澤部くんは顔
──でもそこで澤部くんも巻き込まれてみようと思えるのは、たぶん、藤井さんなら受け止めてくれてるっていう気持ちを感じてたからでは?
澤部 そうですね。自分だったら絶対リミッターをかけてやらないことを、ステージで藤井さんに何か振られるとそのリミッターが外れるんですよ。
藤井 「Youth Banquet!!!」でミッシェルさんがステージの写真を撮ってくれてるんですけど、澤部さん、本当にフォトジェニックなんですよね。ズルいんですよね(笑)。
──それこそMVにちらっと出てるだけで目を奪われたわけですもんね。
藤井 目の強さって言うか。人の心を鷲づかみにする顔をしてるんです。澤部さんの音楽に惹かれているのはもちろんですし、それこそファンの方は僕が言わなくてもわかっていらっしゃると思いますけど、僕たちみたいな後追いの人間も心を鷲づかみにしているのは、フォトジェニックなルックスの部分だと思います。
澤部 ありがたいですね。
──さっきから褒められっぱなしで、澤部さんは笑いっぱなしですね。
澤部 いやあ、恐縮しきってます(笑)。
──澤部くんとしては自分の見せ方を考える部分もあるんですか?
澤部 一時期は見た目がこんな感じだからこそ、音楽が入っていかないジレンマみたいなのはありましたよね(笑)。「耳に入ってないんじゃないか?」みたいなね。
藤井 そうなんや。そんなことないと思う。相乗効果しかないですよ。
澤部 藤井さんたちと一緒にやるようになって「あ、そうか。やっぱこの見た目も1つの武器だな」って再確認した部分はありました。
藤井 最高でしょ。僕は、澤部くんは顔やと思う。本当にそう思います。歌ってるときの顔はやっぱりすごく素敵ですし、悲しい顔されたらこっちまで本当に悲しくなるし、楽しそうならすごい楽しくなる。それって絶対的な武器だし、宝物だと思うし、ファンの方はきっとすごいそれを楽しみにされてると思うんですよね。
澤部 ありがとうございます。
──物販で売っているスカートのTシャツはかわいいイラストのものがいっぱいあってそれぞれ人気が高かったんですが、最近は澤部さんの顔が描かれたTシャツが特に人気でした。
藤井 やっぱり、あれですよね。
澤部 あのTシャツが売れたのも1つの転換期でした。作ったときは「絶対売れないだろ」と思ってたんですよ(笑)。だから最初は極端に少ない数で発注したんです。そしたらそれが妙に売れたっていう。
藤井 あれは取り合いになるでしょ。
澤部 あんな着づらいものを?(笑)
藤井 それと澤部さんは、歯もすごくいいんですよね。謙虚な歯してません? 口から出てくる歯の面積がすっごい品があって好きです。あと白目。とにかく目力がすごい強い。
澤部 目はたまに言われるんですけど、歯は初めて言われました(笑)。
いい意味で置いてけぼりになった「20/20」
──スカートの新作「20/20」を聴いて藤井さんはどういう印象を持ちましたか?
藤井 まず最初に1つ聞きたいんですけど、そもそも「20/20」ってどういう意味ですか?
澤部 これはアメリカの視力検査の単位で、日本で言うところの1.0ぐらいを示すらしくて。そこから転じてスラング的な感じで「よく見える」という意味があるそうなんです。
藤井 つまり“視界良好”なんですね。
澤部 そうなんですよ。
藤井 僕は、どちらかと言うと移動中とか、景色が動いてる中で音楽聴くほうが好きなんです。たまにお部屋で聴くほうが好きなみたいな曲もありますけど、今回の「20/20」は断然外で聴くほうが好きな1枚です。それと今回「20/20」を聴いていて、すごく口笛を吹きたくなる感じがしました。CDを聴きながら一緒に歌いたくなるのではなくて、要するに澤部さんのボーカルを聴いていたいってことだと思うんですよね。あと、これは本当にいい意味で、今回のアルバムで置いてけぼりになったと言うか、澤部さんが全部をくれない気がしたんですね。
──お預けをされたような感じですか?
藤井 1曲1曲、一生懸命ラッピングしてくれているんですよ。何回かやり直したりとか、テープをかわいいのに替えてみたりとか、いろいろしてくれてるんですけど、結局最後「リボンしてくれてないよね?」みたいな印象なんです。「なんでやろう?」と思って、よくよく聴いたら、曲の分数がすごい短い。それも1つの理由かなと思いました。
澤部 曲の短さっていうのは、自分の中ではすごく重要なテーマでもあって。僕が小、中学生だった2000年頃はすごく長い曲が多い印象があって、「もっとシンプルにできるだろ」みたいな気持ちがずっとあったし、時間をかければかけるほど伝わるってわけじゃないだろって思っていて。5分かけて全部与えるより、3分の曲で余白がしっかりあるほうが、僕は絶対いいと思うんですよ。だから藤井さんにそう言っていただけるのはうれしいです。
藤井 そうか、余白って言えばよかったんですね。それってすごく面白いなと思いました。こんなに丁寧にやってるのに最後の最後でリボンを巻いてくれない。そうされたら、こっちは「えー!?」てなって、追いかけたくなる。それは魅力にしかならないんです。
澤部 うれしいなあ。
藤井 あと、今回のアルバムは、小さい「っ」がいっぱい聴こえてくるんですよ。それもすごい好きなとこかな。
──歌詞の癖みたいなものですか?
