音楽ナタリー Power Push - siraph

アニメ「Bloodivores」が拡げたバンドの音と世界

ドロドロした重い女の曲からの、軽やかな草食系の曲

──「dilatant」の歌詞はどのような着想から? 曲調と相まって、怨念めいたものが渦巻いている感じですが。

Annabel 私は、照井さんの作る曲からはわりと女性的なイメージが浮かぶことが多いんですよ。「dilatant」からは女性の持つドロドロした部分というか、もう帰って来ない人を待っている女性の……なんていうんですかね、メンヘラ的な感じ?(笑)

──その表現は誤解を招く気がします(笑)。女性の未練や執着みたいなもの?

Annabel そう! そういうものがどんどん膨らんでいくようなイメージです。逆に、蓮尾さんの曲からは、照井さんの場合とは正反対の発想が生まれることが多くて。なので3曲目の「leap」は「マジ恋人とかいらねーし」みたいな。

一同 (笑)。

Annabel 「1人で生きていけるし」みたいなサバサバした感じ。いわゆる草食系じゃないですけど、恋愛中心の世の中に飽き飽きしている人の気持ちになって書きました。

照井 曲調も、重めの「dilatant」と、軽やかで開けてるっていう感じの「leap」っていう対比があって。

──「leap」は3曲の中で際立ってキャッチーな音作りをされていますね。

蓮尾理之(Key)

蓮尾 僕の作曲なんですけど、3曲入りのシングルを出そうってなったときに、当初は3曲ともA面にするくらいの意気込みだったんですよ。でも、ほかの2曲ができあがってくるにつれて、「leap」は思い切りカップリング指向、A面っぽくない曲にしたほうがいい塩梅に収まるんじゃないかと思い直して。キャッチーではあるけれど、ものすごく主張するような曲ではなくしようと意識して作った曲ですね。

照井 「leap」のおかげで救われる1枚になったよね。それまでが重かっただけに。

──ほんとにそうですよね。最初の2曲を聴いたあとの「leap」の抜け具合は非常に気持ちいいですし、同時に最初の2曲を聴いたことで「leap」は「あ、この人たちはわざと抜けのいい曲をやってるんだ」と、リスナーをエンタテインしにきてることがわかる。だからパッケージとしても収まりがいいんでしょうね。

蓮尾 ありがとうございます。

思いついたらすぐ録って、すぐ出す

──それでいて、このシングル1枚でsiraphらしさみたいなものが拡張されている気がします。

Annabel もともとsiraphにはあまり制限を設けないようにしているんですね。「current mood」っていう、自主制作のシングルをリリースするシリーズがあるんですけど、これは文字通り「今の気分」で、思いついたものをすぐに宅録して、すぐに出しちゃうっていう。そういうふうにこれからも思いついたアイデアをとりあえず試してみて、うまくハマったらどんどんsiraphに取り入れていくような形で、またらしさが広がっていくんじゃないかなと思います。

照井順政(G)

照井 僕には、例えばある音楽に影響受けたとしても、バンドでやるときはそれを自分なりにきちんと消化したうえでアウトプットしなきゃいけないっていう、呪いみたいなのがずっとあったんですよ。でも「current mood」で、いいと思ったものをすぐ音に出すっていうのをやってみたらけっこう楽しいし、なんか、視界が開けた気がしましたね。

──思いついた! 録った! 出した!ってフットワークの軽さが半端ないですね。それぞれ別のプロジェクトをお持ちの方々が集まったバンドとは思えないし、周りもよくそれを許すなって。

照井 やっぱり、今は音楽活動の仕方自体にも独自性を出さないといけないのかなと。定期的にライブを映像配信をしている「siraph TV」っていう番組もその一環なんですけど。

──「siraph TV」は、特に地方のファンの方にはうれしいプログラムでしょうね。

Annabel きっかけはまさにそれで、現時点では東京を中心に活動せざるを得ないし、でもファンのみなさんは全国にいらっしゃるので、じゃあどうしよう?と思ったときに、配信かなと。

来年は、今年以上にガンガン曲を作りたい

──最後に今後の活動について、これからsiraphをどうしていきたいですか?

