スカート「20/20」特集 澤部渡×藤井隆|世代を超えて交わる2つの個性

僕にとって藤井さんはアイドル

──そう言えば、澤部さんは藤井さんのニューアルバム「light showers」に「踊りたい」という曲を提供していますね(参照:藤井隆「light showers」特集 藤井隆×冨田謙インタビュー|冨田塾生が考える1990年代の音楽)。

澤部 あの曲を書くときは、Stock Aitken Waterman関連のものとか1990年代のリファレンス音源をめちゃくちゃいただいて。すごい膨大な量でした。あと、僕が歌詞に悩んだときに「どうしましょう?」みたいな相談のメールを藤井さんサイドに送ったんです。そうしたら「カメリアダイヤモンドのCMを観てください」って返事がきました(笑)。

藤井 あの曲でプロデューサーの冨田謙さんとお話ししたのは、クラブじゃなくてディスコのイメージでした。僕、日本じゃなくてオランダの田舎で初めてディスコに行ったんです。木の床で狭い場所におじさんもおばさんもいたし、若い子もいるんですけど、本当に踊りたい人たちもいれば、ただ音楽を聴きに来てる人たちもいて。その風景をすごい覚えてたので、それを冨田さんにお伝えしました。あと、RHYMESTERの宇多丸さんからも「SLENDERIE RECORD(藤井隆主宰のレーベル)はダンスナンバーのレーベルに特化したほうがいいですよ」っていうアイデアをいただいたので、それも守りたかった。でも、「ディスコの真ん中に行って踊ってるような人の歌ではあんまりないほうがいいです」と。

左から澤部渡、藤井隆。

──だから「踊ろう」ではなく「踊りたい」。澤部さんはそんなエピソードは知らずに藤井さんの意を汲んだタイトルにしていたんですね。

澤部 そうそう。もうこれしかないだろと思って付けました。

藤井 すごい汲み取ってくださった気がしました。

澤部 藤井さんに曲を書くっていうプレッシャーはすごかったです。僕にとって藤井さんは本当にアイドルなんです。僕、藤井さんの作品の中で「わたしの青い空」のMVが大好きで。この世のMVで一番は「わたしの青い空」か、Talking Headsの「Once in a Lifetime」のどっちかだっていうぐらい好きなんです。

藤井 光栄です!

澤部 だから曲を書くときは本当に悩んで、特に歌詞は苦労しました。でも、そこは本当にカメリアダイヤモンドのCMを観て打開したんです。自分にとっての90年代感って歌詞でなんだろうって思って、「あ、そうか。日本語と英語を混ぜればいいんだ」と思って、「愚かなWait and see」っていうフレーズがようやくできたりして。それはやっぱりカメリアダイヤモンドのCMを観たことがでかいと思いますね。

藤井 アルバムの発売に合わせて“どこかで見たことあるCM風”映像って言うのを、各曲に合わせて作ったんですけど、結果的に「踊りたい」はアイスクリームのコマーシャルになりました。シュガーレスアイスのね。

澤部 「シュガーレスだ!」と思って、うれしかったです(笑)。あとジャンパーが似合うのはアイスですよね。CMの最後の「ジャンパー当たる」っていうところ、最高でした。

10年くらい前に中野で

──この場を借りて、お二人に話してほしいテーマがあるんです。お二人共世代は違いますが、実は好きな音楽やルーツとしているアーティストがわりと近いですよね?

澤部 藤井さんが最初に買ったレコードが戸川純さんで、初めて観に行ったライブが大貫妙子さんだとか、少なからずシンパシーを抱く部分があるんですよね。

藤井 こうやって澤部さんが僕の音楽遍歴について聞いてくれると「そうやねん。そのあとはこういう人たちやねんけど」って話が弾むんですよね。その時間は楽しいですけど、でも世間はそうじゃない人のほうがきっと多いから、そういう意味では、澤部さんも生きづらかったやろうなと思って(笑)。でも我々が自信を持たないといけないのは、そういう音楽をローティーンなりハイティーンのときにキャッチできたアンテナっていうのは良質なものだということ。それは間違いないはずなんですよ。あのときアイドルのコンサートよりもジョディ・ワトリーを選んでたアンテナっていうのは……。