藤井 歌い方ですね。
澤部 めちゃくちゃ細かく聴いてくださって、ありがとうございます。
藤井 ちっちゃい「っ」がいっぱい入るのって、スタッカートってことなのかな? 別に切って歌ってるからとかじゃないんですけど、ちっちゃい「っ」がいっぱい増えてて、そこがしみじみかわいいなって思うのかもしれない。「ワー!」って歌うんじゃなくて、沸々としたものを感じる効果はあるのかもしれません。
どこかで異物感を演出してる
──新作ではわりと澤部くんの歌唱が少し変わった印象もあるんです。声を張り上げるタイプの曲がわりと少なくなって、ちょっと落ち着いた歌い方になっている。
藤井 それはどういう思いから?
澤部 前だったらアルバムに1曲ぐらいはわりと激しい曲、かなぐり捨てるように歌う曲とかがあったんです。今回もそういう曲も作っていたんですけど、なんか違う気がして外してしまったんですよね。それがなんでなのかっていうのがいまだに自分でも見えてない部分があるんですけど。
藤井 メジャーデビューするという意識もあったのかな?
澤部 いや、そういうわけではないんですよ。もともとこのアルバムはカクバリズムから出すつもりで録っていて。作業中にポニーキャニオンさんからお話をいただいたんです。むしろスタッフや僕が「メジャーで、こんなに地味なアルバムでいいの?」って、ワタワタしたっていう。
──藤井さんは今回のアルバムでスカートの変化は感じられました?
藤井 僕は、澤部さんに限らずなんですけど、好きな歌手の人のアルバムを聴くときに前の作品と比べるようなことはあんまりしないんですよね。
──むしろ1個1個の作品にフォーカスしていくのが好きなタイプ?
藤井 はい。で、今回は特に今日澤部さんとお話もできるから、「なんでスカートを好きなんやろ」っていうのをずっと考えながら、一昨日、昨日と新作を聴いてました。それで感じたのが、先ほど申し上げた、ラッピングの最後のミステリーと、曲の短さと、ちっちゃい「っ」がいっぱい入ってる感じ。そこがすごく好きだなと思いました。
──「ラッピングしていない」っていう指摘は、僕もスカートの曲の1つのヒントとしてどこか当たってるような気がしますね。
澤部 確かに、自分でも腑に落ちるところがあります。あまり親切に曲を書けるタイプじゃないという自覚はちょっとあるし。例えば1番と2番はまったく同じメロディを繰り返すっていうのが構造としては親切だと思うんですけど、そういうところを少しいじることが多いんですよね。どこかで異物感みたいなのを自分で演出してる節はあるんですよ。
藤井 でも、もともとのお人柄のよさって言うか、臆病さと言うか、こう言うのおこがましいですけど(笑)、ちゃんときちんとパッケージしようとしてくださってるとは思いますけどね。で、メッセージカードも用意して書いてくれてるけど、封筒の中に入ってなくて「え!?」みたいな、そういう感じがあるんですよ。
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僕にとって藤井さんはアイドル
- スカート「20/20」
- 2017年10月18日発売 / ポニーキャニオン
-
[CD]
2808円 / PCCA-4583
- 収録曲
-
- 離れて暮らす二人のために
- 視界良好
- パラシュート
- 手の鳴る方へ急げ
- オータムリーヴス
- わたしのまち
- さよなら!さよなら!
- 私の好きな青
- ランプトン
- 魔女
- 静かな夜がいい
- 藤井隆「light showers」
- 2017年9月13日発売 / SLENDERIE RECORD
-
[CD]
3000円 / YRCN-95284
- 収録曲
-
- Going back to myself~再生のリズム~
- mode in the end
- DARK NIGHT
- AIR LOVER
- 守ってみたい
- くちばしは黄色
- 踊りたい
- カサノバとエンジェル
- ドライバー
- プラスティック・スター
- スカート
- シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。昭和音楽大学卒業時よりスカート名義での音楽活動を始め、2010年12月に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタントに制作し、2014年12月にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2016年4月にはカクバリズムよりオリジナルアルバム「CALL」、11月には初のCDシングル「静かな夜がいい」を発売した。2017年8月にはロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たす。同年10月、ポニーキャニオンよりメジャーデビューアルバム「20/20」をリリースした。澤部はスカートでの活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務める。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずには正式メンバーとして所属している。
- 藤井隆(フジイタカシ)
- 1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」から発表。2016年8月には早見優21年ぶりの新作「Delicacy of Love」のプロデュースを担当した。2017年7月には藤井隆の楽曲を多彩なクリエイターがリミックスしたアルバム「RE:WIND」、9月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「light showers」をリリースしている。