Sano ibuki「革命を覚えた日」インタビュー|世界に向かって狼煙を上げる、革命の瞬間

Sano ibukiがミニアルバム「革命を覚えた日」を10月18日にリリースした。

配信シングル「眠れない夜に」「下戸苦情」「少年讃歌」やMBSほかドラマシャワー「ワンルームエンジェル」のエンディング主題歌「久遠」など全6曲を収めた今作。自身を見つめたうえで外に向かって踏み出していくような作品となっており、ジャケットには幸運を祈る“GOOD LUCK”のハンドサインが描かれている。

音楽ナタリーではSanoへのインタビューで、彼の考え方や楽曲制作の根幹にあるものを紐解いていく。

取材・文 / 森朋之撮影 / 沖悠司(メインビジュアル、P1)、shota saino(P2)

僕のライブのお客さんはカッコいい

──まずは2023年1月に東京キネマ倶楽部で行われた約3年ぶりのワンマンライブ「ONE」について聞かせてください。2022年11月にリリースされた前作のEP「ZERO」を携えたライブでしたが、Sanoさんにとってはどんなステージになりましたか?(参照:Sano ibuki、オーディエンスの心に寄り添った3年ぶりのワンマンライブ

かなりひさびさのワンマンライブでしたからね。僕の音楽を聴いてくださっている方と向かい合って、音楽を通じてコミュニケーションを取ること自体がひさしぶりだったし、やりながら「そうそう、こんな感じだった」という感覚もあって。いろいろと思うところはありましたけど、楽しかったですね。僕のお客さんはカッコいいので、「キラキラしてるな」と思ってました。

Sano ibuki

──オーディエンスを見て「カッコいい」と思えるのは素晴らしいですね。「Sano ibukiの音楽を聴いてる人はカッコいい」ということでもあるので。

そうなりますね(笑)。僕自身も自分の楽曲をすごく大切に思っているので、それを聴いてる人がカッコいいのは僕もすごくうれしくて。

──でも、Sanoさんはライブの数自体はそこまで多くはないですよね。

はい。もともとライブよりも楽曲制作がメインになっている部分があって。普段もあまり外に出ないし、誰かと飲みに行くこともほとんどないんです(笑)。学生時代も人前に出るタイプではなかった。音楽という表現はすごく幅広いですけど、自分の中では曲を作ることが一番自然な行為なんです。

──ライブを作品として捉えているところもある?

確かにそういうニュアンスはあると思います。「ONE」もそうだったんだけど、まずライブタイトルを決めて、それに沿ったセットリストや演出、どう表現するかを考えたので。「1つの作品のような感じでライブを観てもらえたらうれしい」というところはありますね。

──テーマや構成を決めて、その中で自分はどうあるべきかを模索する、と。

そうですね。目の前にたくさんの人がいるとどうしても構えてしまうし、もちろん「いいものにしたい」という気持ちもあります。自分がどう振舞うべきかもすごく考えますね。ありのままがいいのか、何かを憑依させるほうがいいのか。

──自分自身を演出しているところがあるんですね。

自分という人間にそこまで魅力があるとは思えないんです。「俺、いいだろ?」ではなくて、「自分の曲、めっちゃいいでしょ」というタイプだし、自分のままステージに立ったとして「それ、誰が見たいの?」って。曲を作るときもタイトルやストーリーを作ってから、それを楽曲に投影していくことが多いんです。それも「自分の人生、そんな面白いか?」というところから始まってるんだと思います。“演じる”と言うと語弊があるけど、自分の中にある“1”を“100”にしている感覚なのかなと。

Sano ibuki

夜を悲観的に思わない歌

──では、新作ミニアルバム「革命を覚えた日」についてお話を聞かせてください。楽曲の制作は前作「ZERO」以降も続いていたんですか?

ずっと曲を作っていた気がしますね。「ZERO」のリリースからワンマンライブまではあまり作ってなかったんですけど、その期間以外は何かしら作っていて。「ZERO」から1年弱なんですけど、もっと時間が経ってる気がします。

Sano ibuki

──それくらい濃密な時間を過ごしていたと。今回のミニアルバムもテーマを先に決めたんですか?

いや、最初はミニアルバムを出そうという感じではなくて、1曲ずつシングルをリリースしていこうかとスタッフさんたちと話していました。コンセプトを決めてから制作するのではなく、1曲1曲に向き合って、「眠れない夜に」「下戸苦情」「少年讃歌」の3曲を出して。そのあとに「ミニアルバムにしようか」という話になったんですよ。

──自然に生まれた作品なんですね。3月にリリースされた「眠れない夜に」は、ワンマンライブの際に弾き語りで披露された楽曲です。

ライブのときに限定販売したボックスセット「ONE BOX」に「眠れない夜に」のデモ音源のダウンロードコードを付けたんですけど、そのあとにそれをバンドアレンジしました。自分の中でも「ONE」と地続きの曲になってますね。ライブに来てくれた方が「あの曲がこうなったんだ」と思ってくれたらうれしいです。

──曲を書いたときはどんなイメージがあったんですか?