澤部 一生もの。

藤井 そう。一生もの。澤部さんもそれはもうお気付きだし、別にこれが一般的ではないこともわかってるから、僕からあえて言うことはないです。だからこういう話でキャッキャできる人がいてくれると僕にとってはうれしいですよね。初めて買ったアルバムの話をわくわくして聞いてくれるような関係なんです。でも「魚は食べれません」って言われたら「食べなさいよ!」って先輩風を吹かせますけどね。

澤部 食べてみたら、意外と魚もいけるんだなと思いました。

藤井 「おいしいのは食べられます」って言ってました(笑)。

澤部 そういえば10年くらい前に中野のレコード屋さんで、探していたキリンジの「エイリアンズ」の10inchレコードを買った帰り道にふらっと寄ったお店で、たまたま藤井隆さんもご飯を食べていた、ということがあったんです。

藤井 (びっくりして)中野でしょ? 僕、中野でごはんって本当にないんですよ。でも1回だけ覚えてる。リンガーハットのちゃんぽんやろ?

澤部 そうですそうです!

藤井 「リンガーハットのちゃんぽんがおいしい」っていうのを聞いてて、リンガーハットでちゃんぽんを食べて、隣にあるおせんべい屋さんでせんべいを買った(笑)。ロケバスで、ドライバーさんが仲いいから「すいません!」ってわがまま言って停めてもらって行ったのは、すっごい覚えてるんですよ。

左から澤部渡、藤井隆。

──じゃあ、すでにそのとき出会ってたんですね!

澤部 一方的ですけど(笑)。でも、「何か運命めいたものがあるな」ってそのとき思ってたんですよ。

藤井 しかも買ったレコードが「エイリアンズ」ですもんね。僕も「エイリアンズ」大好きですから。

澤部 いつかお伝えしようと思ってました。

藤井 笑っちゃいますね。

澤部 しかも、それを覚えてらっしゃるっていうのがね。

藤井 仕事中の食事なんて、ほとんどの場合は覚えてないんですよ。でも、その中野の駅前のリンガーハットは覚えてるんです。

──中野のリンガーハットで遭遇するという奇跡(笑)。その2人がこうやって今この場で対談したり写真撮ったり、お互いの音楽に触れ合ったりしてるっていうのは、本当に運命的ですね。

藤井 私が言うのもおこがましいですが、メジャーの1枚目は澤部さんにとってもご褒美で、2枚目、3枚目と、これから澤部さんが試されてしまうことがくると思うんですけど、絶対に勝てると私は思ってますので。これからもファンの1人として楽しみにしてます。

澤部 ありがとうございます、うれしいです。

藤井 そして、澤部さんがどんなになっても、これからも「Youth Banquet!!!」に関しては、ご出演をお願いすると思いますので。

澤部 もちろんです。楽しみにしています!

スカート「20/20」
2017年10月18日発売 / ポニーキャニオン
スカート「20/20」

[CD]
2808円 / PCCA-4583

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収録曲
  1. 離れて暮らす二人のために
  2. 視界良好
  3. パラシュート
  4. 手の鳴る方へ急げ
  5. オータムリーヴス
  6. わたしのまち
  7. さよなら!さよなら!
  8. 私の好きな青
  9. ランプトン
  10. 魔女
  11. 静かな夜がいい
藤井隆「light showers」
2017年9月13日発売 / SLENDERIE RECORD
藤井隆「light showers」

[CD]
3000円 / YRCN-95284

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収録曲
  1. Going back to myself~再生のリズム~
  2. mode in the end
  3. DARK NIGHT
  4. AIR LOVER
  5. 守ってみたい
  6. くちばしは黄色
  7. 踊りたい
  8. カサノバとエンジェル
  9. ドライバー
  10. プラスティック・スター
スカート
スカート
シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。昭和音楽大学卒業時よりスカート名義での音楽活動を始め、2010年12月に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタントに制作し、2014年12月にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2016年4月にはカクバリズムよりオリジナルアルバム「CALL」、11月には初のCDシングル「静かな夜がいい」を発売した。2017年8月にはロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たす。同年10月、ポニーキャニオンよりメジャーデビューアルバム「20/20」をリリースした。澤部はスカートでの活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務める。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずには正式メンバーとして所属している。
藤井隆(フジイタカシ)
藤井隆
1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」から発表。2016年8月には早見優21年ぶりの新作「Delicacy of Love」のプロデュースを担当した。2017年7月には藤井隆の楽曲を多彩なクリエイターがリミックスしたアルバム「RE:WIND」、9月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「light showers」をリリースしている。