7月にphatmans after schoolからバンド名を改名したsajiが、10月23日に改名後第1弾シングル「ツバサ」をリリースした。
テレビアニメ「あひるの空」のエンディングテーマになっている表題曲「ツバサ」は、夢に向かって羽ばたく人の推進力になるような疾走感あふれるロックナンバー。カップリングにはピアノをフィーチャーした「猫と花火」と、ベニー・グッドマンをイメージしたスウィングジャズ風の「まだ何者でもない君へ」が収録されている。
前身バンドの結成から9年目を迎えたこのタイミングで、彼らはなぜバンド名を変えて進むという道を選んだのか。そこで何が変わり、何が変わらないのか。メンバー全員に話を聞いた。
取材・文 / 秦理絵 撮影 / 前田立
ここから人生をつかみ取りたい
──なぜsajiに改名したのか、というところから話を聞かせていただけますか?
ヨシダタクミ(Vo) phatmans after schoolの成り立ちで言うと、僕らは18歳のときから学校が一緒だったんですね。音楽の学校だったんですけど。そこで、いつも放課後にスタジオに入ってたことから、バンド名に「after school」を入れたんですよ。「phat」は、アメリカのネットスラングで「かっけえ!」という意味で。“普段はイケてないけど、自分の輝ける場所が放課後にある”みたいな意味合いでバンド名を付けたのが始まりです。
──それが2010年頃ですよね。
ヨシダ それから9年が経って、少年だった僕らも大人になったんですよね。で、それまで一緒にやってきた事務所とレコード会社を離れて、キングレコードと新しいスタートを切ろうという話になったとき、まず名前を改めたいっていう話をしたんです。
──もう“輝ける場所が放課後にある人たち”ではないから?
ヨシダ そうです。違う名前で第2のスタートを切りたいと思い、僕とユタニで世間話をしていたときに、ユタニが「『saji』がいいんじゃないか」と言ったんです。僕もすんなり「それがいいな」と思って。でも“saji(匙)”って“匙を投げる”みたいにあまりいい意味で使われないじゃないですか。
──途中で投げ出すという意味ですもんね。
ヨシダ そのように、マイナスの意味で使われることが多いんですが、僕らが新たな旅立ちをするにあたって、そのスプーンで人生をすくい上げていきたいという思いを名前に込めたくて。言葉遊びですよね。スプーンで“掬う”と、救済するっていう意味の“救う”で、ここから人生をつかみ取っていきたいという意味にしたんです。
──ユタニさん、“saji”が思い浮かんだのはどうしてだったんですか?
ユタニシンヤ(G) なんとなく「響きがよくない?」みたいな感じでしたね。
──ヤマザキさんは、それを聞いてどう思いました?
ヤマザキヨシミツ(B) えー……と思いました。
一同 あはははは!(笑)
ヤマザキ phatmans after schoolで9年ぐらいやってたから、何に変えても最初は違和感があるなと思ったんです。けっこう候補があったんですけど、その中でも、一番色のない名前を選んで。sajiがしっくりくるなという感じでしたね。
今一番バンドをやっている
──sajiに改名する直前の動きを少し振り返ると、2017年から2年間インディーズで活動してきた期間がありました。
ヨシダ はい。
──それまでメジャーで活動していたphatmans after schoolはメディアでの顔出しを避けていたけど、あのタイミングで顔を出すようにもなりましたよね(参照:phatmans after school、アー写に続きMVでも顔出し)。そこから今回の再スタートに至るまでには、どんな思いがあったんですか?
ヨシダ そもそも僕が写真嫌いだったから、最初phatmans after schoolではビジュアルイメージにpasくんっていうキャラクターを使ってたんです(参照:phatmans after school、メンバー“初登場”のMV&アー写公開)。で、「次はどういうことをしていくか?」と考えたときに、もっとバンド然とした活動をしたいと思ったんですね。それで2年前に初めてミュージックビデオとかアーティスト写真で顔を出したんです。それまでライブも、ワンマンとフェス以外は出てなかったんですけど、いろいろなバンドと対バンをするようになって。自分たちだけでツアーを回ったりもしたんですけど、それが僕らには合っていなかったんです。
──合っていなかったというのは、自分たちだけでやることが?
ヨシダ そう、どうしても足りない部分があったし。それで、いろいろ試したうえで、もう一度誰かと一緒にやることで見えてくることがあるんじゃないかと思い、キングレコードとやろうという流れになりました。
──今はインディーズもメジャーも関係ないっていう考え方もありますけど、sajiが音楽を続けるうえでは“メジャー”という場所が肌に合っていたということですか?
ヨシダ そうですね。あと、バンドを続けるうえでもネクストチャンスを用意してくれる人たちがいることがモチベーションになります。
ユタニ 正直、僕はメジャーが決まったとき、めちゃくちゃうれしかったんですよ。今“sajiチーム”のベクトルが一緒の方向を向いてるなと思っていて。
ヤマザキ 「音楽をやっているな」という実感がありますね。10年以上バンドをやっていて、今一番バンドをやっている感じがしています。
ユタニ チームとして動いている感じがすごいですね。
ポルシェに乗りたい!
──そもそもバンド名や活動のフィールドが変わる過程で、この3人でバンドを続けることは揺るがなかったんですか?
ヨシダ 選択肢はいろいろ考えられたし、それぞれソロで活動をする道もあったけど、僕はバンドを生かす道を選びたかったんですよ。バンドでリスタートするストーリーを書きたかったから、オリジナルメンバーでやる以外の選択肢はありませんでした。
ユタニ 正直、僕は「これからバンドどうしよう?」って将来のことを考えた瞬間もあったんです。でも、2人が「一緒にやろうよ」と言ってくれたことが大きくて。それでモチベーションも上がったし、2人に付いていこうという気持ちになりましたね。
ヤマザキ 僕はあんまり深く考えてなかったです。音楽を辞める気はないし、音楽をやるならバンドをやりたいし。バンドをやるなら、このバンドだし。
ヨシダ これはいろいろな方面に喧嘩を売る発言になっちゃうかもしれないですけど、音楽とか芸術の仕事って特殊じゃないですか。アーティスト活動とサラリーマンとして生きていくことを並列で考えると、病んでしまうと思うんです。「俺の同世代はこれぐらいの稼ぎで、結婚もしてるのに俺は……」と考えて、バンドを辞めていく人が多い気がする。でも、それは僕からすると、バンドを始めるときに捨てている部分なんです。だから、そもそも悩まないというか。バンドの危機はいっぱいありましたけどね。
ユタニ あったあった(笑)。
ヨシダ ヤバいエピソードはいっぱいあるんですよ。だからと言って、辞めるかと言われたら、辞めないんですよね。
──とっくの昔にバンドで生きていく覚悟ができているからですか?
ヨシダ そう、バンドを続けるためには永遠に特殊な人間でいなきゃいけないと思っていて。(ユタニに向かって)だって、いい年して、ポルシェに乗りたいんでしょ?
ユタニ ポルシェに乗りたい!
──それぐらい大きな夢を持ってこそバンドをやる意味があるというか。
ヨシダ この風貌でポルシェに乗ってたら、夢がありますよね。
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僕らは“駅”に近い