柴田淳 苦難の果てに取り戻した“私の声

今回はホントの意味で暗いと思うな(笑)

──「君のこと」という曲も、さまざまな経験をしてきたことが反映されている歌詞なのかもしれないですね。昔だったら騙されているとわかっても好きという思いが強ければ我慢していたでしょうけど……。

これは「騙されないぞ!」って歌詞ですからね(笑)。なんかやさぐれてる感じがあって、この曲はちょっと攻撃的でしょ?

──確かにそうですね、うん。

書いてるときに「大丈夫かな?」ってちょっと思った(笑)。でも、この曲は特に自分のハスキーな部分の歌声でしっかり録ることができた曲でもあって。それがとにかくうれしいんですよね。作れてよかったです。

柴田淳

──アルバムのオープニングを飾る「Multiverse」はサウンドにも歌詞にも新しい雰囲気がありました。柴田さんの曲は日常を舞台にしたものが多いですが、この曲はもうちょっと大きな、俯瞰した視点を感じさせますよね。

創作のときって自分でもよくわからないくらい変な世界に行っちゃうことがよくあって。この曲もそういうときにできたんでしょうね(笑)。私は昔から宇宙に関することが大好きなんですけど、調べれば調べるほど人間ってちっぽけだなって思うんです。ニュースを見ていると、みんな権力とかお金を欲しがっているじゃないですか。でも宇宙からしたら塵にも満たない地球で王様になったところでしょうがないよねっていう。ある種、妙な達観をしちゃってると言うか(笑)。

──もはや神の視点ですよね(笑)。

そうそう。そんだけ権力を持ってて偉いんだったら、時間を1秒でも止めてみなよとか、火星移住計画があるんだったら早く行けばいいのにとか、ひねくれた感じが自分の中で盛り上がってるときに書いたんだと思います。めちゃくちゃだよね(笑)。

──「人間レプリカ」という曲もインパクトありますよね。内容的には日常で感じる虚無感を歌ったものです。

今回収録される曲の中で最初に歌詞を書いたのがこれでした。私は人を愛したい、人に愛されたいと考えすぎると苦しくなってしまうから、どこかでその感情をフリーズさせてるところがあって。そんな自分を客観的に見たときに、まるでマネキンのような、人間もどきみたいだなって思ったんです。そこから「人間レプリカ」っていう造語が浮かんだんですけど。

──恋愛に対しての向き合い方に変化がありつつも、愛を強く求めているところは変わらない。そこで傷付かないための自己防衛がレプリカになることだと。

うん。もうね、ちょっとでも優しくされたらすぐ好きになっちゃうくらい危険なところまできてますからね(笑)。だから、そういう感情を見ないふりしなきゃいけないっていう。この曲から歌詞を書くことを始めたので、心ががらんどうなニュアンスはアルバム全体に出ちゃってるかもしれない。今まで“日本一暗いシンガー”って言われてきたけど、今回はホントの意味で暗いと思うな(笑)。

初めての試みが詰まった「夜明けの晩」

──またそうやって自虐的な発言を(笑)。アルバムの5曲目には、ほぼアカペラで構成された「夜明けの晩」も収録されています。

もともとアルバムには弾き語りかインストの曲を入れるつもりだったんですけど、そういえばアカペラってあまりやったことないなと思って最後の最後に作ってみました。メロディはお風呂で考えて、歌詞は歌入れのスタジオで書いたんですよ。普段は自宅にこもって作詞をするので、現場で書いたのは生まれて初めてで。なんとなく和風っぽいメロディだなと思ったので、そこに触発された歌詞になりましたね。

──1メロのリフレインだけで構成されているシンプルさも相まって、どこか童謡や唱歌のような雰囲気があります。

うん。構成も歌詞の雰囲気もこういったものは初めてですね。で、この曲にはSEっぽい音が入っているんですけど、あれ実はエンジニアさんが私の声で作ってくれたものなんですよ。すごく奇妙な雰囲気なんだけど、曲の世界観にマッチしていたから私は気に入っちゃって。だからね、最後にちょっとだけ重低音のシンセの音も入ってはいるけど、この曲はほぼ私の声だけでできあがっているんです。私としてもすごくうれしい仕上がりになったので、ぜひ注目して聴いてほしいですね。

──前作に引き続き、人気シリーズ「王子様☆」の最新話「私はここよ~拝啓、王子様☆シーズン5~」も収録されています。

今回はホラーにしました(笑)。もともと、別の曲として歌詞を書いていたんですけど、あまりに内容が鋭い感情を描いたものなってしまったので、これはヤバイかもしれないなと思って。で、結果的にちょっと方向性を変えて「王子様☆」シリーズにしたんですよね。一見シリアスに聞こえるけど、よーく聴くと「これはもしや?」みたいな楽しみ方ができると思います。「ナイフかと思ったらおもちゃだった!」みたいな感じで、みんな笑って楽しんでくれたらいいなって思います。

──全10話を予定しているという本シリーズですが、ついに半分まで来ましたね。

今回一応犯人の予想がつくんですけど、今後の展開次第では別の人を犯人にしてもいいかなってちょっと楽しんじゃってる自分もいて。なんだかんだ10話で終わらなかったりとかね(笑)。ここからどうなるかはまだわかりませんが、引き続き一緒に楽しんでください!