世の中に一石を投じる開拓者!-真天地開闢集団-ジグザグの“沼”に迫る

「愚かな者に救いの手を差し伸べる」をコンセプトに掲げ、2016年に本格始動した真天地開闢集団-ジグザグ。全国各地の音楽フェスに出演してその名を広め、昨年行った初のホールツアー「全国開闢禊 -最高-」では約2万人を動員した。今年12月には初の神奈川・横浜アリーナ公演の開催が決定しており、現在注目を浴びている。

横浜アリーナ公演を前に、-真天地開闢集団-ジグザグは新作EP「Gran ∞ Grace」を発表した。このEPには、すでに配信リリースされ音楽フェスでも披露されている「JAPPARAPAN ~Japanese Party~」「天(ama)」、目まぐるしい展開を持つ「Schmerz」、“ネギ”をテーマにしたユニークな歌詞が印象的な「バリネギ -sexy green onion-」、優しいウインターソング「E.v.e」の計5曲が収録されている。

音楽ナタリーでは3人にインタビューを行い、バンドの道のりから本作の制作背景まで解き明かした。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 山口真由子

ある種の反骨精神で始まりました

──ジグザグが本格始動したのは2016年ですが、どういう経緯でバンドを結成されたのでしょうか?

命 -mikoto-(Vo) 現在僕の肉体は2歳なので、前世の記憶になるんですけど、もともとこのバンドをやる前に別のバンドを組んでいまして。ヴィジュアル系のシーンで活動するまでは、そんなに奥深いところまで界隈のことを知らなかったんですよ。だけど、どっぷりシーンに浸かっていって、そこでマイナーな世界にはびこる闇の部分といいますか、いろんなマイナスな部分を知り、モヤモヤするようになって。それが最終的に爆発して「もう、こんな状況は嫌だ!」と思い、この業界に一石を投じたいと考えました。そこから話がスケールアップして「世の中の愚かな者に救いの手を差し伸べる」というコンセプトのもと、この命様が生まれ、プロジェクトが始まりました。まあ、最初のきっかけはアンチテーゼですね。ある種の反骨精神で始まりました。

命 -mikoto-(Vo)

命 -mikoto-(Vo)

──命さんが感じたモヤモヤというのは、噛み砕くとどういうことですか?

 音楽を売りものにしてない感じ、ですかね。アイドルを否定しているわけじゃないんですけど、ヴィジュアル系のバンドマンがアイドルになっている気がして。ライブに来てる多くのお客さんは音楽よりも「メイクをして、派手な髪をして、顔にピアスが開いたお兄さん」に会いに来て騒ぎたいだけなのかなって。あと撮影会やハグ会とかチェキを大量に売りさばくとか、僕自身としてはそういった売り方がすごく気に食わなかった。僕らも先輩に「こうしなきゃいけない」みたいなことを教わって、同じようにやるんですけど、自分のやっていることの後ろめたさが半端じゃなかった。もともとは音楽がやりたくて、音楽を生業にしたいと思ってこの世界に飛び込んだのに、俺は何をやってんだろう?って。すごくバカバカしくなった。あとは雑誌を読んでも顔を加工したお兄さんたちがいっぱい載っていて「なんなんだ、この世界は」という気持ちになってしまった。顔を売るにしても、十数年前なら本当にカッコいい人が載ってたけど、今はみんなが加工しすぎて原型がないし「みんな一緒の顔してんじゃん!」と思っちゃって。

──悪しき状況になっていると。

 こういうのが業界衰退の原因なんじゃないですかね。本来の先輩たち、例えばLUNA SEAさんたちはやっぱりカッコよかったし、ヴィジュアル系のシーンをカッコいいものとして作り上げていたのに、なんだこれは!?って。ほかにもいっぱいあるんですけど、そういうモヤモヤが積もりに積もって爆発して、このジグザグができあがりました。最初のオリジナル曲が「ぽんぽこたぬき合戦」という楽曲なんですけど、タイトルはヴィジュアル系について書き込みをする“たぬき掲示板”をもじっていて、歌詞はハグ会とかについて、わりとケンカを売るような感じで(笑)。まあ今までの自分への自虐も込めて。

