saji|出会いと別れが織りなす6編のストーリー

主人公をヨシダタクミから高校生に

──では今回のミニアルバム「ハロー、エイプリル」の制作過程では、今まで以上に周りの人たちの意見を取り入れながら作ったということですか?

ユタニ 前よりもディスカッションは多くなりましたね。

ヤマザキ 今まで僕は「自分はこう弾きたいんだから、こう弾かせろ!」みたいなテンションだったんですよ。でも今回は、かなり柔軟になったと思います。

──制作の過程で、特に刺激的なディスカッションをした相手はどなたになりますか?

ヨシダ 表題曲「シュガーオレンジ」のアレンジャーとして参加していただいた菊谷(知樹)さんですね。今まで僕らは年代の近い人たちと一緒にやることが多かったんです。僕らからしたら父ちゃん、母ちゃんの世代なんですよ。だからアレンジしていただいたデモを聴いたときにも、「こういうベースとドラムになるのか」という発見があって。無邪気に楽しみながら作っていけたんです。

ユタニ 菊谷さんはギタリストだから、いろいろ勉強させてもらえることも多くて。今まで僕はけっこう硬めのギターを弾いてたんですけど、「シュガーオレンジ」のギターサウンドは楽曲に寄り添って、丸みのある音に仕上げてもらったんです。

saji

ヨシダ 「シュガーオレンジ」は、ユタニのギターの音をブライアン・メイみたいにしたからね(笑)。

──「シュガーオレンジ」はストリングスとピアノも加わる壮大なバラードですね。最初からリード曲にする予定で作っていったんですか?

ヨシダ いや、もともとリード曲は「ユートピア」だったんですよ。でも、歌ってるうちにこの曲が一番いいなと思ったんです。で、急きょリードを変えようという話をして、歌詞も書き換えました。

──もとは甘酸っぱい別れがテーマの曲ではなかった?

ヨシダ もう少し上の世代の曲でしたね。僕が主人公だったので。でもリードにするにあたって、主人公の設定を高校生に変えたんですよ。例えば“君がいない部屋”とか言われても、高校生はピンとこないと思うんです。もともといないし、みたいな(笑)。“1人きりのベッド”とか言われても、実家だし……という話じゃないですか。

ユタニ まあ、高校生だとね(笑)。

ヨシダ そういう言葉はできるだけ外すようにしていきましたね。

──この曲のストーリーとしては、好きだった“君”との別れにけじめをつけようとする内容ですけど、最後に「全部、全部、ぜんぶ 嘘だよ」で締めくくるのが切ないですよね。

ヨシダ 結局こいつ(主人公)は虚勢を張ってるんですよね。本当に大丈夫なやつは「大丈夫」って言わないですから。大丈夫じゃないやつが「大丈夫」って言うんですよ。この寂しさに気付いてほしいという女々しさと、こんな自分とは決別したいというのが本音だけど、それを言葉にしたら本当に終わってしまうような気がして言いたくない。だけど、最後に「本当に“さようなら”」と言うんです。

10代の人生の基軸になる音楽

──今回のミニアルバムを聴かせてもらって、全体的に青い感じがするというか、洗練されていながらも、どこかギターロックに回帰するような印象がありました。それは意識しましたか?

ヨシダ それも、さっき話した「カッコいい大人とは?」という自問自答の中で「今、僕がどういう曲を歌ったら10代の自分が好きになってくれるか?」というのを考えた結果なんです。それこそ、僕らがphatmans after schoolとしてデビューしたときは、曲を出すたびに“等身大”とか“青い曲”と言われてたんですよ。でも当時の僕は、別に“青い曲”を作ろうとして作ってたわけじゃないんです。そういうことを思い返しながら、あの頃の“青さ”ってなんだろうというのを改めて掘り下げたので、今回はあえて甘酸っぱく、原点回帰したものにシフトしてみました。

──そういう試みの中で「ユートピア」みたいな青春感あふれる曲もできたんですね。

ヨシダ 「ユートピア」はまさに「昔の僕だったら、どういう曲を書くかな?」というテーマでしたね。ほかの曲では、あんまり主人公の年代を匂わせてないんですけど、この曲では学校生活を送っている子供たちを全面に出して。あえて大人無視みたいな書き方をしました。

──となると、今sajiが音楽を届けたいのはティーン世代ということですか?

saji

ヨシダ うん。これは僕の持論ですけど、人が衝撃的な音楽に出会う年代は10代だと思うんですよ。20、30代になってから出会った音楽では人生は変わらないんです。「いいバンドだな」とか「好きだな」とは思うかもしれないけど、自分の価値観が変わるほどではない。僕も含めてJ-POPが目指しているのは、10代の子たちの人生の基軸になる音楽だと思うんです。だから僕は若い子たちに聴いてほしいし、中学生が聴いたときに、「ちょっと僕はわからない」とは思われたくないんです。

──なるほど。

ヨシダ それで、今回は曲のアレンジをするときもカバーできるかどうかを考えましたね。僕らは軽音学部だったからか、コピーすることを前提に曲を聴くんです。どういう楽器が必要かで自分たちがコピーできるかジャッジするんです。メンバーにピアニストがいなかったら再現できないから、ピアノの曲は排除しちゃうんですよね。今も軽音部の子たちがモンパチ(MONGOL800)をコピーするのはそこだと思うんですよ。鳴ってる楽器が少ないから、なんかできそう。ELLEGARDENもそうですよね。で、大人になってから難しさを痛感して謝るんですよ。「ごめん!」って(笑)。

──とはいえ、今作のヤマザキさんのベースラインも簡単にコピーできそうにもないですけど。

ヤマザキ 自分の場合、学生時代にコピーしたのはそういう系なんですよ。「あのバンドの、あのベースはムズいらしいよ」というものに挑んでいったタイプなので。

ユタニ 逆に僕は「難しいことは無理」と諦めるタイプでした(笑)。とにかく「パワーコード最高! これだけでなんでも弾けるじゃん!」となってたので。今回のレコーディングでは、音楽を始めたての頃を思い出したりしましたね。