年齢や経験がにじみ出た歌詞
──あと「Fuzzy」は歌い出しもとてもよかったですね。ボイトレの先生じゃないのにごめんなさいね(笑)。
HARUNA よかったですか。ありがとうございます(笑)。
──これはRINAさんが歌詞を書いていて。「換気扇の下でキスをするたび 他に何もいらないって思えた Tシャツに移った煙草の匂いで ふたりの時間を感じてる」という歌い出しですが、リアルな情景が浮かびますよね。
RINA うれしいです。「Fuzzy」は1回お蔵入りになった曲なんですよ。メンバーはすごく気に入っていたけど、スタッフから「ちょっと生々しすぎない?」という意見があって。実話をもとに歌詞を書いたわけではないんですけど、匂いを感じる歌詞を書きたくて、かなり突っ込んだ設定で書いたので、そういうふうに言われる可能性もあるなと覚悟していたんです。ストックにしておくにはもったいないと4人的には感じていたので、レーベルを立ち上げたタイミングの私たちならリアリティを持って鳴らせるんじゃないかと話してて。
──できたから録ってリリースするとかではなく、そういう段階を踏んだ曲だったんですね。
MAMI 私たちはわりとストックがないバンドで、できたらすぐ出すみたいなやり方だったんですよ。なのでこうやって温めてきた曲はあまりないですね。
──制服を着ていたSCANDALが、今こういうスタイルになって「換気扇」という言葉で始まる曲を歌うのがいいなと思ったんです。世間的なイメージとのギャップというかね。もちろん人間だから年齢も重ねますし、人並みにいろいろ観たり聴いたりするわけじゃないですか。そういうのがすごくにじみ出ているなと「Fuzzy」以外の曲にも思いました。
HARUNA 人間らしさみたいなものはアルバムを通してのテーマになったなと思います。アルバム制作だけじゃなくて、去年1年を通して“当たり前に人間です”みたいなところが重要だった気がする。
ヒーローの戦闘スーツを脱いで
──もちろん曲のよさもあるんですけど、今作は4人の息遣いを感じるアルバムだったところに一番引き込まれたんです。4人を感じるというところが“当たり前に人間です”という部分なんだと思いますが、もう少しそこを深堀りさせてもらえますか?
TOMOMI 私たちは今まで前向きな曲しか歌ってこなかったんですよ。それは自分たちがそうしたかったし、そういう信念を持ってやっていたことなんですけど。これだけ活動を続けて、自分たちも年齢を重ねれば、ある程度いろんなことを経験して、前向きであることがウソっていうわけじゃないんだけど、今の私たちが歌うべきかと考えると少し違うときもあって。それは別にネガティブなことではなくて、人間としての変化だと思うんですよね。なんというか……私たちはずっとヒーローでいたかったというか。自分たちにとってもSCANDALという存在はヒーローだったんですよ。SCANDALという戦闘スーツを着て前を向いて戦っていた。でもそのスーツを、herを立ち上げたと同時に脱いだんですよね。
──わかりますよ、とても。全員同じスーツを着て集まってSCANDALという集合体として見せていたものが、今回はまずは4人の人間がいて、集まって……という段階がすごく見える作品なんですよね。スーツを脱ごうと思ったのはなぜなんですか?
MAMI リスナーと私たちの距離をもっと詰めたかったんですよね。さっきTOMOMIはSCANDALはヒーローだと話していたけど、ヒーローでもあるけれどみんなと同じ生き物でもあるというところをどうしたらもっとわかってもらえるんだろうとずっと考えていて。ライブ会場だって極端な話で言えば、立っている場所の高さが違うだけだと思うし。
──物理的にね。
MAMI そう。みんなと同じ喜怒哀楽の感情を持って生きているし、お互いにライブ会場では明るい気持ちでいられる。でも、お互いにそういう気持ちじゃないときもあるのが当たり前なんですよ。だけど私たちはヒーローだから明るい気持ち以外をみんなに見せずにいたんですよね。それで私たちのことをSCANDALの音楽を聴いてくれる人たちにもっと知ってほしい、みんなのことも知りたいし寄り添いたいという思いを曲にできたらと思ったんです。曲作りにおける産みの苦しみもあったけど、その葛藤もけっこう曲に表れていると思います。達成感もあったし満足しているけど、いい疲労感やいい緊張感もありました。
──そういう今まで隠してきた弱みや隙みたいな部分をいきなり見せるのって、普通だったら怖いと思うんですよ。しかもSCANDALはずっとヒーローとして何年もやってきたわけで。でも4人はそれを恐れることなく自然にやれるようになった。それってやっててめちゃくちゃ気持ちよくないですか?
