斉藤朱夏「555」インタビュー|決意表明のアーティストデビュー5周年ミニアルバム (2/2)

むしろそっちのほうが離れていってない?

──4月に先行配信された「離れないで」はチルなシティポップ調のナンバーです。

サウンド面でもチャレンジをしているところを見せたくて作った曲ですね。

──ファンの人からの「遠い存在に感じる」という言葉をきっかけに生まれた楽曲だそうですね。

私は頻繁にツアーで各地を回っていて、ライブにおけるリスナーのみんなとの距離感も近いと思っていたんですが、なかなかライブに来られない人にとっては、どんどん遠くに行ってしまってるように見えているみたいで……。ライブに行けないからファンとは名乗れないという、謎のルールが一部の人の中でできているらしいんですよね。そんなルール全然ないのに。遠い存在だと思わせてしまってることは申し訳ないなと思いつつ、よくわからないルールによって遠ざけられて、「いや、むしろそっちのほうが離れていってない?」という気持ちもあるんですよね(笑)。それで「離れないで」という曲を作ろうと思ったんです。私も寂しいんですよ。「今までライブやイベントで見てた人が最近いないな」ってなると。

──わかるものですか?

めっちゃわかりますよ。「あの人、今日いないんだ?」って。ライブが終わったあとにSNSで感想を検索してると、「今日は仕事で行けなかった。本当は行きたかった」というポストを見つけて、「ああ、仕事だったんだ」みたいな。「じゃあ、次はいつ来てくれるんだろう?」って、つい考えてしまいますね(笑)。

──(笑)。この曲はメロウな歌のアプローチが印象的で、「裸の言葉、聴いて」という出だしからドキッとしました。

レコーディングでは座って歌いました。部屋で1人で歌ってるようなイメージがあったので、立って歌う曲じゃないなと思って。照明もちょっと暗くして、スタジオの雰囲気から作っていきましたね。リスナーにしゃべりかけているような感じで歌いました。

──特にラストのミックスボイスの部分は、新しい自分を見せられたという手応えがあるんじゃないでしょうか。

今まで高音は地声で出すことが多かったんですけど、この曲に関してはミックスボイスでアプローチをしていくのが一番いいかなって。地声で歌うとちょっと強すぎちゃうんですよね。でも、完全にファルセットだと違うような気がして、ミックスで気持ちよく聞こえる声を出すにはどうしたらいいんだろう?」というところに挑戦してみました。リスナーのみんなからも「新鮮」という声が多い曲ですね。新しいことに挑戦をしたいという思いを、この曲を通して伝えられたと思っています。

やっぱりラップはめっちゃ楽しい

──これまで2019年に「パパパ」、2021年に「ぴぴぴ」という曲を発表してきましたが、この周年タイミングで、ついに「ぷぷぷ」という曲がきました。

リスナーのみんな待望の「ぷぷぷ」です(笑)。

──「ぴぴぴ」のときに「シリーズ化したい」とおっしゃっていましたもんね。

みんなからも、「『ぷぷぷ』はいつですか?」という声がけっこうありました。

──2020年に発表された「親愛なるMyメン」を思い起こさせるような、“ゆるラップ”が印象的な曲です。作曲はAqoursの代表曲「君のこころは輝いてるかい?」などを手がけている光増ハジメさんですね。

ヒップホップが好きなので、またいつかラップをやりたいという話をスタッフさんにしていたんです。この曲はコンペで初めて聴いたんですが、ハジメさんが作ってることは知らずに聴いていて。「『ぷぷぷ』はこの曲だ!」と思ったら、ハジメさんの曲で、「えっ、めっちゃお世話になってる!」ってびっくりしました(笑)。

──作詞は「ラブライブ!スーパースター!!」の楽曲などを手がけている宮嶋淳子さんですね。

この曲は宮嶋さんのかわいらしい歌詞が合うかなと思って、私の希望で宮嶋さんにお願いしました。宮嶋さんとは以前1回お会いしたことがあったんです。そのときに「朱夏ちゃんの曲の歌詞を書いてみたい」とおっしゃってくださって、「いつか絶対に書いていただきたいな」と思っていました。

──「ぷぷぷ」という一見コミカルなタイトルですけど、曲を聴くとすごくハートウォーミングな内容ですよね。ケンカしているカップルが仲直りするまでの物語で、「出会った頃みたいに笑おう」という。

めっちゃいい歌詞ですよね! 「ぷぷぷ」というワードから、最初に私の中で笑顔の絵が見えて、そこに至るまでにカップルがケンカしているという物語も浮かんで。

──この曲も朱夏さんのプロットがもとになってるんですか?

