SAYASHI RIHO「DAYBREAK」PART1 |新たな朝日が差す場所へ

コンプレックスを克服した瞬間

──4曲目「Puzzle」は一転して“白鞘師”な印象です。さわやかで、ポップな1曲ですね。

これはコンペで集めていただいた中から自分で選んだ曲です。踊れるビートの中にキュートさと懐かしさが感じられるところに惹かれたのと、トラックを聴いただけでストーリーが感じられるのがいいなと思って。歌詞は曲調からイメージして歌詞を書き始めたんですけど、最初は血迷って恋愛系の歌詞を書こうとしちゃって……。

──血迷って(笑)。

一度書き終わって、仮録音の段階までいったんですけど、歌い終わったところでみんな「……違うね」となって(笑)。まるっと書き直しました。

──でもこの完成版の歌詞も、恋愛関係と捉えることもできるように感じました。

自分としては友情をイメージしていたんですが、シチュエーションを限定しすぎないように書いたつもりなので、恋愛関係にも読めるかもしれないですね。この曲はたくさんの人に向けての思いというより、1対1の関係性を歌っているので。最初は「Missing」というタイトルだったんですけど、レコーディングの前日に急に思いついて「Puzzle」に変えたんです。そこからサビの頭にも「パズル」という言葉を入れたらカチッとハマって、ほかの歌詞もどんどん変わっていって。レコーディング当日の朝まで書き直してました。

鞘師里保

──ちなみに、歌詞カードに載っていない冒頭の英語パートではどんなことを歌っているんですか?

「あなたが大切な存在だって今さら気付いた。とにかくあなたが特別なんだって説明したい」という気持ちを歌ってます。フレーズの音をニュアンスとして捉えてもらいたいので、歌詞としては表記していないんですが、センテンス自体はイギリス帰りのエンジニアさんと一緒に、より自然な表現を追求していきました。

──そして歌詞も曲調も明るい、未来を感じさせるような「LAZER」が作品の最後を飾ります。

この曲では、私がファンの方に直接伝えたい気持ちを歌っています。作詞のカミカオルさん、作曲のTAKAROTさんと3人で、とことん話し合って作り上げました。まず私が伝えたいことや、どんな人間なのかということをお二人に知ってもらわなきゃと思って、今までのこととか、私がファンの方々に対してどう思っているかをしっかり聞いていただくところから始めて。

──丁寧に作っていったんですね。「LAZER」というタイトルにはどんな意味が込められているんでしょうか?

前々からそうなんですが、私はステージに立ってパフォーマンスしていると、力がみなぎってきて、自分の指先からスパーンと光線が出ているような感覚になるんです。その話をお二人にしていたら生まれたフレーズです。

鞘師里保

──「一筋の光踊って LAZER」という歌詞は、ステージに立つ鞘師さんそのものを表していると。

はい。私はこれまで孤独が怖いから誰かと仲よくなりたいとか、一緒にいたいと思うことがあったんですが、そうしているときほど、全然人と話が合わないし馴染めなくて。でも自分が自分らしく生きているときに、たまたま交わった人たちと一緒に何かを作ったりできるってすごく素敵ですよね、ということをカミさんと話して。ブリッジの「混ざる事はない できないけど 交わる一瞬のため」という歌詞は、そんな会話の中から生まれました。私は私の全力のパフォーマンスをして、ファンの方は自分の感性でそれを受け取ってくれる。ライブの瞬間に、人間としての生命力がまっすぐ放たれる、レーザーみたいな生き方が交わっているなって。この曲の作詞ではカミさんにたくさん助けていただきましたね。自分じゃ書けない歌詞を書いてくださった。「ずっと会いたかった」も、自分の中にある気持ちだけど、恥ずかしくて自分では書けなかった言葉だと思うので。引き出してもらえるありがたさを感じました。

──歌唱の面で言うと、この曲はほかの曲よりもキーが高いですよね。

高いです。実はずっと苦手で、避けていたキーなんですよね。最初に曲をいただいたときも、けっこう危ういなと思ってました。私は歌が大好きなくせにコンプレックスが強くて。小さい頃から活動してきて、歌に関していろいろなことを言われていたこともあると思うんですが、「高音は無理」と自分の中に刻み込まれていたんです。毎回出るかどうか賭けみたいな感じで、怯えながら歌っていて。どう受け取られるかがいつも怖かった。でも今回録っているときに、私が歌えるまでスタッフさんたちが待っていてくださったんですよね。そうしたら、時間はかかったんですけど、パーンって出たんですよ。そのとき初めて、恐怖心を持たずに人前で高音を出せたという感覚があって。こういうふうに歌えたらいいなと思い描いていた通りになって、新しい領域に入った感覚がありました。そこからは「私、高音出るじゃん! ダメなわけじゃないんだ」と、無双状態に入りました(笑)。

