saji|リスタートを切る3人がツバサに託した夢

僕らは“駅”に近い

──sajiに改名したことで今後表現していくことも変化するんですか?

ヨシダ そこは変わらないんです。phatmans after schoolのときから僕が詞曲を書いているんですけど「子供のときの自分がいいと思う曲を基準として書けるかどうか」ということ以外にこだわりはないんです。ただsajiになってから出会う人も増えると思うので、その人たちが求めるものがバンドのカラーになっていく気がします。

──リスナーがsajiというバンドのイメージを作っていくということですか?

ユタニシンヤ(G)

ヨシダ そうですね。まさにphatmans after schoolがそうでしたからね。僕らのバンドは、“駅”に近いんですよ。行き交う人たちの居場所になればいいかなっていう。それも昔と変わらないです。変わったのは、ユタニの風貌だけですね(笑)。

──ユタニさんの衣装がphatmans after school時代よりもファンキーというか、派手になりましたよね。何か理由があるんですか?

ユタニ 僕はもともと目立ちたがりなんですよ。だから、もっと僕のキャラを生かしたいとスタイリストさんに伝えて衣装を選んでもらいました。

ヨシダ 僕らから見たユタニのキャラクターはこういう気質なんです。こういうパーティ感がある雰囲気が今までは伝わりづらかったんですよね。

ユタニ パっと見、この2人と別のバンドみたいになっちゃったんですけど。

ヨシダ 同じ服屋にはいないよね(笑)。プライベートでは面白いので、そんなユタニのキャラクターがみんなに伝わってほしいと思っています。

──pasくんっていうクマのモチーフを生かしていたphatmans after school時代よりも、sajiのほうがメンバーの人間味が伝わるバンドになるかもしれませんね。

ヨシダ ああ、そうなると思います。それがいいか悪いかは、まだ僕らもわからないんですけどね。基本的に今は素の状態でいられていますね。

夢に向かう推進力

──sajiがリリースする第1弾シングルがアニメ「あひるの空」のエンディングテーマ「ツバサ」です。バンドの持ち味が全開になった疾走感あふれるロックナンバーだと思います。この曲はアニメに寄せて作ったんですか?

ヨシダ 書き下ろしですね。ずっとバスケをやっていたこともあって、原作のマンガが大好きなんですよ。昔の自分が「ツバサ」を聴いたときに、「この曲いいな」と思ってもらえるかどうかを基準に曲を書きました。

──もともと自分が好きだった作品に関われるなんて、滅多にない機会ですよね。

ヨシダ そうなんですよ。「週刊少年マガジン」で連載がスタートしたのが、僕がバスケを始めて数年経ったときだったんです。小6か中1ぐらいかな。で、一緒にバスケをやっていた友達はみんなハマっていて、部活の合間とか昼休みに回し読みしてましたからね。当時の俺が聞いたら、びっくりするような話ですよ。

──ユタニさんとヤマザキさんは、この曲とどんなふうに向き合いましたか?

ユタニ 最初にデモを聴いたとき、すごくさわやかな曲がきたなと思いました。ギターで一番こだわったのはイントロなんです。スポーツアニメだから、突き抜けていく部分がほしいなと思って、メジャースケールを駆け上がっていく感じにしたくて。

ヤマザキ 僕はそこまで原作を読んでいたわけじゃないから中途半端に解釈してはいけないと思って、シンプルにメロディとして向き合おうと思いました。ギターと歌メロが強い曲なので基本はそこを引き立たせて。サビの終わりでスペースが空くから、そこは曲の雰囲気に合わせて目立とうかなっていうぐらいで。シンプルに弾きましたね。

──歌詞に関して、アニメサイドからは何かリクエストはありましたか?

