音楽ナタリー Power Push - 関取花

“ひがみソングの女王”が、笑えて熱い1枚を完成させるまで

初参加のハマ・オカモトとRei

──海という言葉がタイトルに入る曲が「この海を越えて行け」「黄金の海で逢えたなら」と2曲あって、水のイメージが好きなのかなって思いました。

関取花

「黄金の海」は黄色い液体(ビール)のことなんですけど(笑)、なんなんですかね。意識して海を思い描いたわけでは全然ないんですけど、「この海を越えて行け」はわりと自分を象徴していて、腹にグツグツしたものを抱えたまま前に進んでいくというか、それこそいろんなものに飲み込まれて息ができなくなっていたときに、人の言葉とか、与えてもらった仕事とか、なんでもないことに救われてきたんです、この1年。そういうことが「息を飲むような朝焼け」とか「飛び跳ねる魚たち」みたいな海の景色につながっているかもしれないですね。溺れて浮上して、みたいなイメージで。

──全体のサウンドプロデュースは自分で?

基本はそうです。入れる楽器とメンバーとなんとなくのリズムは自分で決めて、細かいところは音楽的知識がないのでセッションで詰めていきました。田中佑司さんも谷口雄さんもえみそん(おかもとえみ)も、感覚的な話で盛り上がれるメンバーなので。演奏はもちろん、人柄が最高っていうのもかなり自分的には重要なんです。私自身のことも面白がってくれて、キャラもわかってくれているから。例えば「最後のサビに入るところは、溺れて水面ギリギリのところからブワッて顔を出したときに見た朝焼けのキラキラってした感じ」みたいな。それをみんな「わかった」って具現化してくれるのがすっごく楽しいんですよ。本当、人に恵まれてます。

──ハマ・オカモトさんの参加の経緯は?

ハマくんは私が「閃光ライオット」に出たとき(2009年)にズットズレテルズで出ていて、いつか一緒にやりたいなってずっと思っていたんです。ただ、みんな言うと思うんですけど、ベースも人間性もすごすぎる人でものすごく尊敬しているから、「今の私ではまだ呼びたくない」っていう気持ちもあって。「あの関取花のアルバムにあのハマ・オカモトが参加」ってナタリーの記事が、瞬時に3000リツイートされちゃうくらいになってから「ハマくん、やっと私呼べるとこまできたよ」って言いたい、みたいな(笑)。だから今回も、スタッフさんに「お願いしてみる?」って言われて、早いかなって思ったんですけど、彼に弾いてもらった「もしも僕に」と「平凡な毎日」は、私の短い人生でも、自叙伝が書けたなって思えた曲なんです。過去も未来も、親に教えられてきたことも、好きな人も嫌いな人も、いろんなものを全部ひっくるめて、どんなふうに26年生きてきて、今はどんな考えを持っているかっていうのがこの2曲で全部説明できる、ものすごく大切な曲だなって。こういう曲は今しか書けないかもしれない。そう考えたら、純粋に尊敬する同世代の人として、彼とやれることに意味があるかなと思いました。

関取花

──Reiさんはどうでしょう?

Reiちゃんはちょっと年下ですけど、プライベートでお茶しながら話したりしていて、ものすごくいろんなものと戦っている子だという印象があって。「平凡な毎日」を書いているときにふと顔が浮かんだんです。彼女のギターの何がいいかって、ブルースの人だから、ちょっと悲しさがあるんですよね。ああいうのを弾ける同世代の子っていないし、Reiちゃんはシンガーソングライターでもあるから、歌詞を汲み取ってやってくれるだろうと。そこにも意味があるんです。

日本で一番いいアルバムができました

──さっき言った大人っぽさは「平凡な毎日」にも感じていて、「みんな何かあんだって少しずつ気づくのさ」っていう想像力はすごく大事なんだけど、なかなか難しいですよね。自分に「何かある」のは当たり前だけど。

忘れちゃうんですよね。

──それを具体例まで出しながら語れる26歳は立派だなと思いました。

歌い出し(「母親が寝ているうちに金を盗んでいた」)は最低ですけどね。親にCDを渡すときに「あのときはごめん」って言わないと(笑)。今売れてるアーティストって、みんなカッコいいじゃないですか。ライブで観たり聴いたりしたときに、日常を彩ってくれて、心を軽くしてくれたり、踊らせてくれたりしますよね。でも、私はそういうのとは違った寄り添い方をしたいんです。歌詞を聴いてほしい。昔のフォークソングに通じると思うんですけど、歌詞カードだけ読んで文章として成立する歌詞がすごく好きなんです。ノリがいいのもカッコいいなって思うんですけど、そのために言葉は強いけど意味がわかんない表現を使うのとかは、自分ではしたくないなって思うようになっちゃって。それは意識しましたね。

──曲作りは詞先ですか?

