saji|10代の衝動を守りながら生み出したテレビアニメ「SHAMAN KING」第3弾EDテーマ

2021年秋のプレイリストに入ることを願って

──もう1つのカップリング「Pumpkin Wars!!」はハロウィンソングですね。これまでも、sajiは季節感のある楽曲をシングルに入れていると思うんですけど、ここにはどういった思いがあるのでしょうか?

ヨシダ sajiのシングルは基本的に、表題曲とカップリングが2曲の3曲構成になるんですけど、カップリングのうち1曲は「sajiってこういうバンドですよ」と伝えられるようなバンドのカラーとなる曲を入れたくて、今作では「SHE is.」がそれにあたります。バンド全体が楽器で遊んでいる曲でもあるし、「ハヅキ」をきっかけに初めてsajiに触れる人たちに向けて、僕らの本来の持ち味を提示することができる曲だと思うんです。で、もう1つカップリングに入れたいのは、リリースされるタイミングの季節感を表現した曲。それが今回は「Pumpkin Wars!!」ですね。季節を意識した理由は時代感もあるんですけど、今は皆さん、サブスクで音楽を聴く機会が多いと思うんです。

──そうですね。

ヨシダ なので、新譜が出たらリアルタイムで聴くんですよ。昔、僕らがCDをたくさん買っていた頃って、買ったCDは季節問わず聴きたいときにずっと聴いていたと思うんです。何カ月前の曲だろうが何年前の曲だろうが、ずっと聴いていた。でも今は、プレイリストはそのときの季節感やシチュエーションに合ったものを聴きたくて作るんですよね。「ドライブしたいときに聴きたい曲」とか「海に行ったときに聴きたい曲」とか、そういうプレイリストに、どういう時期に聴くのがいいかかわからない曲は入らない。なので、昔よりももっと顕著に「こういう時期に聴いてほしい」というものを届けたほうが、いろんな人に聴いてもらえるのかなと思うんです。なので、この曲もみんなの2021年秋のプレイリストに入ればいいなと思って作りました。

──「Pumpkin Wars!!」は音楽的にも歌詞の世界観的にも、本当に純粋無垢なハロウィンの世界観が表れているというか。

ヨシダ そうですね。いわゆる近年の渋谷のハロウィンみたいな感じではないです(笑)。僕の中のハロウィンのイメージって、あくまでも子供たちが主役なんですよ。欧米のホラー映画でもなくて、あくまでもポップでキラキラした、ファンタジーの世界。それが僕のハロウィンのイメージで。「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ!」って近所の家に行ったら、普段は怖いおじさんもお菓子をくれるっていう、そういう年に1度行われる、みんなが平等に楽しめるお祭り。そういうハロウィンのイメージを曲に落とし込みました。音楽的にも、皆さんが思うハロウィンに合っているんじゃないかと思うし、同時に、個人的にはディズニー音楽のイメージもあって。

──ああ、なるほど。ヨシダさんにとってディズニーは影響源として大きいですか?

ユタニシンヤ(G)

ヨシダ そうですね。ディズニー映画自体はユタニのほうが詳しいと思うんですけど、僕がディズニーをすごいと思う理由の1つが、「夢の中の話である」ということを前提に置いたうえで、それを壊す大人を絶対に許さないこと。ディズニーランドで僕が感動したのは、清掃員の方に道を聞いたとき、結びの言葉が「いってらっしゃい」だったんですよ。しかも、一芸を持っていたりする。

ユタニ 素晴らしいよね。

ヨシダ ファンタジーをファンタジーとして見せること。そこに対するプロ意識をすごく尊敬しているんです。ディズニーの音楽も、展開はメリハリが効いているし、聞き手の気持ちが切れないように緻密に作られている。そういうところはすごく参考にしていますね。

戦略化のヨシダ、ロマンを抱くユタニ&ヤマザキ

──先ほどヨシダさんが「あくまで10代のリスナーを念頭に置いて音楽を作っている」とお話ししていましたが、ヤマザキさんとユタニさんは、今の10代で、特に楽器のプレイヤーを目指す若者たちに伝えたいことはありますか?