──「アーティスト気取ったホスト崩れと 媚び売り上手なお姫様」「壁ドンハグ会恋人ごっこ 地下アイドルもドン引きさ」「だっせぇ言葉でチャラチャラと 見てて痒いほど恥ずかしい」とパンチの強い歌詞が炸裂していますね。

 ははは、そうなんですよ。だから、いざ曲を出すときはちょっと怖かったですけどね。先輩にヤられちゃうかなって(笑)。でも、それくらいやらないとつまらない。名指しはしてないけど「これはあの人のことを言ってるよね」ぐらいの匂わせる感じで悪口を歌っていて。そこがスタートなんです。

──つまり、ちゃぶ台を引っくり返すとこから始めたわけですね。ジグザグ結成当初、思い描いていたバンド像はありました?

 当時はですね、シドさんみたいなバンドを……。

──今のジグザグと全然違うじゃないですか。

 はははは! いわゆるヴィジュル系界隈が好きな人以外も楽しめるバンドを目指していました。あと、僕がよく言っていたのは“ヴィジュアル系のサザンオールスターズ”や米米CLUB。Kissとサザンを混ぜたようなバンドにしたい気持ちがありましたね。

やっと売れるときがきた!

──その後、2018年に影丸さんと龍矢さんがジグザグに加入されましたが、これはどういう流れだったんですか?

影丸 -kagemaru-(Dr) 僕はバンドマンになるつもりじゃなくて、セッションとかいろんなバンドのサポートドラマーとしてがんばりたかったんですよ。なので、ジグザグでも最初はサポートメンバーとしてドラムを叩いていて。一緒にやっていくうちに「あ、この人たちはいいな」と思ったので、自分から「ジグザグに入りたいです」と言ったのが加入のきっかけでした。それで心よく快諾してくださり……ね!(命に向かって満面の笑みで)

 ね!

影丸 ふふ、そうなんです。

 びっくりしたけどね。「あの人はバンドを組まずに、一生サポートでやっていくらしい」と聞いていたから「入るんや!」と思って。

影丸 ジグザグの前にやっていたバンドも「今後はバンドとかせえへんから」と言って辞めたんです。ただ、当時のジグザグが立っていたのは100人規模のステージでしたけど、やっぱり目立っていたというか、光っていたんですよ。「こういうところで収まるレベルじゃないよな」と思った。とはいえ、バンドをやるって賭けじゃないですか。正直、自分からしたらサポートのほうが仕事がある。サポートもちろん厳しい世界ですけど、バンドに入るよりは安全な人生だった。それでも1回賭けてみようと思って、加入しましたね。

龍矢 -ryuya-(B) 僕は影丸さんが通っていた大学の後輩で、同じ軽音部だったんですよ。当時、僕は自分でバンドを組んでいたんですけど、うまくいかなくなって。そんなときに影丸さんから「ギターを探してるバンドがいて、オーディションをやるから受けてみない?」と声をかけてもらったんです。自分のバンドが解散するのは決まっていたので「ギターを弾ける場所があるならぜひ!」とお返事をしました。で、ジグザグの音源を聴いたら、まあ素晴らしくて。これは絶対に入りたいとオーディションを受けました。

-真天地開闢集団-ジグザグ。左から龍矢 -ryuya-(B)、命 -mikoto-(Vo)、影丸 -kagemaru-(Dr)。

-真天地開闢集団-ジグザグ。左から龍矢 -ryuya-(B)、命 -mikoto-(Vo)、影丸 -kagemaru-(Dr)。

──2018年8月3日に大阪・BIGCATで開催された単独禊「慈愚挫愚皿屋敷~関西~」で2人の加入を発表したんですよね。その日のことは覚えていますか?

