仮タイトルは「ロンリー」
──制作の取っ掛かりになった曲と言うと?
石原 「真昼の月」ですね。この曲は最初に作り始めて、最後まで迷ってた曲です。
──何に迷ったんでしょうか。
石原 歌詞ですね。「どうしたら自分の気持ちが一番伝わるんだろう」とか、「自分の弱さを最後に希望に変えるにはどうしたらいいんだろう」ってことですごく悩んで。
──この曲では離れた場所で自分を見守り続けてくれる両親に対する素直な気持ちが歌われていますが、石原さんはこれまでもライブのMCなどで家族に対する思いをたびたび口にされていたと思います。でも、こうやって改めて曲にすることは今まであったんですか?
石原 ないんです。だから「これ書くの、ちょっと恥ずかしいな」って思ったりもしたし、素直な気持ちを伝えることってやっぱりむちゃくちゃ難しいんだなって。きっと大切な人に自分の思いを伝えられない人ってたくさんいると思うので、この曲を聴いて大切な人に会いに行ったり電話をしたりしてほしいし、大切な人を近くに感じてほしいなと思います。
──ちなみに「真昼の月」というタイトルはあとから付けたんですか? サウシーの楽曲はタイトルから連想するイメージとは異なるイントロが鳴って驚くことがたびたびあるのですが、この曲も「静かなミディアムチューンかな?」と思っていたらそうではなくて。
石原 あ、それわかります。僕もそう思う。
せと (笑)。曲調がどうこうと言うより、完成した歌詞にしっくりくるタイトルを付けることが多いよね。だから自分たちの中では、もうすっかり「真昼の月」でハマってる感じがしてて。
秋澤 うん。最初は確か「ロンリー」とかだったもんね。
せと そうそう。仮タイトルは「ロンリー」でした(笑)。
無理に不安を消す必要はない
──今作は全編を通して、「不安」という言葉や弱気な思いを吐露する表現が多いですよね。ただ、石原さんのボーカルは前作以上に力強く聞こえて、その絶妙なバランスが印象的でした。
石原 僕、制作中の気持ちがよくも悪くも全部歌に出てしまうんです。だから歌詞には当時の不安とか焦りがそのまま描かれているけど、「このままじゃだめだ」と思う自分もいて。ボーカルには「過去を振り返ったうえで進んでいく」という前向きな気持ちが表れているのかなと思います。特にコンセプトはなかったんですけど、できあがってみると未来に向けた希望や挑戦状のような作品になったなって。
──端から見ているとSaucy Dogは「MASH FIGHT!」グランプリ受賞後、トントン拍子にステップアップしているように思えたのですが、皆さんの実感としてはそうでもなかったんですね。
せと そうですね。たぶん、そこのギャップはすごいあると思います。
石原 周囲からの評価と、自分たちの気持ちは裏腹ですね。
せと それこそ「列伝」ツアーを回っているとき、私はずっと不安で。サウシーが好きで「列伝」を観に来てくれている人がいるのはわかってるし、みんながライブを楽しんでくれていることもわかってるけど、そのうえでほかのバンドのいいところばかりが見えてきちゃうんです。それで「足りてない、足りてない」ってなっちゃって。
石原 それぞれのバンドに、ほかにはないよさがあって。例えばSIX LOUNGEなら熱さや情熱で、Ivyなら言葉のはめ方のうまさとか声の綺麗さ、リーガルリリーは空気感で持っていく感じ。で、僕らのよさってきっと、ライブの楽しさだったり笑顔の多さなのかなと思うんです。だけどほかのバンドが初見のお客さんをぐいぐい引き込んでいくのを見てると「負けちゃったな」と思うことが多くて。きっと自分たちも別の部分では負けていないはずなのに、そこで恐怖を覚えたりしました。
秋澤 そうだね。僕もどうにかしてほかのバンドのベーシストのいいところを盗んで、それを生かそうと思ってツアーを回ってましたけど、終わるまではやっぱりずっと不安でした。
せと でも周りからの評価と自分たちのギャップってきっとずっとあるものだし、たぶんこれからも変わらへんのかなとも思います。
石原 そのうえで、焦らず自分たちなりのよさを磨いていきたいよね。「隣の芝生は青い」じゃないですけど、僕は今までほかのバンドのよさを取り入れたいって気持ちが強かったんです。だからほかと比べて「負けてる」と思うことも多くて。でも自分たちには自分たちのよさがあるから、それを突き詰めていけばいいのかなって今は思います。
──徐々に自分たちらしいライブが確立されてきた自信はありますか?
