saji|夏の終わりに歌う6つの恋

sajiが2ndミニアルバム「花火の詩」をリリースした。

バンド名をphatmans after schoolからsajiへと改め約1年。4月のミニアルバム「ハロー、エイプリル」からおよそ半年を経て放たれる、「花火の詩」と名付けられた本作のテーマは、前作と同じく「架空の短編小説集」だ。全編が恋の歌で統一され、片思いや叶わぬ恋、禁断の恋や永遠の恋など、ヨシダタクミ(Vo)が手がける楽曲たちはどれもドラマチックでみずみずしく、詩情にあふれている。6曲入りながら“読み応え”たっぷりの充実作が完成した。

音楽ナタリーでは新たな創作意欲に燃える3人へ新作についてインタビュー。全曲紹介に加えて1曲ごとに「○○の恋」というキャッチコピーを付けることで、さまざまな恋愛の形を探ってみた。これから作品を聴く前のレビューのように楽しんでもらいたい。

取材・文 / 宮本英夫 撮影 / 斎藤大嗣

本を並べていく感覚

──前作の「架空の短編小説集」というコンセプトを踏襲した2ndミニアルバムが完成しました。タイトルは「花火の詩」です。

saji

ヨシダタクミ(Vo) シリーズ的なものをやりたいという思いは「ハロー、エイプリル」を作る前からあって。テーマが「架空の短編小説集」なので、本棚に並べたときに、作品が1つよりも2つ、3つ並んでいるほうがおしゃれだなというイメージがあり、前作のテーマを引き継ぎました。まずタイトルをどうしようかと考えたときに、前作はエイプリルフールのリリースだったことから「ハロー、エイプリル」にして、今回は9月リリースだから夏の終わりで“花火”を入れようかな?というのは最初にありましたね。

──メンバーの中にも連作という意識はありました?

ユタニシンヤ(G) タイトルのつながりというのは、僕的にはそんなに考えてはいなかったですね。演奏は1曲1曲のストーリーに寄せていった感じですけど、レコーディングで言うと、今回、家でもギターを何本か録って、いつもよりも落ち着いて録音できたというのはありました。

ヤマザキヨシミツ(B) 僕も、前作とのつながりはあんまり気にしなかったです。スローテンポの曲が多いので、1曲ずつの差をどうつけていくかを考え、普段はベースを入れないだろうというところにも入れてみたり。「アサガオ」のAメロとか、いつもだったらベースを入れないで歌とストリングスだけにするところにも、あえて普段はやらないスローテンポのアプローチを加えました。

──今回はストリングスをアレンジに取り入れていますよね。リード曲「三角の恋」のイントロがバイオリンから始まるというのも新鮮な驚きがありました。

ヨシダ 僕らはもちろんロックバンドではあるんですけど、sajiになってから、曲に応じてどの音色をキーにするかはわりと自由にやっています。「三角の恋」を、僕はギターから始めたいと思ったんですけど、アレンジャーさんが「絶対ドラマチックになるからストリングスでやりたい」と言ってくれて。僕は基本的に「やりたい」と言ってくれるのはうれしいタイプなので、その提案に乗りました。歌詞に沿った雰囲気のバイオリンに入っていただいて、結果、曲はすごくいいものになりました。

──歌詞のテーマは、すべて恋愛でしょうか。

ヨシダ 完全にそうですね。恋の歌集にしようと思っていました。「I LOVE YOU」というオムニバスの短編ラブストーリー集があるんですよ。伊坂幸太郎さんとか、何人かの小説家の方が、カップルの恋愛じゃないものも含めて「愛ってなんだろう?」というものを持ち寄った作品集で。「その感じ、面白いな」と思って、僕もいろんな恋の歌を歌ってみたいなと。シチュエーションがいっぱいあって、別れたあとなのか、出会う前なのか、思い出なのか……と考えながら作りました。

──初めてですよね。アルバムをまるごと恋愛のテーマにしたのは。

ヨシダ 恋愛の曲、もともと好きなんですよ。好きなんですけど、前身バンドのときは、それをフィーチャーして書こうとは特に思っていなくて。インタビューでもよく答えさせてもらっていたけど、当時は死生観を歌っていたんです。「生きるってなんだ、死ぬってなんだ」ということを歌っていたものが、僕も大人になっていく過程で、死生観にも通ずるんですけど、「人と一緒にいるってなんだろう?」「好きってなんだろう?」とを改めて考えてから、愛をテーマに歌うことが増えましたね。

──タクミさんは、恋愛していないと書けないタイプですか?

ヨシダ 僕は別に、そういうのはまったく関係ないタイプですね。リアルタイムで書いたこともありますけど、思い出でも書ける。でも思い出を今書くと感情的になりすぎちゃって、良し悪しはありますけどね。だって、別れたての頃に「まだ好きだ!」という歌を歌ったら、歌いながら泣く可能性がある(笑)。

ユタニ エモいよね(笑)。

──そういう歌は、今回はないですね。激情そのままの歌。

ヨシダ 僕が物語の主人公の曲は、今回はないです。いろんな人の物語ですね。

三角関係ではなく「三角の恋」

──ではここから1曲ずつ掘り下げていきます。そして1曲ごとに、この歌は「○○の恋」という、キャッチコピーというか、テーマを確かめていこうと思います。

ヨシダ わかりました。

──まず1曲目「三角の恋」は?

