SCANDAL インタビュアー:ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)|絶対的ヒーローをやめた4人が手に入れたもの

SCANDALが2月12日にニューアルバム「Kiss from the darkness」をリリースした。

プライベートレーベル・herを立ち上げて初のアルバムとなる今作は楽曲プロデューサーにSASUKEや武田祐介(RADWIMPS)、佐藤千亜妃らを迎えた1枚。SCANDALの挑戦が詰まった本作の魅力をより深く掘り下げるべく、音楽ナタリーでは彼女たちと同世代のハマ・オカモト(OKAMOTO'S)をインタビュアーに迎えて取材を行った。ミュージシャンならではの切り口のインタビューにSCANDALは真摯に向き合い「Kiss from the darkness」の制作で得た手応えや今後のビジョンなどをたっぷりと語ってくれた。

取材 / ハマ・オカモト(OKAMOTO'S) 文 / 清本千尋 撮影 / 伊藤元気

SCANDALとはどんなバンドなのか?

──今回はなぜ僕を呼んでくださったのでしょう?

SCANDALとハマ・オカモト(OKAMOTO'S)。

RINA(Dr, Vo) ハマくんはOKAMOTO'Sをやりながらプレイヤーとしてほかのバンドに参加したり、いろんなところで活躍していて、独自の考え方があるミュージシャンだと思っていたので、私たちの自信作「Kiss from the darkness」を聴いてみてもらいたかったし、こうやって場を設けてじっくり話してみたかったんです。

──あら、そんなちゃんとした理由で呼んでいただいて。ありがとうございます。SCANDALと僕らは長いこと仲良くしているわけではなく、フラットな関係なんですよね。とはいえやっぱり作品は聴いてきていますし、ミュージックビデオもチェックしています。ファンの方からしたら「そんな有名な話をいまさら聞くの?」というところもあるかもしれませんが、アルバムのこともバンド自体のこともいろいろ聞かせてください。まず「Kiss from the darkness」の話に入る前に、自分たちがバンドシーンにおいてどんな立ち位置だと自認しているのか教えていただけますか。

TOMOMI(B, Vo) 正直自分たちでも立ち位置はあまりよくわかっていなくて。SCANDALは通っていたダンススクールで楽器を弾いたこともないままに結成したバンドという特殊なグループだから。バンドの文化を知らないまま結成して活動し始めたものの、バンドカルチャーを知っていくごとに自分たちのバンドの結成の経緯や活動の仕方にコンプレックスを抱くようになって。私たちにとってそういう時期はもう過ぎたことなんですけど、なかなか世間的なイメージは変わらなかったんですよね。ずっと緩やかな上り坂を登っている感覚で、続けることでしかSCANDALの存在意義を証明できないと思って、1秒でも長く続けられたらいいなという思いでここまでやってきましたね。

──なるほど。それについて、もう少し話したい人がいればどうぞ。

RINA 立ち位置という意味では、なんというかずっと居場所を見つけられなかったんです。昔はフェスに出てもガールズバンドは私たちだけっていうこともよくあったし、今はガールズバンドが増えたとはいえ、それでひと括りになるわけでもないし。居場所がなかったからこそ自分たちの国を自分たちで作り上げて、そこで音楽をやり続けようという思いで自主レーベルの立ち上げに至りました。

──今は確固たる自信を持ってレーベルも立ち上げたし、たぶん4人の総意で言えると思うんですが「SCANDALとは?」みたいなものはありますか? たぶん対外的に言われたこともあるだろうし、自分たちで思っていたSCANDAL像もあったと思うし、むしろ思い続けなくてはいけないみたいなところもあったんじゃないかと。なんでこんな質問をするのかというと、僕らもそうだったんですよ。いわゆる流行りものじゃないというか。続けていくことが大事というのは僕らも感じていて、中身は違うけどベクトルとしては似ているものを持っていると思っていたんですよね。僕らはOKAMOTO'S像をうまく答えられなくてすごいケンカになっちゃったこともあったんですが。

HARUNA(Vo, G)

HARUNA(Vo, G) 個々が強いバンドだと思う。“ボーカルの顔は知っている”とか、誰か1人だけ有名みたいなバンドじゃなくて、それぞれの強みを生かして曲を作ってライブパフォーマンスをしてきたバンドだから。

──あー、それは傍から見てもそう思いますね。そして個人的な趣味で言うとそういうバンドがカッコいいと思う。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)だって、アンソニー(・キーディス)だけがヒーローではないって世間的にも思われているでしょう。僕らはそういうバンドを見て育ってきたから、メンバー全員の顔が見える、ということがすごく大事だと思っていて。こういう話は機会をもらわないと話さないから面白いですね。

