ナタリー PowerPush - Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

小林幸子&後輩アーティストの“シモキタ”音楽談義

小林幸子×七尾旅人 歌い手対談

今年の「Shimokitazawa SOUND CRUISING」では目玉の1つとして、七尾旅人の企画ライブ「百人組手」の第4弾が、国登録有形文化財の富士見丘教会にて行われる。「百人組手」は七尾が全出演者と立て続けに即興対決を行う企画で、今回のイベントでは約6時間にわたってさまざまな顔ぶれとのセッションが繰り広げられる。

その「百人組手」の出演ラインナップの中でも、今回ひときわ話題をさらったのが小林幸子だ。国民的演歌歌手である彼女との異色のセッションがどのようにして企画されたのか、ナタリーではその経緯を聞くべく2人の対談を行った。彼らはこれが初対面だったが、トークが始まるや否や意気投合。お互いの“歌い手”としての矜持や、これからの“歌”についての見解など、熱い名言が飛び交う意義深い対談となった。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 上山陽介

50年歌い続けるということ

七尾旅人 幸子さんはデビューが10歳ですもんね。50年やってるのか。すごいなあ。

左から七尾旅人、小林幸子。

小林幸子 そうですね。でもデビュー当時は50年歌おうとも、歌えるとも思ってなかったし、50年後の自分を想像できていなかった。10歳だったしねえ。気が付くと50年歌ってたっていうのが現実かな。

──旅人さんは50年先も歌い続けることを考えてますか?

七尾 うん、考えてる考えてる。生きてるうちは必ず歌うから、あとは何年生きられるかって話ですよね。長生きできればずっと歌いたい。もし80代まで生きれたら80代の歌を歌いたいですし。

小林 そうねえ。

七尾 10代の頃に書いてたような曲って、今同じように書きたいとも思わないけど、書けなくもなってくるんですよ。歳を取るとちょっとずつ成熟していくんで。逆に詞も曲も、その年齢でしか歌えない境地ってのが絶対にあるはず。だからもし長く生きられたら、そのときまで歌いたいと思ってます。

小林 今の自分の生き様を出すというのは楽しいでしょうね。シンガーソングライターっていいなって思いますね。

七尾 でも実際に10歳から50年歌われてきた幸子さんを前にすると、背筋伸びますね(笑)。自分も覚悟が入るというか。

小林 私はやめなかったから気が付いたら50年経ってた。それだけの話だと思います(笑)。だからこれからもどうなるのかはわかんないです。どんなに「やっていくぞ!」って思っていても、それは自分の気持ちだけでは決められないこともある。体調や年齢のことを考えると、今まで50年も歌ってこれたのはホントに儲けもんだなって思ってますし。同じぐらいの年代の歌い手さんで歌えなくなった人を目の当りにしてると、前よりそう考えることはありますね。でも、やっぱり歌い続けていきたいな。

七尾 声が出なくなってる?

小林 私はまだそんなに感じないけど、若い頃とは声質も変わってきてると思います。人間に寿命があるのと同じように、やっぱり声にも寿命があるんだと思います。練習で若さをずーっと維持できる人もいる。でもダメな人もいるんですよ。自分はそれに対して、流れに身を任せたいって気持ちもありつつ、できる限り自分の生き方を全うしていきたいっていう思いもありますね。

歌手ではなく歌い手、アーティストではなく芸人

七尾 幸子さんが台湾に行くと媽祖(マーズ)っていう現地の観音に例えられるっていう話を聞いて。僕も実際ちょっと、幸子さんのことを観音っぽいなと思ってたんですよね。

左から七尾旅人、小林幸子。

小林 観音っぽいってどういうこと(笑)。媽祖っていうのは台湾ではとても有名な女神様で、私が「紅白歌合戦」でしていた格好が偶然そっくりだったんですよ。台湾の方々は紅白を観てるから、年が明けて台湾にコンサートで行ったらみんなから「媽祖!」って拝まれて。どういう意味だろうと思いつつ媽祖にお参りに行ったら「うわー、ほんとだ」って(笑)。まあ「観音っぽい」のもいいんですけど。最近はニコ動で「ラスボス」とも呼ばれてますからね(笑)。

七尾 ラスボス、わかる(笑)。やっぱり幸子さんは若い子からの愛され度がハンパないんですよ。それって同年代の演歌歌手の方にはないことだと思います。10代の子でも「ラスボスだ!」って言えちゃう、そういう懐の深さがある。

小林 そう言われて喜んでる私もおかしいよねえ。でも、面白いじゃない(笑)。

七尾 若者にとってラスボスって、達成感の象徴なんだよね。1カ月ぐらいがんばってゲームをやって、最後にやっと出てくる存在だから(笑)。僕も子供の頃、幸子さんがすごい衣装でテレビに出てるのを観て圧倒されちゃって。

小林 でも笑ってたでしょ?

