「美化された幻影」と1人で戦う
──表題曲「meltbeat」はどのような経緯で生まれた曲なんですか?
最初は四つ打ちのトラックだったんですけど、バンドっぽさを15%くらい表現したいと思って。言葉で伝えるのが難しかったので、Teddyくんの家に行って、話ながら作った曲ですね。「キックをもう1つ増やしてください」「ハイハットをスライスさせたいです」と横で伝えながら、目の前で打ち込んでもらって。ギターはDURANくんに弾いてもらったんですけど、生楽器はギターだけであとはすべて打ち込みの音なんです。このバランスが絶妙ですよ。自分の中ではBOOM BOOM SATELLITESの音像に近いんですよね。生っぽいフレーズなのに手では叩けないハイハットが鳴っている感じ。
──そのようなアプローチはソロプロジェクトだからこそできるものですね。
実はBOOM BOOM SATELLITESにメチャクチャ影響を受けていて、バンドのインディーズ時代にもモロに影響を受けた曲を作ったことがあるんだけど、まったくウケなくて。「やっぱりビジュアル系でこういう曲は受け入れられないのか」とショックを受けていたんですけど、今振り返ると、当時はやり切れてなくて中途半端だったのかもしれないですね。今のほうが単純にクオリティも上がってるし、振り切れてる。
──歌詞に書かれている「十字架を背負うよりも 未来に口づけ」というフレーズは、まさに武瑠さんの心境を表しているような歌詞だと感じました。
そうかもしれないですね。音楽を続けていく中で、納得できないことをたくさん経験しましたし、悔しいと思ったことも幾度となくあったけど、そんなことをずっと言い続けているのはクールじゃないと思うようになって。どんどん音楽が楽しくなっているし、背中に羽が生えたみたいな感覚もあって「目の前のことを大切にしよう」と思えるようになってきたんです。ただ自由になったわけじゃなくて、ちゃんと進化もできている実感がある。10年バンドをやってから1人になって、バンドのことを「クリアしなければならないハードル」と言ってたんですけど、今となっては「余裕で超えていけるでしょ」という手応えに変わっている。
──バンドでキャリアをスタートさせてその後ソロになると、最初は「バンドを超えたい」と思いますよね。
どうしても周りの人も「あのバンドだった人」って見方をしてしまいますからね。どうやって過去の自分を超えたことになるかは人によって違うと思うけど、自分に関しては、少なくとも頭の中にある音の具現化は今のほうができている。もちろん人の評価はわからないですけどね。好きなバンドって聴き手にとっての青春とダブっていたりするんですよ。青春時代に聴いていた音楽に愛着があるのは当たり前だし、そういう「美化された幻影」と戦わなくちゃいけないプレッシャーはありますけど、今の自分は「まあ、それでもいけるでしょ」と思って、挑んでいけてる。「meltbeat」は、まさに「十字架を背負うよりも 未来に口づけ」というフレーズから書き始めたんですけど、自然と自分の気持ちを表現したらこういう形になったと感じています。
──「meltbeat」のミュージックビデオも拝見しました。予算も人手も限られているであろう状態で、武瑠さんは映像にも一切手を抜かないですよね。
強がってやっている部分もありますけどね(笑)。最近はなんでも親しみやすい映像が主流だと思うんです。正直に言えば、作り込んだ映像よりも1カメでパッと撮った動画のほうが再生回数が伸びる傾向にある。それはわかってるんだけど、だからと言って僕が1カメで“歌ってみた”をやるのは違うじゃないですか。
──確かにそうですね。
映像に予算をかけるのはリスクもあるし、強がりでこだわりすぎてるだけかもしれない。でも得意なこと、自分がやって楽しいことで勝負したいんですよね。結局、好きなことじゃないと勝負でも勝てないと思いますから。
センスが合わないヤツには伝わらない
──「heartbreaker」は先鋭的なダンスミュージックの要素を取り入れたナンバーです。これはどういう経緯で生まれた曲なんですか?