TOMOMI それになかなか共感してもらえるような話でもないですしね。

「Tonight」を1曲目にした理由

──そうそう。HARUNAさんが言う“個の強さ”は、このアルバムにしっかり出ていると思いました。MAMIさんが楽曲制作面ではイニシアチブを取ることが多いと聞いていますが、4人の意見がないとこの質感にはならなかっただろうと。あと感想としては、すごく活動が楽しくなってきたんだろうなって。今までが楽しくないわけじゃないだろうけど、やりたいようにやれている感じ、新しいことに挑戦できる余裕を感じました。

TOMOMI それはやっぱりレーベルを立ち上げたのが大きいですね。herは自分たちのアトリエみたいなもので、そこにリラックスしていられる感じがあって。herを立ち上げる前にはなかなか表に出してこなかった自分たちのライフスタイルが、曲に如実に直結してきたような感覚もあってすごく楽しいです。

──「Kiss from the darkness」は、去年の頭くらいから出ていた「マスターピース」や「まばたき」なんかも入っていますけど、それも含めてその瞬間瞬間にやりたい曲を詰め込んだ感じがしたんです。1曲目の「Tonight」は16歳のトラックメイカーのSASUKEさんがアレンジを手がけていて、いわゆるバンドじゃない音というか、バンドではまずひらめかないサウンドですよね。この曲をアルバムの1曲目に入れるのと途中に入れるのとではだいぶ意味合いが変わってくると思いますが、なぜ1曲目にしたんでしょう?

MAMI(G, Vo)

MAMI(G, Vo) デモの段階から1曲目にしようと思っていて、そもそもは4人で演奏できるアレンジだったんです。それをSASUKEくんに渡したらこういう形になって返ってきて、そもそも1曲目として作っていたし、新しいイメージのものを最初に置きたかったのでメンバー全員一致で「1曲目にしよう」となりました。

──へえ、でもきっと5年前の4人だったらこのアレンジの曲はアルバムに入れないんじゃないですか?

MAMI うん。怖かったと思う。

HARUNA 入れるとしても1曲目にはしなかっただろうね。

弾いているさまがちゃんと浮かぶ

──あと全体的な話になるんですけど、すごく練られたギターアレンジで聴いていてハッとしました。

MAMI イエーイ(笑)。

インタビューの様子。

──今作はすごくギターを弾く曲と「ウソでしょ!?」ってくらいの音数のリフしか弾かない曲がありますよね。SCANDALはリリースがあるたびに聴いていますけど、6曲目の「NEON TOWN ESCAPE」なんかは自分が思っていたSCANDAL像とはかなり違ったんですよね。今MAMIさんのギターの話をしましたが、全員のパートに新しいことをやるぞという気概を感じました。制作しながらそういうことは互いに思いますか? 「うまくなってるな」とか「引き出し増えたな」とか。OKAMOTO'Sはレコーディングは大喜利だと思ってやっているんですよ。だってデモを作ったって全然その通りにみんなやらないし。このアルバムも到底スケッチ通りにやっているとは思えなかったんですけど、実際のところはどうですか?

TOMOMI それこそ「NEON TOWN ESCAPE」とかは、4人でスタジオに入ってセッションしてバンドのアレンジに仕上げていきましたね。そういうのを私たちはこれまであまりやってこなかったから新しかったかも。

HARUNA 私たちの制作は、基本的にMAMIがアレンジをしっかり詰めたデモを作ってきて、それを演奏してみて気になる箇所があれば直していく感じなんです。この曲に関しては私が弾き語りしたものを持ってきて、それをもとにみんながそれぞれプリプロしたから自分の癖が一番強く出ているんだと思います。

──なるほど。デモの時点でフレーズが決まっていたとしても、音像とかそういう部分で自由度が上がったのかなという印象がありましたよ。だから作っていて楽しいだろうなと思いましたし、ワクワクしたのかなとも思って。曲にもよると思うんですけど、4人で一斉に演奏して録るんですか? それとも分割して録るんですか?

RINA 今回はドラムから順番に積み上げていった曲が多いかな?

TOMOMI ドラムから順番に録っていって、その変化が次のパートに影響していく感じですかね。

──レコーディングの中でブラッシュアップしていくんですね。あとは「Fuzzy」はすごくバンドらしい曲だなと思った。

RINA 一番生々しく荒々しいですね。それこそ、この曲は一旦全員で一発録りしてみてから進めたよね?

MAMI うん。音色や音像を決めて、いいテイクがあったらそこを使ったり、新しく録っていったり。バンドでガツッとしたサウンドでやってるものは、1回は全員で録ってる。

──へえ。なんかガツンとバンドらしい曲とそうでない曲のバランスもすごいよかったんですよね。明らかに4人だけで鳴らしている音、しっかり作り込んだ生楽器以外の音が入っているものの幅がきちんとあって。これは俺の悪口なんですけど、最近「演奏してないな」みたいな音源がよくあるから。でもSCANDALの作品は弾いているさまがちゃんと浮かぶ曲がいっぱいあるし、このアルバムはその配分がよかったので、勝手にうれしくなりました。

RINA うれしいなあ。