Saucy Dog|アットホームさとバランスを武器に前進

思惑通りの「死んで」

──先ほど話題に出た「シンデレラボーイ」はSaucy Dogの曲には珍しく全編女性目線の歌詞ですね。

石原慎也(Vo, G)

石原 そうなんです。Dメロだけに女性目線の歌詞が入っていることなどは多かったんですけど、今回は全編通して女性目線で書きました。あまりよくない恋愛をして自分が傷付いたときがあって、なんとなく男目線で書くのは違うと思い、それなら女性目線で書いてみようと。あと友達に恋愛相談をされることがよくあって、その話を聞いて自分だったらこうかなと思った言葉も入っています。

──Dメロで「シンデレラ」と「死んで」をかけているのがとても印象的でした。

石原 うれしいです。思惑通りです(笑)。たまたま思い浮かんだんですけどね。「シンデレラボーイ0時を回って」というサビが最初にあって、ラスサビの前にもうひと回ししたいと思って歌っていたら「あれ? “死んで”とかけられるじゃん。めっちゃいいやん」と気付いて。

──2曲目の「シンデレラボーイ」から5曲目「君がいない」まで失恋ソングが続きますよね。意図してこの曲順に?

石原 いえ、どちらかというと歌詞ではなくて曲調で決めましたね。このあとはこの曲調の曲がいいよね、みたいな感じで。でも本当、今回は失恋の曲が固まっていますね。

──失恋を歌った曲が多いこともあってか、「レイジーサンデー」にはゆったりした曲調で、じっくり聴かせる曲が多いですよね。情勢の都合上ライブで声を出すことが難しいこともあって、聴かせる曲が増えたのでしょうか?

石原 そんなことはないんですけど、言われてみると確かに今の時代に合ってますね。ゆったりした曲が多くなったのは僕がそういうモードだったということだと思います。

──「君がいない」も歌詞だけを読むとバラード調なのかなと思いましたが、疾走感のあるメロディで。

石原 歌詞が先だったので、僕も書き始めはバラードかなと思ったんですけど、書き進めていくうちにアップテンポだなと確信して。

せと 「君がいない」は制作の後半にできた曲なんです。気付いたらミドルとバラードばかりだったので速いテンポの曲も入れることになり、私が「少し前にやったクリープハイプの『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』のカバーみたいな雰囲気の曲を作ろうよ」と提案したんです。そしたら「君がいない」を聴いたファンのみんなから「『おやすみ』の雰囲気を感じる」という声がけっこうあって。伝わるもんやな、すごいなと思いました。

「この人を残しては死ねんな」と思える人を思い浮かべてほしい

──「週末グルーミー」はカゴメ「野菜生活100」をテーマに制作された曲です。

石原 野菜の大切さや元気の源を感じさせる曲にしてほしいというテーマをいただいて。「野菜のない生活」という歌詞や、エールを送るような言葉を入れました。

──メロディやリズムからはキッチンに立って料理をしているような雰囲気が伝わってきました。

石原 そうですね。イントロは朝に起きたら母親が台所で「トントントン」と包丁で野菜を切っているところをイメージして作りました。

──「東京」は下ハモのコーラスが素敵だなと思ったのですが、秋澤さんでしょうか?

秋澤 僕は歌ってないんですよ。

石原 僕なんです。

秋澤 コーラス、けっこう難しいんですよね。最近はより複雑化してきていて。「東京」のコーラスもライブでできるように練習しないとな。ときどき音源を聴いたお客さんから「秋澤さんのコーラスめっちゃいい」と書いてくれていることがあるんですど、「俺歌ってへんねんな」という(笑)。

──今後ライブや音源で秋澤さんのコーラスパートが増える可能性も?

石原 そうですね。ゆくゆくは全部やってくれたらいいなと思ってます!

秋澤和貴(B)

秋澤 コーラス、本当につかめなくて。ベースでコーラスのメロを弾いたら癖がわかってくるんじゃないかと言われたことがあって、それはやってますね。まだ雰囲気でしか歌えないんですけど(笑)。

──今後を楽しみにしていますね。せとさんが手がけていることでおなじみのボーナストラックは、今回は「いつもの帰り道」という曲です。これまで同様、柔らかく優しい曲調でしたが、歌詞にはこれまでとは異なるシリアスなフレーズもあって驚きました。歌詞にはご自身の経験を反映されたのでしょうか?

せと そうですね。これでボーナストラックは4曲目です。今までは想像で書いた恋愛系の曲ばかりでしたが、今回は今の自分の感情を歌詞にしたくて。書いたのは武道館公演が終わってからでした。2020年はコロナが蔓延して、なんとなく時間が経てば状況がよくなるとみんな思っていたけど、そんなこともなく。そんな中で「会いたいと思う人ほど会えない時代だな」と、ふと両親の顔が浮かんだんです。2番のシリアスな歌詞については、今年の5月くらいにメンタルがズタボロになって、「あー死にてー」と思ってしまう時期があったんです(笑)。自分がそう思ったから出てきた言葉でもあるんですけど、去年は自殺のニュースも多かったじゃないですか。そういうことにも影響を受けました。私は親より早く死ぬのは絶対にダメやなと思っていて。この曲を聴いて、誰か1人でもいいから、「この人を残しては死ねんな」と思える人を思い浮かべてほしいなと思っています。

曲を聴いてほしい

──アルバムの話からは逸れるのですが、石原さんが少し前にInstagramのストーリーで「アイドルがダメなわけじゃないけどアイドルと言われるのは癪だ。カッコいいバンドでありたい」というようなことを書かれていて、それを受けてせとさんがTwitterで補足のコメントを投稿されていましたよね。

石原 僕はその投稿をしたときに、たとえアイドルでもいいから曲は聴いてほしいと思ったんですよね。書いた通りアイドルだと言われるのが嫌だったわけじゃないです。アイドルの曲、いい曲いっぱいあるし。ただ本当に数少なくではあるんですけど、「(Saucy Dogは)アイドルっぽいから曲は聴かない」と、そういう声があったんです。それを見つけて衝動的にストーリーに投稿してしまったのですが、今は後悔してます。アイドルっぽいからと書いていた人は、もともとSaucy Dogが好きで周りからそういうふうに思われているのが嫌だったみたいで、それをあとで知ったんですよね。それが僕の言葉不足でファンの人に真意と違うように捉えられてしまった。もっとSaucy Dogの中身や雰囲気がお客さんに伝われば、僕らの音楽がいろいろな人の中にすんなり入っていくのかなと思うんですけど。

──世間の人から見て、ファンの人から見て、Saucy Dogはどんな印象を持たれていると思いますか?

石原 どう思われているんだろう。あまり気にしないかもしれないですね。でも恋愛の曲が多いから恋愛ソングを多く歌っているイメージがある人は多そう。

──恋愛ソングが多いと思われることについてはどう思います?

せとゆいか(Dr, Cho)

石原 そういうふうに思ってもらえるのは全然いいですね。ただ恋愛ソングではない曲も書いているのでそれも聴いてほしいです。

──ともかくいろんな曲を聴いてほしいと。

石原 はい。曲を聴いてほしいです(笑)。

──せとさんはTwitterで、メンバー自身も音楽もどちらも好きでいてくれたら、というようなコメントを投稿されていましたね。

せと なんだっけ(笑)。

石原 覚えてないやろ?(笑)

せと とりあえず今覚えているのは、慎ちゃん、特定の人の意見だけをピックアップせんくてよかったなと。

石原 そのあとスタジオでそう言われて「せやんな……」って言ったよね。その人にも申し訳ないことしたなと思って。