SAYASHI RIHO「DAYBREAK」PART2 |私の今を照らす5つの光

Chapter3. 作詞とは「自己開示」

作詞に挑戦したのは「あの日約束したから」(2021年1月の配信イベントで初披露された楽曲)が初めてでした。歌詞の内容は両親とか友達、すべての人に通ずる内容だとは思うんですけど、やっぱりファンの方のことを最初に思い浮かべて。でも、「こう書きたいのにメロディにうまくハマらない」とかそういう難しさがたくさんあって、悩みながら1カ月くらいかけてやっと完成させましたね。歌だから作文みたいになるのも違うなと思いましたし、そつなく作ろうとして自分の言葉にならないのもダメだし。いろんな試行錯誤がありました。「DAYBREAK」では詞先と曲先、両方の作り方を経験させていただいたんですが、今のところは詞先のほうがやりやすいですね。「ここをサビにしてもらおうかな」とか自由に書かせてもらえて、とてもありがたいです。

鞘師里保のPCに残っていた「Find Me Out」の作詞メモ。(撮影:笹原清明)

詞先で作った「Find Me Out」は、宮野弦士さんが、私の書いた詞のどこで区切ったら繰り返しのリズムを作れるかをすごく考えてくださって。とても素敵に仕上げていただきました。「ギラギラして」というサビの入りは、私のこだわりで。歌詞を書いていた時点でサビにしたいなと思っていたんです。制作途中のメモを見返したら、「ギラギラして」の前に「ここからサビ想定です」と書いていました。作詞をするときは、家で書いたり、カフェで書いたり、お散歩中にスマホでポチポチメモを取ったりといろいろです。でも「Find Me Out」のときは、夜になって急に書いてみようと思い立って、パソコンに向かった感じでした。書き始めてから一気に、2、3時間でできあがりましたね。

文章を書くこと自体は得意とは言えません。でもこういう世界にいると、自分の気持ちを表現するのが上手な人がたくさんいて。私も心の中に表現したいことがたくさんあるのに、周りの人が代弁してくれることのほうが多くて、それを自分でちゃんと表現できるようになれたらと常々思っていたので、自分を鍛えたくて作詞に挑戦しました。今はコラム連載(WANI BOOKS News Crunch「りほこら(む)」)で自分の言葉を書く機会もいただいているんですけど、毎回締め切りギリギリまで「何書こう」と唸っているんですよ(笑)。気軽に書くというよりも、毎回訓練だと思って取り組んでいます。そういう苦手なものを克服したいという気持ちは、部屋の中の散らかってる部分をちゃんと掃除したい欲求と似ていると思います。あきらめられないだけですね。最近は訓練のおかげで、素敵だなと思った言葉を恥ずかしがらずに使えるようになってきたと思います。今までは子供でも理解できるような言葉を使うことが多かったんですけど、そうではない言葉も、自分が思っていることに近い表現であれば自信を持って使えるようになってきました。

歌詞を読みながら「BUTAI」「Simply Me」のプリプロ音源を聴く鞘師里保。

自分の言葉で作詞をしたいという話をマネージャーさんにしていたら、「広島弁で歌詞を書いてみたら?」と言われたことがあって(笑)。いつかそういう曲ができるかもしれないですね。あと自分で作詞するようになってから改めて感じたのは、グループにいたときに歌っていたつんく♂さんの曲には、1つの言葉や表現でも聴く人によっていろんなふうに感じてもらえるテクニックが詰まっているなと。すごく女の子の気持ちをわかっているというか、歌詞にいろんな女子の気持ちを投影できる。そういう言葉を使いこなせるのも技なんだろうなと思いました。

「DAYBREAK」の5曲にはところどころ英語の歌詞が入っているんですが、あれは入れようと意識したわけではなく、自然とそうなっていったんです。デモをいただいた時点で曲の雰囲気やリズムから英語の文章が思い浮ぶことが多くて、自ずと。「Puzzle」のイントロ部分とかも、「日本語で言うのは絶対に違うな」と英詞でしか想像できなくて。あと日本語よりも英語のほうが恥ずかしさが薄れる部分もあるから、一度英語で何も気にせず歌詞を書いてみて、それを日本語に言い換えるというやり方も考えたことがあります。実際にやってみたら自分の中でもうちょっと幅が広がるというか、奥行きが出たりするかもしれないですね。

鞘師里保(撮影:笹原清明)

Chapter4. 演技とは「カギになると信じるもの」

グループにいた頃から舞台をやらせてもらっていましたけど、演技もかなり試行錯誤を重ねましたね。ダンスみたいに自信はなかった。ライブなどほかの活動と並行しながら稽古をすることも多かったので、自分の力不足なまま世に出してしまっているのではという気持ちが大きくて。とにかく「一生懸命やらせてもらいます」という気持ちでした。15歳のときにやらせていただいた舞台「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」 (2014年上演のミュージカル)とかは褒めていただくことも多かったんですけど、何も考えていなかった当時の年齢だからこそできた作品というか。演出的にもそういう狙いがあったんだろうなと思いますし、今もし同じことをやろうとしたらもっと考えて演技してしまうと思います。

