Sano ibuki「ZERO」インタビュー|“ZERO”から歩き出す、原点回帰の1枚 (2/2)

“楽しい狂気”みたいなサウンド

──5曲目の「アビス」は、今回のミニアルバムの中でもっともアッパーな楽曲です。

この曲もミニアルバムの制作の終盤に書いたんですが、まず、ひさしぶりに物語を緻密に考えてから制作したんですよ。かなり時間がかかっているし、制作中は没頭していたので、その間、スタッフもなかなか連絡がつかなかったと思います(笑)。

──ストーリーを組み立ててから楽曲を制作するのは、もともとSanoさんが得意とするスタイルだと思います。背景になっている物語はどんな内容なんですか?

そうですね……まあ、この歌詞を読んでもらえれば、楽しいお話ではないことはわかってもらえると思います(笑)。「アビス」は“深淵”という意味ですね。

──「どうせ独りなんだろう」から始まり「こっちおいで 僕と二人になろうぜ」で終わる感情の流れもすごいですね。

エゴの塊みたいな歌詞ですよね。誰に向けて歌っているかもはっきりさせていないし、ちょっと自分勝手な歌かも。ただ、どんな行動も自分勝手だなと思うんですよね。例えば誰かに好意を向けるのもそう。結局は相手を振り回すことになるというか……そういう部分が剥き出しになってる歌かもしれないですね、「アビス」は。

Sano ibuki

──ギターのフレーズを軸にしたアレンジも鮮烈です。ギターロック的な雰囲気もありますね。

アレンジャーのNaoki Itaiさんとはこの曲で初めてご一緒したんですけど、かなり新鮮でしたね。最初は「ライブで演奏して盛り上がる曲にしたい」というところから始まって、ギターリフを考えました。ギターロックだけではなくて、リズムの作り方にはダンスミュージックっぽい匂いもあるんです。“楽しい狂気”みたいなサウンドですね。

──ちなみにSanoさん、ギターロックにハマったことはあるんですか?

はい。もともとフジファブリックが大好きだったので。キラキラした曲もそうだし、ちょっとカオスな感じも好きですね。あと、実はラウド系バンドをやってたこともあるんですよ。そのときはベースだったんですけど、SiMやcoldrainなども聴いてました。

──ちょっと意外かも。今の音楽性に、ラウドロックの影響ってあまりないですよね?

そうですね。当時はツーステップで踊ったりしてたんですけど(笑)。

Sano ibuki
Sano ibuki

初めて作った“ヒーローソング”

──ミニアルバムの最後を飾るタイトル曲「ZERO」は、アニメ「惑星のさみだれ」のエンディングテーマです。

“ヒーローソング”を作ったのは初めてでしたね。これまではヒーローになれない側を歌うことが多かったので、「ヒーローソングって、どう作ったらいいんだろう?」と思いながら、まずは「惑星のさみだれ」の原作を読み込みました。

──当然、Sanoさん自身のヒーロー像も反映されている?

そうですね。「笑って 泣いて まだ知らない君を知って 隠した傷も笑顔の裏も世界もやっと愛せたよ」という歌詞が、まさに自分のヒーロー像で。これはアンパンマンのイメージともつながってるんです。痛くても必ず立ち向かうし、倒されても立ち上がる。だけど友達はいないんですよ。

──「愛と勇気だけが友達さ」ですからね。

そうなんですよね。だけど僕はそういう存在になれない。だったらどうするか?ということも考えましたね。

──それが「ZERO」の最後にある「僕ら、ZEROでもHEROになれるのさ」というラインなんですね。

はい。むしろ何もないからこそ始められる、何もないからこそヒーローになれるんじゃないかなと。さっきも言いましたけど、僕は少年マンガ誌をずっと読んでいて、何も持っていない主人公が努力を重ねてヒーローになっていく姿が好きだし、憧れているんです。「惑星のさみだれ」も重なる部分がたくさんあり、もっと言えば僕を含めた多くの人が「自分には何もないな」と感じたことがあると思うんですよ。そのこと自体を歌うのも、ヒーローがやるべきことなんじゃないかなと。

Sano ibuki

──サウンドもすごく勢いがあって、アニソンらしい楽曲に仕上がっています。

エンディングテーマなんですけど、「ここから何かが始まる」という感じのサウンドにしたかったんですよね。メロディもかなり細かくこだわったし、アニメのファンの方にも楽しんでもらえたらなと。原作を読みながらこの曲を聴いてもグッとくると思います。アニソンも好きで今までけっこう聴いていたんですけど、振り返ってみると、2010年代のアニソンには、90年代、00年代のギターロックシーンに影響を受けた曲がかなりあった気がしていて。つまりアニソンを通して、ギターロックの影響も受けていたんだろうなと。そう考えると音楽の歴史、音楽のバトンのつながりを感じるし、自分が作る曲にも自然といろいろなエッセンスが入ってるんだと思います。

──なるほど。1曲1曲にストーリーがあるし、音楽性も幅広い、濃密な作品になりましたね。

制作に半年くらいかけているんですけど、体感的には5年ですね(笑)。今までの作品の中でも一番濃い制作時間だったし、いい作品になったなと思ってます。

──そして2023年1月21日には東京・東京キネマ倶楽部でワンマンライブ「Sano ibuki Special Live “ONE”」が開催されます。

ワンマンは3年ぶりなんですよ。アルバム「BREATH」をリリースしたときにライブができなかったので、今回セットリストを作るのも大変で。スタッフからも「この曲を入れてほしい」という意見があるし、「さて、どうしよう?」という感じですね。演出に関してもやりたいことがいろいろあるので、面白いライブになると思います。1月の東京のライブは起動の1つというか、ここから始まる第一歩にしたいなと。

──だからライブのタイトルが「ONE」なんですね。「ZERO」以降はどんな活動になりそうですか?

まだ見えてないというか、あえて決めないようにしています。「ZERO」の感想をリスナーから聞いて、どの曲がどんなふうに届いたのかを丁寧に確かめたうえで、次に向かって走っていけたらなと。どんな反応があってもいいように準備だけはしてるので、デモ音源の数がとんでもないことになっていて(笑)。まずはそれを整理したいです。

Sano ibuki

ライブ情報

Sano ibuki Special Live “ONE”

2023年1月21日(土)東京都 東京キネマ倶楽部

プロフィール

Sano ibuki(サノイブキ)

2017年に本格的にライブ活動を開始。同年12⽉に東京・タワーレコード新宿店限定シングル「魔法」をリリースした。2018年7月に初の全国流通盤「EMBLEM」を発表。2019年11月にメジャーデビューアルバム「STORY TELLER」をEMI Recordsよりリリースし、初のバンドセットでのライブ「Sano ibuki Premium Live “翠玉の街”」を東京・WWWで開催した。その後「ぼくらの7日間戦争」「his」「滑走路」といった映画やテレビドラマ「ソロ活女子のススメ」など数々の作品の主題歌を担当する。2021年7月には2ndアルバム「BREATH」を発表。その収録曲「pinky swear」「lavender」「ジャイアントキリング」ではミュージックビデオの監督および編集を自身で担当して映像クリエイターとしての才能も発揮した。2022年は「ASAHI WHITE BEER」のタイアップソングやテレビドラマ「高良くんと天城くん」のオープニング主題歌、テレビアニメ「惑星のさみだれ」のエンディングテーマを担当。それらを収録した2ndミニアルバム「ZERO」を11月にリリースした。