sleepyhead×山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)|表現者たちが立ち向かう“次の戦い”

武瑠による“3D音楽プロジェクト”sleepyheadが新作音源「endroll」を9月25日にリリースした。

表題曲の「endroll」は、“sleepyheadが生まれるきっかけの一端を担ったアーティスト”である山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)が参加したナンバー。作曲を山中が、作詞を武瑠が担当している。

音楽ナタリーでは武瑠と山中の対談を実施。本作での楽曲制作のプロセスについての話はもちろん、音楽シーンに対するスタンスや、ソロとバンドというそれぞれ異なる立場で活動する彼らの現在のモードなど、刺激的なトークを展開してもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕

予想が付かない曲の作り方をしてみたかった

──まずは「endroll」のコンセプトを教えてもらえますか?

武瑠 EPを制作するときはいつもそうなんですけど、「全曲が同じ曲名でもいい」というつもりで作るんです。それが今回は「endroll」だったということですね。リード曲はドラムンベースなので、制作にはその筋で活躍しているittiに参加してもらっていて。

──本作の中心になっているのが「endroll」という曲、ということですよね。

武瑠 「endroll」という曲は、ちょっと特殊な作り方だったんですよ。ittiにイメージを伝えて、リズムだけ作ってもらって、それをヤマタク(山中拓也)に投げたんです。コードとメロディを乗せてもらって、最後に自分で歌詞を書きました。ittiの音色とヤマタクのメロディを組み合わせたら面白いだろうなと思って、自分でも予想が付かないような曲の作り方にチャレンジしてみました。

武瑠

──山中さんにはどんなオファーを?

武瑠 ほぼお任せですね。リズムのデータと一緒にジャケットやアートワークを送っただけかな? メロディに関しては何もオーダーしてないです。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES) こういう曲の作り方は初めてだったし、難しいところもありました。ittiのリズムパターンに彩りをつけるような感じでメロディを2パターン作って武瑠くんに送って。イメージに合うメロディを選んでもらい、それをまたブラッシュアップしながら作りました。新しい発見もあったし、斬新でしたね。

自分の中にある「透明な声」

──トラックメイカーとトップライナーのコライトみたいな感じですね。山中さんのメロディはどうでした?

武瑠 ヤマタクっぽさ全開でしたね。特に冒頭のメロディは象徴的だったから、本人にも意見を聞きながら、冒頭と最後に入れています。

山中 最初に武瑠くんと「盛り上がるんだけどクールなところもある、絶妙なラインを狙いたい」みたいな話をしていたんです。メロディを作っているときも、武瑠くんが描いていたイメージに近付けることを意識していました。アレンジに関しても「弦が入っていたほうがいい」とか「ギターを壮大にかき鳴らしたい」とか提案して。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)

──シューゲイズっぽい雰囲気もありますね。

武瑠 シューゲイズっぽいサウンドの要素がありつつ、空が見えるような大きいメロディだと感じました。

山中 あとは信頼感。武瑠くんが歌詞を書いて歌えばsleepyheadの曲になるという確信もあった。

武瑠 歌詞に関しては、最初の「透明な声に 耳を澄ませてた」というフレーズがまず出てきて、全体のイメージやメッセージが決まったんです。

──どういうメッセージですか?

武瑠 たぶんヤマタクもそうだと思うんだけど、いろんなことに挑戦し続けて、たまに立ち止まったり、悩むこともあって。そのときに立ち返るのは、「音楽が好き」という純粋な自分の欲求なんですよ。で、「またがんばろう」と思う。

山中 うん(笑)。

武瑠 2人ともそういうタイプだと思うんですよね。ガーッと突っ走って、ときどき落ちて、「本来、何がやりたかったんだろう?」と考えて。活動を続けていると、「ファンを喜ばせたい」とか、責任感みたいなものが大きくなるんだけど、たまには純粋に自分自身の声を聞くのが大事なんですよ。それが「透明な声」という言葉につながっています。

山中拓也はターニングポイントに来ている

──山中さんにも「本来は何をやろうとしていたのか?」というところに立ち返る瞬間がありますか?

