世の中に一石を投じる開拓者!-真天地開闢集団-ジグザグの“沼”に迫る (2/3)

やりたいことやって、売れへんでいいわ

──ちなみに、僕がジグザグを知ったのは、2019年6月にリリースされたアルバム「慈愚挫愚 壱 ~大殺界~」だったんですよ。

影丸 そんな頃からですか!

 まさに転換期じゃないですか。

──そこから2020年3月に発表された2ndアルバム「慈愚挫愚 弐 ~真天地~」の収録曲「きちゅねのよめいり」で、さらにジグザグの名前をいたるところで耳にするようになって。命さんがおっしゃった通り、ジグザグの状況がどんどん好転していきましたよね。

 そうなんですよ。あの時期にガーッと上がっていった感じですね。

──何が大きかったんでしょうか?

 昔は考えすぎていたというか、策略家な部分があって。それが変に空回っていたところがあったんですけど、「今の流行りとは違うけど、この曲はめっちゃよくない? 絶対に好きな人はいるでしょ」と自分の気持ちに正直に活動するようになった感じがありますね。昔は売れようとして、すごく狙っていた。アングラはアングラらしくいなきゃいけないとか、意識しすぎていたところがあったので、それらを全部とっぱらって純粋に「いいよね」と思うことだけを信じていったのが大きかったですね。

龍矢 3人になった直後に、命さんが「自分たちのやりたいことをやって、10年後、20年後にZeppくらいの大きいところでライブができたらいいよね。そんなスタンスでやっていこうと思う」と僕たちに話してくれて。それが2、3年後に叶うんですけど。

 「申し訳ないけど……」ぐらいの感じで言ったよな。「ごめんだけど、売れよう売れようっていうスタンスを辞めてええか? もう疲れたんよ」って。音楽が好きでこの世界に来たけど、音楽の道で食っていくって厳しいじゃないですか。普通に就職して普通にがんばったほうが道は開けるだろうし、気付けば周りの友達とかも普通に会社で出世していて。そんな中、自分を俯瞰して見たとき、売れるために好みじゃないことをやったり、よくわからない努力をしたりしていて。そのうえで売れてなかったら「何をしてるの?」みたいな。別にね、不本意なことをするんやったら、サラリーマンでいい。お金もちゃんともらえるわけだから。やりたいことをやるために、この不安定な道を選んだなら、別に売れようが売れまいが関係なく、好きなことをしてるほうがハッピーじゃない?って。自分の好きなようにやった結果、それが売れないんだったら別にそれはいいじゃん、好きでやってるんだから、と。逆に、売れるために苦しい思いをして、それでも金もないし売れてもないって、そこに何の価値があるの?と思ったんです。

──どっちかにしようよと。

 やりたくないことをやって売れる。もしくは、やりたいことやって売れへん。どっちかにしようと考えたときに「じゃあ、やりたいことやって売れへんでいいわ」となったんです。それで2人に「バンドに入ったばかりであれやけど、売れることを目指すスタンスは止めて、やりたい音楽をやっていく」と言って。ちゃんと音楽ができていれば、時間がかかっても、いつか10周年とかを迎えられたときに、お祝いでちょっと大きい箱でライブをすることはできるだろうと。「自分らの作ってる音楽はいいものなんだから」って。それで今のスタンスに切り替えたら……こうなりましたね。

-真天地開闢集団-ジグザグ

-真天地開闢集団-ジグザグ

──すごくいい話ですよ。ジグザグはアルバム名にバンドの状況を付けてきましたが、ついに前作で「慈愚挫愚 四 -最高-」というタイトルを掲げるまでになって。

 「最高」というタイトルは影丸が出してくれたんですよ。

影丸 ポンと出てきましたね。

 「最高」は半分浮かれ調子じゃないですけど、苦悩みたいものがあまりにも少なさすぎて、ああいう作品になりました。リリース後にはホールツアー「全国開闢禊-最高-」を回りまして。本当にすごくいいツアーになったと思うんです。ただ、途中で僕の喉の雲行きが悪くなって、最終日は喉がボロボロだったんですよね。ライブとしてはよかったし、数字で見ても結果として成功はしたけど、「最高」というツアーのファイナルで、自分の喉が最悪という状況はすごく悔しかった。世の中はそんなに甘くないですね。最高な気持ちから現実に戻されて。それを戒めに、改めて気持ちを引き締めて今に至ります。

龍矢 僕としては、ツアーを経験してステージでの表現力が上がったと思っていて。今年は「JAPPARAPAN ~Japanese Party~」「天(ama)」の2曲を配信リリースして、各地のフェスでも演奏させてもらいました。その経験もあって、よりジグザグの世界観を去年よりも強く出せるようになったと思います。命さんと影丸さんは、ツアーファイナルで大変なこともあったんですけど、それを経たことによって、ジグザグがより強靭になったと思います。

影丸 ツアーの移動中もメンバーとごはんに行ったり、ずっと浮かれ調子だったんですけど、僕も最終日にめちゃくちゃ体調を崩して。神様に「あんた、気を引き締めや!」と言われている気がしましたね。そこで帯を締め直し、今年は去年よりもたくさんのフェスも出させていただいて、どこでも万全の状態で演奏できました。

歌メロのよさが命さんの大きな魅力

──さまざまな経験を経たジグザグが、新作EP「Gran ∞ Grace」を完成させましたが、何かコンセプトはあったのでしょうか?