石原 そうですね。今もライブの不安は尽きないですけど、それはずっとついて回るものだし、不安があるからこそがんばれることもあるじゃないですか。だから無理に不安を消す必要はないんじゃないかなって思えるようになりました。
「俺たちは今こうなんだよ」と言い放つ歌詞
──歌詞もそうですが、楽曲のテンションも今までのサウシーには見られなかったタイプのものが多いですよね。「雲りのち」は低めのテンションを維持したまま進んでいく楽曲です。
せと これはもう、作り方から変わっていて。普段は石原が曲の原型を持ってくるんですけど、この曲は秋澤がスタジオでベースラインを弾き始めて、そこに私が自然にビートを付けていくっていう、セッションみたいな形で作り始めたんです。最後にギターとメロを乗っけて。
秋澤 こういう音を抜いていくタイプの曲はあまりやってこなかったから、慎也はけっこう苦戦してて。
石原 うん。メロはすぐできたけど、ギターのフレーズで悩んで。
秋澤 苦労はしてたけど、結果的にはやっぱり任せてよかったなって思います。イントロの、なんか変な……変わったギターとか。
石原 変な変わったギターって、いいとこないで!(笑)
秋澤 いやいや(笑)。自分では思いつかないフレーズだったから、面白いなって。
せと 私もこの曲はすごい楽しかったですね。あとは今回、聴いてくれる人を意識しない曲ができたなという印象があって。特に「メトロノウム」って曲は楽曲の雰囲気もそうなんですけど、「俺たちは今こうなんだよ」と言い放つ歌詞だなと思って。
石原 僕は最初、それがいいのかすごい悩みました。
せと もちろん、一方的なことばかり歌うのもどうかなと思うんですけど。共感を呼ぶような歌詞だけじゃなくて、サウシーとしてまた新しい表現ができるようになったのかなって思います。
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「いつか」を超えるラブソングを
- Saucy Dog「サラダデイズ」
- 2018年5月23日発売 / MASH A&R
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[CD]
1800円 / MASHAR-1006
- 収録曲
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- 真昼の月
- あとの話
- 曇りのち
- コンタクトケース
- メトロノウム
- 世界の果て
- バンドワゴンに乗って
- Saucy Dog「ワンダフルツアー2018」
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- 2018年10月1日(月)東京都 LIQUIDROOM
- 2018年10月2日(火)群馬県 高崎clubFLEEZ
- 2018年10月4日(木)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2018年10月5日(金)長野県 ALECX
- 2018年10月12日(金)京都府 KYOTO MUSE
- 2018年10月13日(土)兵庫県 神戸VARIT.
- 2018年10月14日(日)静岡県 Shizuoka UMBER
- 2018年10月17日(水)宮城県 仙台MACANA
- 2018年10月18日(木)福島県 郡山CLUB #9
- 2018年10月22日(月)香川県 DIME
- 2018年10月23日(火)岡山県 IMAGE
- 2018年10月25日(木)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2018年10月26日(金)福岡県 BEAT STATION
- 2018年10月28日(日)熊本県 Django
- 2018年10月29日(月)山口県 LIVE rise SHUNAN
- Saucy Dog(サウシードッグ)
- 石原慎也(Vo, G)、せとゆいか(Dr)、秋澤和貴(B)からなるスリーピースバンド。2013年11月に大阪で結成され、メンバーチェンジを経て2016年に現在の編成となる。2016年にMASH A&Rが主催するオーディション「MASH FIGHT!」でグランプリを獲得し、2017年5月に初の全国流通盤ミニアルバム「カントリーロード」をリリース。本作を携えて行われた東名阪ツアーは、アンコールツアーを含め全会場ソールドアウトとなった。2018年5月23日2ndミニアルバム「サラダデイズ」を発売。5月25日からは初の全国ワンマンツアーを追加公演含む11カ所にて開催。