが描いてたりで。
80年代って音楽だけじゃなくて、いろんな分野でパンクって言ったら変ですけど、そういうのがあったじゃないですか。特にマンガなんか、多分描いてる人はパンクなんて意識してないと思うんですけどね。
──蛭子(能収)さんなんか、なんで「ベトナム伝説」でマンガを頼まれたか全然わかってなかったですよ(笑)。
わかんないよね、無意識のパンクな存在だから。丸尾さんにしてもそうなんですけど。だから匂いでつながってたというか。石井(聰互)監督なんかはパンクをモロ意識してましたけどね。
──僕もそういう「ガロ」的というか自販機エロ本的な文化をミチロウさんで学びました。
マンガはやっぱ強かったですよね。僕がマンガ少年だったんで、ずっと読みまくってて。で、たまたま菅野(邦明)くんっていう僕の親友がエロ劇画に関わってたんで、どっちかっていったらマンガ家と近かったんですよ。
──平口さんや蛭子さんが描いていた自販機エロ劇画誌「マンガピラニア」の編集長ですよね。後にマガジン・ファイブという出版社を立ち上げてザ・スターリン関連本を多数出版した人でもあって。
そうそう、写真家の石垣(章)さんにしても自販機つながりですからね。
──ミチロウさんが当時、エロ本のモデルとかをやってたのもですか?
それもつながりで。「アルバイトしない?」って言われて、たまたま自販機本で。ビニ本じゃなくて自販機本なんですよ。
──それはスキャンダラスなネタを提供するっていう意味でも面白いじゃないかっていう感じだったんですか?
いや全然。単純にお金ですよ。単純にアルバイトですよ(笑)。
──そうだったんですか(笑)。でも、そんなにもらえるわけでもないですよね?
そうですよ、1回1万円ぐらいですよ!
──安っ!
安いですよね。女優の10分の1ですよ。自販機本の女のモデルのギャラが10万で、僕らが1万ぐらい。ギャラじゃなくて、お車代ってことで1万円とか8000円とか、そんなもんですよ。
──ミチロウさんだからギャラが増額とか、そういうのもないんですね。
ないです。そのときまだ売れてないから。それでザ・スターリンが「STOP JAP」でメジャーデビューしたときに、それまで10冊以上自販機本のモデルやってたんですよ。そしたら普通、自販機本って女優が主人公じゃないですか。じゃなくて僕が主人公で、僕が何人も女を犯しまくるっていうストーリーの、それまでのヤツのオムニバスが出たんですよ。
──勝手に編集して。
編集し直した自販機本が勝手に出たんですよ。アリス出版っていったかな? 頭にきて文句言ったら、ちゃんとその分ギャラくれましたけど。
──ダハハハハ! それもたいした額じゃないですよね。
でも、そのときは女優並みの額でした。
──そうか、女優扱い(笑)。当時はみんなそうだったんですかね。町田町蔵さんが当時、裏ビデオに出たりしたのも、単純にお金になるんだったらっていう。
ああ、出てましたね。そんなもんですよ、多分。女優の10分の1っていうのはお決まりだけど。
「抱かれたい男」に選ばれたけど
──でも、そういうのがミチロウさんのキャラになってた部分もありますよね。アラーキー撮影のビデオで、ライブのあとに本番セックスをヤッてたりとか。
ああ、でもあれはアラーキーが撮るっていうんで出たんですよ。あの頃って、いわゆるアダルトビデオっていうのがまだ確立してなかったんですよね。その前にアラーキーがビデオマガジンを出すっていうんで、それで呼ばれて本番ヤる、みたいな感じで。
──アラーキーならっていう気持ちはわかりますけど、そこで本番にゴーサイン出せるミュージシャンはなかなかいないと思うんですよ。
そうですよね。やっぱりアラーキーだったからっていうのはあると思いますよ。ただのエロビデオに出てくれって言われたら、やってないと思うんですよね。一応、あの人は芸術と言ってましたから。
──女優と同じで芸術のためなら脱ぐ、と(笑)。ミチロウさんっていわゆるエロ仕事やってるのに、本人からエロの匂いがしないってずっと思ってて。
ああ、そうですよね。でも当時、セックスしたい男の1番か2番になってたんですよ、「宝島」の。
──ああ、「抱かれたい男」に選ばれてましたね!
あと嫌いなミュージシャンの2位とかになってましたね。1位がさだまさしで。
──抱かれたい男になってて、その手応えはあったんですか?
いやあ、ないですよ。わかんないですけどね、手を出せばあったのかもしれないですけど。
──手を出してたイメージがないんですよ。晋太郎さんとかは出してたかもしれないけど。
いや、晋太郎も出してないんじゃない?
──そうなんですか!
晋太郎はちゃんとつき合ってた子がいたから、多分出してないですよ。ほかのメンバーのこと知らないんですよ。意外と誰か出してたのかもしれないですけど。
──ツアーに行って、みんなで打ち上げやって、みたいな感じとは全然違ったんですか?