この曲は2ndフルアルバム「BREATH」(2021年7月リリース)の頃にすでにあったんです。なのでだいぶ前なんですけど……否が応でも明けてしまう夜を悲観的に思わないような歌を書きたいなというイメージが最初だったかな。僕はずっと部屋で曲を作っていて、遮光カーテンを閉めて真っ暗にしてることもあるんです。昼か夜かわからない状態なんですけど、やっぱり夜が好きで。朝に抗いたいというか、朝から逃げたい気持ちもどこかにあるので、そういうことを曲にしたかったんですよね。

──編曲は須藤優(XIIX)さんが手がけています。Sanoさんの制作に欠かせないアレンジャーの1人ですね。

はい。アレンジしているときも「どう伝えたらいいだろう?」みたいなことを考えないで、なんでも話せるんです。「眠れない夜に」はすってぃ(須藤)のスタジオで作業したんですけど、「こんなイメージなんですよね」と感覚的な話もできて。すごく楽しい時間でしたね。

──間奏で炸裂する真壁陽平さんのギターもカッコいいですね。

カッコいいですよね! 僕は普段からレコーディング現場で出てきたフレーズを大事にしていて。もちろん「こういう感じのギターが欲しいです」というイメージはお伝えするんですけど、大雑把というか、余地を残しておくようにしているんです。真壁さんは一瞬で誰もが振り返るようなフレーズを弾いてくださるし、この曲のギターソロもすごくよかったですね。

ずっと続いている“高3の春休み”

──6月にリリースされた「下戸苦情」は、まず曲名がユニークです。下剋上とのダブルミーニングですね。

これもタイトルが先ですね。半分ダジャレみたいなもんです。僕自身もお酒が強くなくて、下戸に分類されるタイプなんですよ。ちょっと余談になっちゃいますけど、よくみんな「お酒を飲まないと話せないことってあるよね」って言うじゃないですか。僕、あれが大嫌いなんです(笑)。

──「飲まないと言えないってなんだよ」という(笑)。

そうそう(笑)。「お酒を飲まなくてもさらけ出せる人にだけ話せばいいんじゃないか?」と思うし、例えば「酔ってないと、好きな人に自分の気持ちを伝えられない」みたいな話を聞くと「それって、本当に好きなんですか?」って。「下戸苦情」には、そういうお酒に対する苦情も込めてますね。歌詞でフォーカスしているのはお酒のことだけではなく、「無駄って分かっちゃいるのに やめらんないのさ」と歌っていて。恋愛でもなんでもいいんですけど、何かに対して中毒みたいになってしまう状態を曲にしたかったんですよね。

──“わかっていてもやめられない”こと、Sanoさんにもありますか?

あまりないんですけど、強いて言うなら曲を作ることですかね。もはや無意識で作っていますし、これって“やめられない、止まらない”だよなって。曲を作ることって、自分が美しいと思うもの、素敵だと感じるものを追求することであり、ほかでは得られないものがあるんですよね。自身の中にある感情や景色を残せるという意味でも自分にすごく適しているし、確かに中毒みたいになってるかもしれないです。

──「下戸苦情」は奔放なアイデアが詰まったサウンドも素晴らしくて。アレンジは真部脩一さんですが、真部さんとのタッグはこの曲が初めてだそうですね。

もともと相対性理論や進行方向別通行区分が好きで、ずっと聴いてたんです。真部さんが「ONE」のライブを観に来てくださって、そのあとにお話をさせてもらう機会があったんですけど、好きなものが重なっているし、すごく話が弾んだんですよ。一緒に制作したら面白くなりそうだなと思ったし、実際「下戸苦情」のアレンジをお願いしたときもめちゃくちゃ楽しかったです。カオスに聴こえるところもすごく緻密に作られていて、自分のビジョンをさらに鮮明にしていただいた感覚がありましたね。

──8月にリリースされた「少年讃歌」は、切ない疾走感が伝わってくるアッパーチューンです。この曲は“青春”がテーマだそうですね。

以前から“少年”という大きいテーマが自分の頭の中にあって、それをこのタイミングで形にしました。「少年であれ」というか、僕は大人というものに抗っているところがあるんです、ずっと。わかりやすく言うと変わってない。要はガキなんでしょうね(笑)。この曲を作ってるときも思ったんですけど、高校3年生が終わったあとの春休みがずっと続いているような感じなんです。人によって就職したり、大学に行く人もいて、みんながバラバラになるような雰囲気がある中で、自分だけがどこかに放置されているような感覚もあって……うん、ずっとあの中にいるような気がする。それをできるだけ丁寧に切り取りながら作ったのが、「少年讃歌」ですね。10代の頃の自分が聴いて「かっけー!」と思えるかどうか、「泣ける」と言ってくれるかどうかも大きな指針なんです。

──少年Sano ibukiの存在がクリエイティブの軸になっている、と。

そうですね。20歳くらいのときに、「若いうちに曲をいっぱい作っておいたほうがいいよ。そのうち作れなくなるから」と人に言われたことがあって。幸いにもコンスタントに曲を作り続けているんですけど、「少年讃歌」を作ったときに「“高3の春休み”を抜けたら、作れなくなるのかもな」と思ったんです。なのでできるだけ、その時期のことを忘れたくなくて。「少年讃歌」は「Sano ibukiとは?」みたいなところに近い曲だと思うし、それを形にできたのはよかったです。