saji|出会いと別れが織りなす6編のストーリー

リスタートに見出す希望

──では、ミニアルバムに収録されているほかの曲についても話を聞かせてください。1曲目の「ミラーリング」は、アルバムの幕開けにふさわしいキラキラとした楽曲です。

ヨシダ 今回のミニアルバムの中で一番好きなんですよ。僕が思うポップを100%出せた曲ですね。キラキラしてるし、物語がテンポよく進んでいくし、ずっと鳴らしたい楽器が鳴ってるし。「自分がピアニストだったらこういう曲をやりたいな」という趣味曲です。作るときはベーシストの気持ちも無視しました。弾けるかどうかは二の次で(笑)。

ヤマザキ デモからすごく激しく動いてたんです。俺も今作の中でこの曲が一番好きですね。

ヨシダ 弾いてて楽しいでしょ?

ヤマザキ うん、楽しい。

ユタニ イントロのウインドチャイムとかもいいよね。

──この曲の「何度生まれ変わっても」というフレーズは、ヨシダ節だなと思います。

ヨシダ わりとほかの曲でも「何回生まれ変わっても」とか出てきますよね。リスタートってすごく好きな考え方なんですよ。僕らは、人はどこからでも生まれ変わるって信じてるので。別れたあとだったとしても、縁があって、もう1回好きになって、結婚したら素敵だなとか。

ユタニ そこによくわからない希望を見出すんですよね。僕は、この曲の「愛すること それがもし有限だとしても 何度も僕らは 生まれ変わって」という歌詞がお気に入りですね。

ヨシダ 僕とユタニくんは、よくそういう話をするよね。僕ららしい曲だなと思います。

僕の価値観そのもの

──一方で「孤独の歌」は歌詞が内省的で、今作の中では異色ですね。

ヨシダ 「孤独の歌」は急きょ収録することに決めたんです。この曲をレコーディングする少し前に、女子高生が自殺してしまった事件があったんですよ。そのニュースがショッキングで。当時まだ消えてなかったその子のTwitterを見てみたら、「死にたい」みたいなことをずっと書いてるんです。でも、ずーっと遡ると、「生きていたい」とも書いていたんですね。「何か1つ違ったら、希望を持てたかもしれない」とか「誰かが助けてくれたら、人生違うのにな」って。たぶん誰かに救われたくて、ずっと書いていたんだと思ったんですよ。それを見たとき身につまされる思いがしたというか。ボタンの掛け違い1つで自分にも当てはまっていたかもしれないじゃないですか。ユタニくんと出会ってなくて引きこもりになって友達がいなかったら、もしかしたら僕がそうなってたかもしれない。世の中にはそういう人がいっぱいいるんだろなと思ったときに、1人ひとりの孤独を歌にしたいと思ったんです。僕が歌うことで世界が変わるとは思わないけど、僕みたいな人間もいるぜっていうことが少しでも伝わればと思いました。だからこれは、10代に向けてとか関係なく入れたかった曲ですね。

saji

──そういう強い思いがあるから、この曲は語りかけるような歌唱になってるんですね。

ヨシダ そうですね。この曲のアコギは全部僕が弾かせてもらいました。

──「孤独の歌」の次に収録されている「コトバトビト」は、言葉の無力さを感じながらも言葉でわかり合いたいという願いの歌のように感じました。

ヨシダ これは6、7年前に書いたんですけど、ほとんど歌詞は変えていません。当時こういうことをよく歌ってたから、収録するタイミングを逃してたんです。

──ヨシダさんの中にある変わらない人生哲学が詰まった曲ですよね。

ヨシダ 僕の価値観そのものだと思います。言葉って、相手がそれを理解した素振りを見せたとしても、本当に理解してるかどうかは信じるしかないじゃないですか。「なるほど!」と言いながら、心の中では鼻クソをホジってるかもしれないし(笑)。僕は相手に思いを伝えるときって、相手に伝わることを目的に言うんじゃなくて、相手に伝えたことが大事だと思うんですよ。言葉って希薄だなと思いながら、お互いに人が好きだから、なんとか伝えようとする。そうやって言葉で伝え合うことが、一番人間臭い営みだと思うんですよね。だって、男女がカップルになるときに「付き合おう」「いいよ」って、いちいち誓約書を書かないでしょ?

──はい(笑)。

ヨシダ 「万が一、別れ話が発生したときは最寄りの簡易裁判所で……」とか書かないじゃないですか。裏切ろうと思ったら、別に違約金もないし、簡単に裏切れる。それでも口約束を守ろうとするのが人間臭くていいなと思うんですよね。「コトバトビト」は、そういう曲です。

「ハロー、エイプリル」という小説

──で、アルバムのラストを締めくくるのは「YELL MY STORY」です。

ヨシダ これは4月1日リリースだから入れようと思ってましたね。僕にとってはもう10年くらい前になっちゃうけど、学生時代の出会いと別れってくすぐったいんですよ。いまだに鮮明に覚えてるんです。歌詞の中には、“出会った頃の僕らは別々の道だったけど、みんなで集まって同じ夢を見つけた”っていう、このバンドを意味するメタ的な表現もあるし、聴いてくれたみんなへの応援歌でもあるから、このアルバムを締めくくるのにふさわしい曲になったと思います。

──最後に1つ聞きたいんですけど、今作の歌詞を見ると、「別れ」と書いて「きのう」と歌ったり、「未来」と書いて「あした」と歌ったり当て字が多用されてますよね。この理由はなんですか?

ヨシダ それは、今作のコンセプトが“本”だからなんです。

──どうして“本”をコンセプトに作ろうと思ったんですか?

ヨシダ 僕はショートストーリーを書くのが好きでけっこう自分で書いてるんですけど、もともと「ハロー、エイプリル」っていう小説を書こうと思ってたんです。これは誰にも話してなかったんですけど……“ハロー、エイプリル”という架空のバンドが出てきて、そのバンドを好きな病気の女の子が主人公の話にする予定だったんですよ。ハロー、エイプリルは顔出しをしてないバンドで、そこがちょっとphatmans after school時代の僕らっぽいんですけど、その音楽を聴きながら、ライブに行けない女の子は「どういう人たちが歌ってるんだろう?」と思いを馳せる話で。でもこのタイミングでアルバムを出せると決まったので、コンセプトだけ引き継いだ感じですね。

──それで今作はアーティスト写真でも本を持ってるんですね。

ヨシダ そうなんです。「シュガーオレンジ」のミュージックビデオで、主人公の男の子が持ってる本のタイトルが「シュガーオレンジ」で、その作者名がヨシダタクミになってるので。そこも注目してもらいたいです。

ツアー情報

saji 1st Tour 2020
  • 2020年7月18日(土)愛知県 伏見JAMMIN'
  • 2020年7月19日(日)大阪府 ROCKTOWN
  • 2020年7月26日(日)東京都 WWW X
saji