音楽ナタリー Power Push - siraph
アニメ「Bloodivores」が拡げたバンドの音と世界
2人の音使いに導かれるままに詞を書いている
──逆にsiraphでの活動が、ご自身の別のプロジェクトに還元されることってありますか?
Annabel 私はたくさんあります。拍子に関してもそうですけど、siraphで歌うときは求められる技術的な水準がすごく高いので。あと、メンバー全員が大きな音をガンガン出すんですよ。
照井 そうですか?
Annabel そんなことないですか?
照井 まあ、バンド出身だからスタジオではでかい音を出しちゃってるのかも。
Annabel 例えばスタジオミュージシャンの方のサポートでライブをすると、自分の歌が中心の音作りをするのですが、siraphのメンバーは音でどんどん主張してくるので、その中でボーカリストとして存在感を出すにはどうしたらいいか、みたいな点でも鍛えられていると思います。そう考えると、「quit squall」に限って言えば、ソロ名義のときの歌い方に近いアプローチで入ったかもしれませんね。今おっしゃったように隙間の多い、比較的音数の少ない曲なので。
──その「quiet squall」の歌詞を見て「わ、全部英語だ。すげえ」ってなりました。
Annabel いや、実は私は英語は全然ダメで(笑)。これは私が日本語で書いた歌詞を英訳してもらっています。歌詞の内容としては、子供の頃に見た夏の情景とかをセンチメンタルに思い出してる人の歌です。
──そのモチーフはどこから? 先ほどのお話だと、そこまでアニメに寄り添わなくてもよかったとのことでしたが。
Annabel とはいえ、まったく作品とリンクしないのも不誠実というか、違うだろうな、と。なので、私も原作を読んだうえで、そこに自分の気持ちを重ねて詞を書いていきました。あとsiraphは曲先なんですけど、基本的には照井さんと蓮尾さんが編曲した“音の色”みたいなものから詞のイメージが湧くことが多いです。
──あ、曲先って、ただメロディだけを渡されるのではなくて、ある程度ヘッドアレンジができあがった状態でデモが届くんですか?
Annabel はい。2人共風景が見えるような、映像的な音使いをするので、それに導かれるままに書く感じです。
一聴して「なんかわかんないけどすげー」と思われたい
──2曲目の「dilatant」は、これ僕は初めて見た単語なんですけど……。
蓮尾・照井・山崎・山下 僕もです(笑)。
──で、辞書を引くと日本語で「膨張」と。この曲の作曲は照井さんですが、わりとコアな作り方をしてらっしゃいますよね。誤解を恐れずに言えば、必ずしもメジャー志向の音ではない。
照井 そうですね。「quiet squall」が、 2番以降にsiraphらしさが出ているとはいえ、従来の路線とは少し毛色の違う曲になっているので、「dilatant」ではsiraphの攻撃的な部分や音の情報密度が濃い感じを素直に出したというか。ただ、この曲にもちょっとジャズっぽい要素を入れて、「quiet squall」とある程度カラーをそろえるというか、かけ離れたものにならないように工夫しました。
──ミニマル的なギターの反復フレーズのバックで山下さんのポリリズミックなドラムが暴れ回るという、おっしゃる通り攻撃性も音の密度も増した曲になっています。
山下 ドラムはレコーディングのときに、照井さんに「こういう感じで」ってディレクションしてもらって。でも、説明されてもわかんなかったんですけど。
一同 (笑)。
──逆にすごいですね。「わからないのになんであんなカッコいいドラムが叩けるの?」っていう。
山下 平歌のパートはさすがにわかるんですけど、キメとか、ちょっとポリリズムっぽい感じとかは、レコーディングが終わって完成形を聴いて、「あ、そういうことか」「こういう感じになるんだ」って(笑)。
照井 今回はレコーディングまでに完璧なアレンジを用意できなかったので、当日に話し合いながらやっていくような形になってしまって。山崎さんのベースもそうなんですけど。
山崎 でも、照井くんはある程度ちゃんとしたアレンジを持ってきてくれるんで、それを自分なりに変えたほうがよさそうなところは変えたり、あるいは「ここは完全にリフだな」ってところは、やっぱり「これ、難しいなあ……」とかいろいろ試行錯誤しつつ正確に音を拾うようにして(笑)。結果、うまいこと自分の納得できるラインに仕上げられたかなと。
──作曲面においても、ミニアルバムを経てメンバーのプレイスタイルがわかってきたことが影響している?