──殻を破った瞬間が音源に残されているんですね。すごく力が抜けていて、気持ちよい聴き心地でした。

メロディを変えるという話も出たんですが、それは悔しくて嫌だったので、必死でがんばりました。歌には苦手意識があったけど、グループを卒業してからもダンスだけ練習していたわけではなくて。歌のこともすごく考えて過ごしてきて、高音が出しやすくなる手段も自分の中でいくつか持っていたんです。それをこの「LAZER」のレコーディングでひたすら試し続けた感じですね。

──「ザ・鞘師里保」というストイックさを感じるエピソードです。改めて完成した5曲を俯瞰してみると、どんな手応えがありますか?

私は基本的に自分に自信がないんですけど、そんな私でも自信を持って届けられる5曲だなと思います。謳い文句ではなく、本当にそう思っていて。自分の意思が伝えられるように、言葉にもメロディにもそれが乗るように考えて作ってきたし、ちゃんと曲の中に自分がいるなと。今しか作れなかった5曲でありつつ、今後もそのときそのときの感情と重ねながら長く歌っていける、嘘のない5曲になりました。

新しい朝を迎えて

──音源のタイトル「DAYBREAK」は“夜明け”を意味しますが、全曲が完成してから付けたんですか?

これは曲ができる前からありました。私はモーニング娘。という名前のグループにいたので、そこへのリスペクトを込めつつ、ここからまた自分なりの新しい朝を迎えるという気持ちを表したかった。あとは“夜明け”ということで再スタートの要素を伝えられるかなと。こねくり回さずシンプルに表現しました。

──なるほど。過去への感謝も示しつつ、自分の決意を表明するような、素敵なタイトルですね。

私は今も自分のことを100%は認めてあげられていないけど、このミニアルバムを通して自分を認めることに対して前向きになれたというか、日が差してきた感覚があるんですよね。だから今の私がしっかりと入っている5曲だなと思いますし、1年後の自分には作れない作品だと思っています。

鞘師里保

──延期となったライブがいよいよ8月9日に開催されますが、この音源が完成したことで、構成も当初からはきっと変わったんですよね?

はい。歌をしっかり届けるというスタンスになりましたね。細かい演出はまだまだこれから詰めていく段階なんですが、楽しみにしていてほしいです。

──パフォーマンスを拝見するのがとても楽しみです。最後に、今後どんなアーティストになっていきたいかをお聞きしてもいいでしょうか? 海外進出も視野に入れているのかなと。

今はあまり戦略的なことを考えずにやっていきたいなと思っています。武器を武器と思わないようにするというか。英語ができることも、武器ではなく手段として捉えたいなと。でも、今回1枚作り上げて改めて思ったのは、その時々の自分をしっかり言葉や曲で表現できるようにしたいということ。そのために、表現の幅を広げないといけないなと思っています。常に“そのときの自分”が中心にいることを忘れずに、これからも曲を作っていきたいです。

鞘師里保

公演情報

RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK
RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK
  • 2021年8月9日(月・振休)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
鞘師里保(サヤシリホ)
鞘師里保
1998年5月28日生まれ、広島県東広島市出身のアーティスト。幼少期にアクターズスクール広島でダンスを学び、2011年にオーディションを経て12歳でモーニング娘。9期メンバーとしてデビュー。2015年12月に同グループを卒業し、以降はダンス留学のため渡米。2020年9月よりジャパン・ミュージックエンターテインメントに所属し、本格的に芸能活動を再開した。2021年8月に自主レーベル・Savo-rから1stミニアルバム「DAYBREAK」をリリース。同年8月に東京・チームスマイル・豊洲PITでワンマンライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を開催する。現在音楽活動の傍ら、さまざまなドラマ、舞台、ミュージカル作品に出演するほか、毎週日曜日にMBSで放送中のラジオ番組「鞘師里保と◯◯と」ではパーソナリティを務めている。

2021年8月20日更新