ヨシダ これはタイトル通りですね。

──いわゆる、三角関係?

ヨシダ ではないんですよ。曲の解釈はいつも受け手に委ねるんですけど、僕が書いたときのイメージは、自分の好きな人に別の好きな人がいて、好きな人が好きな人を見ているのを自分は横から見ている状態です。恋している人の、横顔を見ちゃうんです。横顔って、つまり自分のほうに向いていないということですよね。だから恋をする相手が横を向いているということは、こちらに決して振り向かない感情を表しているんです。

ユタニ 悲しいね。

ヨシダ 「わたし」という一人称を使うのは初めてなんですけど、こういういわゆる片思いの歌を、リアルに主人公として感じるのは女の子のほうが多いんじゃないかな?と。男は好きな女の子がほかの男を見ていたら、恋愛感情が生まれづらいと思うんですよね。でも女の子は、「それでも好き」という感情がある気がする。この人の笑顔は私には向いていないけれど、それでも好きだと。だからこの三角形を崩せないんですよ。むしろ、彼が好きな女の子に「応援してるよ!」とか言っちゃう。

──なるほど、深い。そういう恋愛にまつわる感情や女性心理って、リサーチして調べたりするのでしょうか。

ヨシダ 僕、めちゃめちゃしますよ。このアルバムを作る前、いろんな種類のドラマを死ぬほど観たんですよ。「東京ラブストーリー」や「きのう何食べた?」も観た。特に「きのう何食べた?」はめちゃくちゃ好きで、10周ぐらい観ましたね。そういうのを観て、いろんな気持ちを感じた結果、心が乙女になったんですよ(笑)。「ああ、恋したい」みたいな、その気持ちのまま書きました。

初めての恋、いつかの恋

──では2曲目「ハナビノウタ」を。

ヨシダ 僕とユタニの出身が北海道帯広市で、大きな花火大会があるんです。僕の実体験ではないですけど、高校生のときに好きな子と一緒に花火大会に行くという習慣があって。まだ告白もしていないけどここで決めてやろう、と思って誘うんですけど……カッコつけちゃうんですよね。呼びたくもないのに友達も呼んじゃって、本当は「来るな!」と思っているのに(笑)。だからこの歌は、好きだという感情が芽生えたけどまだ言えない、芽生えの歌ですね。「芽生える」という言葉はいいなと思って、そこから花を連想して、種が芽吹いている状態の歌にしました。そんな恋愛、とんとしてないですけどね。

ユタニ そうだね(笑)。

ヨシダタクミ(Vo)

ヨシダ 大人になってしまうと、簡単に思いを伝えられるようになっちゃうので。この物語の主人公もたぶん、10年ぐらい経ったら、誰かに「好きだよ」と素直に言える子になるんでしょうけど、いざ相手を前にすると気持ちをうまく伝えられない、誰もが経験するであろう青春時代の甘酸っぱい恋を表していますね。だからひと言で言うなら「初めての恋」じゃないですか。

──この感覚はたぶん、男女共に理解できると思いますね。じゃあ3曲目「You & Me」、行きますか。

ヨシダ 先に言ってしまうと、これは「いつかの恋」です。過ぎた日の恋。年齢設定は自由なんですよ。人によってはものすごく時を経て思い出しているのかもしれないし、あるいは僕らの世代がほんの数カ月前のことを思い出しているのかもしれない。その人の思い出の中の恋愛ですね。だから美化されちゃう。付き合っているときに超嫌なことがあっても、時が経つと許せてしまう。許せるでしょ?

ユタニ 全部許す。

ヨシダ 思い出は美化されて、超えられない壁のように感じるんですよ。あの恋は超えられないとか思うんですけど、2年後を考えてみると、そんなことなかったみたいな(笑)。その繰り返し。だからこれは「いつかの恋」ですね。

──と、まずは3曲続けてご説明いただきましたが、ユタニさんはラブソングっていかがですか?

ユタニ 僕もけっこう女々しいほうではあるので、今このアルバムの話をしていると、ちょっと泣きそうになってきますね。さっきもタクミが言いましたけど、「ハナビノウタ」は曲を作ったときから地元の花火を題材にしたいと聞いていたので、「ここはたぶんあのことを言っているんだろうな」みたいな部分があったりとか。

ヨシダ “白樺の木々”とか、北海道にたくさん生えているので。

ユタニ 僕も行きましたね、花火大会には。でもやっぱり、僕は「三角の恋」が好きです。「言いかけたさよならはまだ 胸の奥で息を潜めて」とか、超わかる!みたいな。リード曲ということもありますけど、一番刺さりますね。