シド|コロナ禍で確かめ合ったファンとの絆

シドのニューシングル「ほうき星」が、12月23日にリリースされた。

新型コロナウイルスの感染拡大で音楽シーンに大きな影響がもたらされた2020年。シドも5月に山梨・河口湖ステラシアターで開催を予定していた野外ライブ「SID LIVE 2020 -Star Forest-」を延期するなど、その活動に支障が出る1年となった。しかしそんな中でもメンバー4人はそれぞれの形でファンと向き合い、自身の音楽の力を再認識してきた。

そうした日々を経て、シドはファンとの絆を形にした「ほうき星」「siren」「声色」という3曲の新曲を完成させ、11月より配信で連続リリース。タイプの異なる楽曲を通じて希望と不安、大切な人への思いなどが入り交じる、現代を生きる人々の複雑な心を描き出した。この3曲を収録したシングルのリリースを前に、音楽ナタリーではメンバー4人へのリモートインタビューを実施。コロナ禍での日々、新曲に込めた思い、そして1月14日の結成記念日に行う初の配信ライブに向けた意気込みなどを聞いた。

取材・文 / 真貝聡

ライブは目の前のお客さんに向けて演奏するのが一番美しい

──今春のステイホーム期間中は、どのように過ごしていましたか?

マオ(Vo) コロナが流行し始めた当初は、個人としてもバンドとしても、どう動いていくべきか模索してました。あとは外へ出歩きにくくなったので、家にずっといましたね。

ゆうや(Dr) 生活スタイルから何から全部変わったよね。今まで外でやっていた仕事を家でもできるようにシフトチェンジしなくちゃいけなかったし。

──特に、感染が拡大してすぐに影響を受けたのは音楽業界でしたよね。

明希(B) そうですね。5月に河口湖ステラシアターでやるはずだったライブ(「SID LIVE 2020 -Star Forest-」)がコロナで延期になったので、急遽振替公演の調整をしたりとか、今後のことをスタッフやメンバーと打ち合わせしたりして。ソロアルバム「Collapsed Land」のレコーディングなど個人で進めなければいけない作業もあったので、この事態でも止めちゃいけないお仕事はやっていて。思い返すと結構バタバタしてました。

明希(B)

──夏になったら状況が落ち着くと予想している人が多かったですけど、実際は深刻になる一方で。人前で歌うことが、より厳しくなりましたよね。

明希 半年前は配信ライブなんて、ほとんどのアーティストがやってなかったですしね。今後は配信のほうが主流になっていく気もするけど、かといってライブはやはり目の前のお客さんに向けて演奏をするのが一番美しい形だと思うから、そこは大事にしたい。今の配信というスタイルと、生のライブを両立していく方向にシフトするのかなって。

──そんな状況下で、シドはメンバー1人ひとりがファンとコミュニケーションを図る場を作りました。明希さんは1年間限定のオンラインサロン「Resonants」を開設されて。

明希 ライブがなくなったことで、ファンの方と声を交わせなくなりました。SNSって便利ではあるんですけど、あくまで自分の投稿した写真や文章に皆さんが反応してくれるだけで、やはり一方的なツールだと思うんですね。じゃあ、どうすればいいのか? そんなことを考えていたら、、知り合いから“オンラインサロン”の存在を教えてもらったんです。試しにトライしてみようと思って、2カ月前くらいから始めました。

──具体的にどういったことをされているんですか?

明希 皆さんからの質問に答えたりとか、生配信、ラジオ配信、あとは舞台裏のメイキングを公開したりなど、いろんなコンテンツを公開しています。始めてよかったと思ったのは、ファンの方から「気持ちが落ち込んでいたとき、シドの『エール』(2005年リリースのアルバム『星の都』収録曲)に救われました」といった言葉をもらえたこと。こういう状況でも、皆さんの支えになれているのを知れてうれしかったですね。

──Shinjiさんも1年間限定で「シド Shinjiのオンラインギタースタジオ」を開設されました。

Shinji(G) コロナ禍で自分にできることは何かを考えたときに、シドの曲を解説することに関しては恐らく右に出るものはいないだろうと気付いて。皆さんからの質問に答えつつ、演奏で心がけている細かいポイントを実演しています。初心者から20年以上もギター歴がある上級者まで、幅広い方が参加されているんですよ。基本はオンラインなんですけど、状況によっては生で教えられるクリニック的なことも目指していきたいなと思ってます。あとは会員の方とセッションするのも楽しいかなって。

──ゆうやさんは去年の12月にYouTubeで個人チャンネル「ゆチャン」を開設しています。今では趣味やプライベートのことなど、ゆうやさんのミュージシャン以外の顔も見られる貴重な場所になってますけど、そもそも始めたきっかけはなんだったんですか?

ゆうや 「ID-S」というシドのファンクラブに、メンバー1人ひとりのコンテンツがありまして。その中で僕は動画を担当していたんですが、リニューアルのタイミングで終わっちゃったんです。「せっかくなら動画は続けていきたいな」と思って始めました。

──YouTubeを始めてよかったことはありますか?