照井 今回はまさしくそうだと思います。山崎さんはすごく難しいフレーズもサクッと弾けるので、「ここは思い切りウネウネしてもらおう」とか、個々人のいいところを引き出そうと。僕は大枠のフレーズだけ作って、例えば展開の変わり目とか、人間らしい変化が必要な部分は山崎さんにアレンジしてもらったり、もちろん大枠の部分でも、よりよくなる方向を一緒に探るような感じでやりましたね。
山崎 そうだね。
照井 あと、作曲面でもう1つ付け加えると、わかりやすいsiraphらしさを出したいなと。つまり、音楽に詳しい人だけがわかるとかじゃなくて、一聴して「なんかわかんないけどすげー」と思われたい。それがリスナーの層を広げるということだと思うので。
Annabelさんの声、超いいよね!
──先ほどAnnabelさんは、siraphではバンドの音が鳴りまくっている状況で歌わないといけないと話されてれましたが、Annabelさんご自身も、ボーカルをサウンドの一部として捉えてらっしゃるのかなと。
Annabel そうですね、完全に。「Annabel」名義のときはもちろんボーカルメインで、「私を聴いて!」って感じなんですけど、siraphでは曲の中に組み込まれている1ピースとして機能したいと思ってます。
──作曲する側もそれを意識してるんですか?
Annabel それはたぶんないですよね?
照井 ないと思います。……いや、どうだろうな。「なきにしもあらず」くらいで(笑)。フレーズとしては技巧的だったりするときもあるんですけど、Annabelさんの声って、息遣いとかがすごく人間らしいというか、人間味があって魅力的だと思うので、そういうところは生かしたいなと思ってます。
山崎 ほんとAnnabelさんの声は、なんかね、「超いいよね!」って思うときがあるんですよ。息の混じり具合が「おおお~!」ってなります。
照井 小学生みたいな感想(笑)。
──プロミュージシャンのボーカル評とは思えない(笑)。
山下 でも本当に、Annabelさんみたくまっすぐ声が出せる人ってあんまりいないと思うので、すげえなって。
Annabel ありがとうございます。
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- 1stシングル「quiet squall」2016年12月21日発売 / 1404円 / NBCユニバーサル・エンターテイメント / GNCA-0448
- 「quiet squall」
- Amazon.co.jp
収録曲
- quiet squall
- dilatant
- leap
- quiet squall(instrumental)
- dilatant(instrumental)
- leap(instrumental)
siraph live information
- 照井順政生誕祭
- 2017年1月19日(木)東京都 WWW
<出演者>
siraph / sora tob sakana / ハイスイノナサ
- 青春の始末 後夜祭 day3
- 2017年1月27日(金)東京都 Zirco Tokyo
<出演者>
siraph / 感傷ベクトル
siraph(シラフ)
ソロシンガーとしても活動するAnnabel、元School Food Punishmentの蓮尾理之(Key)と山崎英明(B)、ハイスイノナサの照井順政(G)、MOP of HEADやAlaska Jamで活動する山下賢(Dr)からなる5人組ロックバンド。楽器隊がAnnabelのソロ活動のサポートを務めたことが縁で2016年に結成し、首都圏を中心にライブ活動を展開する傍ら、同年5月にセルフタイトルのミニアルバムを発表した。そして12月、テレビアニメ「Bloodivores」のエンディングテーマ曲を含むメジャーデビューシングル「quiet squall」をリリースする。