いや、最近はメロ先が多いです。鼻歌のメロディを記録するためにボイスメモを回すんですけど、何回も歌っていると無意識に繰り返す言葉が出てきて「あ、これは深層心理なんだな」って自分に教えてもらうっていうか。「もしも僕に」だったら、サビの「努力は大抵報われない 願いはそんなに叶わない それでもどうか腐らずに でかい夢見て歩いて行くんだよ」っていうフレーズができたときに「なんで私こんなこと思うんだろう?」って思って。考えてみたら、親にずっと言われてきたことだったんですよ。

──考え方の根本って親の影響が大きいですからね。

関取花

うちの親、面白いんですよ。小学生のときに私の絵がコンクールで入選したことがあるんですけど、個人的には何が評価されたのかわかんなかったんです。ドイツから帰国して、転校したてのときに「プレゼント」っていうお題で描いたもので、学校で宇宙人の話が流行っていたらしくてみんな宇宙人を描いていて、友達が欲しいから乗っかっておこうって思って描いただけで、深い意味は何もないんです。それが入選して、普通の親ならめっちゃ褒めてくれると思うんですけど、普段描いている絵と違うのを察したのか、「うまく描けたわね。でもこれ、あなたが描きたい絵じゃないでしょ」って言われてドキッとして。「こういうものよ、賞をもらうって」って(笑)。

──達観だ。「それでもいいならくれてやる」にも通じますね。

まさに(笑)。「他人はあなたが思うほど褒めてはくれない。悔しさやうらやましさがあると、どんなにいいなと思っても、いいねって言ってはくれないんだよ。だけど、あなたは素直に人を褒めてあげられる人間になりなさい」と。

──そんな立派なお母さんに反抗していたんですね。

なんでも悟られちゃうのがイヤだったんですよね。学校では明るい子のお面をかぶっていて、1人になるとそのストレスが一気に出るんです。隠したつもりで「ただいまー」って言うんですけど、口調で親は全部わかっちゃうので。バレないように、バレないようにやってきたのに、家に帰った瞬間に「大丈夫?」って言われたとき、バリアをガーンって壊された気がして。それで反抗期に入っちゃったんですよね。

──今は?

めちゃめちゃ仲いいです。母がタフな人だからよかったんですよ。同じ温度でぶつかってきてくれたので。「ごはんいらない」とか言ったときもベッドから無理やり引きずり出してリビングまで持っていかれたりしていました(笑)。

──お母さんは割り切ったものの見方もできるけれど、根底には熱いものがある方のようですね。

そうなんですよ。だからハマるとすごくて、今は韓流アイドルをめっちゃ追いかけています(笑)。私も根底にはグツグツ熱いものがあるんですけど。

──継承したんですね。まさにそういう人が作ったアルバムだと思いました。

私もすごく好きなアルバムができたと思っています。ライブのMCで、自分に重しをかけようと思って「日本で一番いいアルバムができました。その中の世界で一番いい曲をやります」とか言うんですけど、それはプロレスラーの棚橋弘至選手を見習ったんです。「100年に一度の逸材」を自称して炎上して、批判を跳ねのけて大スターになったので。「ひがみソングの女王」も背負っていきます!

関取花

※記事初出時、プロフィール内の作品名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

ニューアルバム「君によく似た人がいる」2017年2月15日発売 / 2300円 / dosukoi records / DSKI-1001
「君によく似た人がいる」
収録曲
  1. この海を越えて行け
  2. 君の住む街
  3. また今日もダメでした
  4. ベントリー・ワルツ
  5. もしも僕に
  6. 僕らの口癖
  7. べつに(Album Edit)
  8. 黄金の海で逢えたなら
  9. カッコー
  10. 平凡な毎日
  11. それでもいいならくれてやる
公演情報
関取花 “君によく似た人がいる” ツアー
  • 2017年3月10日(金)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
  • 2017年3月11日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2017年3月25日(土)東京都 WWW
関取花(セキトリハナ)
関取花

1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」で審査員特別賞を受賞し、2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリース。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」を発表した。2014年2月には3rdミニアルバム「いざ行かん」を発売し、同年7月にFm yokohamaでレギュラー番組「どすこいラジオ」がスタート。2015年9月2日に初のフルアルバム「黄金の海であの子に逢えたなら」をリリースした。2016年10月にシングル「君の住む街」を、2017年2月にアルバム「君によく似た人がいる」をリリース。


2018年6月18日更新