HARUNA めちゃめちゃ気持ちがいいですね。あと、単純にいい面だけを見せるヒーローであることに疲れちゃったんです(笑)。
──このアルバムはその宣言でもあるってことですよね。
HARUNA そう。でもヒーローではいたいの。圧倒的なヒーローではありたい。だけど聴いてくれるみんなと同じ気持ちでいることを伝えられるヒーローでもいたいというか。もともとライブのMCとかでも変にカッコつけちゃってた自分がいて、そこから1人の人間として、さらけ出すことはカッコ悪くない、恥ずかしくないと言えるようになってファンとの距離が縮まった気がしたというか。「これだ!」というところに落ち着いて、それが制作にも生きたなと思う。
──いろいろ話してもらいましたけど、SCANDALってドキュメントがカッコいいバンドだと思うんですよ。でも音楽とは関係のない活動も含めて4人が本当にやりたいことを突き詰めていく中で、その姿勢が直結していなかったのって曲の雰囲気だと僕は思っていて。それぞれに自我があって誰かに動かされているわけでもないのに、ちょっと血の通ってなさがあったというか。今作はそういう感じがなかった。だから今の話を聞いていると、点と点が線になった。その変化にファンの人は少し前から気付いてるかもしれないし、ここからもっと広まっていくこともあるだろうけど、SCANDALにとってそれはすごく健康的な姿だと思うんですよね。地でやれちゃうというか。もうライブでやっている曲もたくさんあるだろうけど、このアルバムはその最初のカードになるんじゃないかなと思います。
RINA うれしいなあ。
デモから感じた新たなモード
──ここ5年くらい、MAMIさんは編曲やデモ作りで基本的にイニシアチブを持っていますが、ほかの3人から見てMAMIさんはどう変わったと思いますか?
TOMOMI MAMIちゃんは全部変わったかな。人間自体が変わった気がする。
──え、誰かと入れ替わっているということ?(笑)
TOMOMI (笑)。そういうわけじゃないけど。
MAMI 自分でも自覚している部分はある。人に言われるのもあるけど、ずっと黒髪でやっていたのを金髪にした瞬間があって、そのときが“第1弾進化”みたいな感じで。
RINA ポケモンみたい(笑)。
MAMI (笑)。第2形態はまだ作詞作曲をしていない頃。髪色が変わった頃くらいに「バンドなのに自分たちで作詞作曲をしてないのはおかしい」と思ったときがあったんですよ。今考えれば全然おかしいことではないんですけど、自分たちで作れるんだから作ろうよと方向転換して2回目の進化があったと思う。最初の頃は「バンドって楽しい! イエーイ!」という気持ちだけでやっていたし、責任感があまりなかったんですよ。そこからステージでの責任感を感じるようになり、曲を作るようになってさらに強い責任感が出てきたんですよね。それで一気に変わったのかもしれない。
──へえ。そうやって変化していく人がいるのは、バンドにとっていいギアになっていると思います。制作において基本はMAMIさんに一任しているんですか?
RINA 今はMAMIがアレンジまで詰めたシンセメロのデモをRINAに送って、それに歌詞を付けたものをHARUNAとTOMOMIにシェアして2人の意見を聞いて整えていくみたいなやり方が大半です。
──どういう意見を出すんですか? 2人は。
TOMOMI ベースのことでいうと、MAMIちゃんは鍵盤でベースを作ってくれるから弾けないところが出てくるんです。そこを整えたり、自分の手癖を入れるとかそういう程度ですね。あとは俯瞰して見て「この曲とこの曲は歌っている内容が似ているから同じ作品に入れなくていいんじゃない?」とか。
RINA 今回も「A.M.D.K.J.」と似た感じのデモがあってどっちか選んでもらったよな。
──それはHARUNAさんも同じですか? 客観的な視点を持つ役割というか。
HARUNA 私の場合は上がってきたもの全部を面白いと思っちゃうんですよね。MAMIが作ったメロディはMAMIのキーだったりクセがあったりして、それが自分にとっては得意じゃないときがある。でもできないのは嫌だから一旦プリプロ作業に入って挑戦するんです。
──OKAMOTO'Sも曲を書く人が2人いて、歌詞を書く人もいるんですけど、俯瞰で見るのがリズム隊の役割なんです。4人のやり取りは丁寧だなと思うけど、うちは笑顔の顔文字1個で返すみたいな感じですよ。だから年に1回くらいフラストレーションがたまってケンカもします(笑)。クセみたいな話でいうと、「最終兵器、君」はだいぶクセが強い曲ですよね。言葉のリフが効いているというか。
RINA この曲はメロディが先にあって、あとから歌詞を付けました。MAMIから送られてきたデモを聴いた瞬間に「音で歌詞を書こう」と思って、聴き始めると同時に考え始めたら「最終兵器は君なんだ」というフレーズが出てきて、そのまま最後まで聴いたらアレンジにピストルの音が入ってて「絶対これで合ってる!」と思いました。
HARUNA RINAがこういう歌詞を書くなんて思わないから新鮮だった。きっとRINAはストーリーがある歌詞が好きなんだろうと思っていたし、「Fuzzy」とかを聴いてそういうモードなんだと思っていたから、こういう強いワードで攻める方法もあるんだと思いましたね。デモが上がってくるたび、みんなが私と同じように挑戦したいモードなんだと伝わってきました。
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アコースティックへの挑戦と引き算の美学