七尾 うん。笑ってた(笑)。

小林 笑ってていいのよ。バカにしようが何をしようが、笑ったっていうことは印象に残ったっていうこと。面白がってくれるのすごくうれしいし。

七尾 なるほど。実は最近その幸子さんならではのスタンスについて、レコードを拝聴していたら、だんだん気付くことができて。幸子さんが書いた歌詞を見たり歌を聴いてると、とことん人を笑わせたり楽しませたいんだなっていうのがすごくわかってきたんですよね。根っからの性格なのか、人を驚かせたり、元気付けたい気持ちが異常に高いんだろうなと思いました。ちょっと失礼な言い方かもしれないけど、芸人根性を感じるんですよ。メラメラとした意地のような。

小林 それ、ゆき姐(兵藤ゆき)にも言われたの。「さっちゃんってさ、昭和最後の芸人根性だよね。今どきそんなサービス精神の人いない」って(笑)。歌手とかアーティストって言葉があるでしょ。私ね、自分のことを歌手ってあんまり言わないんです。「歌い手」って言うの。まあ確かに歌手なんだけど、私の中では「歌を歌わせてもらう職人」なんです。

七尾 ああ、「歌い手」って美しい言葉で好きだな。俺もアーティストって呼ばれると恥ずかしさとか違和感があるので「歌の芸人です」って言ったりしています。アートをやってる意識があんまりないので。

小林 私もそう(笑)。

七尾旅人

七尾 坂田明さん、鈴木勲さん、近藤等則さんとか、ジャズをやってる大先輩の方々と即興演奏させていただいたときにも思ったんですけど、まぎれもないアーティスト、芸術家であると同時にやっぱり芸人根性がすごい人たちで。鈴木勲さんは80歳になられるんですけど、若い皆から「オマさん! オマさん!」って慕われていて。僕が帰り際にお辞儀して「おつかれさまでした!」なんて言うと、「ちょっとそういうのやめてよ! こっちは3歳上ぐらいの感覚なんだからさ!」って照れちゃって、「また遊ぼうぜ!」って言って帰っていく。ステージでもエンタテイナーだけど、楽しませようっていう思いが楽屋にまで続いてるんですよ。

小林 ミュージシャンだと特に、楽屋が楽しい人は全部が楽しいですよ。それは私すごく思うんだ。

七尾 歌にしろなんにしろ、結局は人間性だと思ってて。なので、今日初めて幸子さんにお会いしましたけど、歌のまんまの人だったから、僕はうれしかった(笑)。

小林 あははは(照笑)。私もうれしいな。

七尾 テレビでの姿はハリボテじゃないんだなと思いましたね。たぶん素っ裸でうろうろしてても、あの衣装が見えちゃうんだろうな。

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小林幸子×つしまみれ×寺嶋由芙 シモキタ女子座談会

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

InterFM presents Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

2014年5月31日(土)

東京都 下北沢GARDEN / 下北沢ERA / 下北沢BASEMENT BAR / 下北沢ReG / 下北沢ReG Cafe /下北沢MOSAiC / 下北沢THREE / 下北沢Daisy Bar / LAGUNA / 風知空知 / 富士見丘教会 / altoto / MORE

小林幸子(コバヤシサチコ)

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

1953年生まれの女性ボーカリスト。1963年、9歳で作曲家古賀政男に師事し、1964年シングル「ウソツキ鴎」でデビュー。同曲が20万枚の大ヒットを記録する。1979年1月リリースの「おもいで酒」が200万枚を超えるセールスを記録し、同年末「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。以来「もしかして」「雪椿」「越後情話」などヒット曲の数々を引っさげ、現在までに同番組に33回出演し、1980年代末頃からはステージ演出にも注力。NHKホールのステージをフル活用した舞台装置と衣装が年末の風物詩のひとつと目されるようになる。他方、コメディやバラエティ番組、テレビドラマなどにも出演。また映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」に主題歌を提供するほか声優として登場するなど、その多岐にわたる活動を通じて幅広い年齢層の人気を獲得する。さらに2012年、ニコニコ生放送「小林幸子降臨!『茨の木』夢は捨てずに生放送」「ニコニコ大忘年会2012 in nicofarre」に登場。2013年には歌ってみた動画「ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた」を投稿し、イベント「ニコニコ町会議 in 名古屋」「ニコニコ年越し!小林幸子カウントダウンLIVE ~オープニングアクト:ダイオウグソクムシ~」に出演するなど、ニコニコ動画を積極的に活用。ネットユーザーの多大な人気を集めている。

七尾旅人(ナナオタビト)

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

1979年生まれのシンガーソングライター。1998年のデビュー以来、ファンタジックでメッセージ性の強い歌詞とオリジナリティあふれるメロディで幅広い音楽ファンを魅了している。2007年9月11日には3枚組のミュージカルアルバム「911FANTASIA」をリリース。ライブ活動も精力的に行っており、ライフワークと銘打った弾き語り独演会「歌の事故」や、全共演者との即興対決を行う「百人組手」といった自主企画を不定期に開催。各地のフェスやイベント、Ustream中継などで伝説的なステージを生み出し続ける。2009年に発表された七尾旅人×やけのはらのシングル「Rollin' Rollin'」はパーティシーンを中心にアンセム化し、同曲を収録したアルバム「billion voices」もヒットを記録。2010年からはダウンロード販売システム「DIY STARS」を提案し、自らの新曲を直販する試みに挑んだ。さらにそのDIY STARSを使って、東日本大震災発生直後の2011年3月17日より義援金募集プロジェクト「DIY HEARTS」も設立。2012年にはアルバム「リトルメロディ」をリリースした。2013年からはビートボクサーの櫻井響、聖歌隊のCANTUS、そして子犬や小鳥などを擁する、声だけで新しい音楽を追求するバンド「VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE!」も始動。2014年にはシングル「TELE〇POTION」が映画「ニシノユキヒコの恋と冒険」の主題歌となった。