sleepyhead|活動開始から1年、武瑠のクリエイティブは“phase2”へ

sleepyheadが3月13日に新作音源「meltbeat」をリリースした。

前作「NIGHTMARE SWAP」はSKY-HI、TeddyLoid、MOMIKEN(SPYAIR)といったアーティストとのコラボを中心とした作品だったが、本作「meltbeat」は“音と身体が溶け合う感覚”をテーマに武瑠が作詞作曲を手がけた楽曲を軸に構成されている。また3月17日には全国8都市を回る初の全国ツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat」がスタートするなど、sleepyheadとしての活動の規模は徐々に拡大している。音楽ナタリー3度目の登場となる今回のインタビューでは、sleepyheadを立ち上げた2018年1月から現在までを振り返りつつ、「meltbeat」の制作に関する話や今後のビジョンについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 須田卓馬

1人だから可能なこと

──2018年1月のsleepyheadの立ち上げから1年以上が経ちました。最初に思い描いていたビジョンはどれくらい実現していますか?

武瑠

想像以上にやれていると思います。僕が掲げている“3D音楽”(音楽、映像、小説、デザイン、ファッションをミックスしたプロジェクト)という概念はバンド時代から同じではあるんですけど、sleepyheadになってからより具現化できている実感があって。ファンクラブとして「秘密結社 S.A.C.T.」を立ち上げられたことも大きいです。sleepyheadとして活動し始めたときから「ファンクラブがあったほうが活動しやすいだろうな」と思っていたんですが、個人で活動していることもあって、ファンクラブを作ることになかなか手が回っていなかったんです。あるときTwitterで「ファンクラブを作るのは難しいな」といったことをつぶやいたら、元バンドマンの方から「手伝わせてください」とダイレクトメッセージが来て。そのきっかけがあって試行錯誤しながら作ったのがエージェントクラブ「秘密結社 S.A.C.T.」なんです。

──一般的なファンクラブとはどこが違うんですか?

簡単に言うと、能動的に参加してもらえるような仕組みを持ったファン参加型の集まりですね。時代的なことを考えると、こちらから何かを押し付けるのではなくて、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスのような区分を作っておいて、選んでもらうのがいいのかなと。具体的には、sleepyheadの活動に深く関わってもらって、クリエイションの手伝いをしてもらえる人たちを「社畜」と呼んでいて、毎週、オンラインで会議をやっています。会議で出たアイデアや意見を取り入れながら、実際に動いてもらえる人には制作にも携わってもらう。こちらから一方通行なやり取りではなくて、意味のある交流ができている実感があるし、これまで以上にファンの方々にも楽しんでもらえると思っています。この間、ぼくのりりっくのぼうよみくんをゲストに招いてトークショーをやったんですけど、それも企画会議の1つだったんです。ぼくりりくんのように音楽を多角的に捉えている人や、音楽以外のフィールドで活動している方にも参加してもらって、3D音楽のプロジェクトを進めていこうと思うんです。

──クリエイター同士の交流を活性化して、音楽から派生する表現の幅を広げているというわけですね。

はい。こういうことって1人でやってるから可能なんですよね。無駄なフィルターがないんです。先ほどバンドのときも概念としては同じだったと話しましたが、関わる人が増えることでどうしても伝言ゲームのようになって、内容が正確に伝わらない。やりたいことが明確にある人間は1人でやったほうがスムーズだし、自分にはそれが向いていると思うんです。「アーティストは音楽以外のことをできるだけやらないほうがいい」みたいな風潮もあるけど、そんなこと気にしてられないし、自分が得意なことを、自分ができる方法でやるしかないんですよね。

──音楽的な部分の変化はどうですか?