私は言葉の奥にある意味を読み取るのが苦手で。もっと想像できるように自分を鍛えたくて、活動再開にあたって演技をやりたいと思うようになりました。そこができるようになると、歌詞に対しての向き合い方も変わるだろうなと思いましたし、実際に今、自分の中で歌詞や言葉の捉え方が変わってきているなと思います。初めて作品の台本を読むときはそのストーリーに自分の経験を重ねられなくて、「共感もできないな」と思うことが多いんですよ。なので、「自分だったらこういうシチュエーションのときはこういう気持ちになる」とかを細かく台本に書き込んでいくことにしたんです。そうしたら、文章を物語として感じられるようになってきた。ほかの俳優の皆さんがどうしているかはわからないんですけど、自分はそうすることでやっと文章の奥にある映像が見えてくるんですよね。

鞘師里保の演技レッスン用ノート。(撮影:笹原清明)

私はそのときの気持ちによって歌に乗る声が変わってくるので、そういう面では演技の経験がとても生きていると思います。今まではどちらかというと、歌詞よりもメロディからストーリーを考えることが多かったんですね。でも演技の経験を重ねることで、「この言葉を、どんな声色でどうやって表現したいか」をすごく考えられるようになって、曲の捉え方が変わりました。そういう表現の方向性みたいなものは感覚的に捉えることのほうが多かったのに、論理的なアプローチもできるようになった。これからはそのどちらもうまく使っていけるようになりたいです。

これまで出演させてもらった作品1つひとつに思い入れがありますが、最近出させていただいた「アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜」(2021年1〜3月にテレビ東京系で放送)というドラマは、これまでの中では一番自分が納得できる演技ができたと思います。ドラマの現場って、普通は慌ただしくてすぐ本番ということも多いんですが、ありがたいことに監督やプロデューサーの方にゆっくり稽古をしていただいたり、台本の内容について話し合う時間をいただいて。「間が長すぎたらこちらでカットできるし、自分の心で相手の言葉を受け止めて、準備ができてからセリフを言うといいよ」と言ってくださったんですよ。その言葉のおかげで、ちゃんと自分の気持ちを乗せて演技ができたなって。活動再開後初めて出させていただいたドラマ「あのコの夢を見たんです。」(2020年10~12月にテレビ東京系で放送)のときは、撮影前日は一睡もできなくて。でもあの作品では私をイメージして役を書いてくださったみたいでうれしかったですし、撮影中も怪我しないようにうまいことケアしていただいてたので、全力でコケさせていただきました(笑)。本番は本当にド緊張して、1つセリフを言うのにものすごい量のエネルギーが必要でした。

テレビ東京系ドラマ「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」の台本。(撮影:笹原清明)

演技を始めた最初の頃は緊張やプレッシャーに感じることが多すぎて、「もうやめたい!」と思ったことも正直あったんですけど、今は前向きです。今後も演技は続けていきたいです。やってみたいのは、自分とめちゃくちゃかけ離れた役。ギャルとか猟奇的な犯人とか、自分とまったく違う役を演じてみたいですね。

Chapter5. ライブとは「未来」

ライブでパフォーマンスしていると別人格が降りてくるというか、“ライブのときの私”が出てくるんです。それくらいライブは自分の中で特別な時間ですね。「LAZER」でも歌っているように、ステージに立っている瞬間に生きていると感じる部分もあるし、私は全力でパフォーマンスをして、たくさんの方がそれぞれの感性でそれを受け取ってくれる場所だから。「DAYBREAK」もどうしてもステージに立ちたいという気持ちがあったからこそいろんな方々に協力いただいて完成させた作品ですし、その気持ちは揺るがないですね。

ワンマンライブ(8月9日に行われた単独公演「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」)ではひさしぶりに皆さんに私が歌って踊る姿を観ていただくので、本当に楽しみで(取材の時点ではワンマンライブ開催前)。以前からライブの演出に関わってみたいという意欲があったので、今回は私のアイデアを取り入れてもらったりして演出に参加しました。もともとモノができあがるまでの過程を見たりするのがすごく好きで、工場見学とかにも興味があって。「DAYBREAK」の制作時も、全曲のトラックダウンやマスタリングの現場に参加させていただきました。実はアルバムの曲順も全部自分で考えて、曲と曲の間の秒数も決めさせてもらったんですよ。そこまでこだわった作品だからこそ、ライブにもこだわりたくて。今はいろいろ勉強しながら演出に参加させてもらっている段階なので、今後はもっと深く関わっていけるようになりたいです。