照井 僕の中でのsiraphというバンドの捉え方って変わり続けていて、このシングルを作ってみてまた変わった部分もあるんですよ。なので、今の感じとしては、もっと大らかな曲を書きたいですね。僕がsiraphと並行してやってるハイスイノナサは音楽的にストイックというか、「誰もやったことのないことをやるんだ」みたいなのがモチベーションになってて、今まではその要素をsiraphにも持ち込みがちだったんですよ。でも、siraphはそれとは別の方向で、この5人に合った面白いものができるんじゃないかと思ってるんで。

蓮尾 僕は曲作りでは、たぶん半ば無意識的に、わりとカチカチした、几帳面なところが出ちゃうんですよ。だからもっとラフな、曲線的な曲を作りたいなと。まあ、カチカチしてるのが僕の個性かもしれないんですけど、例えば照井くんの曲って、ライブで何度もやっていくうちにどんどん体になじんでく感覚があるので、そういう肉体的な曲も目指したいというのが個人的な目標ですね。

Annabel メンバーとも話してるんですけど、来年は、今年以上にガンガン曲を作りたいです。私は曲ができるたびに、ファンみたいな気持ちで「うわ、メッチャいい曲きた!」って楽しくなっちゃうんですよ。自分の中では今のところハズレ曲がなくて……まあ、あったらマズいんですけど(笑)。

──山下さんは?

山下賢(Dr)

山下 そうですね、やっぱり、ガンガン曲を……。

山崎 まんまパクった(笑)。

Annabel 泥棒だー(笑)。

山下 ……というのもありつつ、さっき照井さんが言ったように、リスナーさんに対する間口を広げるようなことをやっていけたらいいかなと。ただ、それがいったいなんなのか……。

一同 (笑)。

照井 これから見つけていきたいね。

山崎 たぶん照井くんも蓮尾くんも、いろんなタイプな曲をこれからも作って、あっちに行ったりこっちに行ったりするんだと思うんですよ。その中で、例えばAnnabelさんはAnnabelさんの歌を貫き通すでしょうし、じゃあ僕は僕で、どんな曲がきても、自分らしく、カッコよくベースを弾けたらいいなと。

Annabel 実際、何がきても山崎ベースになるんですよね。そこがすごいんですよ。

山崎 そこはやっぱり維持したいんですよね。というか、そこを期待されなくなったらこのバンドにいる意味がないんで、がんばります。

siraph
1stシングル「quiet squall」2016年12月21日発売 / 1404円 / NBCユニバーサル・エンターテイメント / GNCA-0448
「quiet squall」
Amazon.co.jp
収録曲
  1. quiet squall
  2. dilatant
  3. leap
  4. quiet squall(instrumental)
  5. dilatant(instrumental)
  6. leap(instrumental)
siraph live information
照井順政生誕祭
2017年1月19日(木)東京都 WWW
<出演者>
siraph / sora tob sakana / ハイスイノナサ
青春の始末 後夜祭 day3
2017年1月27日(金)東京都 Zirco Tokyo
<出演者>
siraph / 感傷ベクトル
siraph(シラフ)

ソロシンガーとしても活動するAnnabel、元School Food Punishmentの蓮尾理之(Key)と山崎英明(B)、ハイスイノナサの照井順政(G)、MOP of HEADやAlaska Jamで活動する山下賢(Dr)からなる5人組ロックバンド。楽器隊がAnnabelのソロ活動のサポートを務めたことが縁で2016年に結成し、首都圏を中心にライブ活動を展開する傍ら、同年5月にセルフタイトルのミニアルバムを発表した。そして12月、テレビアニメ「Bloodivores」のエンディングテーマ曲を含むメジャーデビューシングル「quiet squall」をリリースする。