武瑠

ちゃんとクオリティを上げられている実感があります。音楽のセンスというより、頭の中にあるものを具現化するプロデュース能力が上がった感覚ですね。「DRIPPING」(2018年6月発売の1stフルアルバム)のときは、音楽以外の部分でやることが多すぎたんです。CDを出すにしても、品番とか販売元とかJASRAC登録とか、配信のやり方はどうすればいいかとか、すべてが未知すぎて(笑)。そのせいというわけではないけど、「DRIPPING」は完全に詰め切れてなかったところもあったんです。メロディはいいんですけど、サウンドやアレンジはもっと詰められた。ただ「DRIPPING」はそういう姿をそのまま提示することに意味がある作品でもあったんです。「決意さえあれば、完璧な状態じゃなくても始められる。動き出してから、必要なものを集めればいい」という。その後「NIGHTMARE SWAP」(2018年10月発売)はコラボアルバムで、自分のプロデュースの力も上がったと思うし、人とやることで自分の個性を改めて見つめ直すことができて。あのアルバムを聴いて、いろんなアレンジャーやミュージシャンが連絡をくれるようになったんですよ。それが自分の糧にもなってくるので、いい状態でリリースが重ねられていると思います。

「怨念が浄化されていくような音にしたい」

──新作「meltbeat」についても話を聞かせてください。制作はいつ頃から始まったんですか?

今年に入ってからですね。アレンジは10日くらいで固まったし、実質3週間くらいでできあがった作品なんです。スケジュールがギリギリだったわけではなくて、自分の中にあるイメージが明確だったから、あっという間に完成しました。

──先ほどおっしゃっていましたが、サウンドの質が明らかに向上しているのも印象的でした。

武瑠

sleepyheadになってからずっと同じエンジニアさんと制作をしているんですけど、その方にも「よく1年でここまで到達できたね」と言っていただいたんです。すごく正直な方だから、sleepyheadとして最初のシングル曲「闇雲」を持っていったときはハッキリとダメ出しをしてくれた人でもあって。その方に1年かけて「よく到達したね」と言ってもらえたことがすごくうれしかったんです。今作の収録曲「heartbreaker」を作ってるときに、音と身体が溶け合うようなイメージが浮かんで。「melt」がコンセプトになりそうだなと思う中で「怨念が浄化されていくような音にしたい」というビジョンが見えてきたので、エンジニアさんや今作でも力を貸してくれたTeddyLoidくんにも今まで以上に相談して、どうすれば自分のビジョンに近付いた音が出せるのか模索しました。

──1曲目の「phase2」は、まさに「音と身体が溶け合う」という雰囲気を想起させるサウンドだと感じました。

「phase2」もともとは自分のブランド・million dollar orchestraのCM曲としてTeddyLoidくんに作ってもらった曲なんです。バンドが解散したあとに初めて一緒に制作した曲で、「meltbeat」のテーマにすごく合っていたので、1曲目に持ってきました。実は「DRIPPING」のときに実現したかたったみずみずしい感じのサウンドがようやくこの曲で実現できて、「やっと一歩を踏み出せたぞ」という意味で「phase2」で今作の幕開けを飾りたくて。「DRIPPING」は「体の中にあるものを絞り出す」というコンセプトだったんですけど、今作のコンセプトは「大事なものが体の中に溶けている」なんです。「DRIPPING」で抽出したものが体の中に溶けているという意味でもあって、2つの作品のコンセプトが根底ではつながっているんですよね。

sleepyhead「meltbeat」
2019年3月13日発売 / STREET GOTHIC LABEL
sleepyhead「meltbeat」

[CD] 1944円
SACT-0006

Amazon.co.jp

収録曲
  1. phase2
  2. meltbeat feat. DURAN
  3. heartbreaker
  4. akubi_girl
sleepyhead(スリーピーヘッド)
sleepyhead
武瑠(ex. SuG)によるソロプロジェクト。2018年3月に東京・TSUTAYA O-EASTにて初ライブ「透明新月」を開催し、会場限定シングルとして「闇雲」をリリースした。同年6月に1stフルアルバム「DRIPPING」をリリース。7月には初のツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2018」を開催した。10月にはSKY-HI、TeddyLoid、MOMIKEN(SPYAIR)、yuji(ex. SuG)といったアーティストを迎えて制作された新作音源「NIGHTMARE SWAP」を発表。2019年3月には新作音源「meltbeat」をリリースした。さらに3月から4月にかけて全国ツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat」を開催する。