音楽ナタリー PowerPush - 笹倉慎介

時の流れを抽出するコンセプトアルバム4作品

月収100万円のサラリーマン時代

──では、そのように書きためていた詞に曲を付けていったのが、最初期の作曲ですか?

はい。それで曲ができたら人に聴かせたくなって、テニス部の下宿の友人に聴かせたりして。

──ライブはやらなかったんですか?

初めてのライブは大学のサークルで。そのときは1学年上の先輩に呼ばれてバンドを組んで、ギターボーカルを担当していました。オリジナルで、フォークロックをやっていましたね。ライブハウスに出たりして。

──ではそのまま大学を卒業して、音楽活動を活発化させていったのですか?

実は4年生の春に大学を辞めたんです。大学で勉強を続けるのか、それとも音楽を続けるのかって考えて、音楽を選んだんです。

──どちらもやるという選択肢は?

なぜか自分の中ではどちらかを選んでどちらかを真剣にやらなければっていうモードで。両立させるっていう考えはなかったです。

──今プロフィールには、「シンガーソングライター」のほかに「レコーディングエンジニア」「スタジオ兼カフェのオーナー」「内装職人」とたくさん肩書きがあるのに。

笹倉慎介

うーん、なんででしょうね。とにかく音楽でやっていくんだってことで、大学を辞めるんです。通ってても留年だったんですけどね。でも、みんな大学を卒業をすると就職するじゃないですか。 僕も22歳で就職してしまうんです(笑)。大学辞めてもバイトをしていたから、同じように音楽以外に時間を捧げるならより稼げるほうがいいと思った。

──稼げるほうがいいというのは、音楽活動のため?

それもあるんですけど、生活にはお金が必要だし、バイトをがんばるのと会社でがんばるのって一緒だなって思って。それでさっきも話した不動産関係の会社に入って、土地・建物を取り扱っていました。あんなに一生懸命働いたことはないですね、歩合制で、月収も100万円超えていましたから。

──その頃は音楽活動は?

会社の近く、船橋にブルースバーがあって。今はもうないところなんですけど。そこでライブをやっていました。会社から直接スーツ姿で行ってそのままオリジナル曲を弾き語りしていて。その頃の曲は今とあまり変わらないけれど、もっと簡単なコードの曲でしたね。

──結局は音楽と仕事を両立させていくことになってしまったんですね。でも、それだけ稼ぎがいいと仕事のほうが楽しくなって、音楽をやらなくなってしまう人もいると思うんですよね。笹倉さんは当時も音楽や芸術にリスペクトはできていた?

もちろん「音楽がなくてもなんとかなるんじゃ?」と思ったこともありましたけど、結局は自分から曲が出てくるから音楽をやっている、っていう感じでしたね。稼いだお金は音楽に費やしていましたし。あと1つわかったのが、普通に仕事をするっていう経験も音楽を作るうえで大事だなってことで。普通の生活の中から出てくる言葉のほうがいいというか、そのほうが歌う理由がある。シンガーソングライターでいられる気がします。だから当時のサラリーマンの経験はよかったなって思っています。

──現実離れした歌詞は歌いたくない、と。

うん、昔からそうなんです。例えばニール・ヤングも意外と普通なんですよね。彼は起業もしているんだけど、家の壁の色を何にしようか悩んでいたり。自分が聴くなら、そういったところから生まれる歌がいいなって思うんです。

──ちなみにサラリーマン時代に作った音楽って、今聴き返すといかがですか?

なかなかいいのを作っているなって思いますよ。2年前に出した「Spring has Come」って曲もその頃に作ったものだし。あと去年、森は生きていると出した「抱きしめたい」のB面の「風にあわせて」も、サラリーマンを辞めたちょっとあとに作った曲でした。

湯川トーベンとの出会い

──そうやって仕事をしながら、千葉のブルースバーでライブを続けていたんですね。

ブルースバーでは毎月月末に僕がライブをやる日があったんですけど、オーナーの手違いで、ある日湯川トーベンさんと対バンをすることになったんです。トーベンさんは翌日地方に行かなければならないってことで、そのとき僕はトーベンさんの次に演奏することになって。

──第一線で活躍しているアーティストと競演する機会を得たんですね。

はい。で、自分の出番の頃にはトーベンさんは帰る準備をしていたんだけど、僕がはっぴいえんどの「しんしんしん」のカバーとかをやっていたら観てってくれたんです。結局打ち上げまで残ってくれて、そこで一緒に「12月の雨の日」を演奏したりして。

──気に入ってくれたんでしょうかね。

どうでしょうね。それから出会って2年くらいして、トーベンさんが自主イベントをやるときにオープニングアクトとして誘ってくれて。場所は下北沢の440だったんですけど、それで初めて東京で弾き語りをしました。そこでイベントに出演された岸田(繁 / くるり)さんとお話させていただいたりして……そのイベントに参加したことが自信になりましたね。音楽を続けていていいのかもしれないって。トーベンさんがいなかったら、ステップアップしていこうという気持ちにもならなかったかもしれないし、音楽を辞めていたかもしれない。

──よい出会いでしたね。

はい。そしてそれを機に東京でライブをするようになっていったんです。サラリーマンは辞めて、コーヒーの専門店で働きながらライブ活動を続けていきました。できたばかりのmona recordsや下北沢のLOFTなどでライブをして。

──下北沢を中心に活動していましたよね。その頃から、やはり声に一際の存在感がありました。

たまに当時のライブを録音したMDとかを聴き返すんですよ。さっきも言われましたけど、コッテコテに大滝詠一さんに似せて歌っていましたね(笑)。自分の歌い方が定まってきたのは、ここ2、3年くらいだと思います。誰かに似せようっていうのがようやく抜けてきたかな。

ニューアルバム「TIME STREAM season1」 / 2015年5月27日発売 / PUFFIN RECORDS / 都雲音工 1620円 / TOCL-0001
ニューアルバム「TIME STREAM season1」
収録曲
  1. 冬が
  2. 隠れたまなざし
  3. 雪が舞う
  4. はなれてゆく
  5. 湖畔の人
  6. 外は雨
  7. 僕らが旅に出る夜
TIME STREAM TOUR 2015
2015年7月11日(土)千葉県 cafe STAND
2015年7月14日(火)愛知県 Tokuzo
2015年7月15日(水)京都府 拾得
2015年7月16日(木)大阪府 digmeout ART & DINER
2015年7月17日(金)広島県 SHAMROCK
2015年7月18日(土)福岡県 LIV LABO
2015年7月20日(月・祝)東京都 青山CAY
笹倉慎介(ササクラシンスケ)

笹倉慎介

1981年生まれのシンガーソングライター。大学中退後、サラリーマンやカフェ店員をしながらライブ活動を続け、2006年、埼玉県入間市にある米軍ハウス村、ジョンソンタウンに移住。2008年に鈴木惣一朗プロデュースの1stアルバム「Rocking Chair Girl」でデビュー。その後自身が内装を手がけたスタジオ兼カフェguzuri recording houseを運営しながら、2枚のオリジナルアルバムや、John John Festival、森は生きているといったアーティストとのコラボ曲を発表している。2015年5月に、四季をコンセプトにした弾き語りアルバム「TIME STREAM」シリーズの第1弾作品「TIME STREAM season1」をリリース。以降3作品の発売を控えている。