シド「面影」インタビュー|結成20周年を経て新たなステージへ、「天官賜福」の世界観を表現した新曲秘話 (2/2)

明希が引き出したマオの新しい魅力

──歌については、マオさんの深みのある低音が新鮮でした。

マオ ここ最近、明希が作ってきてくれる曲を聴くと、俺の最新のボーカルをすごく研究してくれているなと感じるんです。歌い出しから、今の自分に合ってる。昔は高音のボーカルを意識した楽曲が多かったのが、ここ数年は中低音域の曲が増えてきた。20年やってきた大人のロックバンドが出せる魅力を意識して作ってきてくれているんですよね。今、俺の中のテーマは低音の部分を響かせることなので、そのへんがメンバーの作る曲と噛み合ってきているのを感じます。歌い終わってみて、新しい自分の魅力を引き出してもらえたなと思いましたね。

──Shinjiさんとゆうやさんは「面影」を初めて聴いたとき、どんな印象をお持ちになりましたか?

Shinji 麗しさがあって、純粋にいい曲だと思いましたね。演奏について言うと、ギターの歪みの音って曲を作るうえで両サイドにダブリングすることが多いんですけど、この曲はあえてそれをしないで、ギター1本でも成立するような音作りを意識して。ギャーンと鳴らすカッコよさとは違うアプローチで、ギターのカッコよさを表現したかった。自分の中では、すごく悩みながら形にしましたね。本来だったら、クリーンなサウンドも素敵なんですけど、そっちよりも僕は白玉で弾く歪みのあるギターが好きで。なんてことはないこだわりですけど、この楽曲に合うように時間をかけて音作りをしていて。ちょっとマニアックになっちゃいますが、そこが一番大変でしたね。

ゆうや 「天官賜福 貮」の世界観を見事に捉えているし、アニメと曲がすごく合っている曲だと思いましたね。2回目のコラボなので、1回目の「慈雨のくちづけ」との関連性があったら、音楽的にも面白いなと思いまして。「慈雨のくちづけ」のイントロで叩いているドラムのフレーズを、「面影」のDメロでも使っているんです。個人的にはそのリンクしている感じが聴きどころですね。

明希 ベースに関しては、一昨年ぐらいから自分のスタイルをガラッと変えまして。それが大きく反映されていますね。ピック弾きのゴリゴリとしたスタイルから、指弾きのベーシストっぽいボトムを意識して、ゆうやのドラムとShinjiのギターの架け橋になるような音色を理想に考えて演奏しました。

「安定のシドですね」

──「天官賜福 貮」のファンからは、どんな感想が届いていますか?

ゆうや 第1期のオープニング主題歌もやらせてもらっていたのもあって、好感触のコメントをたくさんいただいていますね。「安定のシドですね」と言われると、すごくうれしいです。

──僕もYouTubeのコメント欄やSNSをチェックしましたけど、絶賛のコメントばかりですよね。

ゆうや 自分で言うのもアレですけど、僕もほかのアニメを観ていて2期連続で同じ方がオープニングやエンディング曲をやってくれるとうれしいんですよね。例えばドラマでも、続編が発表されたときにキャストが同じだとすごくうれしいじゃないですか。あの感覚に似ているなと思っていて。僕もそういう組み合わせが好きなので、皆さんと同じ気持ちですという感じです。

ゆうや(Dr)

ゆうや(Dr)

──改めて、シドがアニメの楽曲を手がけるうえで大事にされてることはなんでしょう?

ゆうや いっぱいあるんですけど、明希が言っていた「メインビジュアルを見ながら作る」というのは僕も同じなんですよ。完成された何かが1つあれば、そこから先がすごく想像しやすいし、自然と寄り添っていけるんですよね。なので、そこまで強く意識しなくても世界観を表現できる。むしろ「シドらしさを失っちゃいけない」と意識することが大切で。そうすると、ちょうどいいバランスの曲になる感覚があります。

──そのバランス感が毎回絶妙ですよね。アニメの内容に寄り添っているのはもちろんですけど、ちゃんとシドの楽曲にもなっている。これって何が要因なのかなって。

ゆうや 大事なのは、自分以上の自分を出さないようにすることかな。背伸びをすると、逆に自分ではなくなるような気がしていて。そうじゃなくて、自然な自分を出せばシドの曲になる。4人とも20年シドをやっているので、1人ひとりが自分をしっかり出せば、自ずとシドの音楽になる気がします。

マオ アニソンとひと言に言っても、原作者や原作ファンの方、アニメ化を楽しみにしている人やアニメの制作スタッフなど、1曲に対していつもの何倍も何十倍も関わる方たちがいることを忘れないようにしていて。作品に関わる人たちみんなで一丸となって、チームとして曲を作っているイメージを強く持つようにしていますね。中でもファンの存在は特に大きい。シドのファンもそうだし、アニメファンの方たちも「この曲は素晴らしい」と気持ちがハマったときの盛り上げてくれる勢いがすごいので、みんなで一緒に作っていくイメージで書いてます。

──マオさんの書かれる歌詞は、内容に具体性があるうえでシドとアニメファンのどちらにも刺さる印象があります。

マオ ここ数年、歌詞提供の依頼をいただく機会があるたびに、その提供曲のほうは誰かが歌うことありきで書いて、シドの曲は俺らがライブで演奏する曲として書いてきたんです。アニソンはそのちょうど間というか、自分が歌うんだけど、しっかりとアニメ側に提供しているという。そのイメージが明確に作れるようになったのは、この数年で楽曲提供の機会をいただけるようになったおかげ。そこは、自分にとって武器の1つになったなと感じますね。

