SAYASHI RIHO「DAYBREAK」PART2 |私の今を照らす5つの光

8月4日に5曲入り1stミニアルバム「DAYBREAK」を自主レーベル・Savo-rから発表し、本格的に音楽活動を再開した鞘師里保。2011年から4年間在籍したモーニング娘。へのリスペクトを示しながら「自分なりの新しい朝を迎えられるように」という思いを込めた今作を提げ、8月9日には東京・チームスマイル・豊洲PITでワンマンライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を開催した(参照:君にずっと会いたかった、鞘師里保がダンサー&生バンド編成で届けた涙の1stワンマンライブ)。

音楽ナタリーでは第1回に引き続き(参照:鞘師里保1stミニアルバム「DAYBREAK」1万2000字インタビュー)、ソロアーティストとして歩き出した彼女の今にフィーチャーした特集を展開。ダンス、歌、作詞、演技、ライブといった彼女を象徴する5つのテーマ別に、2021年の今、自身がそれぞれとどのように向き合い、どんな思いで表現しようとしているのか語ってもらった。

取材・文 / 岸野恵加構成 / 瀬下裕理メインカット撮影 / 笹原清明手書き文字 / 鞘師里保

Chapter1. ダンスとは「呼吸」

ダンスを始めたのは5歳の頃でした。テレビで観た「Go Girl ~恋のヴィクトリー~」(2003年発表)のパフォーマンスをきっかけにモーニング娘。が好きになって。そのあとアクターズスクールの入学生募集のCMを観て、母に「私もやりたい!」とお願いしました。スクールは家から遠かったんですけど、最低でも週2回、モーニング娘。への加入が決まるまで約7年間くらい通っていたので、今思うと送迎などで親に負担をかけただろうなと思います。スクールではいろんなジャンルのダンスを経験させてもらって。アクロバットなど身体能力を求められるようなものじゃなければ、だいたいどのジャンルも踊れていたような気がします。でも自分が一番ハマってやっていたのはヒップホップでしたね。母も2000年代に流行っていた洋楽、例えばビヨンセとか、Destiny's Child、TLC、あとはショーン・ポールっていうラッパーとかが好きで。その影響で、私が聴く音楽もそういうものが多かったです。

ダンスを始めたいと思ったときからモーニング娘。に憧れ続けて、人前で歌って踊る存在になりたいなとずっと思っていました。一緒に通っている友達と自分を比べたり、「負けたくない」というライバル心は特になくて、ただ自分が楽しかったから踊っていた。どちらかというと先生や講師の方に認められたいという気持ちが強かったです。そのときの自分は怖いものなしでしたね。ダンスに対する意識が変わったのはモーニング娘。のメンバーとしてデビューしてからです。「ダンス楽しい! 先生褒めて!」のままだと、プロとしてステージに立つには難しいなと感じるようになって。自信たっぷりで自分は無敵だという感覚を、そこで一度へし折られましたね。歌があってのパフォーマンスであって、ダンスだけじゃダメなんだと、初めて気付いて。それにダンスだけではなく、歌の技術や表現力、パーソナリティといったいろんな要素を含めて自分がジャッジされていくんだという感覚を覚えてからは、ダンス以外のものに関して劣等感やコンプレックスを感じるようになりました。そこで自分の課題が見えたことで、一旦冷静になれたというか。

グループを卒業してニューヨークに留学したあと、帰国してからはダンスよりも家族と過ごす時間のほうを大切にしていました。ときどきワークショップに行ったりはしていましたけど。音楽活動を再開すると正式に決まってからは、いろんなスクールの興味があるレッスンを1つずつ取っていくような感じでやっています。得意なヒップホップのレッスンに行くこともあるし、リズムを下半身で取るだけじゃなく、空間全体を使うような動きを体に染み込ませたくてジャズのレッスンを取ってみたり、趣味でハウスを習ってみたり。あと私は菅原小春さんの力強いダンスが好きなので、一時期は振り付けを真似して練習したりもしていました。