はい。でも、私が書いたものよりめちゃめちゃいい話になったので、さすが宮嶋さんだなと感動しました。最後に2人でアイスをガブリと食べるタイミングがモロ被りして仲直りするシーンがあるんですが、そこは「ケンカをしたらアイスを食べる」というのを入れてもらえないかとお伝えして。あと、デートの待ち合わせ時間が「12時集合」になってるんですが、最初は「10時集合」だったので、「ちょっと早いかもしれない」と具体的なことも相談しました(笑)。今の若者たちが何時に待ち合わせしているかはわからないんですが、読んでる少女マンガを思い出して、「12時に待ち合わせしてランチみたいな感じかなあ」って。

──プロットの時点で、朱夏さんの中に主人公像と相手のキャラクターのイメージはあったんですか?

いや、私は物語の構成だけ書いて、キャラクターに関しては宮嶋さんにお任せしました。私は主人公の女の子の気持ちになって歌ったんですけど、相手を憎たらしく感じる部分もありました。相手の男の子、めっちゃツンケンしてますよね。ケンカして、前からしてたデートの約束をどうするかという場面で、「すぐ来た返信『どちらでも。暇してるけど』」って……「めっちゃムカつくー!」みたいな(笑)。そのあと主人公がその返信について「ちょっとおかしい言い回し」と歌ってるんですが、ちょっとどころじゃないですよ。

──確かに(笑)。

でも、主人公がすごくかわいらしいんですよ。ケンカして凹んじゃって、相手に気持ちをうまく伝えられない。私も友達に対して、ケンカをしてるときにうまく言葉を伝えられなかったりするので、その気持ちがめっちゃわかります。友達同士でもこういうケンカってあるよなあって。そういうところで自分の気持ちを重ねて、この曲と向き合いました。

──「親愛なるMyメン」の時点で朱夏さんは、キュートなゆるラップのスタイルをすでに確立させていたと思うんですが、「ぷぷぷ」はフロウがさらに進化しているように感じました。素直になれない主人公の表情が見えるようなラップです。

ミニアルバム全体を通して、今回は曲の背景や表情を見せたいという思いがあったので、「ぷぷぷ」もラップのニュアンスは意識しました。キャラソンでラップを歌うことも多いので、それも生かされているのかなと思います。ヒップホップは普段から聴いているし、自分でラップをするのもめっちゃ楽しくて、「ここ、もうちょっとこうやりたい!」みたいなアイデアも浮かびました。ラップの譜割りもいただいたものからちょっと変えさせてもらったり、そういうところで挑戦もしています。

──「ぷぷぷ」までくると、「ぺぺぺ」と「ぽぽぽ」もいずれは……。

ここまで来たら作らないとっていう使命感はありますね。ただ、「ぺぺぺ」はちょっとテーマが難しい(笑)。次作るとしたら「ぺぺぺ」になるので、がんばりたいと思います。

斉藤朱夏

君と一緒に全力で走って生きたい

──ミニアルバムの最後のナンバー「みかたっ」はデビュー5周年を迎えての決意表明と言えるようなバラード曲です。朱夏さんのリスナーの方々への思い、未来に向けての意思がストレートに反映された曲になっていますが、作詞作曲を手がけたJunxix.さんにはどのようにその気持ちを伝えたんでしょうか?

この曲もプロットを書いてJunxix.さんにお渡ししました。私は何年も前から、デビュー5周年のタイミングで「くつひも」というワードを絶対に楽曲の歌詞に入れると決めていたんですよ。

──「くつひもを結び直したら また走ろう」のところですね。「くつひも」という作品でソロアーティストとしての道が始まったから?

