ナタリー PowerPush - ザ・スターリン
吐き気がするほどロマンチックなパンクレジェンド30年史
独自の音楽性は狙ってなかった
──ホント、その時代のザ・スターリンを生で観れなかったのはもったいないことしたなと思ってて。僕、年齢的にギリギリ間に合ったのがビデオ・スターリンだったんですよ。
ああ、じゃあ無理ですよね。だってザ・スターリンでそんなことやってたのってメジャーデビューする前までですからね。1981年までで、1982年からはやってないですから。
──僕、小学生だから無理でした。その幻想を追っかけてきちゃったせいで、バンドもお客さんも手探りでおかしなことをやるようになったじゃないですか。ビデオ・スターリンでも、お客さんがみんなステージにツバ飛ばしててビックリしました。
ああ、ザ・スターリンが最初に全国ツアーとかやり出したんで、ザ・スターリンみたいなことをするのがパンクバンドだっていうイメージが残っちゃったみたいで。ほかのバンドがツアーに行ったときも客の対応はザ・スターリンと同じだったらしいんですよ。「おまえらのせいで大変な目に遭った」ってよく言われて。ものぶつけたり、壊し始めたりとか。
──パンクはそういうものだっていう解釈で(笑)。
そう、ツバ飛ばして、みたいな。それが地方には定着しちゃってて、あとから行ったバンドがすごい迷惑したって言われて。
──そういうのもあって、ザ・スターリンは一時期嫌われるような流れになったんですかね。ただ、音楽的にも歌詞から何からすべて含めて特異なグループだと思いますよ。
音楽性はどうなんですかね? 「STOP JAP」が最初に出たときに、「わりと当たり前だ」って書かれたんですよ。
──「音は普通のパンクだ」みたいな。
そんなに特別音楽性で独自の世界を狙ってはいなかったです。「SEX PISTOLSっぽいの入れようか?」とか。
──え、そうなんですか!
うん、「これはちょっと○○っぽくしよう」とか、そういう感じで。そこまで独自の音楽性は狙ってなかったと思います。
──でも、あの時期にああいうハードパンクの音をカッチリ作ってるバンドはなかったじゃないですか。
なかったですよね。東京ロッカーズが終わった辺りでパンクムーブメントってちょっと下火になって、世の中テクノブームになってたんですね。だからニューウェイブ / テクノ系のP-MODELとか、どっちかっていったらそっちがメインで、ゴリゴリのパンクやるバンドが意外と少なくなってたんですよ。
俺たちが日本のピストルズになってやる
──東京ロッカーズ自体がニューヨークパンクの流れでしたよね。
そう、あんまりロンドンパンクっぽくないですよね。どっちかっていったら関西のほうがロンドンパンクっぽい感じはあったんですけど。
──それ系なのはBOLSHIEぐらいでしたよね。だから、あの時代にパンクをやるのは画期的だったと思ってて。
あのとき、まだ日本にSEX PISTOLSいないんじゃないかっていうのがあって。だから俺たちが日本のピストルズになってやる、みたいなノリでしたね。なのであえて意識してピストルズっぽい曲をやってみたりとか。
──正直、曲を聴いててピストルズっぽいと思ったことは1回もないんですよ(笑)。
「MONEY」なんかわりと……。
──ああ、なるほど。ギターのスティーブ・ジョーンズ感は多少ありますね。
そう、あれはかなりピストルズっぽく作ったつもりで。
──でも違いますよ、やっぱり。
全然違う(笑)。でも、わりと幅広かったですよね。だからTHE CONTORTIONSからSEX PISTOLSまで、みたいな。自分自身はニューヨークパンクの影響が強かったんで。
──「豚に真珠」にはRAMONES感がありますけど、ミチロウさんは当時はまだ聴いたことなかったって言ってましたよね。
あれはギターのヤツ(金子あつし)がRAMONES好きで。僕はRAMONES全然興味なかったんで、わかんなかったんですよ。あとで「あれ『電撃バップ』そっくりだね」って言われて、「……え、それってどういう曲?」みたいな。僕が知らなかっただけで、本人は「もろパクリだ」って言ってました。
──なるほど! そういえばWikipediaのミチロウさんのページに「スターリン時代のポップなパンクロックとハードコアの要素を交えた音楽性、暴力的でセンセーショナルなパフォーマンスはTHE GERMSの影響を受けている」とか書いてあって、そんなの初耳だから驚いたんですけど。
ジャームズ?