山中 めちゃくちゃありますね。バンドとして感じることもあるし、個人として感じることもあります。ただ武瑠くんほどは抱え込んでないよ(笑)。武瑠くんのすべてを理解しているとは言えないけど、「ちょっとやりすぎじゃない?」「1人で背負いすぎでしょ」と心配になることは多いかな。

武瑠 僕は1人でやってますけど、大人数でやっているがゆえの孤独もあると思うんですよ。特にバンドのボーカリストは、そういうことがあるんじゃない?

山中 ……うん(笑)。もちろんメンバーに支えられている部分もあるから、難しいところなんだけど。

武瑠 僕から見ていると、ヤマタクは今ターニングポイントを迎えている気がするんですよ。メジャーデビューしてどんどん駆け上がっていく流れの中で、今はアーティストとして違うフェイズに入ろうとしているというか。「endroll」の歌詞を書くときも、そのことはなんとなく意識していました。

山中 ターニングポイントが来ているというのは、本当にそうで。今まではライブの規模感とか、たくさんの人に聴かれることをひたすら意識してきたけど、ここから先はもっと本質的なところを考えるべきだと思うんです。そのためにはいい意味で肩の力を抜いて、よりラフに、より自由に追求していくべきだなと。実は楽曲提供をするのは今回が初めてなんですよ。ちょうど「もっと自由にいろんなことをやりたい」と思い始めたタイミングでオファーしてくれたから、「武瑠くんはさすがだな」って思いました(笑)。これまでも楽曲提供の声をかけてもらったことはあるんだけど、「やってないんだよね」と言って断っていたんです。

──そういう意識の変化は、アリーナ公演を成功させたことにも関係があるんですか?

山中 あると思います。アリーナ公演を終えて、これから先はライブ会場の規模に価値を見出すのではなくて、人間としての本質的な部分を磨くべきだという考えは強くなりました。そのうえで音楽を発信して、シーンや世間に爪跡を残すことが、本当に自分がやりたいことじゃないかなと。

武瑠 わかるよ。

山中 バンドの規模が大きくなって、それをファンの人たちの分かち合える喜びも、もちろんある。ただ、規模感みたいなものはあくまでも結果でいいと思うんです。バンドのアーティスト写真のディレクションを変えたのも、そういうことが影響しているんですよね。

──モードの変化がアーティスト写真にも表れている、と。

武瑠 それはめっちゃ感じました。余裕というか、いい意味で貫禄が出てきた。今のオーラルのモードが伝わるし、すごくいいですよね。今までの写真の中で一番好きです。

山中 うれしい(笑)。僕はアーティスト写真も作品の1つだと思ってるんですよ。「カッコいい」っていうだけではなくて、そこに込めた意思を汲み取ってくれて、内側の部分に突っ込んでもらえるとすごくうれしい。そこまで感じ取ってもらえることはなかなかないし、やっぱり信頼できますね。

左から武瑠、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)。

──今のような話って、普段からしてるんですか?

武瑠 けっこうしてますね。この前もヤマタク、ittiと3人で焼き肉を食べたんですけど、めっちゃ真剣な話をして。

山中 煙の中でね(笑)。

武瑠 大勢だとバカな話ばっかりなんだけど(笑)、少人数だとアートワークや今後のプロジェクトについて話すことが多いです。そういう話で意見交換できる相手って、意外と少ないんですよ。こっちのノウハウについて聞くんじゃなくて、お互いに化学反応が起きるような会話ができる人はほとんどいない。

山中 確かに少ないけど、恵まれていることにそういう友達に囲まれてるんですよ。ただ飲んで「ウエーイ!」って騒ぐだけの友達はいない(笑)。3、4年前は僕も騒いで楽しんでましたけど、時間のムダだなと思うようになって。

武瑠 その周期も合ってたんですよ、ヤマタクとは。SuGのときはまったく飲む時間が取れなかったから、解散した後、「人と飲んでみたい、ワイワイしたい」という時期があって(笑)。ちょうどヤマタクもそういう時期だったから、一緒にワイワイさせてもらって。

山中 そうだった(笑)。今はワイワイしてないですけど、そういう空気がパフォーマンスにつながる人もいるんですよね。「そういうメリットもあるな」と思ってます。

武瑠 違いを認め合うしかないからね。ストイックではないからこそ生まれるノリもあるだろうし。

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バンドの10年は大きい