ナタリー PowerPush - Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

小林幸子&後輩アーティストの“シモキタ”音楽談義

幸子さんのもとにたどり着くため、石段を積んで階段を組む

──旅人さんは今回「Shimokitazawa SOUND CRUISING」で、6時間の持ち時間の中でイベント内イベントとして「百人組手」をやるということで。小林さんとのセッションはその一環なんですよね。

七尾旅人

七尾 最初は「出演いただけませんか?」って、あくまでオファーを受けた者でしかなかったんだけど、だんだん僕が主催みたいな雰囲気になってきてて(笑)。僕がずっとやってる「百人組手」っていうイベントがありまして、1日の中であらゆるジャンルを越境して、いろんな人とセッションをするっていう荒行的なイベントなんですけども……。

──組手を続けてるうちにラスボスにたどり着いたっていう。

小林 あはははは(笑)。うまいなあ。

七尾 もうリングに骨をうずめる覚悟で究極の敵に挑みます(笑)。ほかの出演ミュージシャンも全部僕のほうで決めさせていただいたんですけど、CANTUSっていう聖歌隊とか、Likkle Maiさんっていう僕が日本のレゲエ歌手で一番好きな人とか、幸子さんに出てもらう舞台として自分が一番信頼してるミュージシャンを集めたいなと思ってて。

小林 いいなー。じゃあ楽しみにしてる。

七尾 あと佐々木中さんっていう思想家の方。彼の詩吟も強く歌の気配を感じるもので、素晴らしいんですよ。坂口光央くんていう凄腕の鍵盤奏者と3人で、即興演奏しようと思っています。

──イベントの中のプログラムの1つという感じがしないほど、濃厚でボリュームたっぷりの内容になりそうですね。

七尾 うん。濃密な1個1個がヘビー級みたいなものを並べていかないと、幸子さんまでたどり着けないと思って。幸子さんのところに行くための階段作りをするんですよ。石段を積んで積んで、階段を組み立てて頂上の媽祖像にたどり着くっていうイメージ(笑)。

小林 私も詩とか語ってみたいなあ。

七尾 詞があればメロディ付けますよ。

小林 えー! ほんとに? なんか素敵!

七尾 メロディを繰り出すのだけは得意なんで。

「これまで生きてきた中で、一番好きな歌ってなんですか?」

七尾 ちょっと違う話になっちゃいますけど、幸子さんがこれまで生きてきた中で、一番好きな歌ってなんですか? 自分の歌でも他人の歌でもいいです。

小林 すっごい難しいね。どれが一番っていうんじゃなくて、全部一番だったりするから(笑)。

七尾 さすがにそうですよね。もう50年も歌ってきて、歌への思い入れは誰より強いわけだし。僕のおじいちゃんとおばあちゃんは90近いんですけど、数年前おじいちゃんに「今まで86年ぐらい生きて、どの歌一番好きやった?」って聞いたら、「うーん……」って迷ったあとで「『赤とんぼ』かのう」って言って。で、別の部屋にいたおばあちゃんにおんなじこと聞いたら「うーん。『赤とんぼ』!」って言ったんですよ。

小林 へえー!

七尾 60年くらい連れ添った2人が同じ歌を選んだのがなんか素敵だなあって思っちゃって。それ以来、僕もライブでときどき「赤とんぼ」を歌うようになったんです。おばあちゃん寝たきりなんだけど、地元の高知にライブをしに行くと、「赤とんぼ」のときに車いすからちょっと立ち上がるからね。「えー! 寝たきりじゃないの!?」って(笑)。

小林幸子

小林 いい話だー(笑)。おじいちゃまやおばあちゃまの時代の人にとって、いわゆる唱歌っていうのは、やっぱり痛烈な印象があるでしょうね。

七尾 さっき幸子さん、「みんなで歌える歌がなくなった」とおっしゃってたけど、時代が進むにつれてそうなってますよね。たぶん昭和の大ヒット歌謡よりも、大正の唱歌はさらにアンセム度が高い。

小林 そうそうそう。

七尾 ホントにみんなが知っている歌。そしてその歌に魂を仮託してるっていうか、その時代を呼吸する全員の、魂の乗り物のようにして歌われていた曲があったんだと思うんですよね。

小林 世界中で一番歌われてる歌はご存知ですか?