──その影響はないですよね(笑)。
ないですね(あっさりと)。誰が書いたのかわかんないですけど、音楽的には結構金子の意思が強く入ってるんですよね。だからWikipediaは、多分金子が書いてるんじゃないかと思って(笑)。
──つまり、ミチロウさんは知らなくても、金子さんは当時THE GERMSとか聴いてた可能性はあるっていうことですね。
多分そうですね。金子は「スターリニズム」までやってたのかな? 僕はどっちかっていったらパティ・スミスとかニューヨークパンクが好きで、ロンドンパンクはそんなに聴いてなかったんですね。RAMONESもそんなに好きって感じでもなくて。77年ぐらいにRAMONES聴いてるんですけど、そのときパンクって意識なくて。JAPANとかと一緒にバイト先で聴いて、なんだこれは、みたいな感じで。
──みんな長髪ですからね。
そうそうそう。だから、あんまりパンクっていうイメージで聴いてなかったですよね。
DISC 1(第一部)収録曲
- 虫
- 廃魚
- M-16(マイナー・シックスティーン)
- T-Legs
- アクマデ憐レム歌
- 溺愛
- おまえの犬になる
- バイ・バイ・ニーチェ
DISC 2(第ニ部)収録曲
- オープニング・アナウンス
- 猟奇ハンター
- 渚の天婦羅ロック
- バキューム
- ハロー・アイ・ラブ・ユーに捧ぐ
- ワイルドで行こう(Born To Be Wild)
- 天プラ
- 電動コケシ
- アザラシ
- NO FUN
- アーチスト / マリアンヌ
- お母さんいい加減-先天性労働者
- ロマンチスト
- 下水道のペテン師
- STOP GIRL
- 爆裂(バースト)ヘッド
- 豚に真珠
- GASS
- 仰げば尊し
- 解剖室
- ワルシャワの幻想
- Fish Inn
DISC 1「MINUS ONE」収録曲
- LOVE TERRORIST
- 24時間愛のファシズム
- KOREA
- -1(マイナス・ワン)
- Relo Relo
- New York PARANOIA
- ウルトラ・SEX・MAN
- Sha.La.La.
- 羊飼いのうた(LIVE)
- タイフーン・レディ・フラッシュ(LIVE)
- キリの中(LIVE)
- ウルトラ・SEX・MAN
- 24時間愛のファシズム
DISC 2「DEBUT!」収録曲
- 愛してやるさ!
- 猟奇ハンター(LIVE)
- 冷蔵庫(LIVE)
- 天上ペニス(LIVE)
- STOP GIRL(LIVE)
- 爆裂(バースト)ヘッド(LIVE)
- 先天性労働者(LIVE)
- メシ喰わせろ!(LIVE)
- 渚の天婦羅ロック(LIVE)
- バキューム(LIVE)
- 解剖室(LIVE)
- 仰げば尊し(LIVE)
- 20st Century Boy(LIVE)
- 虫(LIVE)
- バイ・バイ“ニーチェ”(LIVE)
- GASS(ORIGINAL VERSION)
遠藤ミチロウ(えんどうみちろう)
日本のロックシーンに衝撃を与えた伝説のパンクバンド、ザ・スターリンの中心人物として1982年にアルバム「STOP JAP」でメジャーデビュー。その強烈な存在感とカリスマ性で圧倒的な支持を集め、一世を風靡する。1985年にバンドを解散してからは、ソロアーティストとしてのキャリアをスタート。また、パラノイア・スター、ビデオ・スターリン、スターリン、COMMENT ALLEZ-VOUS?など、さまざまなバンドでも活躍する。ソロ名義では年間100本以上におよぶライブを開催するなど、その活動スタイルはアグレッシブ。また、若手アーティストとの交流も多く、グループ魂、大槻ケンヂらとも共演している。近年はソロのほか、石塚俊明(頭脳警察)と坂本弘道とのNOTALIN'S、中村達也(LOSALIOS)とのTOUCH-ME、クハラカズユキ(The Birthday)&山本久土とのM.J.Qなど、ライブを中心に積極的な活動を続けている。