ゆうや 去年から現在まで週2回の頻度で更新を続けられているので、継続的にファンの皆さんとコミュニケーションを図れたのはありますね。

──マオさんは2年前から始めたファンコミュニティ「Mao's Room」を続けつつ、5月からnote「詩種〜utatane〜」をスタートさせて、“作詞”ではなく“作詩”を行っていますね。

マオ 詩を書いている人ってそこまで多くないんです。普段から作詞をしている人間が、より言葉に特化した“詩”に取り組むことによって、自分の表現の可能性を広げたりとか、あとはnoteをきっかけにシドを知ってもらえたらいいなと思って始めました。

──中でも「告白」という詩は、今の状況だからこそ生まれた内容になっているなと。

マオ 先ほど話に出た、5月のライブ延期を発表したときの気持ちを「告白」というタイトルに乗せて書きました。皆さん、どの詩に対してもすごく丁寧に受け取ってくれて、特に「生きる希望が湧きました」という声が多いんですよ。

曲に自分らしさが詰まっているのはいいこと

──ファンの方とコミュニケーションを図ったことで、楽曲制作のヒントになることも多そうですね。

マオ それこそ今回リリースする「ほうき星」の3曲は「コロナ禍で感じたこと」がテーマになっていて。それぞれタイプの違う楽曲と歌詞なんですけど、これはファンのみんなとメンバーそれぞれが交流していく中で感じた思いだったり、もらった言葉がそのままストレートに反映されてますね。

明希 コロナ禍の中で、みんながどういう音楽を望んでいるのか、どういうシドが好きなのかがより伝わってきて。今回、僕は“シドらしさ”を意識しながら作曲と向き合いました。

Shinji 僕もファンの方のおかげで、楽曲制作のヒントになったことがありました。以前僕はアニメ「黒執事」のオープニングテーマを担当させてもらったんですけど、僕が作曲したことを知らずにアニメを観たファンの方がいて。でも曲が流れた瞬間、僕が作った曲だとわかったらしいんですよ。実はその頃、自分らしさが曲に出るのはいいことなのかな?と悩んでいたんです。むしろ自分の匂いを消した曲を作るべきかなと思ってた。だけどファンの方の言葉で、曲に自分らしさが詰まっているのって実はいいことなんじゃないかな、と気付かされました。

──1曲目「ほうき星」は、Shinjiさんが作曲されたんですよね。

Shinji 今回はリモートでメンバー4人と打ち合わせをしたんですけど、あらかじめ曲の題材が各々決まっていたんですね。僕はひさしく元気な曲を作っていなかったこともあり「明るい曲を作ってみれば?」みたいな話になって曲作りを始めました。

──底抜けに明るいサウンドというよりも、だんだんと各楽器が重なっていく重厚さがあって。音だけ聴いてもストーリー性があると思いました。

Shinji いわゆる元気な曲というのは避けたかったんですよ。当初の打ち合わせでは「1コーラスでも完結するくらいの、強い曲にしよう」という話し合いをしていたんですけど、そうじゃないなって。1コーラスという切り取り方じゃなくて、1曲を通しての構成にこだわりました。

──マオさんはどのような思いで作詞をされましたか?

マオ ファンのみんなに向けたストレートなメッセージソングを書きたいと思いました。というのも、コロナ禍でファンの方から「『ANNIVERSARY』(2013年リリースのシングル)とか『エール』を聴いて励まされている」という声がたくさん届いていたんです。それはうれしいことではあったんですけど、若干の違和感も感じていて。

──違和感?

マオ 最新の曲で背中を押せていないことに、現役ミュージシャンとしての寂しさがあったんです。そんなとき、Shinjiからこの曲が届いて「書くなら今だ」と思って作詞をしました。

──「ほうき星」というタイトルの由来は?

マオ(Vo)

マオ 歌詞を書いていく中で出てきたんです。最初は「夜空にほうき星探すより」という後ろ向きな感じで書こうとしていたのが、「夜空にほうき星探すように」のほうが希望があっていいのかな、って。そういうふうに少しずつ走らせながら作りました。なので、どんどん形を変えつつ、最終的に引きで見たときに「ほうき星」という言葉が“光っている”感じがしたので、それをタイトルにしましたね。

──1曲目に「ほうき星」から始まるのがいいですよね。現状に目を向けてコロナ禍を重く受け止めるよりも、まずは希望を見出そうというメッセージに感じました。

マオ まさにそうですね。1曲目を何にするか話し合いになったんですけど、最初は絶対に希望を届けたい、という思いから全員一致で「ほうき星」になりました。

──アレンジはどのように考えました?

明希 ベースのサウンドは、曲の持つ疾走感とか迫力みたいなところを意識して考えました。あとは音圧だけじゃなくて楽器の質感が感じられるようなサウンド作りが最近は好きなので、そういうところはかなり大事にしましたね。

ゆうや 僕が心がけたのは、シンプルですけど「元気に演奏する」ってことでした。きれいに録らないようにして、とにかく勢いを詰め込んだドラムになってます。