ナタリー PowerPush - SMELLMAN
武器はメンバー5人の声だけ! アカペラ×ロックの最新型
アカペラというジャンルに対するイメージを根底からひっくり返す痛快な5人組、SMELLMAN。彼らが使うのはあくまでも声だけ。にもかかわらず、エフェクターを駆使した変幻自在の声色で表現されるロックサウンドには、どんなバンドにも負けない圧倒的なグルーヴが存在しているし、何よりも今までに体感したことがない新たな音楽の可能性がめいっぱい広がっている。
思考錯誤の末にたどりついたというバンドとしてのアイデンティティを注ぎ込んだ1stフルアルバム「SMELLMAN」には、ヒップホップやメタル、オペラ、ドゥワップなど、さまざまな音楽ジャンルを昇華した全15曲を収録。「アカペラを一過性の見世物として終わらせたくなかった」と語る彼らが生み出したアカペラの最新型。そうとうヤバイ。
取材・文/もりひでゆき インタビュー撮影/大山卓也
チン☆パラ解散、でもまだ何か面白いことがやれると思った
──まずは、現在のスタイルにどうやってたどりついたか訊かせていただきたいのですが。
ハヤシヨシノリ(Voice Percussion) 僕とベース(ナカシマダイゴ)とコーラス(キムラマナブ)が大学の同じアカペラサークルで「チン☆パラ」というグループを結成したのが、そもそもの始まりですね。僕らはもともとアカペラをやりたかったわけではなかったし、アカペラというものをちょっと斜に構えて見ていたところがあったんですけど、手法としての面白さに注目してて。「何か面白いことができそうだ」みたいに考えてたんです。
──そのチン☆パラは2001年ごろに巻き起こったアカペラブームを牽引し、2002年にはメジャーデビューも果たしましたね。
ハヤシ はい。で、2004年にチン☆パラが解散した段階で、まだ何か面白いことがやれそうだって思ったメンバーが残ってSMELLMANを結成したんです。
──声を使った表現にまだ可能性を感じていたと。
ハヤシ そうですね。ただ、当初は方向性もまだ固まっていなかったし、メンバーが入っては辞めてっていう状況が続いていたんです。そんな中、残ったメンバーで何ができるかを模索していったんですが、いわゆるアカペラ的にコーラスを重厚にしていくのは人数が減ったことで音数も減るからムリだなと。だったらロックバンドのように、それぞれがボーカル、ギター、ベース、ドラムといった立ち位置で、アカペラという手法を使って表現してみたらどうなるんだろうってことになって。
ムトウダイスケ(Vo) それが3年くらい前なんですけど、その頃に僕が入って。そこからさらに模索して今に至る感じですね。
ルールは“声だけで成立させる”、ただそれだけ
──楽器を持たず、声だけで成立させるバンドというのは面白いアイデアですが、それを実際形にするにはけっこうな苦労もありそうですよね。
ハヤシ 強引なことを成立させようとしてますよね(笑)。
ムトウ 実際、声だけでチューニングを保つのがかなり大変なんですよ。そこがパフォーマンスのネックになるときもあるし。
ハヤシ でも、一般的なアカペラって“調和”っていう方向に向かいがちじゃないですか。僕の個人的なイメージでは、ホームランではなくセーフラインに持っていくような感じがあるんですよ。それはそれですごいことだとはもちろん思うんですけど、僕らは主張の強いメンバーが集まっているし、その個性をちゃんと出したいと考えてます。僕らはキレイなハーモニーだけを聴かせたいわけじゃないから。
──音の構築の仕方なんかも、通常のバンドとはまったく違いますよね、きっと。
ハヤシ だと思いますね。ただ、バンドの音の組み立てっていうのを僕はやったことがないので、初めからセオリーっていうものがなかったんですよ。しかも、今のスタイルにはお手本もなかったから、組み立て方は自分たちで見つけるしかなかった。そのおかげで逆にロジカルにやってこられたところもあって。それは良かったかなって思いますね。めんどくさかったですけど(笑)。
──アハハハ(笑)。じゃ、現状あるSMELLMANのルールっていうのは?
ハヤシ 声だけで成立させるのは、絶対条件ですね。前は、声が5つしかないからどうしようみたいな気持ちもあったんですけど、今ではそれもいい縛りになってて。5つの声をどう最大限に使うかって考えることで、逆に見えやすくなる部分もあるし。
ムトウ 不良と校則みたいな感じですよね(笑)。
ハヤシ 校則があるから不良がかっこいいみたいな(笑)。
CD収録曲
- input
- 曖昧VISION
- 欲求HUMAN
- ビビッドリング
- punkish
- GAKUYA off the MIC
- 5MC+NO DJ
- 農道ライダー
- S.A.K.E
- BUG ME
- NO WEAR MAN
- LOST IN ME
- quiet beach
- ロスタルジア
- YU-NAGI
SMELLMAN(すめるまん)
ムトウダイスケ、アイカワシンゴ、キムラマナブ、ナカシマダイゴ、ハヤシヨシノリの男性5人からなるアカペラグループ。チン☆パラ解散後、元メンバーを中心に結成。2007年7月より現在のスタイルとなる。声のみでロックを表現することをコンセプトに掲げ、メインボーカル、コーラス、ボイスパーカッションが一体となったパフォーマンスで注目を集める。2009年には野外フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2009」へ出演。音楽シーンに新たな風を吹き込むべく、革新的なスタイルを武器に活動を展開中。