そうです。5周年のこのタイミングで、もう一度「くつひも」という言葉を使いたくて、プロットに入れました。この曲はどうやって歌ったらいいかわからなくて悩みましたね。

──自分の思いが詰まった曲だからこそ、逆にどうやって歌えば一番伝わるのか、正解がわからなかった?

そうですね。本当にわからなくて、2回プリプロをしました。スタッフさんに「この曲をどう歌っていいか、まだつかめてないから、もう1回プリプロをやらせてほしい」と相談して。Junxix.さんもプリプロに来てくれて、「ここは優しく歌いたいけど、その“優しく”のニュアンスがわからない」とか、たくさん相談しました。私にとって“決意の曲”なんですが、その決意を歌に落とし込めないということは、まだ未来に向けての覚悟が足りないのかなと思ったり。心がぐちゃぐちゃになりましたね。

──でも、最終的には正解にたどり着いたわけですよね。

2回目のプリプロのときも「本当にこれでいいのかな?」という不安があったんですが、レコーディング本番でやっと正解が見えました。もっとシンプルに考えてよかったんだなって。楽曲に深く向き合おうとしすぎたんですよね。ただ「私はキミの味方でいるよ」ということを伝えればよかった。

──この曲の歌詞にはこれからも歌い続ける意思、自分を愛したいという気持ちなど、たくさんの朱夏さんの思いがつづられています。その中でタイトルが「みかたっ」になったということは、それが一番伝えたいことだった?

はい。どんなことがあっても私の音楽でみんなを助けたいし、味方でいたい。その思いが強いからこそ、この曲には「みかたっ」という言葉が一番ふさわしいなと思ってタイトルにしました。Junxix.さんに言われて気付いたんですが、「みかた」って、逆から読んだら「たかみ」なんですよね。「朱夏さんは高みを目指しているんだね」って言われてハッとしました。

──「キミと約束した あの場所に向かって 全力で走って生くんだ」というフレーズがありますが、「あの場所」というのは「日本武道館」と捉えてもいいでしょうか?

日本武道館ですね。言ったからには、実現しないとダメなので。「走って生くんだ」になってるのは、私がよくライブで言う「今日も一緒に生きてくれてありがとう」という言葉につながっています。過去を振り返ることもあるけれど、やっぱり未来に向かって君と一緒に全力で走って生きたい。私の決意表明でもあり、「皆さんも覚悟してください」というメッセージを込めています。

──お互いに覚悟しようね、という。

ここまで来たら、もう一緒に行くとこまで行こうぜという気持ちですね。

──8月には東武動物公園で初めての野外ワンマンライブがあります。

野外ということで、これまでのツアーとはまた違ったライブができると思うので、めちゃめちゃ楽しみです。とんでもないことになるんじゃないかな。みんなで一緒に野外で爆発できたらいいですね(笑)。

ライブ情報

5th ANNIVERSARY 朱演2024「天使と悪魔のささやき」

  • 2024年8月17日(土)埼玉県 東武動物公園 イベントステージ HOLA!
  • 2024年8月18日(日)埼玉県 東武動物公園 イベントステージ HOLA!

プロフィール

斉藤朱夏(サイトウシュカ)

2015年に「ラブライブ!サンシャイン!!」の渡辺曜役で声優デビューし、作中のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとしての活動をスタートさせる。2019年8月にミニアルバム「くつひも」でソロアーティストデビューした。2021年8月に1stフルアルバム「パッチワーク」を発表。本作の収録曲「ワンピース」「よく笑う理由」で初めて作詞に挑戦した。2023年8月に3rdミニアルバム「愛してしまえば」をリリース。2024年4月から7月にかけてキャリア最大規模のツアー「5th ANNIVERSARY 朱演 2024 LIVE HOUSE TOUR」を行っている。7月にソロデビュー5周年記念ミニアルバム「555」を発表。8月に地元である埼玉の東武動物公園で初の野外ワンマンライブ「5th ANNIVERSARY 朱演2024『天使と悪魔のささやき』」を行う。