SOMETIME'Sが8月25日にメジャー1stアルバム「CIRCLE & CIRCUS」をリリースした。
今年5月発表の前作「Slow Dance EP」から約3カ月という短いスパンでリリースされる今作は、ライブ定番曲「Slow Dance」「シンデレラストーリー」を含む全15曲入り。彼らのボーダレスにしてキャッチーな音楽性、優れたプレイヤビリティが存分に堪能できる1枚に仕上がっている。
音楽ナタリーでは、ソウル、ファンク、R&B、AOR、レゲエなど幅広いジャンルを取り入れ、誰もが楽しめるポップスアルバムに昇華した「CIRCLE & CIRCUS」について、2人にじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 森好弘
まずは音楽をやるべきだろ
──今日の取材場所は渋谷のライブハウス・Shibuya Milkywayですが、ここはSOMETIME'Sのホームグラウンドなんですよね?
TAKKI(G) そうですね。僕らの地元は横浜ですが、SOMETIME'Sを始めたときに、慣れ親しんだ場所ではなくて新しいライブハウスを探そうという話になって。知り合いに紹介してもらったのがMilkywayだったんです。
SOTA(Vo) 初ライブは2017年7月でした。
TAKKI そのときのライブで今の事務所の方に「うちから出さない?」と声をかけてもらったんですよ。
──まさにスタートの場所なんですね。当時からSOMETIME'Sとしてやりたい音楽は見えてたんですか?
TAKKI ザックリですけどね(笑)。まだオリジナル曲も少なかったし、「こんな感じでやっていきたい」くらいだったので。
SOTA 最初のライブは曲が足りなくて、Original Loveの「接吻」をカバーしたりしていました。とはいえ、そのときから「Slow Dance」や「シンデレラストーリー」はやってたんですけどね。
──そうなんですね! どちらも今回のアルバムに収録されてますね。
TAKKI はい。前作の「Slow Dance EP」も、「自主制作の頃の曲なんですけど」と「Slow Dance」をスタッフに聴いてもらったら「めっちゃいいじゃん! 出そうよ」と言ってもらったのがリリースのきっかけで。そう考えると、結成当初からある程度完成度の高い楽曲を作れていたのかも。ただ、自主制作でリリースした頃はまったく数字が伴ってなかったし、反応もよくわからなくて。
SOTA うん。「俺らはいいと思ってるけど、自己満なのかな」みたいな(笑)。
──楽曲のよさを伝えるための戦略についても考えていた?
TAKKI 考えてないことはないですけど、メンバーは俺とSOTAの2人だけだし、予算にも限界があったので。例えば自主制作盤を作るにしても、バンドと比べて負担する金額が大きいんですよ。だから制作以外のプロモーションにお金をかける余裕がなかったというのが正直なところですね。
SOTA そうだね。僕はもともと戦略的なことに疎いので(笑)。
TAKKI ただ、組んだ当初から「ニッチになりすぎるのはよくない」とは考えてました。「おしゃれな感じを突き詰めると需要が少なくなる」というか。あと、戦略的なことに力を入れすぎたり、例えばYouTubeとかに時間を取られるのは違うなと思っていたんです。音楽からかけ離れるのが嫌だったというか……そういう仲間も見てきましたからね。もちろんいろんなことをがんばるのはいいことだけど、まずは音楽をやるべきだろうと。幸運にもサポートしてくれる人たちが見つかって音楽に集中できたのは大きかったし、それがブレずに活動を続けてこられた要因だと思います。
もっと振り切ってもいいよね
──「まずはいい音楽を作る」というのは、すごく真っ当ですよね。1stアルバムもグッドミュージックがたっぷり詰まっていて。15曲入っていますが、これくらいのボリュームだとSOMETIME'Sの広い音楽性が伝わりますね。
TAKKI そうかもしれないですね。これまでEPを2作(2020年10月発表の「TOBARI」、2021年5月発表の「Slow Dance EP」)を出してきて、それぞれにビジョンがあったんですけど、フルアルバムはさらに広げられた感覚があって。楽しくやれました。
SOTA 完成したときは「めちゃくちゃいいな」と思いましたね。でも我を忘れて楽しめる時期はすぐに終わって、最近は自分の歌に対して「もっとやれたんじゃないか」という感じになってますけど(笑)。アルバムとしてはすごくまとまってると思います。
──アルバムの全体像としては、どんなものを想定していたんですか?