七尾 あー、わかんないです。なんだろう。「Happy Birthday to You」?

小林 そうです!

七尾 あっ、そうなんだ。

小林 それってとっても素敵なことですよね。

七尾 祝福の歌だもんね。

小林 これはきっと永遠に歌われ続けるんでしょうね。これから先、またこういう歌が出てくるんだろうか。

七尾 うーん……。

小林 もうないかもしれないね。世界中で歌われる歌っていうのはね。

これから生まれる新しい「Happy Birthday to You」

──もしそんなふうに世界中で歌われる歌が作れたら素敵ですけどね。

七尾 僕は、あるかもしれないと思ってますよ。グローバリズムっていい部分と悪い部分はあるけども、例えばネットを通して、誰でも自分の歌を世界中に向けて発信できるようになったから。ごく普通の子供のひと言が、世界中に流通するっていう事態も起きてくると思うんですね。例えば、ちびっ子が即興で歌った「♪マミー、サンキュー」という歌があるとして、それがなんか流行っちゃって、人種や国境を超えて世界中を覆い尽くすこともあると思う。そこから「Happy Birthday to You」に並ぶようなものが生まれてもおかしくない。

小林 あっ、そっか。それはいいね。ありえるし、今の時代だからできる。

七尾旅人

七尾 かつて日本には高度成長とともに一番いい「歌謡」の時代があったんですよね。日本人全員が一丸となって1つの同じ夢を見ている時代。明日はもっと豊かになれる。どんどん戦後の影は薄れていく。希望の世界が訪れる。

小林 昔はみんな、それを信じてがんばったんだもんね。

七尾 でもそれはピークに達して飽和しました。時代は変わり、1つの歌が広く共有されることは少なくなった。日本はこれからどうやってソフトランディングしていくか、致命的な墜落を回避してゆっくりと、新しい種まきをしながら階段を降りていくにはどうしたらいいか。今のしかかってる大きな問題を解決していくのは、徹底的に負債を背負ってしまった若い世代なんですよ。

小林 うん。そうね。

七尾 でもその代わりに、今はネットを介して世界中につながることができるようになったんです。そうすると、「高度成長下での日本の普遍」っていう限定的な話ではなくて、これからは「世界普遍」みたいなものも現れてくるはず。今まで国内で蓄えられた力が、地球規模で生きてくるかもしれないですよ。

小林 そういう話もっとどんどんしようよ! いや、もちろん旅人くんはいつもしてるんだと思うけど(笑)。すごく楽しい!

七尾 今から国民的な歌が生まれてくる国も多いでしょうね。例えばインドとかアフリカとか。韓国なんかは今、ポップカルチャーがどんどん強くなってきてて、日本を凌駕するぐらい歌謡曲のクオリティも上がってますね。その中で日本は、すでにたくさんの蓄積がある、名曲をいっぱい抱えている先行者っていう側面はあるんですよ。

小林 財産いっぱい持ってるんだけど、使うのヘタクソだよね(笑)。なんでだろうね。

七尾 基本的に村社会で、自分のテリトリーにこもろうとする、チャレンジャー的な人が少ない風土ですからね。だから越境しようとすると「変わり者」って言われるじゃない?