僕、お酒は飲まないから。僕以外のメンバーは結構酒乱気味にワーッと飲んで騒ぐんだけど、でも打上げのあともみんなで騒いでたっていう印象がないんですよね。僕はあんまり遅くまでみんなと一緒につき合ってなかったから、メンバーがバカ騒ぎして、事件じゃないけどなんか起こしたとかっていうのは、あとで聞くタイプですよ。なんか打ち上げは好きじゃなかったから。タムもお酒は飲まないし。タムは絵に描いたような真面目な男ですから。
──タムさんの加入は大きかったですよね。それで音楽的にもハードコア色が出てきて。
そうですね。チフスと知り合いだったんで。それで金子が辞めて、誰かっていうことでタムが入って。「STOP JAP」とか「負け犬」とか、ああいうハードコア的な曲っていうのは、タムが入ってからですよね。金子にはそういう感じはあんまりなかったんですよ。どっちかっていうとRAMONESなんで。
──ハードパンク路線から、だんだんハードコアっぽくなって。
そうですね。多分チフスが日本のハードコアバンドの始まりじゃないですか? まだあの頃、ハードコアって言い方はなかったんですよ。あのハードコアっぽいサウンドって当時ほかになかったので、それは結構惹かれてましたよね。特に「虫」を作るときには、ああいう感じにいこうって。そのときはG.B.H.とかDISCHARGEとか、そういうの聴き出した頃だったんで、こういう感じにしようって意図的に作りました。
──ミチロウさん自身もハードコアを聴いてはいたんですね。
結構聴きましたよ、ハードコア。やっぱり一番好きだったのはDISCHARGEで。G.B.H.のほうがポップなんですけど、でもやっぱりなんか混沌とした鉛のような感覚はDISCHARGEにあったんですよね。
DISC 1(第一部)収録曲
- 虫
- 廃魚
- M-16(マイナー・シックスティーン)
- T-Legs
- アクマデ憐レム歌
- 溺愛
- おまえの犬になる
- バイ・バイ・ニーチェ
DISC 2(第ニ部)収録曲
- オープニング・アナウンス
- 猟奇ハンター
- 渚の天婦羅ロック
- バキューム
- ハロー・アイ・ラブ・ユーに捧ぐ
- ワイルドで行こう(Born To Be Wild)
- 天プラ
- 電動コケシ
- アザラシ
- NO FUN
- アーチスト / マリアンヌ
- お母さんいい加減-先天性労働者
- ロマンチスト
- 下水道のペテン師
- STOP GIRL
- 爆裂(バースト)ヘッド
- 豚に真珠
- GASS
- 仰げば尊し
- 解剖室
- ワルシャワの幻想
- Fish Inn
DISC 1「MINUS ONE」収録曲
- LOVE TERRORIST
- 24時間愛のファシズム
- KOREA
- -1(マイナス・ワン)
- Relo Relo
- New York PARANOIA
- ウルトラ・SEX・MAN
- Sha.La.La.
- 羊飼いのうた(LIVE)
- タイフーン・レディ・フラッシュ(LIVE)
- キリの中(LIVE)
- ウルトラ・SEX・MAN
- 24時間愛のファシズム
DISC 2「DEBUT!」収録曲
- 愛してやるさ!
- 猟奇ハンター(LIVE)
- 冷蔵庫(LIVE)
- 天上ペニス(LIVE)
- STOP GIRL(LIVE)
- 爆裂(バースト)ヘッド(LIVE)
- 先天性労働者(LIVE)
- メシ喰わせろ!(LIVE)
- 渚の天婦羅ロック(LIVE)
- バキューム(LIVE)
- 解剖室(LIVE)
- 仰げば尊し(LIVE)
- 20st Century Boy(LIVE)
- 虫(LIVE)
- バイ・バイ“ニーチェ”(LIVE)
- GASS(ORIGINAL VERSION)
遠藤ミチロウ(えんどうみちろう)
日本のロックシーンに衝撃を与えた伝説のパンクバンド、ザ・スターリンの中心人物として1982年にアルバム「STOP JAP」でメジャーデビュー。その強烈な存在感とカリスマ性で圧倒的な支持を集め、一世を風靡する。1985年にバンドを解散してからは、ソロアーティストとしてのキャリアをスタート。また、パラノイア・スター、ビデオ・スターリン、スターリン、COMMENT ALLEZ-VOUS?など、さまざまなバンドでも活躍する。ソロ名義では年間100本以上におよぶライブを開催するなど、その活動スタイルはアグレッシブ。また、若手アーティストとの交流も多く、グループ魂、大槻ケンヂらとも共演している。近年はソロのほか、石塚俊明(頭脳警察)と坂本弘道とのNOTALIN'S、中村達也(LOSALIOS)とのTOUCH-ME、クハラカズユキ(The Birthday)&山本久土とのM.J.Qなど、ライブを中心に積極的な活動を続けている。