あなたはシドにどんなイメージを描いているだろうか? 刹那的で美しいラブバラードを歌うバンド? それとも、心を鼓舞するポップチューンを奏でる4人組? はたまたヴィジュアル系らしい、激しく甘美なサウンドを生み出すバンド?
22年のキャリアの中でシドは、さまざまなタイプの楽曲を世に送り出してきた。そんな彼らが、新たに作り上げたのが「ダークサイド」をコンセプトにした4曲入りのEP、その名も「Dark side」だ。衝動、官能、恐怖、凶暴性、嫉妬、葛藤といったワードが似合う背徳的な空気が漂う本作は、ファンの間でも高く評価されているシドの闇要素が存分に堪能できるのが特徴。メンバー個々のソロ活動も精力的な中、シドとしてコンセプチュアルな作品に挑んだ背景は? その理由を探るべくメンバーに話を聞いた。
取材・文 / 真貝聡
命を削りながらの作詞作業
──新作EP「Dark side」は“シドのダークサイド”を表現したコンセプチュアルな1枚です。どのような経緯で、このテーマに行き着いたのでしょうか?
マオ(Vo) 前々からシドのダークな部分にスポットを当てた作品の制作とか、それに伴うツアーができたらいいなと考えていたんです。で、これからのツアーで回るライブハウスの雰囲気や、俺らのタイミング的にも「やるならここだな」と。
──マオさんは今作で、過去のトラウマに苦しむ“僕”を幻想的な世界観で描いた「記憶の海」や、男女の危険な関係を表現した「悪趣味」など、さまざまな角度からダークな歌詞を書かれています。どのような思いで作詞に取り組まれましたか?
マオ 4曲の作詞をするうえで、俺が実際に経験したことや自分の中にある思いを表現するだけでなく、これまで書いてこなかった高いハードルのテーマにも挑戦していて。どの曲もかなり考えて書きました。もちろん毎曲楽しみながら向き合うんですけど、「楽しむ」の意味がこれまでと違う。気持ちが落ちる歌詞を書くときは、自分自身も沈みながら書いていたし、暴れる歌詞を書くときには心の中で暴れながら書いた。そういう感情の起伏をしっかりと言葉に乗せられた気がします。
──歌詞とご自身の気持ちを連動させながら、心血を注いで書かれたと。
マオ はい。特に「記憶の海」を書き終わったあとは、主人公の苦しい気持ちが自分の中に入りすぎて「うわ……キツイな」と心を消耗した記憶があります。大げさに言うと、命を削りながら書いた1枚ですね。
「プロポーズ」の前日譚、サイコホラー全開「0.5秒の恋」
──先行配信されたリード曲「0.5秒の恋」は明希さん作曲ですが、どんなことをイメージして書かれたのでしょうか?
明希(B) マオくんから曲のビジュアルイメージやキーワードをもらって、そこから想像して作りました。「Dark side」という言葉や、その中に込められてる意味、どういうコンセプトの1枚で、どんなライブをしたいのかがマオくんの中で明確にあって。そのイメージを自分なりに広げて曲に落とし込みました。
──メロディの雰囲気が、これまで明希さんが書かれた曲と違って聞こえました。
明希 そうですね。これまではわりとメロディ先行だったんですけど、今回はオケを先に考えてからメロディを乗せていきました。最近はアレンジの呼吸とメロディ感をすり合わせることをよくしていて。メロディがオケの温度感とテンション感にマッチするように作りました。
──強烈な音と歌が迫り来る感じに、すごくヒリヒリしました。
明希 各々がかなりこだわって演奏やアレンジを考えたし、ミックスもすごくいい感じになりました。「Dark side」というタイトルに名前負けしないサウンドにしたかったので、自分としては理屈ではなく感情が震える音を目指して形にしていきました。
──歌詞について触れると、狂気を持った男が自分の愛する人に迫っていく描写にサイコホラー味があって素敵でした。
マオ 「0.5秒の恋」は2007年に発表した「プロポーズ」の序章的な曲を書けないかな、と思ったのが始まりでした。1回試してみて違ったらやめようと思って取り組んだんですけど、意外とスラスラ書けて。「そっか、俺はこういう曲をずっと書きたかったんだな」と気付けてよかったです。「プロポーズ」の歌詞が「あれからもう二年とひと月」から始まるんですけど、“あれ”というところにファンのみんなも違和感を覚えてくれていたみたいで。俺の中では“あれ”の出来事がぼんやりと頭の中にあったんです。実はこんな事件が起きていて、そこから2年後を描いたのが「プロポーズ」。今、改めて“あれ”の出来事を掘り返したくて書きました。
──主人公が好きな女性には男がいて。その男のせいで彼女が苦しんでいると思った主人公が、2人のもとを訪れて事件を起こし、最後は警察に手錠をかけられるまでを描いたのが「0.5秒の恋」。そして2年1カ月の服役を終えた主人公が、復讐するために再び彼女の前に現れる様子を歌ったのが「プロポーズ」。そういう流れを知ったうえでこの2曲を聴くと、怖さが倍増してドキドキします。
マオ 映画でも1作目のあとに、前日譚を描いた作品が公開されることがあるじゃないですか。そこで初めて秘密が明かされるとか、伏線が回収されるみたいな構成が好きなので、そういう映画とか小説のような世界を、曲で表現したいと思って形にしました。
「このマオ、怖い……」
──「0.5秒の恋」を歌ううえでどんなことを意識されましたか?