TAKKI 全体的なことよりも、「とにかく曲を録っていこう」という感じだったんです。「次はこれ、その次はこれ」という感じで制作して、ある程度曲が貯まったところで「既発曲も入れたらどう?」という提案をもらって。結果、うまくパッケージできたと思います。
──これまでの軌跡もわかるし、最新のモードも反映されているというか。
TAKKI そうですね。新曲に関してもアレンジや雰囲気に頼らず、しっかりいい曲を作っていこうと。
SOTA もともとあったデモを形にした曲もけっこうありますね。アルバムの制作に入ってから新たに作ったのは4曲くらいかな。シングルやEPの収録曲ともバランスを取りながら……いや、今思うとそこまで考えてなかったですね(笑)。
TAKKI かなり行き当たりばったりです(笑)。
──(笑)。とはいえ、すごくバラエティに富んでますよね。ファンキーで踊れる曲もあれば、じっくり歌を聴かせるバラード、かなり本格的なレゲエもあって。2人の音楽ラバーぶりが感じられます。
TAKKI ありがとうございます。確かに振り幅は広いですよね。EPのときはある程度絞ったりしてたんですけど、アルバムの場合は「もっと振り切ってもいいよね」という感じがあって。1曲1曲やりたいことがあったし、そこに向かってフルスイングしたというか。あとサポートミュージシャンの力も大きいです。僕らはバンドではないから、ベース、ドラム、キーボードなどは基本的にサポートしてもらっていて。スタジオワークに長けたミュージシャンばかりだし、聴いてる音楽の絶対量も違うから、いろんなジャンルの引き出しを持ってるんですよ。
──往年のポップスの作り方に近いのかもしれませんね。サウンドメイクも王道というか、かなり生っぽい印象を受けました。
SOTA サウンドに関しては、TAKKI、アレンジャーの藤田(道哉)、ミックスエンジニアの方にそれぞれこだわりがあって、その中で作り上げていて。僕はそこまで音のビジョンがないんですよ(笑)。歌のニュアンスやコーラスの積み方で表現できたらいいと思っているし、バックの音は基本、お任せです。
TAKKI 僕もだいたいギターのことしか考えてないですけどね(笑)。トータルのサウンドメイクは藤田が中心なんですけど、今回のアルバムは確かに生っぽいかもしれないですね。EP2作はモダンな音作りにすることが多かったんですけど、アルバムでは曲ごとに「80年代のテイスト」「90年代っぽく」という感じでしっかり寄せていて。リバイバル感があるかも。
SOTA そうだね。加工したドラムの音も、もともとは生で叩いてたりするので。
ビビらず、背伸びしたアルバム
──「CIRCLE & CIRCUS」というタイトルについては?
TAKKI 僕らはタイトルを決めるのが本当に苦手で、今回もギリギリのタイミングで「どうするの?」と周りに急かされてから、お互いに意見を出し合ったんです。
SOTA 「何かある?」「ないない」「どうする?」みたいな(笑)。
TAKKI 僕らの中で2、3個考えて、スタッフを含めて多数決で「CIRCLE & CIRCUS」になりました。メジャー1stアルバムは自分たちにとって重要なスタート地点だと思うし、しっかりした意味が欲しいというところもあって……。まず“CIRCLE”は“縁”と捉えてるんです。2人でSOMETIME'Sを始めて、いろいろな人の縁に恵まれて成り立ってきたというか。ここまで音楽に集中できてるのも、スタッフやミュージシャンとの縁があるからだなと。
SOTA それは僕もめちゃくちゃ感じてますね。ここのライブハウスも然り。僕らの自主制作盤をIRORI Records(SOMETIME'Sが所属するレーベル)のヘッドに渡してくれたのも、Milkywayのスタッフなので。
──なるほど。では“CIRCUS”は?
TAKKI さっきも話に出てましたけど、バリエーションに富んでるということですね。そこは狙っている部分でもあるし、大事にしてるところでもあるので。サーカスを観るような感覚でアルバム1枚楽しんでもらえたらなと。
──「こんな技、見たことない!」という驚きを感じてほしい、という気持ちもあるんでしょうか?
TAKKI それは自分の口からは言えないです(笑)。「すごい技でしょ?」みたいな実力はまだないと思ってるので。
SOTA 今やれることはやりましたけどね、もちろん。レコーディングから1年くらい経ってる曲もあるんですけど、ひさびさにスタジオで歌ってみると「あれ? けっこう難しいな」とか(笑)。ライブが大変そうです。
TAKKI 確かに、ライブの準備が始まったときに「めっちゃムズいな」ってことは多いですね。プレイヤーとしてチャレンジできるのはレコーディングだけなんですよ。制作の段階で置きにいくのは違うと思うし、100回やって10回しか成功しないフレーズにもトライできるので。
SOTA そうだね。ビビらず、背伸びしたアルバムということですね。
TAKKI いいね、それ。ただ、ライブのときは100回やったら99回成功させなくちゃいけないので。アルバムのリリース後は、自分がやったことをコピーして練習したいと思います(笑)。
──当たり前ですけど、演奏の技術は大事ですよね。
TAKKI そうですよね。昔は「熱量が大事。ライブは気持ちだろう!」と思っていたんですけど、今はそれだけが正義じゃないと気付いて。もちろん気持ちも大事なんだけど。
SOTA うん。この前、2人で若いバンドのライブを観に行ったんですけど、「うちのバンド、うまいな」と思っちゃって(笑)。
TAKKI 比べるものでもないんですけどね。サポートしてくれてるミュージシャンは気の合う仲間でもあるし、仲よくなると「すげえやつだ」ということを忘れてることがあって。今のサポートミュージシャンと一緒にやれてるのは本当にありがたいです。
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やっぱり曲のクオリティが一番