音楽ナタリー PowerPush - 笹倉慎介
時の流れを抽出するコンセプトアルバム4作品
1枚の写真の風景を音楽で表現
──笹倉さんは2008年にデビューしてから、アルバム3作と比較的マイペースに活動を続けていましたね。でも今回の「TIME STREAM」シリーズは約1年で4枚を発表するとのことで、一気にアクセルを踏み込んだような。
2ndアルバムの「Spring Has Come」も全9曲だし、「TIME STREAM season1」も全7曲と曲数は少ないんですけど(笑)。今回からTONE(LITTLE CREATURESや高田漣などが所属する事務所)に所属することになって、TONEの社長の是澤(泰志)さんと相談しながら「TIME STREAM」シリーズのコンセプトを決めたんです。
──季節をテーマにした理由は?
自分の作風について考えたとき、よく季節が出てくるなって思って。あとは、“時の流れを音楽で抽出すること”をやっているんだよなって。例えば1枚の写真に写る風景を、2、3分の物語として音楽で表現するような作業をしている。壮大な物語を3分くらいに凝縮するのではなくてね。そういうことをスタッフと話していたら、「じゃあ季節と時の流れをコンセプトに4枚出してみたら面白いかもね」ってことになって。
──それで「TIME STREAM」というタイトル。1つのテーマでアルバムを1枚出すのも大変な作業だと思うのですが、4枚もあって。さらにすべて弾き語りという縛りもチャレンジングですよね。
全部弾き語りっていうのは敷居が高いなと思いましたよ。でも「TIME STREAM」の冬編を作ってみて、意外とできるなって思いました。すごく面白かったです。チャレンジしてやろうって気持ちになって。最近は完全弾き語りで出すアーティストも少ないしね。最初はもっとバンドでやることも想定していたんですけど。
──その真逆のことをやることになってしまった。アルバムからは“冬感”のようなものもリアルに感じられました。
そうですね。実際寒いときに作った曲で構成されているので、聴いた方にも冬を感じていただけると思います。僕の冬感を込められたと思います。
憧れの対象にいかに自分を近づけるか
──弾き語りのようなシンプルなアレンジの場合、スタジオの響きも作品の雰囲気に大きく関わってきますけど、レコーディングはこのguzuri recording houseで行ったんですよね?
うん、ここにマイクを立てて。エンジニアの中村督さんと一緒に一発録りで作りました。
──ぼくとつとした笹倉さんの声の魅力にぴったりとハマる響きでした。
もともとここには、音楽制作をするために移ってきたんです。もう8年になりますね。ここならドラム録れるなあって。千葉に住んでいた頃スタジオを押さえてCDを作ろうとしたんですが、思うようにできなくてスタジオ代だけでかなりの金額がかかってしまって。だから「ドラムが録れるところを」と探してここに来た。最初は庭も荒れ果てていたんですけど、8年かけてセルフビルドで今の感じに至ります。
──先ほど「誰かに似せようっていうのがようやく抜けてきた」とおっしゃっていましたが、確かに今作を聴いて、ボーカルスタイルが以前に比べて自然になっているなと思いました。
うん。僕、人への憧れ方が人一倍強いんだと思うんです。「自分はこうありたい」っていうのと「誰かみたいになりたい」っていうのがすごくせめぎ合っていて……昔は「大滝詠一、ニール・ヤングになりたい」って思って音楽を続けていて。そういうふうに憧れる対象がいるので、そこにどう自分を近付けるかっていうのを目標に音楽を続けているんだなあって思います。
──そうなんですね。
1stアルバムの「Rocking Chair Girl」は音像やタイム感などを、ニール・ヤングの作品をリファレンスにして作っていたし。そのあとは1回ニール・ヤングから離れて、ジェームス・テイラーのプレイスタイルを取り入れてみたり。
──もう少し天才肌というか、天然でああいった雰囲気が出ているのかと思っていましたけど、すごく努力してそこに近付けていたんですね。
自分が憧れる人たちと同じ雰囲気を出していたい。そういうところはストイックだと思いますね。すごく研究しています。ニール・ヤングの自伝とかを読んでいて、自分と考え方が似ているところを見つけるとすごくうれしいですから(笑)。なんだか「これでいいんだよ」って言ってもらえているようで。
──とはいえ笹倉さんの声は、天性のものがあると思います。誰かのスタイルを踏襲することをやめたことで、それがより際立った印象を受けました。
もちろん、そこにはちょっとした自負みたいなのはあります。というか、曲を作って歌っているっていう時点である程度の自負はあるんだと思います。でもそういうのも、トーベンさんをはじめ、音楽をやってきて出会った人たちにかけてもらった言葉が糧になっているんです。自信を持って音楽活動を行っていますけど、そのときどきで理解してくれる人と出会えたことが、その自信につながっているんでしょうね。
──全曲弾き語りでアルバムを1枚作ってみて、いかがでしたか。
不思議なことに、レコーディング中に「昔、こうやって録っていたな」「こういう気持ちで歌っていたな」ってことを思い出しました。17歳で初めて曲を作り始めた頃って、テイクがどうのとかも考えずに、気持ちをぶつけるように歌っていただけだったと思うんです。今回のレコーディングのときも、余計なことを考えずに歌える瞬間が何度かあって。そのときは本当に自然に歌えていて、懐かしい気持ちになりました。原点に帰ったというか、歌に帰ってきたような。
──そしてこれから「春」「夏」「秋」と3枚リリースされますが、どう聴いてもらいたいですか。
そうですね、うーん……。いろんなところに広まってほしい。そしてたまたま流れている僕の曲を聴いて、それで気に入ってくれたらうれしいです。僕自身、ラジオで聴いたり、どっかで小耳に挟んだりして音楽を好きになることが多かったから。なんか、「俺が見つけたんだぞ」って気持ちになるというかね。そういうふうに見つけてもらえたらうれしいですね。
- ニューアルバム「TIME STREAM season1」 / 2015年5月27日発売 / PUFFIN RECORDS / 都雲音工 1620円 / TOCL-0001
- ニューアルバム「TIME STREAM season1」
収録曲
- 冬が
- 隠れたまなざし
- 雪が舞う
- はなれてゆく
- 湖畔の人
- 外は雨
- 僕らが旅に出る夜
- TIME STREAM TOUR 2015
- 2015年7月11日(土)千葉県 cafe STAND
- 2015年7月14日(火)愛知県 Tokuzo
- 2015年7月15日(水)京都府 拾得
- 2015年7月16日(木)大阪府 digmeout ART & DINER
- 2015年7月17日(金)広島県 SHAMROCK
- 2015年7月18日(土)福岡県 LIV LABO
- 2015年7月20日(月・祝)東京都 青山CAY
笹倉慎介(ササクラシンスケ)
1981年生まれのシンガーソングライター。大学中退後、サラリーマンやカフェ店員をしながらライブ活動を続け、2006年、埼玉県入間市にある米軍ハウス村、ジョンソンタウンに移住。2008年に鈴木惣一朗プロデュースの1stアルバム「Rocking Chair Girl」でデビュー。その後自身が内装を手がけたスタジオ兼カフェguzuri recording houseを運営しながら、2枚のオリジナルアルバムや、John John Festival、森は生きているといったアーティストとのコラボ曲を発表している。2015年5月に、四季をコンセプトにした弾き語りアルバム「TIME STREAM」シリーズの第1弾作品「TIME STREAM season1」をリリース。以降3作品の発売を控えている。