 コンセプトは後付けで“平和”ですね。平和を願っている楽曲が結果的に多くなったなと思います。ひたすら「バリネギ ネギネギ」と歌ってる「バリネギ -sexy green onion-」のような、超平和な曲もあるので。

──それぞれサウンド感や個性も異なる5曲になっていますが、この多種多様な作品こそがジグザグらしさを如実に表しているように感じました。

 そうですね。狙ったわけじゃないですけど、僕は同じような曲が続くのってつまらないと思っちゃうんですよ。ほかの人の作品を聴いてるぶんには、まだいいんですけどね。やっぱり自分で作るときは、同じような曲にはしたくない。「思い切って今度はEDMを作ろう。その次はバラードかな」という感じで曲作りが進んでいきました。

──影丸さんと龍矢さんにとって、今作の中で特に印象的な楽曲はどれでしょう?

影丸 「バリネギ -sexy green onion-」のレコーディングが本当に楽しすぎて! 僕の好きな音楽の根底にThe Beatlesがいるんですけど、この曲はザ・ロックンロールなんですよね。きっと命さんの仕事にしては「バリネギ -sexy green onion-」って立ち位置的に雑なほうだと思うんですよ。

 そうやそうや、あの曲はね。

影丸 そのガチャガチャ感がすごく好きで。こういう泥臭い感じの曲をジグザグでレコーディングできたのがめっちゃ楽しかったです。

 俺も「バリネギ -sexy green onion-」は好きよ。この曲はホンマにおまけトラックぐらいの勢いで入れたんですけど、ちゃんと仕上げたときに「めっちゃいいやん!」となったんですよね。最後のハートフルな感じがハッピーやなって。もしかしたら、今回の5曲で心が一番平和になる曲はこれじゃないかな。今作の中で一番平和というテーマに合ってるのが「バリネギ -sexy green onion-」かもしれないです。

龍矢 自分的には、「Schmerz」はチャレンジした楽曲だなと思います。「E.v.e」もそうなんですけど。「Schmerz」はキーで言うと、最低音はA#なんです。ジグザグの全楽曲の中でも一番低い音を使っているんですけど、激しさが肝になっているから、ロー感を残しつつも輪郭を出すことを音作りのときにかなり意識しましたね。

──演奏も歌もどんどんスパークしていくから、曲が進むに従って「Schmerz」の世界観に没入していけました。

 ガチャガチャしていて激しいですよね。「ワー!」っていう感じの曲が作りたいなと思ったんですよ(笑)。僕はメタルを通っていて、ずっとメタルを弾いてきたから、定期的にそういう心が疼いて。

──激しい演奏なんですけど、歌のメロディがすごくきれいですよね。

 そこだけは外せない要素ですね。やっぱり歌メロがきれいじゃないと、僕自身が聴けないんですよ。

龍矢 まさに、僕がジグザグに入った理由もそこで! 歌メロのよさが僕は命さんの大きな魅力だと思っています。どれだけサウンドが激しくても、根底のメロディがすごくきれいなんです。

龍矢 -ryuya-(B)

龍矢 -ryuya-(B)

イメージしたのは90年代のヴィジュアル系サウンド

──先ほど龍矢さんが挙げられたEPのラストトラック「E.v.e」は、音も歌詞も美しさが際立ったウインターソングです。

 5曲目で急に優しい曲になるという。

龍矢 いいですよね!

──いわゆるJ-POP的なアプローチの曲ですよね。

 J-POP的ではあるんですけど、今っぽい感じではないですよね。冒頭のギターも、90年代をイメージしました。あと、昔ヴィジュアル系のポップスにもこういう楽曲があったなと思って。

──全体的にリードギターに懐かしさがありますよね。

 そうなんですよね。ヴィジュアル系と言ってはいけないラインですけど、僕はL'Arc-en-Cielが昔からめちゃくちゃ好きで。初めてバンドスコアを買ってカバーしたのが「snow drop」なんですけど、そういうリードギターの音を「E.v.e」のイントロにも入れています。でも、最初は曲の方向性をどうするか、すごく悩みました。今っぽいJ-POPのサウンドにする選択肢もありましたけど「いや、俺ららしさって違うよな」って。あくまで流行りものじゃない感じにしたかったので、最終的には90年代のヴィジュアル系サウンドをイメージしつつ、今っぽい雰囲気にブラッシュアップしました。

龍矢 僕もラルクっぽさがあるなと思いました。なのでサビのベースがルートから動いている感じが合うと思って命さんに送ったら、見事に採用してもらったのでよかったです。

 半分ぐらい採用したよね。

龍矢 そうですね、最初は「動きすぎだよ」と言われました(笑)。

 サビに毎回入っていたフレーズを分離させて、半分を1、2サビに使って。1カ所ちょっと動きすぎていたのを、ラストのサビだけにしたんよね。1サビにしては派手だなと思ったけど、最後に入れるならありだなと思って移動させました。

影丸 僕としては大苦手な楽曲でもあります! もともとテクニカルなドラムが好きで、サポートで僕を求めるバンドも手数が多いんです。逆に、歌モノのいいポップスをやるのはジグザグしかない。その中で「E.v.e」はBメロがすごくカクカクしてるというか。

 はははは。

影丸 なんか優しくない。この曲が一番苦戦しましたよね?

 そうね。よくも悪くも影丸は音ゲードラマーという感じよな。超絶ヤバい音ゲーの人っているじゃないですか。どちらかと言えばそれに近い。すごくテクニカルで「これ、どうやって叩いてんの?」とか、人智を超えたテクニックを持っている一方で、ニュアンスだけのドラムが苦手なんですよ。

影丸 そうそう! 空気を読んで叩く感じが苦手なんです。だから難しかった!

 難しいというよりは、本当にやってきてないだけやろうなって感じがする。

影丸 例えば「天(ama)」も歌モノではあるんですが、ハードなバラードなので得意なジャンルではあって。「E.v.e」とか「ラスデイ ラバー」のような優しいポップスは、演奏していて楽しいんですけど難しいです。