マオ 先ほどおっしゃっていただいたように、迫り来る印象を俺もサウンドから強く感じたのと、そういう歌詞が書けたと思っていて。極端に言うとファンの子たちが聴いて「このマオ、怖い……」と感じるくらい、しっかりと感情を乗せたいと思って歌いました。
ゆうや(Dr) 「0.5秒の恋」はサウンドの熱量と勢いが印象的ですよね。すでに曲を聴いたり、ミュージックビデオを観てくれたりした方はいっぱいいると思うんですけど、まだ聴いてない、観てない方がいたら「絶対にチェックしたほうがいいよ」と言いたい。すごいのが、この曲が解禁されてからSNSでみんなの反応を見ていたら「0.5秒の恋」は「プロポーズ」の前に起きた出来事を歌っていると気付いてる方が何人かいたこと。
──すごい!
ゆうや 「いや、そこに気付けるのはすごいぞ!」と思って。本当にファンのみんなはアッパレですね。だってね、シドは22年も活動してるから、とんでもない曲数があるわけですよ。その中から「この曲のことだ」とピンポイントで当ててしまうって……みんなの考察力にビックリしました。
Shinji(G) 改めて歌詞を見てると、おっかないですよね。おっかないんだけど、振り返ると自分の中にもこういう闇の部分が学生時代にあったなと思って。いやあ……怖い歌詞ですね。
──演奏からはテクニック以上に、強い衝動を感じました。
明希 ベースで言うとフレージングがほとんどないんですよね。音圧とルート弾きっていう、いわゆる“ロックバンドのベース”になってる。自分の中では「簡単でカッコいい」をテーマに演奏しました。
ゆうや 明希が言うように、今回の演奏はかなりシンプル。わかりやすくて攻撃的で、音がはっきり聞こえるアプローチとサウンド作りを大事にしました。
Shinji 最初はレギュラーチューニングで弾こうと思ったんですけど、それだとこの曲のダークさを出し切れなくて。半日経ってもフレーズが思い浮かばないから、試しにチューニングを変えてみたんですよ。そしたらぽんぽんフレーズが出てきた。楽曲に導かれた感じがしたし「これしかなかったんだな」と思いましたね。
荒々しくプリミティブな「shout」
──Shinjiさんが作曲された「shout」は爆発力とけたたましさがあって、シドの新境地を見た気がしました。
Shinji ギターリフ押しのロックンロールな曲って、意外とシドにはないんですよね。メロディアスな曲が多い中、今回は対照的に“吐き出す”ような曲を目指して作っていきました。ただ、最初は自分の癖でどうしても“メロガチ”になってしまって。メンバーと「もっと削ぎ落としていこう」と話し合った結果、今の形にたどり着きました。
──「吐き出す」という表現がしっくりくるくらい、演奏の生々しさと熱量がすごいです。
Shinji この曲だけみんなで同じブースに入って、向かい合って一発録りみたいな形でレコーディングしたんです。普段だったらギターソロとか別録りするところを、あらかじめ音を作っておいて、エフェクターを踏み替えてその場で演奏しました。空気感を大事にしたかったのでテイク数も少ないですし、かなり荒々しい部分があるんですけど、逆にそれがこの曲のウリになっている。レコーディングだからある程度は音がきれいにはなっていますけど、実際にライブで弾いたらさらに化ける予感がしてます。
──ギターソロと言えば、スリル感のある演奏が新鮮で魅了されました。
Shinji そうそう、そうなんです。ギターソロのバックにギターがないのは、シドでは初めての試みで。今回はあえてバッキングを弾かなかったんです。ギター1本で演奏を成立させなきゃいけないので、細々弾くよりはたくさんの弦を引っ張り上げながら演奏した。そこも荒々しさ押しでいきましたね。
──歌詞にも荒々しさが表れていますね。
マオ うん、これは10代の衝動を歌った曲になっていまして。当時、俺が見ていたのは今よりも小さい世界でしたけど、小さいなりに自分がいる世界の中で違和感を覚えて「強い者に歯向かいたい」「今の状況をひっくり返してやりたい」といった反骨心や固定観念を覆したいという思いを抱いていて、その頃の気持ちを手繰り寄せながら書きました。
──「誰かが言った いつまでも続くものじゃないと / その物差しを 蹴り上げたら 始めようか」や「違和感を嫌え アイツを疑え」のフレーズがまさにそうですよね。
マオ 俺なりに最近のいろんな音楽を聴いたり、歌手をチェックしたりしていて。こういう何かに反発した曲とか、衝動を訴えている曲もあるにはあるけど、自分が10代だった頃の音楽とは空気感が違うんですよね。昔って、不良がバンドを組んで衝動を歌っていた気がするんです。「shout」は不良たちが組んだバンドのような歌詞にできたら面白いと思いました。
──「埃かぶったアンプ ひび割れたシンバル まともは無いけど 満たしてくれる」「窮屈だけど 無限に広がってる 小箱」などのフレーズを聴きながら、昔のライブハウスの景色を思い出しました。当時は出演してるバンドだけじゃなくて、フロアのお客さんもすさまじい剣幕で叫んでいて、10代の自分からするとおっかない場所でした。
マオ そうそう! 不良たちがステージ上で一生懸命何かを伝えようとしてるムードがあった。その匂いを懐かしく思ったと同時に、今の時代にそれを提示してみることによってどういう反応が起こるのかなって。それを想像して楽しみながら書きました。
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ゆうやが「記憶の海」「悪趣味」で表現したダークサイド