ヤマザキ そうですね……「いろんな曲を弾きなよ」とは思いますけどね。俺も若い頃は好きなものが狭く濃かった時期があって、「これしか弾きたくない」と思っていたけど、いざ違うスタイルで弾いてみたら「俺、こういうのもけっこう好きなんだな」って気付いたりするし。

ヨシダ 今の話を聞いて思ったんだけどさ、18歳、19歳くらいの頃、俺らが音楽学校に通っていた頃に「俺、音楽詳しいし、なんでも聴くよ」なんて言っているやつとバンド組みたいとは思わなかったよね?

ヤマザキ ああ……確かに(笑)。

ヨシダ 「なんでも聴くよ」っていうやつは信用ならなかったよ(笑)。実際、そういう人はバンドに誘われてなかったと思うし。10代の頃は特化型のほうが生きていけるかもね。今、俺ら世代で音楽を続けているやつも、変わっているやつが多いもん。学生の頃、スラップばっかりやっているベーシストがいて、「こいつ、この先どうするんだろう?」と思っていたけど、最近YouTubeで成功していたりしますから(笑)。

ヤマザキ そうね。じゃあ、同世代に伝えたいことだったのかもしれない(笑)。若い子に伝えるなら、逆かもね。

ヨシダ 「好きなことをとことん極めろ」だよ。

──ユタニさんは若者に向けて、何か伝えたいことはありますか?

ユタニ そうですね……僕はギタリストとしては90'sリスペクトなんですけど、今の若い子たちって、ギターソロ然としたギターソロをあんまり弾かないじゃないですか。「もっと弾けばいいのにな」と思ったりしますね。実際、ギターソロに関してはsajiの曲でもマネしてほしいなっていう気持ちで作っていたりするので、ぜひ参考にしてほしいです。

──取材をさせていただいて改めて思いますが、sajiはやはり不思議なバランスのバンドで。ヨシダさんはご自身の思考を明晰に言語化されるし、大切なものを守るために意識的に戦略家になっていく側面もあると思うんですけど、ユタニさんとヤマザキさんは本当にピュアに、バンドマンというか。

ヨシダ そうなんですよね。僕は曲や詞を書くので、その分、いろんな人と接するんです。そうしていくうちに考え方はどうしても変わっていくんですよ。でも、この2人がずっと「音楽が好き、音楽で一緒に夢が見たい」というスタンスでやり続けていてくれているから、sajiは続いている気がしますね。全員が全員、大人びて俯瞰し始めたら、バンドは終わりですから。この2人がずっと、ロマンを持ってきてくれているなと思います。

saji
saji(サジ)
saji
ヨシダタクミ(Vo)、ユタニシンヤ(G)、ヤマザキヨシミツ(B)からなる北海道出身の3人組バンド。2010年に前身バンド・phatmans after schoolを結成し、約9年間活動を行う。2019年7月にバンド名をsajiに改め、10月にテレビアニメ「あひるの空」の第1弾エンディングテーマ「ツバサ」をリリース。同年12月には、東京・UNITでワンマンライブ「saji 1st Live 2019~尾羽打チ枯レズ飛翔ケリ~」を実施した。2020年4月に「ハロー、エイプリル」、9月に「花火の詩」といった「架空の短編小説集」がコンセプトのミニアルバムをリリース。同年11月に長編アニメーション映画「君は彼方」の主題歌「瞬間ドラマチック」を表題曲としたシングルを発売した。2021年7月にテレビアニメ「かげきしょうじょ!!」のオープニングテーマ「星のオーケストラ」、10月にテレビアニメ「SHAMAN KING」第3弾のエンディングテーマ「ハヅキ」をシングルとしてリリース。