明希 アニメの曲を作るうえで大切なのは、作品の世界観をちゃんと昇華することで。「アニメの曲でありながら、ちゃんとシドの楽曲にもなっている」という部分に関しては、やっぱり曲を書きながら、演奏するメンバーの姿が見えることが大事かなと思っていて。僕たちが「これってシドらしいでしょ」と言っても、受け取る人たちがどう思うか、なんですよね。最新の音楽を取り入れるとか、メンバーそれぞれアップデートすることも大切ですけど、それと同じくらい自分ならではのサウンドとかフレーズとか……そういう要素を大小関係なくきっちり表現し切るのが、らしさにつながるのかなって。“らしさ”のために守るものもないですし、もっと殻を破ったプレイや曲が生まれてもいいと思う。その中でメンバーが見えるもの、メンバーが音だけで感じられるものを各々がしっかりと考えて出すことが、シドらしさにつながるのかなって思います。

Shinji みんなの言う通り、僕も曲を作るときはアニメの映像や画像を1日中見ながらアレンジを考えていて。その世界観が求めているのであれば、ギターで難しいことはしないとか、必要であれば複雑なアレンジもするという。何より楽曲から導かれたアレンジを一番大事にしていて。ギターソロがないと嫌だとか、そういうのも一切思わないですし、必要ないと思えば入れない。導かれるものを形にするのは大事にしてますね。

みんなと一緒に素敵な思い出を

──「面影」のリリース後、5月18日と19日に河口湖ステラシアターでワンマンライブ「SID LIVE 2024 -Star Forest-」が開催されます。2021年にコロナ禍初の有観客ライブとして行った河口湖ステラシアター公演を3年ぶりに開催するわけですが、どのようなステージにしようと考えていますか?(参照:シド、1年越しの「Star Forest」でファンに愛を伝える

Shinji ステラシアターには思い出もあるし、思い入れもあって。あの場所でまたライブをできるのがシンプルにうれしいですね。今はもうコロナ前の世界に完全に戻ったのかと言われたらそうじゃないと思うんですけど、あの頃よりも状況はよくなったと思うし、ステラシアターという野外の素敵な雰囲気の中で、ライブをやれるのは幸せですね。

Shinji(G)

Shinji(G)

明希 シドの中でシリーズ化しているライブって数えられるぐらいしかないので、1回目にやったこと、そしてそこで得られたよかったポイントを把握しながら、新しいステージを作り上げたいですね。20周年を駆け抜けてから、初めてファンのみんなと再会できる場所なので、ワクワクするところもありつつ、シリーズ化する意味もそこにないといけないのかなと。あえて3年前と同じにタイトルにしているのでね。そういう意味で、バンドの見せ方においても普段のツアーとは違うライブになるんじゃないかなって思います。

ゆうや やっとあの会場をしっかり生かせる状況が整ってきたと思いますし、恒例化していきたいイベントの1つなので、今回はきっちりと晴れてもらってね。

──そうですね。

ゆうや あそこは天気にかなり左右されますから。ライブの途中でガーッと屋根が開いて、満天の星空が見えるのが理想。しかも明るい時間帯は、ステージの後ろに富士山が見えるって話なんですよ。今年はステラシアターのポテンシャルを最大限に味わいたいです。

マオ 僕、アウトドアや自然が好きなのでステラシアターという場所が気に入ってるんです。あの場所でまたやれるのが楽しみ。最近思うのは、ここから先のシドはファンのみんなと、どんな思い出を作っていけるのかが大事だということ。そんな中、ステラシアターのような特殊な会場でみんなと一緒に素敵な思い出を作れるのは、何よりも幸せなことだなと思います。それだけでもやる意味があるのかなって。それプラス、最新のカッコいいシドを見せられたら言うことはないですね。

──今後のシドについては、どのように考えてらっしゃいますか?

マオ 結成21年目に入りましたけど、やっぱり長くバンドを続けていくには個人個人のコンディションや、普段の身構えみたいなところも大事になってくると思うので、シドのボーカリスト・マオとしてステージに立ち続けるからには、やれることをコツコツがんばっていく。やらないほうがいいことはやめていって、どんどん削ぎ落としていく。シドというバンドにマオとして人生を捧げるつもりで日々がんばりたいですね。

ライブ情報

SID LIVE 2024 -Star Forest-

  • 2024年5月18日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
  • 2024年5月19日(日)山梨県 河口湖ステラシアター

プロフィール

シド

マオ(Vo)、Shinji(G)、明希(B)、ゆうや(Dr)からなる4人組ロックバンド。2004年1月に現在のメンバーでの活動を開始し、同年12月に1stアルバム「憐哀-レンアイ-」をリリース。2006年には初の東京・日本武道館でのワンマンライブを行った。2008年10月にアニメ「黒執事」第1期オープニングテーマに採用された「モノクロのキス」でメジャーデビュー。その後も精力的なリリースとライブ活動を続け、2010年7月には埼玉・さいたまスーパーアリーナ、12月には東京・東京ドームでライブを行う。結成10周年を迎えた2013年は初のベストアルバム「SID 10th Anniversary BEST」のリリースをはじめ、アニバーサリーライブなどさまざまな企画を実施。2021年1月14日の結成記念日には初の配信ライブ「SID LIVE 2021 ~結成記念日配信ライブ~」を、5月には山梨・河口湖ステラシアターにてスペシャルライブを行った。2023年に結成20周年を迎え、3月にアニバーサリーボックス「SID 20th Anniversary BOX」をリリースした。12月にトリビュートアルバム「SID Tribute Album -Anime Songs-」と新曲「微風」を発表。同月末に日本武道館でアニバーサリーイヤーを締めくくるワンマンライブを行った。2024年3月に3年ぶりのCDシングル「面影」を発表。5月に河口湖ステラシアターにて2DAYSライブを行う。