STEREO DIVE FOUNDATION|3年9カ月を経て再始動、新たなSDFの魅力が詰まった一作

根底にあるのはBoards of Canada

──カップリングの「Yellow」の制作過程についても教えてください。

この曲の場合は、「Chronos」の“時”と同じように、抽象的で大きなテーマで曲を書きたいと考えて、“色”が浮かびました。「Yellow」になったのは、この曲を制作していた頃、パッと周りを見たときに目に映るものが黄色だったりすることが多い時期だったからです。曲調は、「Daisy」(2013年発売の1stシングル表題曲)にも通じるスローテンポな曲を作ったらどうかという話がスタッフからあったこともあり、「そうしよう」と思ってこの方向性になりました。

R・O・N

──「Yellow」は「Chronos」とは違って、エレクトロニックなバラードになっていると思います。この曲に関して、特に影響を受けた音楽などはありますか?

根底にあるのは、昔好きで聴いていたBoards of Canadaのような音楽なのかもしれないです。イントロのシンセにそういう雰囲気があるかな。この曲に関しては、ループするような形でずっと同じことを言いたいなと思っていました。また、構成としてはA→B→A→B→Cという構成の、サビが1回だけのような曲にしてみようかなって。「この曲、いつサビが来るのかな?」「あれ、1回で終わっちゃった。もう1回聴こう」と思ってもらえたらうれしいなと考えていたんです。あとは音の気持ちよさを工夫しました。ドラムは特にそうですね。「Yellow」はスローテンポな曲ですが、そこに速いパッセージの打楽器を入れることによって、ビートの気持ちよさを感じてもらえたらいいな、と。歌詞の面では、現代に疲れ切った人をイメージしてもらえるといいのかもしれません。例えば会社に行って働くこともそうかもしれませんし、人によっていろいろな場面に当てはまることだと思います。公園でどんよりとした空を見ながらぼーっとしていて、タバコを吸っていたり。それで「もうダメだ」と思っていたら救世主が現れて、日々を華やかにしてくれた、ということなのかもしれません。

──だからこそ、「You color me yellow」という歌詞が出てくるのですね。「Chronos」とはまた違った形で、誰かの背中を押すような楽曲になっているのかもしれません。

そうですね。この曲の場合は、「みんなそれぞれ大変だけど、がんばろう。誰かあなたのことを助けてくれる人はいるかもしれないし、希望はあるかもしれないよ」ということですね。

「ふりかけ」という言葉からイメージ

──3曲目に収録されているインストゥルメンタル曲「Sprinkle」は、「食戟のソーマ」からヒントを得て制作した曲だそうですね。

「Sprinkle」は“ふりかける”という意味の単語ですが、この曲は「食戟のソーマ」の原作に出てくる「ふりかけ」(マンガ第1巻で主人公の幸平が作った「化けるふりかけごはん」)からイメージして作っていきました。とは言え、実際に特定のシーン自体を想定して曲を作ったというわけではなくて、「ふりかけ」という言葉からイメージできる、小さくて、かわいらしくて、いろんなものが詰まっているような雰囲気を曲にしていきました。シーン自体を想定したら“劇伴”になってしまうので。

──それで、さまざまな音がちりばめられたかわいらしいエレクトロニカになったと。

R・O・N

聴いていて気持ちいい音にできたらいいなと思っていました。それに、今回の3曲を考えると、この曲では「ピアノを使いたい」という気持ちもありました。タイトル曲がバンドサウンドで、ちょっとひねくれたタイプのバラード「Yellow」があって、おしゃれな雰囲気の「Sprinkle」があって。それぞれに違う雰囲気の曲を入れました。

──「Sprinkle」は、かわいらしいエレクトロニカでありつつも、同時にエディットも多用されていて、最近のDTMによるクラブミュージックのトレンドに通じる魅力も感じました。R・O・Nさんが最近の人たちの中で好きなアーティストや曲はありますか?

そういう音楽も、もちろんいろいろと聴きますよ。例えば、サウンド面で言うとバーチャル・ライオットはすごく好きですし、メロディで言えばマデオンやポーター・ロビンソンも好きです。あとは、ザイレントも好きですね。最近はミスター・ビルやダニエル・ジェームズのTwitch配信をぼーっと観たりもしています。制作過程を配信している海外の方がけっこういますが、そこで「こんなプラグインがあったんだ!」と気付かされることもあったりするので。

SDFは今、変革の時期

──日々いろいろな音楽を聴かれているのですね。今回のシングル「Chronos」については、3曲を振り返ってみて、自分ではどんな作品になったと感じていますか?

カップリングの2曲については、とにかく自由に作ったような感覚です。それから、1曲目の「Chronos」については、今までのSDFのイメージとは違うものができたかなと思っています。この曲はすごく明るいですし、これまでの曲よりもオープンな雰囲気のものになったかな、と。そういう意味でも、自分自身、ここから新しい動きが生まれるような予感がしています。そもそも、SDFはタイアップのお話が先にあって「曲を作ってもらえますか?」とお話をいただいて始まったプロジェクトですし、曲を作るプロセスとしても、作曲家としての仕事と感覚としては同じだったんです。家で曲を作って、レコーディングをして、仮歌を入れて……という意味では、プロセス自体もまったく同じものなので。最初にお話ししたように、僕の中では、どの曲に向かうときも「いい曲を作りたい」と思っているだけで、SDFについても、これまでは自分のほかの仕事と同じような感覚で向き合ってきたものでした。

──なるほど。自身が楽曲制作のみならずボーカルを担当してスポットを浴びるプロジェクトであっても、意識としてはほかのお仕事と同じものだった、と。

そうなんです。ただ、最近SDFに関しては、これまでとは違う動きが出始めていて、このプロジェクト自体への向き合い方が、現在進行形で変わってきているのを感じています。ほかのプロジェクトや楽曲提供の仕事とは、違う要素が生まれ始めているというか。僕の場合、作曲家としての「自分は裏方だ」という気持ちもあるんですが、SDFはそれとは変わってきているので、「何ができるのか」ということを、今まさに考えているところです。

──今まで以上に、R・O・Nさん自身を見てもらうプロジェクトになるということですか?

そうならざるをえないのかもしれません(笑)。とはいえ、(「Chronos」の楽曲テーマになぞらえて)時計の針は前にしか進みませんからね。これからも楽しんで、いい曲を作っていきたいと思っています。SDFにとっては、変革の時期ですね。なので、今回の「Chronos」は、「食戟のソーマ 神ノ皿」という作品に寄り添って書いたものであると同時に、このプロジェクト自体にとっても、すごくいいテーマの楽曲になったと感じています。

R・O・N

ライブ情報

STEREO DIVE FOUNDATION「STEREO DIVE FOUNDATION 1st LIVE」
  • 2020年2月16日(日)東京都 WWW