シド「Dark side」インタビュー|闇の側面を浮き彫りに、結成22年目の挑戦 (2/2)

ゆうやが「記憶の海」「悪趣味」で表現したダークサイド

──ゆうやさんは今回のEPでは「記憶の海」と「悪趣味」の2曲を作曲されています。

ゆうや どちらもライブを意識して作りました。自然と体が動くようなリズムと、お客さんに「ここで腕を上げるんだな」「手拍子をするんだな」と盛り上がり方をわかりやすく提示できる曲にしたいと思って書きましたね。

──「記憶の海」はサウンド全体に重厚感がありますが、サビでは黒い雲に一筋の光が差し込むような光と影のコントラストのイメージや、メロディの爽快感など、ダークの中にさまざまなレイヤーを感じました。

ゆうや そうですね! サビでパーッと音が広がる感じはあるんですけど、明るくなりきらないところがすごくいいなと思っていて。すっと光が入ってくる感じが、曲全体の構成としても面白い。ドラムはずっと四分音符のキックを踏んでいる中、ローを支えてくれるうねるようなベース、そしてリズム隊とは全然違うところで鳴ってるジャキジャキしたギターのバランスがお気に入りです。

ゆうや(Dr)

ゆうや(Dr)

──「悪趣味」はどんなイメージで作曲されたのでしょうか?

ゆうや これもライブを意識して作りました。音源にはカウントが入っていないですけど、ライブになったら“シャンシャンシャン、ダダ!”といきなりキメで始まって、ボーカルも最初から出てくる。Aメロの時点でお客さんが乗りやすいし、そこからバンドインしてドカンとイントロが始まるのがいいですね。

──まさに始まりから没入感がありました。

ゆうや 最初からトップスピードなんですよね。Aメロの段階でしっかりお客さんを乗せられる構成になっているからこそ、ライブで演奏してる画が想像しやすかったです。

──サビ前の間の作り方も、ドラマチックで心惹かれました。

ゆうや 流れはけっこう考えたんですよ。俺は演奏を裸にするのが好きというか、サビ前で空白が欲しくなるんです。間があることで、サビの勢いが増す気がするから。あと、この曲は疾走感も大きな要素ですけど、バンドの演奏からちょっと離れたところに入れたシーケンスのキラキラ感がよくて。楽曲が持つダークな色味と反対側にある感じがするんですよね。夜で真っ暗なんだけど、ちょっと星があるみたいな。光が遠くにあるからこそ、とてもいい味を出してる。バンドのサウンドはかなり熱い感じですけど、それをいい意味で中和してくれるシーケンスが入ってくれていて、そこも個人的には推しポイントです。

マオが「悪趣味」で描いた官能

──マオさんは「記憶の海」と「悪趣味」について、どんなことを考えて歌詞を書かれたのでしょうか?

マオ 「記憶の海」は「真夜中を待って 虚ろな 白昼夢」というフレーズがあるように、一定の場所で主人公がずっと彷徨っている歌詞なんです。シドのほかの曲の歌詞はいろんな感情の変化があったり、場面が切り替わったり、物理的な移動があったりとか、さまざまな展開をしていくんですけど、これに関しては白昼夢の中での出来事だけを描いている。主人公はずっと同じところにいて、頭の中だけで繰り広げられている闇の世界を表現したいと考えました。

──マオさんは1曲の中で場面が切り替わる、物語性の高い楽曲も数多く書かれてきましたが、この曲はひたすら主人公が苦しみ葛藤する様子を解像度高く書かれているのが印象的です。

マオ 人はみんな劇的な毎日を送ってるわけじゃなくて、1日中部屋の中で病んで過ごす人もいるだろうし、病んでなくとも考え込んでいるだけの時期もあると思うんです。そういう状況を自分に重ねながら形にしていきました。

マオ(Vo)

マオ(Vo)

──先ほど「記憶の海」を書いてるときは「心を消耗した」と話されていましたが、どんな精神状態だったのでしょうか?

マオ 自分がいる世界よりも、もっと深い闇に飲み込まれてる主人公をイメージして曲を書いていました。自分が行ったことのない世界まで引っ張られそうになるぐらい、つらい気持ちになっていましたね。

──「悪趣味」は何をイメージされて書かれましたか?

マオ ひと言で言えば、男女のダークで官能的な世界を描いているんですけど、あまりに平易なのは嫌だなと思っていて。

──ええ。

マオ 今って、ショート動画とか短くてわかりやすい音楽や映像が流行ってるじゃないですか。

──TikTokはその象徴ですよね。

マオ その日だけとか、その時間だけとか、短い時間でいろんなものを消費していく時代だと思うんです。俺は自分なりに言葉を噛み締めて、わかりづらいものを楽しむことが好きだったりするので、そのよさをファンのみんなにも伝えたかった。歌詞もぱっと理解できる部分と理解できない部分があってもいいと思っていて。何回か読んだり、自分なりに勉強したりして考えていく中で「これってこうだったんだ」と初めて意味がわかる。そういう曲ができたと思います。

──僕は週刊誌の編集者として業界に入った人間で、いわゆるエッチな記事も書いてきたんですけど、やっぱりエロと官能ってちょっと違うなと思っていて。エロは視覚的に読み手を興奮させるもので、官能は読み手の想像力を掻き立てて興奮させるものだと思うんです。そういう意味で「悪趣味」は非常に官能的なんですよね。男女が交わるときの肌感や呼吸、悲哀や情念も混じり合った曲だと思いました。

マオ うん、そういう世界観を意識しながら書きました。それが聴き手にも伝わったらいいですよね。あと「私好み 悪趣味ね」というフレーズがありますけど、この曲は“共依存”も大きなテーマになっていて。どちらかが主導権を握って、どちらかが従っている関係にも見えますけど、実はお互いがお互いをある意味で利用している。そういう背景が見える官能的なフレーズもちりばめているんです。ライブで歌うことによって初めて楽曲に色が付くと思うので、みんなの前で披露するのが楽しみですね。

あくまで自分の居場所はシド

──改めて「Dark side」はどんな1枚になりましたか?