2年前にベルリンに行ったときに聴いた音楽が印象に残っていて、それを自分なりに表現してみたくて作った曲です。ベルリンで聴いた音楽はいわゆるミニマルテクノなんだけど、ちょっと怖い感じの空気感の中にインパクトのあるメインフレーズが1つだけ乗っていたんです。「heartbreaker」も同じような構成になっていて、同じメロディをずっとループさせているんですよ。ほかの音をなるべく乗せずにしっかり音圧が出せるのか、挑戦してみた曲ですね。ギターを入れれば派手にできるんだけど、そういう手法を取らないことに意味があるなと。
──歌詞は英語ですごくシンプルな構成です。
納得できないことが続いたとき、僕は人間の中の回路がショートしちゃうような感覚があって。怒りとか悲しみとかも湧いてこなくて、ただただ呆然としちゃうんですよね。「heartbreaker」では「ウソだろ? こんなことあるの?」「マジでビックリした。信じられない」というようなことを英語で歌ってます(笑)。
──そのときの驚きをそのまま吐き出すというか。
まあ、それも全部自分の栄養になってるのでいいんですけどね。さっきも言いましたけど、キツイことばかり見ていてもしょうがないし、這いつくばってがんばってた自分を踏み台にして上がっていきたいので。ちょっと強気な言い方をすると、センスが合わない人には伝わらないと思ってるんですよ。
音楽を違った角度から楽しむ
──これまでsleepyheadのライブは東京都内を中心とするものが多かったですが、3月17日からは初の全国ツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat」が開催されます。
実を言うと、全国ツアーを今やるべきかどうか、すごく悩みました。北海道や博多の公演もあるんですけど、「まだ早いんじゃないかな」という気持ちもあって。ただ今作は“sleepyheadのphase2”という意味合いでもあるので、このタイミングでツアーをやることにもちゃんと意義があるかなと思って。ファンの人たちを脅かすつもりはないですけど、次にちゃんとツアーが回れるのがいつになるか本当にわからないです(笑)。音源を作りながら地方のツアーを組むのって、1人でやる活動の規模を完全に超えてるんですよ。ツアーとはもっと違う取り組みにも注力したいし、単純にクリエイティブに時間と予算を割けるようにしたい思いもある。でも、いろんな経験が同時に自分の糧になっている自覚もあるので、今回はツアーを回ることにしたんです。
──ツアーでの経験を糧に、また新たなクリエイティブに挑戦していくわけですね。
1つアイデアがあって。まだ詳細は話せないんですけど、カジノとライブを融合させたようなエンタテインメント空間をプロデュースしたいと思っているんです。これまで誰もやっていない企画になりそうだし、すでに声をかけているアーティストからは「すごく面白そう。ぜひやりたい」と言ってもらっていて。音楽を違った角度から楽しめるイベントになりそうです。
ツアー情報
- sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat
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- 2019年3月17日(日) 東京都 shibuya eggman(※「-S.A.C.T. only-」公演)
- 2019年3月24日(日) 千葉県 DOMe Kashiwa
- 2019年3月31日(日) 神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
- 2019年4月6日(土) 北海道 Sound Lab mole
- 2019年4月7日(日) 宮城県 space Zero
- 2019年4月10日(水) 東京都 下北沢BASEMENT BAR
- 2019年4月22日(月) 愛知県 ell.FITS ALL
- 2019年4月23日(火) 大阪府 梅田Zeela
- 2019年4月25日(木) 福岡県 graf
- sleepyhead LIVE TOUR 2019 FINAL PRIVATE FUNERAL
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- 2019年5月11日(土) 東京都 LIQUIDROOM
- sleepyhead「meltbeat」
- 2019年3月13日発売 / STREET GOTHIC LABEL
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[CD] 1944円
SACT-0006
- 収録曲
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- phase2
- meltbeat feat. DURAN
- heartbreaker
- akubi_girl
- sleepyhead(スリーピーヘッド)
- 武瑠(ex. SuG)によるソロプロジェクト。2018年3月に東京・TSUTAYA O-EASTにて初ライブ「透明新月」を開催し、会場限定シングルとして「闇雲」をリリースした。同年6月に1stフルアルバム「DRIPPING」をリリース。7月には初のツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2018」を開催した。10月にはSKY-HI、TeddyLoid、MOMIKEN(SPYAIR)、yuji(ex. SuG)といったアーティストを迎えて制作された新作音源「NIGHTMARE SWAP」を発表。2019年3月には新作音源「meltbeat」をリリースした。さらに3月から4月にかけて全国ツアー「sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat」を開催する。