ヨシダ 夕焼け、放課後とかをイメージできる青春群像っぽいものにしてほしいという依頼はありました。荒れ果てたバスケ部を再興させてインターハイを目指すストーリーなので、そこに向かっていく夢をテーマに書こうと思ったんです。

──それはバンドをリスタートする自分たちの夢とも重なりそうですね。

ヨシダ 僕らにもバンドで売れたいという夢があるわけですからね。当然この曲を聴く人にも夢を叶えた人、夢を持ってない人、夢を諦めた人がいると思うんです。その夢っていうものを共通項にして、「夢を叶えようよ」と歌うんじゃなくて、夢に向かう推進力になってほしいと思って書きました。

猫みたいな女の子が好き

──カップリングの「猫と花火」「まだ何者でもない君へ」はブラックミュージックの要素も入った、まったく違う雰囲気の曲になりましたね。

ヨシダ phatmans after school時代からアルバムとかシングルのカップリングではこういう曲を入れてるんですよね。バンドっぽくないというか。「猫と花火」はギターをほとんど入れていないですし。

ユタニ レコーディングがすぐに終わっちゃったので、ほぼディレクターみたいな感じで2人の様子を見てましたね。「今のよかったよ」とか言いながら(笑)。

ヨシダ 僕ら史上初ですよ。ギターを1trしか入れていないのは。大体オーバーダビング(多重録音)するんですけど、今回は1本でいいなっていう感じで。

──「猫と花火」はピアノの伴奏がメインにしたグルーヴ感のある曲ですけれども、どんなふうに楽曲のイメージを膨らませていったんですか?

ヨシダ 僕は清水翔太さんが大好きなんですけど、それでR&B的な要素を入れたいなと思って。ゆるめのラップを入れつつ、サビはキャッチーにしようと思って制作しました。もともと僕はピアノで音楽を始めたので、ピアノを弾きながらデモを作りました。

──歌詞ではどんなことを表現しているのでしょうか。

ヨシダ この曲はありふれた日常がテーマで。歌の最初で「僕」が寝坊するわけですよ。みんな経験があると思うんですけど、待ち合わせしているのに、その時間ギリギリに起きて、「終わった……」っていう。あとは、どれだけ最短距離で行って、相手に何で埋め合わせをするか。そういう曲です(笑)。

ヤマザキヨシミツ(B)

ヤマザキ これはタイトルで紆余曲折したよね。

ヨシダ もともとの仮タイトルが「ショートカット」で。この曲の中で出てくる女の子の髪型だったんですけど、ディレクターに、サビで女の子のボーカルも入るから、フェミニンなタイトルを付けたいって言われたんです。あと「花火」っていう言葉を入れたらどうかって。

──「猫」という単語は歌詞に登場しないと思うのですが、何か意図があるんですか?

ヨシダ 僕はちょっと気まぐれな猫みたいな女の子が好きで(笑)。わがままだけど急に甘えてきたりして、感情がわからないみたいな。それで女の子の比喩表現として「猫」をタイトルにしてもいいかなと思って。

──その話を聞いて、歌詞に「猫」が出てこないのも納得しました。

ヨシダ そうなんです。あと「花火」を入れたのは、花火ってどんなに美しくても最終的に消えてしまうものじゃないですか。美しいけど儚い。それでベタな言い方だけど、この曲では恋愛を花火に例えるのがいいかなと思ったんです。

──ヨシダさんの中では、恋愛はやがて終わるものという感覚なんですか?

ヨシダ もちろん結婚までいく人もいると思うけど、最終的には収束することが多いと思うんですよね。別れたり死別したりもするっていう……こういう説明をすると、耳が熱くなりますね。恥ずかしいです。

──さっきヨシダさんが好きな女の子のタイプのお話をしてくださったとき、ユタニさんとヤマザキさんはニヤニヤしながら聞いてましたからね(笑)。

ユタニ 僕の場合は、犬っぽい女の子のほうが好きです。

ヨシダ じゃあ、曲のタイトルは「犬と縁側」だな。

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人間臭くありたい