マオ 近年のシドとしては、これ以上ないぐらい尖っていて闇深い。今まで見せたことがないシドになっていると思うので、いろんな方が手に取って驚いてくれたらいいですね。

明希 「Dark side」というワンテーマから広げていった曲たちなので、その世界を余すことなくツアーで表現したいですね。あとは、今までの既存曲と新曲がライブでどういうふうに融合するのかも楽しみですし、そういう意味でシドの可能性を広げる1枚になったと思います。

Shinji 簡単に言えばダークですけど、自分の中ではいろんなチャレンジができた1枚になっています。音や演奏に関しても、これまでやったことがない試みをたくさんしたので「ライブでどうやって表現しようか」と楽しみです。

ゆうや このEPはすごいですよ! 22年もやってますがダークサイドだけを集めた作品は初めてだし、EPに紐付けたツアーも控えていますから、素敵すぎるなと思います。初回盤には4月10日に開催した「BEST OF SID 2025 at KT Zepp Yokohama」の模様を収めたライブ映像が封入されていて。そこで披露した「涙雨」「dummy」「面影」「プロポーズ」「park」もシドのダークな要素があると思うので、ぜひ手に入れていただきたいですね。

──今年、皆さんはシド以外でも精力的な活動をされてきました。ゆうやさんはS.Yuya名義で、1月11日から目黒ライブステーションで月1のライブ「S.Yuya MUSIC BOX ~Monthly Meguro~」を開催。明希さんはソロプロジェクト・AKiとしてミニアルバム「Vermillion」をリリースし、ツアー「AKi Tour 2025『Vermillion』」のほか、多数のイベントに出演してきました。Shinjiさんは田澤孝介さんとのユニット・fuzzy knotでアルバム「fuzzy knot Ⅱ」をリリース後、「fuzzy knot Tour 2025 ~Beyond the Emergence~」を行われました。マオさんはソロプロジェクトでEP「夜半の銃声」をリリースし、「MAO TOUR 2025 -夜半の銃声-」を開催。各々がシドとは別の場所で経験値を積んできた中で、10月5日に始まる「SID TOUR 2025 ~Dark side~」に対する思いをお聞かせください。

ゆうや やっぱりソロとは別物ですよね。あくまで自分の居場所はシドだと思ってるので、「ここで今の自分をがっつり発揮できなかったら、どこで発揮するんだ」と。確かにソロもいろんな勉強になってるので、全部ひっくるめて2025年最高のゆうやを出していきたいと思います。

明希 常に音楽のことを考えて、途切れることなく活動をしてきた。各々が得た経験値やスキルをシドのライブで発揮できたらいいなと思います。

Shinji プロジェクトは違えど、ギターを弾いてることには変わりなくて。1年を通してギターを弾いてることが以前にも増して多くなったので、これまでの経験やパワーをシドで出していきたいです。

マオ ソロツアーに来てくれてるファンの子たちはわかってくれていると思いますけど、今はソロのライブがめちゃくちゃ盛り上がっていて。これまでと比べものにならないぐらい、熱量が上がってきてるんですよ。同時に、自分の自信もどんどんみなぎってきてる。とにかくソロの盛り上がりに負けないようにしなきゃなって。シドのボーカリストとして、ソロの自分を超えていくのが使命でもあります。

──ソロとバンドで心持ちも違いますか?

マオ 全然違うし、シドの3人に会うと「ただいま」って気持ちになります(笑)。お出かけのモードではあると思うんです、ソロって。いずれはソロも「ただいま」と言える感じになったらいいと思いますけど、今はまだ修行中の感覚がある。とはいえ、すごく盛り上がってるので、この熱をバンドにつなげないともったいない。ソロで高めたファンの期待や興奮をシドに還元していきます。

公演情報

SID TOUR 2025 ~Dark side~

  • 2025年10月5日(日)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2025年10月13日(月・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2025年10月18日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2025年10月25日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2025年11月1日(土)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2025年11月3日(月・祝)北海道 Zepp Sapporo
  • 2025年11月9日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

シド

マオ(Vo)、Shinji(G)、明希(B)、ゆうや(Dr)からなる4人組ロックバンド。2004年1月に現在のメンバーでの活動を開始し、同年12月に1stアルバム「憐哀-レンアイ-」をリリース。2006年には初の東京・日本武道館でのワンマンライブを行った。2008年10月にアニメ「黒執事」第1期オープニングテーマに採用された「モノクロのキス」でメジャーデビュー。その後も精力的なリリースとライブ活動を続け、2010年7月には埼玉・さいたまスーパーアリーナ、12月には東京・東京ドームでライブを行う。結成10周年を迎えた2013年は初のベストアルバム「SID 10th Anniversary BEST」のリリースをはじめ、アニバーサリーライブなどさまざまな企画を実施。2023年に結成20周年を迎え、3月にアニバーサリーボックス「SID 20th Anniversary BOX」をリリース。12月にトリビュートアルバム「SID Tribute Album -Anime Songs-」と新曲「微風」を発表し、同月末に日本武道館でアニバーサリーイヤーを締めくくるワンマンライブを行った。2024年3月に「面影」を、5月にテレビアニメ「黒執事 -寄宿学校編-」のエンディングテーマ「贖罪」をシングルとしてリリース。2025年9月に新作EP「Dark side」を発表し、10月からライブハウスツアー「SID TOUR 2025 ~Dark side~」を行う。