 よく覚えてます。「これで売れるぞ! やっと売れるときがきた!」と思いましたね。それまではベースのメンバーと2人でやってきたわけですよ。一応は右肩上がりに進んでいたので「ようやく4人の最強メンバーがそろった! ここからジグザグは上に行くぞ!」って。あの日は「ほれ見たことか!」という気持ちでやっていましたけど……その半年後かな、ベースが辞めたのは。

影丸 そうでしたね……。

 でも、とにかくあの日のBIGCATのライブでは「よっしゃ!」という気持ちを味わえました。

龍矢 僕はその日、前半はあくまでもサポートメンバーとして演奏して、後半に正式メンバーになるという発表をする流れだったんです。だから、前半は仮面を付けた状態で演奏していて。いざ仮面を取ったら誰も僕のことを知らないはずなのに、参拝者(ジグザグファンの呼称)の人たちがすぐに受け入れてくれたんです。もちろん影丸さんも一緒に大きな歓声を浴びたわけなんですけど……ちょっと面白い話がありまして。影丸さんは、サポートのときには長袖のジャケットを着て叩いていたんです。みんなから「かわいい!」と言われていたんですけど、影丸さんが仮面を取ったときに腕が露出する衣装に着替えていて。素顔を見せたこと以上に、影丸さんの筋肉のすごさに会場が沸くっていう(笑)。「あの人、あんな筋肉やったんや!」って。

影丸 はははは。ノースリーブでお辞儀をするとき、腕の筋肉が露わになったことに対するどよめきがすごくて(笑)。あと、サポートのときはウィッグを被っていて、どちらかというとかわいい感じに見せていたから、いざステージ上で紹介を受けた瞬間は、同じ人だと思っていない人もおって。それがきっかけで、今では筋肉キャラになっちゃいました。

全部忘れてイチから作り直そう

──そこから2019年1月にオリジナルメンバーのベースが脱退されて、現在の3人体制になりました。振り返ると、今の体制になってからの最初のターニングポイントはいつでしょう?

 それこそベースが辞めたことが1番の転換点でしたね。ジグザグの前身バンドからずっと一緒にやってきたし、僕にとっては初めて本格的に組んだバンドから活動をともにしてきたメンバーだったんです。そのときの記憶年齢としては30歳を過ぎていたから、いきなり振り出しに戻ったような感覚でしたね。それに役割分担があったわけですよ。僕は顔を白塗りしていて、髪で目も隠れているし、どうあがいてもアイドル的役割は担えないというか、そこを捨ててジグザグを始めた。とはいえ、メンバーの中に1人はルックス担当が必要だと思っていたので、もう1人のメンバーにそのポジションを託していて。僕は楽曲制作だったりライブパフォーマンスだったり、音楽的な部分を担うバランスでやっていたんですけど、いきなりルックス担当のメンバーが辞めちゃったので、ファンがガクンと減ったんです。「どないしよう!? ここまで来て、また振り出しに戻るのか」って。どうしようか考えた結果、今までを捨てるわけじゃないけど、バンド名は引き継ぎつつも、気持ちとしては新しいものを始めるつもりでやろうと。これまでは売れるために、ああだこうだ考えていたんですけど、もう全部忘れて本当にイチから作り直そうと思ったんです。

──ジグザグを再構築しようと。

 そうですね。3人になったのを機に、楽曲の方向性もガラッと変えて、ライブのパフォーマンスも今までやっていたことを全部辞めた。どうせお客さんがガクンと減ったし、これはゼロになったと思っていいだろうと。今までの自分に媚びることなく、前を向いてどんどん楽曲を作って出していった。それが案外よかったというか、バンドとしてすごくいい形になったんですよ。そんな矢先にコロナ禍になったり「有吉反省会」に出たり、本当にいろんなことが重なった。そこで僕が持ってる武器を全部使おうとして。今まで出してなかった自分の才能とか、ポテンシャルも出し惜しみしてる場合じゃないから、出せるものは全部出したろうと思って、映像にも力を入れてみました。

──命さんは自らミュージックビデオを制作するために、CGや動画編集を学び、機材もプロが使うスモークマシンを購入されたんですよね。

 そしたら、あれよあれよとお客さんが増えて、コロナ禍が明けた頃には何倍になっていたやろう? 何十倍にも増えていたよね。

影丸 ふふふ、本当にね。

 あの時期に起きたいろんなことが転機でしたね。メンバーが辞めていなかったら僕は変わってないし、あのまま自分の才能を出すこともなく、ポテンシャルも秘めたままだったと思う。「辞めてよかった」と言うのはあれですけど、逆に強くなれたというか、逆境が訪れたことによって、それをバネにしたらプラスに働きましたね。