ナタリー PowerPush - SMELLMAN
武器はメンバー5人の声だけ! アカペラ×ロックの最新型
ハーモニーの力はすごくリスペクトしてる
──ほかに類を見ないSMELLMANならではの魅力は、バンド名を掲げた1stフルアルバムで確認することができます。いやこれ、ホントにすごく面白かったです。
ハヤシ ムトウが入った頃に作った曲から、つい最近の曲まで入っているんですけど、一貫して突き詰めてきたものがあるからブレてないし、面白いものができたと思いますね。昔の曲は録り直したので「これが今のSMELLMANです」って言える作品になりました。表現はそれぞれの曲で違うけど、言っていることもちゃんとつながってますし。
ムトウ 今の僕たちが形にできることを十分に表わせたと思います。曲のジャンルも幅広くなったし、今まで誰も通ったことがないところを切り開いていこうって思いがちゃんとサウンドとリンクしてるなって。
──「5MC+NO DJ」という曲では、ヒップホップテイストをうまく盛り込んでいるのがすごく印象的でした。5人の声が描き出すパーティ感がすごく楽しくて。
ハヤシ ヒップホップの歴史とかにはあまり詳しくないんですけど、いいと思ったものは全部取り入れたいと思ってるんですよね。ラップってすごくリズミックだから手法として面白いし、やってみたら意外とうちらのスタイルにハマッたので。あと、「BUG ME」みたいに英語をたくさん使ってる曲なんかも、僕は英語が全然わからないですけど(笑)、こんな感じなんじゃないかっていう日本人の感覚として英語を使うのも全然アリだなって思って使っているんですよ。とにかくいろんな面で自由にやってますね。
ムトウ “声だけで作る”っていうところさえ押さえておけば、あとはホントに自由なんです。
──王道のアカペラスタイルをまったく排除しているわけではないところも面白いですよね。「LOST IN ME」や「ロスタルジア」という曲では、コーラスワークでそういった片鱗が見えますし。
ハヤシ アカペラのハーモニーの力はすごくリスペクトしてるんですよ。自分たちが通ってきたところでもあるので、そこもある程度は出していきたいんですよね。ハーモニーを使って音を分厚くした部分がある反面、スカスカな部分もあるっていう、その対比が面白いと思うから。声だけで楽曲を構築していく中で、楽曲をどれだけ立体的に聴かせるかっていうのはなかなか難しくもあるんですけど、最近は少しずつ答えが見えてきたような気はします。
ムトウ まだまだやれることもいっぱいあると思うし。
いろんな音を自由に行き来できるのが声の強み
──そうそう、トラックは案外、隙間を活かした感じなんですよね。5つしか音が使えないからこそ、なるべく隙間を埋めようとしそうなものなのに。
ハヤシ 音で満たすという部分では、楽器を使ったバンドには太刀打ちできないと思うんですよ。なので、そこは開き直って、違うスタンスで臨んでますね。1音1音無駄には使えないっていう気持ちはありつつも、あえてスカスカなところを作って、違う方法で聴かせていく。あとはエフェクターを使って、どう面白く組み立てていくか。
──音が薄くて不安になることはないですか?
ハヤシ なりますけどね(笑)。でも、リスナーとして聴いて、ちゃんと成り立ってると思えるように作ってるんで。全部コードが入ってたほうが一般的には楽曲として成立すると思うんですけど、別に一般的にする必要もないかなって思うし。
──コードのバッキングみたいなものは基本ナシですもんね。
ムトウ そうですね。今のところ声でそれをやると、どの曲も同じような感じになって飽きちゃうんで。
──声色やエフェクターの使い方、楽曲の構成なんかのアイデアは常にいろいろストックがあるんですか?
ムトウ そうですね。いっぱいありますよ。参考になりそうな音があるかな、って常にアンテナを張って。
ハヤシ 街中の選挙演説で声がディレイしているのを聴いて「これはダブ的なアプローチとして使えるな」とか(笑)、敏感に反応しながら。ベースのナカシマなんかは、実際のベースの音とかベーシストについてはあんまり研究しませんからね。あくまでも声のニュアンスにこだわってる。だから、すごく速いパッセージを声で出すとかではなく、単純なリフを声でしか出せないニュアンスでどう表現するかを追求したり。そこがものすごくオリジナルになっている。
──単に楽器の音や奏法をそのまま声でコピーすればいいってわけではないと。
ムトウ そうなんですよね。最初の頃は打ち込みだと思われるくらい、楽器の音を忠実に出そうとしたりもしてたんですけどね。
ハヤシ 実際、打ち込みに間違えられまくったんで、それはもったいない。じゃもうちょっと声っぽくやろうと(笑)。そういうところから、ベースのスキャットだったりリズムの聴かせ方だったりっていうのはすごく勉強になった部分もありますね。
──声でやる意味ですよね、大事なのは。
ハヤシ ドラムで言えば、ヒューマンビートボックスみたいな音から、急に打ち込みっぽい音になって、そこからさらにメタルっぽい2バスに変わるみたいなことが、1曲の中でできるんですよ。いろんな音を同期とかに縛られず自由に行き来できるのは声ならではですからね。そこはうちらの強みかなって思います。
CD収録曲
- input
- 曖昧VISION
- 欲求HUMAN
- ビビッドリング
- punkish
- GAKUYA off the MIC
- 5MC+NO DJ
- 農道ライダー
- S.A.K.E
- BUG ME
- NO WEAR MAN
- LOST IN ME
- quiet beach
- ロスタルジア
- YU-NAGI
SMELLMAN(すめるまん)
ムトウダイスケ、アイカワシンゴ、キムラマナブ、ナカシマダイゴ、ハヤシヨシノリの男性5人からなるアカペラグループ。チン☆パラ解散後、元メンバーを中心に結成。2007年7月より現在のスタイルとなる。声のみでロックを表現することをコンセプトに掲げ、メインボーカル、コーラス、ボイスパーカッションが一体となったパフォーマンスで注目を集める。2009年には野外フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2009」へ出演。音楽シーンに新たな風を吹き込むべく、革新的なスタイルを武器に活動を展開中。