ライブの演出には本当にいっぱい可能性がありますし、いろんな方向性にチャレンジしたいと思うんですけど、今回の公演ではそこまで作り込みすぎなくていいかなと思っています。というのも、歌と言葉で自分の気持ちを表現したいので、それが引き立つような演出にできればなと。セットもシンプルなので、ライブを観ていただける方には純粋にパフォーマンスを楽しんでもらいたいです。今はコロナ禍の影響もあって、ライブ中に観客の皆さんが高揚してくれたとしても声を出したい気持ちを抑えなきゃいけないですよね。でもライブを観に来てくださるからには、皆さんにしっかり気持ちを消化していただきたい。そういう気持ちから、ダンスの振りをみんなと一緒に手を挙げられるものに変えたりだとか、私が踊らずに1人ひとりと向き合う時間を作ったりしたいなとか、いろいろ考えているんです。だから当日はできるだけ楽しんでもらえたらうれしいですね。

1stワンマンライブを終えて

本番当日の朝はいつもより早く目が覚めてしまって。終演後に「LAZER」のMVが公開されるのをしっかり見届けてから爆睡しました! 生バンド編成でのライブというのは、当日観てくださった方々にはサプライズだったかな。「DAYBREAK」の音源は打ち込みをベースにしていますけど、ライブでは原曲の雰囲気と生バンドのよさをうまく両立させてお届けできたと思っています。パフォーマンス中は、バンドメンバーの音や存在に支えられている感じがあって。ライブに向けてなんだかんだ気持ちが張り詰めていた部分もあったけど、バンマスの(村田)シゲさん(B)に「不安なことがあったらなんでも言ってね」と言ってもらっていたこともあって、本番も「1人じゃない」と自然に思えました。ダンサーの2人とも一緒に練習する中で話すこともありましたが、何よりもダンスの中で意思疎通できている感じが心強かった。お互いのことを考えながら3人で1つの楽曲を踊ることを意識できていたし、そこに迷いや不安は一切なかったですね。

ステージからの景色は鮮明に覚えています。椅子に座ったお客さんが声も出さずに静かに見守ってくれているという、今の状況下ならではの光景でした。私は踊りまくってはいましたけど皆さんの顔を見る余裕もあったので、「みんなにまっすぐ観られている」という緊張感を味方にして、1人ひとりにちゃんと届けようと思っていました。そうやってあの時間を過ごす中で、やっぱり私はライブで歌って踊っているときに「生きてる!」と思えるし、その感情は、皆さんに自分のパフォーマンスを届けられていると実感する瞬間に湧いてくるんだなと。それに、歌いたい、踊りたいという気持ちはありつつ、悩みながら長い時間を過ごして、ついにあのときを迎えて。自分が本当にやりたかったことがやっとできたんだ、と自信や達成感みたいなものにつながったと思います。

たぶん、私の中にはどこかで何かに身構えてしまうというか、余計な力が入ってしまうところがあって。いろんな瞬間に対してそういう感情があるんですけど、それを1つずつパリンと割っていくような感覚で今まで前に進んできたんです。それがあのライブで、自分の中に張っていた分厚いガラスがまた1つ割れたような、大きなものを乗り越えられた気がしています。だからこそ、次は皆さんにあのとき以上のものを見せられそうだなって、最近も練習しながら思いました。全然違うんですよ、歌っているときの心境が。ツアーも来年1月に開催が決まったので、今回以上にいいものをお見せしたいですし、やっぱり私としては生で観てもらうのが一番だなと思うから。情勢的に難しい部分もありますけど、自分からいろんな場所に行ったりとか、会場を大きくしたりして、もっとたくさんの方に会えるようにがんばりたいです。

上映情報

鞘師里保 ドキュメンタリーフィルム「Middle of the Night」

2021年9月11日(土)、12日(日)の2日間限定で東京・ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて上映。

ツアー情報

RIHO SAYASHI TOUR 2022
  • 2022年1月15日(土) 東京都 中野サンプラザホール [1st STAGE]OPEN 14:00 / START 15:00 [2nd STAGE]OPEN 17:30 / START 18:30
  • 2022年1月16日(日) 大阪府 Zepp Osaka Bayside OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2022年1月23日(日) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA [1st STAGE]OPEN 13:45 / START 14:30 [2nd STAGE]OPEN 17:15 / START 18:00
鞘師里保(サヤシリホ)
鞘師里保
1998年5月28日生まれ、広島県東広島市出身のアーティスト。幼少期にアクターズスクール広島でダンスを学び、2011年にオーディションを経て12歳でモーニング娘。9期メンバーとしてデビュー。2015年12月に同グループを卒業し、以降はダンス留学のため渡米。2020年9月よりジャパン・ミュージックエンターテインメントに所属し、本格的に芸能活動を再開した。2021年8月に自主レーベル・Savo-rから1stミニアルバム「DAYBREAK」をリリース。同年8月に東京・チームスマイル・豊洲PITでワンマンライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を開催した。また同年9月に「DAYBREAK」発表までの道のりを追ったドキュメンタリー映画「Middle of the Night」が東京・ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて2日間限定で上映。2022年1月には東京、大阪、広島の3都市を巡る1stツアーを行う。現在音楽活動の傍ら、さまざまなドラマ、舞台、ミュージカル作品に出演するほか、毎週日曜日にMBSで放送中のラジオ番組「鞘師里保と◯◯と」ではパーソナリティを務めている。