小林 ね。別に変わってないのにね。

七尾 芸人っていうのはそういうもんだよと。ボーダーがあると脚を出して越えたくなっちゃう。ついうっかり。

小林 そうそうそう(笑)。やっぱ旅人くんいいね。面白いなあ。この録音、あとでくれない?(笑) ホントにいい話ができちゃったから。

七尾 俺も思い出に取っときたい(笑)。おばあちゃんに聞かせます。「幸子さんとしゃべっちゃったんだけど」って。寝たきりなのにビックリして立ち上がっちゃうかも(笑)。

小林 (レコーダーに向かって)おばあちゃまー、小林幸子です。いつかお会いしたいでーす。

──今日の対談と同様に、当日のセッションもかなり盛り上がりそうですね。

七尾 僕の「百人組手」シリーズの歴史の中でも、特に熱いライブになると思いますので、皆さん楽しみにしていてください。

小林 私も精一杯、小林幸子としてステージをやらせていただきます。皆さん一緒に楽しみましょう!

左から小林幸子、七尾旅人。
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小林幸子×つしまみれ×寺嶋由芙 シモキタ女子座談会

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

InterFM presents Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

2014年5月31日(土)

東京都 下北沢GARDEN / 下北沢ERA / 下北沢BASEMENT BAR / 下北沢ReG / 下北沢ReG Cafe /下北沢MOSAiC / 下北沢THREE / 下北沢Daisy Bar / LAGUNA / 風知空知 / 富士見丘教会 / altoto / MORE

小林幸子(コバヤシサチコ)

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

1953年生まれの女性ボーカリスト。1963年、9歳で作曲家古賀政男に師事し、1964年シングル「ウソツキ鴎」でデビュー。同曲が20万枚の大ヒットを記録する。1979年1月リリースの「おもいで酒」が200万枚を超えるセールスを記録し、同年末「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。以来「もしかして」「雪椿」「越後情話」などヒット曲の数々を引っさげ、現在までに同番組に33回出演し、1980年代末頃からはステージ演出にも注力。NHKホールのステージをフル活用した舞台装置と衣装が年末の風物詩のひとつと目されるようになる。他方、コメディやバラエティ番組、テレビドラマなどにも出演。また映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」に主題歌を提供するほか声優として登場するなど、その多岐にわたる活動を通じて幅広い年齢層の人気を獲得する。さらに2012年、ニコニコ生放送「小林幸子降臨!『茨の木』夢は捨てずに生放送」「ニコニコ大忘年会2012 in nicofarre」に登場。2013年には歌ってみた動画「ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた」を投稿し、イベント「ニコニコ町会議 in 名古屋」「ニコニコ年越し!小林幸子カウントダウンLIVE ~オープニングアクト:ダイオウグソクムシ~」に出演するなど、ニコニコ動画を積極的に活用。ネットユーザーの多大な人気を集めている。

七尾旅人(ナナオタビト)

Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014

1979年生まれのシンガーソングライター。1998年のデビュー以来、ファンタジックでメッセージ性の強い歌詞とオリジナリティあふれるメロディで幅広い音楽ファンを魅了している。2007年9月11日には3枚組のミュージカルアルバム「911FANTASIA」をリリース。ライブ活動も精力的に行っており、ライフワークと銘打った弾き語り独演会「歌の事故」や、全共演者との即興対決を行う「百人組手」といった自主企画を不定期に開催。各地のフェスやイベント、Ustream中継などで伝説的なステージを生み出し続ける。2009年に発表された七尾旅人×やけのはらのシングル「Rollin' Rollin'」はパーティシーンを中心にアンセム化し、同曲を収録したアルバム「billion voices」もヒットを記録。2010年からはダウンロード販売システム「DIY STARS」を提案し、自らの新曲を直販する試みに挑んだ。さらにそのDIY STARSを使って、東日本大震災発生直後の2011年3月17日より義援金募集プロジェクト「DIY HEARTS」も設立。2012年にはアルバム「リトルメロディ」をリリースした。2013年からはビートボクサーの櫻井響、聖歌隊のCANTUS、そして子犬や小鳥などを擁する、声だけで新しい音楽を追求するバンド「VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE!」も始動。2014年にはシングル「TELE〇POTION」が映画「ニシノユキヒコの恋と冒険」の主題歌となった。