ここ数年でダンスへの世間的な注目度も上がって、ダンス全体が盛り上がっているのはすごくうれしいですね。K-POPを含めていろんな国の方のダンスを日々観ていますけど、私みたいに女子が1人で歌って踊るというスタイルはあまりいないのかなと思っていて。そこは自分の強みにしたいなと思っています。「DAYBREAK」では、MIKIKOさんのダンスカンパニー・ELEVENPLAYのMARUさんに「Find Me Out」と「Puzzle」、ニューヨークでレッスンをしてもらったBo Parkさんに「BUTAI」と「Simply Me」の振り付けをしてもらっているんですが、「LAZER」だけは自分で考えた振り付けも入っていて。ゼロから振りを考えるのは今回が初めてなので未知数なところもあるんですけど、MARUさんにも相談させていただきつつ、いろいろ作り方を試してみたいです。

鞘師里保がダンス練習時に着用しているシューズ。(撮影:鞘師里保マネージャー)

Chapter2. 歌とは「戦友」

自分の声は自分なりの個性があると思えている部分はあるんですけど、以前は歌うたびにバッシングされている気分だったというか、正直歌うのが怖かった頃もありました。精神状態に歌声が左右されていたなと思います。グループで活動している間に声の高さが変わった部分はあると思いますけど、それが原因というわけではなく、ずっと歌は苦手という思い込みがあって。当時ボイトレに行かせてもらうこともあったけど、教わってからすぐ本番という日々だったので、自分の中で試して噛み砕くということがなかなかできなかったんですよね。卒業してからは、「今までに教わってきたことってどういうことだったんだっけ」と考えながら、自分の歌とひたすら向き合って。スタジオを借りて練習したり、実家にいた頃は毎日カラオケに通ったり。はたから見たら修行みたいな感じだったかもしれませんけど、自分がやりたい、やるべきと思ったら迷わずやる性分なので、練習はまったく苦ではないです。むしろ自分が苦だと思わないことしかがんばれない(笑)。

鞘師里保(撮影:笹原清明)

歌っていると本当に楽しいんです。それに尽きますね。だから練習を続けられたんだと思います。説明が難しいんですけど、苦しかった期間も歌自体は大好きだったんです。つんく♂さんにも当時「歌に力が入りすぎている」とよく言われていましたけど(笑)、リズムのことは信頼していただいているという実感があって、やりがいを感じていました。でも歌うことが楽しい気持ちに自分の技術が追いついていないという事実が苦しかった。だけどずっと歌を好きな気持ちがあったから、自分で試行錯誤できる時間が取れたタイミングになって、「今まで教わったことをちゃんと噛み砕いて生かそう」と思えたんです。

ダンスと歌は通ずる部分が多いと思っていて。ダンスでも自分から音を取りに行ったり、振りを音に当てに行って踊るのがすごく好きなので、そのゲーム感覚みたいなものを歌にも応用してるのかなと。でも「DAYBREAK」では歌うときにリズムを取ることだけに集中しないように気を付けていました。自分の顔や体の周りだけで歌っちゃうと、声がこもってしまうんですよね。それはレコーディングを重ねながらずっと感じていたことで。私、これまでもライブだと歌えるのにレコーディングだとうまくいかないことが多くて。それって、無意識的に、マイクに対してしか歌っていなかった。でも、マイクじゃなくて自分の中に軸があるということを意識しながら歌えば、自分の歌になるとわかったんです。それを今回のレコーディングで発見できたことは大きかったです。

「DAYBREAK」は曲ごとに作家さんが違うということもあって、レコーディングのスタジオが全部バラバラだったんですよ。だからスタジオのブースに入って、環境に慣れるのに多少時間がかかりました。でも感覚をつかんで、「今なら歌えます!」というタイミングがそれぞれのスタジオで必ずあった。実際に音源に乗っている声にもそれがかなり出ているなと思います。テクニックだけじゃなくて、そういう気持ちや感覚もすごく大事だなと。まだ人前で歌うことへの怖さはゼロではないし、いざ本番になったとき練習した成果が出せるのかは心配ですけど、以前の自分よりは土台を固められた感覚はあるので、自信はついてきています。